
「石崎の存在は『キャプテン翼』の裏テーマ」作者・高橋陽一が漫画を通じて描きたい想いとは?
『キャプテン翼』の連載が始まって今年で40年を迎える。常に「こうなったら面白いだろうな」という視点で物語を紡いできたと語る高橋陽一にとって、漫画のストーリーを追いかけるように進化を続ける日本サッカーの発展についてはどのように感じているのだろうか? そして作品を通して読者に伝えたいメッセージとは? オークションサイト『HATTRICK』を通じたチャリティー活動に賛同する理由についても胸中を明かした。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=野口岳彦)
『キャプテン翼』をリアルがオーバーラップする日
――高橋先生が『キャプテン翼』を生み出してから40年が経ちます。日本サッカーはその間に劇的な発展を遂げました。現実の日本サッカーから漫画の中に反映したこと、あるいはしようとされた事象はありますか?
高橋:『キャプテン翼』のストーリーは、基本的には全部「こんなことができたらいいな」「こんなことが起きないかな」という理想を描いてきました。例えばスペインのカンプ・ノウでクラシコ(FCバルセロナvsレアル・マドリードの試合)を観戦した時にも、「日本人がこの舞台で活躍したらいいな」という発想が(大空)翼のバルサ入りにもつながりました。そのため現実のサッカーから刺激を受ける部分はすごくありますけれども、基本はそういう発想ですね。
――日本サッカーが『キャプテン翼』の世界に追いついてきたなと感じられたのはいつぐらいですか?
高橋:(1993年に行われた1994年FIFAワールドカップ・アジア地区最終予選の)ドーハの時ですかね。「(世界に通じる)先が見えてきたな」という感慨をその時に持ちました。
――それはその時の日本のサッカーに対する盛り上がりも含めてですか?
高橋:そうですね。まだその当時まではワールドカップがどれくらいすごい大会なのかも世間には浸透していなかったように思います。あの時以降、「ワールドカップってすごいんだ」というのが日本でも浸透したのかなと。
――日本人選手たちが世界のレベルに近づいたなと感じられたのはいつぐらいですか?
高橋:やはりヒデ(中田英寿)がセリエAで活躍し始めた頃からですかね。「日本人でも本当に突き詰めていけば世界最高のレベルまで行ける実力があるんだな」と初めて感じました。
――確かに振り返ってみると中田ヒデさんがセリエAに挑戦したあたりから、連続して選手たちが海外に出て行くようになった印象です。それでも世界のトップレベルには、まだ到達できていないですよね。
高橋:そうですね。世界レベルまではいっていると思いますけれど、トップオブトップのところには、まだいっていないかもしれないですね。同時に、これからそこに到達する日が楽しみでもあります。
「翼くんをバルサに入れてくれてありがとう」
――『キャプテン翼』は日本だけでなく世界のサッカーに多くの影響を与えてきました。高橋先生ご自身がその反響に対して純粋に驚いたという出来事はありますか?
高橋:例えば有名な選手で最初にお会いしたデル・ピエロであったり、海外の一流選手が作品のことをすごくよく知ってくれているというのが単純に驚きました。自分が描いた作品ではあるのですが、「すごいな、この作品」と(笑)。
――作中で翼くんがバルサに加入したことがきっかけで、実際にバルセロナにてクラブ公認で翼くんの入団会見も行われたバルサとの関係はいかがですか?
高橋:うれしかったですね。「翼くんをバルサに入れてくれてありがとう」という感じでバルセロナに招待までしてくれて。そういう感覚で作品のキャラクターを捉えてくれるというのは、すごく光栄なことですね。
――スペインには大空翼のスペイン名オリベル・アトムが名前の由来になったオリベル・トーレスという選手もいます。
高橋:そうですね。日本でも『キャプテン翼』の影響で「翼」という名前を付けたという話をよくお聞きしてとてもうれしく感じています。
――「翼」以外だとどんな名前があります?
高橋:そういう意味だと、ほかはあまり聞かないかな。「小次郎」もあまりいないですね。女の子に「岬ちゃん」と付けたりとかはありましたね。
――近年では中国や中東などサッカー先進国ではないところでも『キャプテン翼』人気が高まり、高橋先生ご自身も招待を受けてよく足を運ばれています。実際、中国や中東での盛り上がりはどのように感じていますか?
