東海オンエア・りょうが考えるこれからの“働き方” デュアルキャリアは「率直に言うと…」
アスリートが競技に対して100%で取り組み、並行してビジネスなどもう一つの軸にも100%で取り組む「デュアルキャリア」が注目され始めている。一方で、「アスリートは競技だけに専念するべき」という意見も日本ではまだまだ根強い。動画クリエイター界随一のサッカー好きとして知られ、自身も大学卒業後の3年間は会社勤務と動画クリエイターとしての活動を兼業し、昨年には地元・岡崎市にカフェもオープンさせた「東海オンエア」りょうは、アスリートのデュアルキャリアについてどのように考えているのか? 自らが抱く仕事観を交えて語ってくれた。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部)
会社勤務と動画クリエイターの二足の草鞋。「気を使うことが絶対」な日々
――りょうさんは、建築会社に勤務しながら東海オンエアの活動をされていたとのことですが、どのような割合でお仕事されていたのですか?
りょう:大学を卒業してからの3年間。2019年の3月まで東海オンエアの活動と並行してサラリーマンをやっていました。建築会社で現場監督をやっていたので、現場がある時は月曜日から土曜日まで週に6日間現場に出ていました。月曜から土曜まで昼はサラリーマンをやって、その間、もし夜に撮影があれば撮影に参加して、日曜日にはフルコミットでいっぱい貯め撮りする生活でした。それがずっと続く感じでした。
――かなりハードな生活でしたね。
りょう:ハードでしたね。めちゃくちゃ大変でした。今も忙しいのは変わらないんですけど、精神的に大変でしたね。東海オンエアのメンバーには、僕のために日曜日に撮影してもらっていましたし、サラリーマンのほうでは、たまに平日に休まないといけないことがあって。平日に東海オンエアでのイベントがあったり、外せない撮影があった時は、現場を止めたり、代わりに見てもらったり迷惑もかけていたので。いろいろなところに気使いが必要というか、気を使うことが絶対でした。
――東海オンエアの活動が軌道に乗ってからも続けた理由は?
りょう:実家が建設業をやっていて、どのような形でかはまだわからないですけど、何らかの形では関わりたいと思っていて。家業の会社がどういうことをやっているのか実際に体験して学んでおく時期をどこかで作る必要があるなと思ったんです。それが年を重ねてからよりは、同世代が同じように新卒で入って働いている期間で学びたいと考えました。ただ、おやじの会社に入ったところできっと自分は他の社員さんにとって扱いづらい存在になるだろうし、他の会社に入るにしても、動画クリエイターで、街を歩いているだけで顔を指さされるってやっぱり変なやつじゃないですか(笑)。
――その先、東海オンエアとしての活動が広がるにつれて、さらに働きにくくなりますよね。
りょう:そうですね。そうなるともう無理だなって、タイミングがそこしかないなと思って。それで大学を卒業してから3年間、(愛知県)岡崎市の隣の隣の市まで行って、会社の近くに住んで、顔を隠しながら働きました(笑)。
――兼業の期間に最も学んだことって何ですか?
りょう:自分は人に恵まれているなって実感しましたね。動画クリエイターとして他の人たちと同じように動画に出ながら、サラリーマンもやっていた人なんて、やっぱりいないわけですよ。それができたのは、働いていた会社も、東海オンエアのメンバーも、僕を必要としてくれたというか、僕に合わせてくれていたのが大きいので。そんな恵まれた環境は僕にしかなかったなと改めて思います。なので、やっぱり人に恵まれているな、常に感謝する気持ちを大事にしないといけないなと思いました。
自分を信じ、仲間には感謝を。「僕には退路がない」
――そして現在はカフェ「R COFFEE STAND」の経営を始められました。
りょう:YouTube以外のこともやっぱり何かしていたいなと。新しいことに挑戦したら知見も広がるだろうなと考えました。あとは単純に岡崎市に遊びに来てくれる視聴者さんもたくさんいるので、そういう方々が楽しんでいただける場所を作れたらみんながハッピーになれるという思いもありました。
――なぜカフェの経営だったのですか?
りょう:ちょうどバリスタが友達にいたので、やるならコーヒー屋だという思いがあって、カフェを作りました。
――実際にカフェの経営をやってみていかがですか?
