高校サッカー「クラブチーム化」の波 選手権4強中3校が“下部組織”を持つ恩恵とは
第99回全国高校サッカー選手権もついにベスト4が出揃った。青森山田高、矢板中央高、帝京長岡高の3校は2年連続の4強進出。この3校には「中学年代に下部組織を持つ」という共通項がある。昨年も注目を集めた「高体連のクラブチーム化」の現在を追った。
(文=松尾祐希)
選手権ベスト4のうち3校に共通する育成環境
12月31日に開幕した第99回全国高校サッカー選手権。今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって開催が危ぶまれたが、さまざまな人の尽力で開催にこぎ着け、ここまで48代表校は棄権することなく無事に大会を戦ってきた。
1月5日には準々決勝が開催され、ベスト4が決定。9日の準決勝は青森山田高(青森)vs矢板中央高(栃木)、山梨学院高(山梨)vs帝京長岡高(新潟)の顔合わせとなり、山梨学院以外は昨年度の選手権で4強入りを果たしたチームが勝ち残った。3校が2年連続でセミファイナルに名を連ねるのは清水東(静岡)、帝京(東京)、韮崎(山梨)が顔を揃えた1982年度と1983年度が最後。
異例づくめの冬の檜舞台。その中で準決勝に挑む4校のうち青森山田、矢板中央、帝京長岡には共通点がある。それが中学年代に下部組織を持つという点だ。昨年もこの3チームの上位進出により、高体連のクラブチーム化がフォーカスされた。実際に去年の結果を受けて、どのような変化が起こっているのだろうか。
青森山田と帝京長岡はハイブリッド型?
高体連のクラブチーム化。その流れはより一層加速し、今冬に開催された高円宮杯 JFA 第32回全日本U-15サッカー選手権大会では、昌平高(埼玉)の弟分・FCラヴィーダが関東第1代表として初出場し、準々決勝まで勝ち上がった。8強戦では優勝したサガン鳥栖U-15に0−0のPK負けを喫したが、主導権を握って相手を凌駕する内容だった。そうした流れを組むチームが、今回の選手権でも準決勝に名乗りを上げたのは決して偶然ではない。Jリーグの育成組織に対抗すべく、今後も早い段階で選手を発掘して自前で育てるチームが増えてくるだろう。
選手権で躍進をしたことで、憧れを持つ小学・中学年代の選手たちが多くなったとしても不思議ではない。実際に矢板中央の下部組織に当たる矢板SCは入団希望者が増えたという。チームが立ち上がった2016年には一学年15人前後で推移していたが、今年は30人前後が門をたたいた。加えて、今年は初めて全日本U-15サッカー選手権大会の栃木県予選を制し、関東大会に出場。初戦で横浜F・マリノスジュニアユースに0−7で敗れたものの、県内で立ち位置を変えつつあるのは間違いない。現状で県内の一線級は栃木SC U-15に進むケースが多いというが、有望株が矢板SCに加わるパターンも増え、高校が結果を残せば、その傾向がより強まる可能性はあるだろう。
矢板中央が矢板SCを用いてこれから自前で育てようとしているチームであれば、青森山田中がある青森山田高と長岡ジュニアユースFCを持つ帝京長岡高はクラブチーム化のトップランナーといえる存在だ。長年の積み重ねで自前のメソッドで中学年代から選手を育成しながら、外部出身者をうまく取り込むハイブリット型で強化を進めている。Jリーグのユースチームでは中学年代からほぼ全員が持ち上がるケースも少なくない一方で、サンフレッチェ広島ユースやガンバ大阪ユースなどは高校進学時点で血の入れ替えを実施。プレミアリーグなどでスタメンの半数以上が外部出身で固めている年もあり、競争力をあおることで選手の成長スピードを加速させてきた。青森山田や帝京長岡はそうした発想に近い。実際に今大会の準々決勝で先発した選手を見てみると、青森山田は7名、帝京長岡は8名が外部出身者となっており、自前の選手とミックスすることで新たな刺激を与え、チームの弱点を埋める方策としても有益に活用されている。
忘れてはならない、下部組織を持つ“重要な”メリット
下部組織を持つメリットとして、中学年代から上のレベルを経験できる点も忘れてはならないポイントだ。例えば、昨年の帝京長岡でいえば、晴山岬(現・FC町田ゼルビア)、谷内田哲平(現・京都サンガF.C.)、吉田晴稀(現・愛媛FC)が中学校3年生の時点でプリンスリーグ北信越に出場。今年の青森山田では2年生ながら10番を背負う松木玖生もBチームの一員として中学時代からプリンスリーグ東北で出番を得ていた。FC東京時代の久保建英(現・ビジャレアル)が中学3年生の時点でU-18、高校1年生から本格的にJの舞台でプレーして成長を早めたように、一つ上のカテゴリーで同年代よりも高いレベルを一足早く体験できる意味は大きい。
また、今季は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、インターハイをはじめとする多くの公式戦が中止や開幕延期を余儀なくされた。収束しない限りは突発的な大会延期は今後もあり得るし、勝負が懸かったシビアなゲームを日常的に味わえなかったとしても不思議ではない。そういう意味合いで考えれば、下部組織を持つことはアドバンテージになる。同じ場所でトレーニングを積むため、上のカテゴリーのトレーニングに合流させやすいからだ。実際に青森山田中のU-15日本代表候補・CB山本虎(中3)は青森山田Bの一員として今季のスーパープリンスリーグ東北で高校デビューを飾ったが、中学年代の公式戦が見送られていた時期の夏前に高校トップチームの練習に期間限定で参加。そこで大きな刺激を受け、さらなる成長の礎にした。さらに夏休み期間中には青森山田中の練習試合に出場した直後に隣のグラウンドへ移動。ゲームを行っていた青森山田高のBチームの一員としてピッチに立った。その点について、以前話を伺った際に青森山田中の上田大貴監督はメリットをこう話していた。
「コロナの自粛中は大会も練習試合もなかったので、山本はずっと高校生のトレーニングに入れていました。高校年代で見ればフィジカルが低いので、何ができるのかを考えさせる機会になる。そういう環境を与えていくことで、彼は気付いてくれるはず。フィジカルに頼って守っても、ドリブルで抜かれてしまう。青森山田の環境が彼を成長させる上で大きい」
コロナ禍で公式戦のスケジュールが見通せない中で、選手にとってもクラブチーム化の恩恵はあるといえるだろう。
6カ年より長いスパンでの育成も各地でスタート
ベスト8で敗れた昌平も含め、下部組織を持つチームは増えつつある。実際に中高一貫計画を新たに構想している高体連の強豪校もあり、この傾向が主流になっていく可能性は高い。さらに流通経済大学付属柏高(千葉)はクラブ・ドラゴンズ柏というジュニアユースを持っているが、小学年代のチームを持つ帝京長岡同様に今春からジュニア年代のチームを立ち上げる。6カ年だけではなく、もっと長いスパンで育成をスタートさせるチームも出てきており、メソッドが成熟していけば、「優秀な人材はJリーグの下部組織へ」という人材供給の流れに楔を打ち込んだとしても不思議ではない。
<了>
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