高橋:スポーツにまったく興味がない人は読んでも面白くないと思うのですけれども、サッカーが好き、スポーツが好きという方々であれば、読んで「面白いな」と思っていただけるんじゃないかと思います。そういう部分では世界共通というか。中東だろうと、中国だろうと、東南アジアであろうと、あまり関係ないのかなと思います。
――どの国に行ってもイベントを行った時の熱狂的な盛り上がり方に毎回驚きを感じます。あれは日本ではなかなか体験できないことですよね。
高橋:そうですね。同じような盛り上がりという意味では、日本では80年代は近いものがありました。
――当時は日本でも同じような熱狂的な盛り上がりだったのですか?
高橋:そうですね。『週刊少年ジャンプ』で連載している頃は、それぞれのキャラクターごとにバレンタインデーには10箱ぐらい段ボールでチョコが届いたりしていました。さすがに食べ切ることはできないので、施設に寄贈したりしていました。
石崎了の存在は『キャプテン翼』の裏テーマ
――高橋先生はこれまでも『キャプテン翼』を通して、多くの子どもたちに夢を与えてきましたが、これから先のキャリアにおける目標はありますか?
高橋:今描いているオリンピック編『キャプテン翼 ライジングサン』を完結させるのが最大の目標です。自分の納得いく形で描き切れればいいなと思っています。それが終わると僕はもしかしたら70歳を超えちゃっているかもしれないですし、そこでやり切ったなと思えば、たぶん漫画家は辞めると思います。とりあえずそこを目標に今は、そこまでは元気で描き続けたいなという思いが漫画家としてはありますね。あとは今『キャプテン翼マガジン』という雑誌を出させていただいているので、この雑誌をこれからできるだけ長く続けたいなと思っています。
――今回チャリティーオークションに提供いただいた商品についてお聞きします。シューズ自体はどういったものですか?
高橋:「+TSUBASA(プラスツバサ)」というスニーカーブランドと『キャプテン翼』とのコラボレーションスニーカーです。靴作りで有名なポルトガルの職人さんによるこだわりのある設計で、長時間履いていても足がまったく疲れず、すごく履きやすいです。南葛SCにとって大きな節目となった2020シーズンは、ずっとこのシューズを履いてグラウンドに行っていたのですごく愛着もあります。
――今回、翼くんと若林(源三)くんの名シーンがプリントされ、背番号も入った特別なシューズに、それぞれ一足ずつ背番号に合わせて直筆のイラストを描いていただきました。最高の仲間でありライバルでもある翼くんと若林くん。その存在や関係性を高橋先生はどのように捉えていますか?
高橋:たぶん翼と若林って、そこまで2人で直接会話をするタイプではないと思うんです。翼だったら、たぶん石崎(了)とか岬(太郎)と話していることのほうが多いと思います。ですが、若林とは言葉の数はそれほど多くは交わさないですけれど、心の中では一番つながっているというか。共に日本サッカーを強くするという部分では、たぶん一番共鳴している2人なのではないかなと思います。
――翼くんとの深い関係という意味では、今お話にも出てきた石崎くんの存在も挙げられると思います。過去に「ずっとストーリーに残っていくようなイメージはなかった」というお話もされていますが、石崎くんや森崎(有三)くんのような存在に共感する読者も多いと思います。彼らを通して高橋先生が伝えたいメッセージがあれば、ぜひお聞かせください。
高橋:石崎や森崎というのは天才ではないと思うのですけれども、そういう子たちでも努力すればやれるということを示したい部分は、『キャプテン翼』の裏のテーマでもあったのかなと思っています。
――高橋先生はチャリティー活動にも継続的に参加されています。チャリティー活動に対してはどういう考えをお持ちですか?