りょう:いや、学ぶことだらけですね。なんか学ぶ前に始めちゃったというか、やりながら学べばいいやっていう感じで走り出しちゃったので。失敗もたくさんありますし、その都度学びながら少しずつ前進しています。
――具体的にどういう失敗を経験されたのですか?
りょう:発送がギリギリになってしまったり、本当に初歩的なことですね。準備が間に合うか間に合わないか怪しくなってしまったりして焦りながら、なんとかやっている感じです。発送も自分たちでやっているので。
――発送までりょうさんが実際に関わっているのですか?
りょう:発送作業はしていないですけど、全体の段取りやハンドリングには関わっています。発送作業はバイトの人たちがやってくれています。一緒にやっているカフェのスタッフたち、裏方で支えてくれている皆さんに助けられながらの毎日です。結局人だなって改めて思いますね。
――りょうさんは常に周りの人への感謝を忘れないですね。もともとそういう性格なんですか?
りょう:どうなんだろう。でも、サラリーマンと動画クリエイター両方やってる時に強く思いましたね。社会人になって、友達とか、働かせていただいていた会社とか、実家の会社とか、いろいろ巻き込んで生きてるなって実感しました。そう考えると僕には退路がないというか。今さら引き返すことはできないので。自分が選んだ道を信じて進んで、自分が成長しないと周りに迷惑がかかるので、自然とそうなったんですかね。
――お話を聞いていると謙虚さがすごく伝わってきます。
りょう:本当に「運」だと思うんですよね。(東海オンエアの)メンバーが本当に才能あるやつばかりなので、僕はそれを生かしているだけというか、助けられているだけなので。
「思いついたら臆せずトライしたい」
――アスリートとして妥協なく100%で取り組み、起業を行うなどビジネス面にも100%で取り組み、そしてその相乗効果で自身の成長を促す。例えば本田圭佑選手、長友佑都選手、小林祐希選手のような「デュアルキャリア」が注目されています。アスリートのデュアルキャリアに対してはどういう印象を持ってますか?
りょう:率直にいうと「カッコいい」です。できることが多いほうが単純にカッコいいですし、サッカーでも結果を残している選手たちなのに、さらにそれ以外の部分で成長しようとしている意識が本当にすごいですよね。どっちかが中途半端になってしまうと批判を受けるリスクやプレッシャーもある中、その道を選んで闘っている姿は、やっぱりカッコいいなって思います。
――アスリートのデュアルキャリアは今後も広がると思いますか?
りょう:よりいろんな情報が手に入る時代になっているので、挑戦しやすい環境ですし、広がるのではないかと思います。チャレンジしている選手に刺激されてやってみたいという人も増えるでしょうし。
――りょうさんは今後やってみたいことって他にもあるんですか?
りょう:なんだろうな……今やってること以外ですよね。今この時は、具体的に思い描いているものはないです。でも思いついたら臆せずトライしたいという気持ちは常に持っています。
――そのチャレンジ精神は、昔から持っているのですか?
りょう:おやじの影響があったのかもしれないですね。生まれた時から、普通に会社員として働いている人が周りにいなかったので。そういう影響は多分受けていたと思います。
――今の時代にちょうどマッチしていますね。
りょう:そうですね。ラッキーなことに。
――将来的にりょうさん自身がどうなっていきたいという構想はお持ちですか?
りょう:僕、そういうの全然ないんですよね。とにかくよりよく、よりよい自分になれればという気持ちだけを持ってやっています。先の話はどうなるかわからないので、とにかく今できることを精一杯やって、ずっと自分の全盛期を更新していけたらなと。
<了>
東海オンエア・りょうが語るスポーツの価値。実際に会って強い印象を抱いた“意外”な選手とは?
デュアルキャリアとは? ツムラ社とアイスホッケー選手に見る「二足の草鞋」取り巻く関係者の本音
元ガンバ戦士が、たった7年で上場できた秘訣は「手放す」生き方? 嵜本晋輔の思考術
小林祐希が複数の会社を経営する理由とは? 現役中のビジネスは「悪影響ない」
「石崎の存在は『キャプテン翼』の裏テーマ」作者・高橋陽一が漫画を通じて描きたい想いとは?