高橋:大それた思いは特にはないのですが、僕に協力できることがあるのであれば協力したいなという思いは常にあります。漫画家という僕の職業に対する考え方も、読んでもらっている人たちを勇気づけるという部分が漫画を描いている目標でもあるので。その延長線上に困っている人がいたら助けてあげないといけない。漫画の中でもそういうことを描いています。少しでも勇気を与えたり、希望を持っていただけるお手伝いができるのであれば、協力させていただきたいなという思いです。

<了>
“アスリートとスポーツの可能性を最大化する”というビジョンを掲げるデュアルキャリア株式会社が運営する「HTTRICK(ハットトリック)」と、アスリートの“リアル”を伝えることを使命としたメディア「REAL SPORTS(リアルスポーツ)」との連動企画として、【REAL SPORTS × HATTRICK チャリティーオークション】を開催。
入札ページ:https://auction.hattrick.world/item/1912
PROFILE
高橋陽一(たかはし・よういち)
1960年7月28日生まれ、東京都葛飾区出身。漫画家。関東サッカーリーグ2部所属・南葛SC代表。1980年に『週刊少年ジャンプ』誌内の読み切り『キャプテン翼』で漫画家デビュー。翌1981年に連載開始、1983年にはアニメ化され、以後、国内外で大ブームを巻き起こす。現在は『キャプテン翼マガジン』誌内にて『キャプテン翼 ライジングサン』を連載中。2013年より葛飾区を拠点とする南葛SCの後援会会長を務め、2019年より代表に就任。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
長友佑都はなぜベンチ外でも必要とされるのか? 「ピッチの外には何も落ちていない」森保ジャパン支える38歳の現在地
2025.06.28Career -
“高齢県ワースト5”から未来をつくる。「O-60 モンテディオやまびこ」が仕掛ける高齢者活躍の最前線
2025.06.27Business -
「シャレン!アウォーズ」3年連続受賞。モンテディオ山形が展開する、高齢化社会への新提案
2025.06.25Business -
プロ野球「育成選手制度」課題と可能性。ラグビー協会が「強化方針」示す必要性。理想的な選手育成とは?
2025.06.20Opinion -
スポーツが「課外活動」の日本、「教育の一環」のアメリカ。NCAA名門大学でヘッドマネージャーを務めた日本人の特別な体験
2025.06.19Education -
なぜアメリカでは「稼げるスポーツ人材」が輩出され続けるのか? UCLA発・スポーツで人生を拓く“文武融合”の極意
2025.06.17Education -
「ピークを30歳に」三浦成美が“なでしこ激戦区”で示した強み。アメリカで磨いた武器と現在地
2025.06.16Career -
町野修斗「起用されない時期」経験も、ブンデスリーガ二桁得点。キール分析官が語る“忍者”躍動の裏側
2025.06.16Career -
日本代表からブンデスリーガへ。キール分析官・佐藤孝大が語る欧州サッカーのリアル「すごい選手がゴロゴロといる」
2025.06.16Opinion -
ラグビーにおけるキャプテンの重要な役割。廣瀬俊朗が語る日本代表回顧、2人の名主将が振り返る苦悩と後悔
2025.06.13Career -
野球にキャプテンは不要? 宮本慎也が胸の内明かす「勝たなきゃいけないのはみんなわかってる」
2025.06.06Opinion -
冬にスキーができず、夏にスポーツができない未来が現実に? 中村憲剛・髙梨沙羅・五郎丸歩が語る“サステナブル”とは
2025.06.06Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
雪不足、酷暑…今世紀末にはスポーツが消滅する? 気候変動危機にJリーグ×日本財団が示した道筋
2025.06.05PR -
ファンが選手を直接支援して“育てる”時代へ。スポーツの民主化を支える新たなツール『GOATUS』とは?
2025.04.24PR -
ラグビーW杯でKing Gnu『飛行艇』をアンセム化したDJが語る“スポーツDJ”とは何者か?
2024.10.22PR -
ザスパクサツ群馬がJ2初の「共創DAO」に挑戦。「アイデアを共有し、サポーターの思いを実現するプラットフォームに」
2023.09.11PR -
なぜアビスパ福岡は“日本初のスポーツDAO”に挑戦するのか? 「チームに恥ずかしくないアクションを」
2023.03.31PR -
創業者・鬼塚喜八郎の貫かれた思い。なぜアシックスは大学生の海外挑戦を支援するのか?
2023.01.13PR -
ONE明暗両者の飽く無き挑戦。「これも一つの試合」世界王者・秋元皓貴が挑む初防衛。質を突き詰めた青木真也は「最もタフな相手」と対戦
2022.11.14PR -
『テラハ』出演アスリートが、外の世界に飛び出し気付けた大切なこと。宿願を実現する秘訣は…【特別対談:佐藤つば冴×田渡凌】
2022.07.06PR -
【特別対談:池田信太郎×潮田玲子】「自分自身も心が豊かになる」 アスリートが社会貢献を通じて得られるモノ
2022.06.27PR -
【特別対談:木村敬一×中西哲生】「社会活動家みたいにはなりたくない」。東京パラ金メダリストが語るスポーツの価値
2022.05.17PR -
【特別対談:佐藤寿人×近賀ゆかり】広島のレジェンドが明かす「カープの存在感」。目指すべき地域密着の在り方
2022.05.11PR -
格闘技界に「新しい時代」到来! 日本待望の“真”の世界王者へ、若松佑弥・秋元皓貴の意外な本音
2022.03.24PR