タレント兼アメフト選手・コージ“二刀流”キャリアの理由「リスクはあってもメリットしかない」
チェルシー来日は「苦労の連続だった」横浜ゴム担当者が明かすスポンサー秘話
PROFILE
りょう
1993年生まれ、愛知県出身。愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組YouTubeクリエイター「東海オンエア」のメンバー。大学卒業後、3年間はYouTuberとしての活動と会社員を兼業。2020年7月にはカフェ「R COFFEE STAND」をオープンするなど幅広い活動を行っている。YouTuber界きってのサッカー好きとしても知られ、東海オンエアや自身のYouTubeチャンネルでも度々サッカー愛を語っている。
この記事をシェア
KEYWORD
#INTERVIEWRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「高校野球は誰のものか?」慶應義塾高・森林貴彦監督が挑む“監督依存”からの脱出
2025.11.10Education -
“亀岡の悲劇”を越えて。京都サンガ、齊藤未月がJ1優勝戦線でつないだ希望の言葉
2025.11.07Career -
リバプール、問われるクラブ改革と代償のバランス。“大量補強”踏み切ったスロット体制の真意
2025.11.07Opinion -
リバプールが直面する「サラー問題」。その居場所は先発かベンチか? スロット監督が導く“特別な存在”
2025.11.07Career -
勝利至上主義を超えて。慶應義塾高校野球部・森林貴彦監督が実践する新しい指導哲学「成長至上主義」
2025.11.04Education -
“ブライトンの奇跡”から10年ぶり南ア戦。ラグビー日本代表が突きつけられた王者との「明確な差」
2025.11.04Opinion -
ドイツ代表か日本代表か。ブレーメンGK長田澪が向き合う“代表選択”の葛藤と覚悟「それは本当に難しい」
2025.11.04Career -
橋本帆乃香の中国撃破、張本美和の戴冠。取りこぼさない日本女子卓球、強さの証明
2025.11.04Opinion -
ラグビー日本代表“言語の壁”を超えて。エディー・ジョーンズ体制で進む多国籍集団のボーダレス化
2025.11.01Opinion -
欧州遠征1分1敗、なでしこジャパン新たな輪郭。メンバー固定で見えてきた“第2フェーズ”
2025.10.30Opinion -
体脂肪28%から9%へ。二競技で“速さ”追い求めた陸上・君嶋愛梨沙が目指す、日本女子初の10秒台
2025.10.29Career -
鎌田大地が見せるプレミア2年目の覚醒。慣れと相互理解が生んだクリスタル・パレスの変化
2025.10.28Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
“亀岡の悲劇”を越えて。京都サンガ、齊藤未月がJ1優勝戦線でつないだ希望の言葉
2025.11.07Career -
リバプールが直面する「サラー問題」。その居場所は先発かベンチか? スロット監督が導く“特別な存在”
2025.11.07Career -
ドイツ代表か日本代表か。ブレーメンGK長田澪が向き合う“代表選択”の葛藤と覚悟「それは本当に難しい」
2025.11.04Career -
体脂肪28%から9%へ。二競技で“速さ”追い求めた陸上・君嶋愛梨沙が目指す、日本女子初の10秒台
2025.10.29Career -
鎌田大地が見せるプレミア2年目の覚醒。慣れと相互理解が生んだクリスタル・パレスの変化
2025.10.28Career -
「挑戦せずに向いてないとは言えない」君嶋愛梨沙が語る陸上とボブスレー“二刀流”の原点
2025.10.28Career -
ラグビー界“大物二世”の胸中。日本での挑戦を選択したジャック・コーネルセンが背負う覚悟
2025.10.24Career -
遠藤・守田不在の森保ジャパンで際立つ佐野海舟の存在感。「沈黙の1年」を経て示す責任と現在地
2025.10.17Career -
「普通のボランチにはならない」宮澤ひなたがマンチェスター・ユナイテッドで示す“6番の新境地”
2025.10.09Career -
中国の牙城を崩すまであと一歩。松島輝空、世界一・王楚欽の壁を超えるために必要なものとは
2025.10.09Career -
欧州で重い扉を開いた日本人指導者の“パイオニア”。J3高知ユナイテッドの新監督に就任した白石尚久の軌跡
2025.10.01Career -
「日本人GKは世代を超えて実力者揃い」松永成立が語る、和製GKの進化。世界への飽くなき渇望
2025.09.25Career
