なぜバルサ、シティも活用する最新鋭「AIカメラ」を民間フットサル施設MIFA Football Parkが導入したのか?

Technology
2021.03.31

FCバルセロナやバイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティ、チェルシーなど、欧州サッカーを代表するビッグクラブが導入している最新鋭の無人AIカメラがある。そのカメラを日本の民間フットサル場がサービスとして導入するという。Jクラブにもまだ普及していないような高性能カメラを導入し、民間のフットサル場が何を目指すのか。また、そこから見えるフットサル場の新たな価値創出を考察する。

(文=篠幸彦、写真提供=MIFA Football Park)

ビッグクラブが導入する最新AI無人カメラとは?

世界有数の欧州ビッグクラブがこぞって導入している無人撮影カメラがある。それがイスラエルの企業が開発した『Pixellot(ピクセロット)』だ。1つの筐体(きょうたい)に4つのカメラが搭載され、最新AIのアルゴリズムによりカメラが自動的に人やボールの動きを追従し、正確に認識。それを元にまるでプロのカメラマンが操作しているかのような滑らかなカメラワークでの撮影が可能になるという無人カメラだ。

無人で撮影できることに加え、編集や収録、生配信まで1台でできてしまうという優れもので、従来の撮影方法と比べ制作・人件費面で大幅なコストダウンが可能なのだという。このカメラを導入しているビッグクラブはバルセロナやバイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティ、チェルシーなど欧州を代表するクラブばかりだ。

練習場やスタジアムに設置され、トップチームはもちろん、アカデミーや女子チームのトレーニングや試合を撮影し、詳細な戦術分析や個人のパフォーマンスの確認など、幅広くコーチングで使われている。また、サポーターに向けた映像も制作されるなど、ピクセロットで撮影された映像はさまざまな用途で使用されるほど、クオリティ&活用度の高いものとなっている。

民間初のピクセロットを使ったサービス

日本にも2018年に上陸し、これまで「ハンドボール第70回日本選手権大会(男子)決勝」や「第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会 新潟県予選会」、「チビリンピック2019 JA全農杯 全国小学生選抜サッカー予選 関東予選」など、各種目の競技団体による競技大会で使用実績がある。ただ、国内での使用は海外と比べるとまだそれほど多くないのが現状だ。

国内クラブへの普及もまだ進んでいないこの最新鋭カメラを民間のフットサル場がサービスとして導入するという動きがある。それが3月からスタートしたフットサル場「MIFA Football Park 立川」の「MIFAプレー動画配信サービス」だ。民間施設でのピクセロットの導入は日本初である。

導入理由を聞くと「最初は固定カメラを考えていましたが、ピクセロットのリアルタイムでの配信ができるという点にこれまでのフットサル場にはないサービスの可能性を感じて導入を検討するようになった」(MIFA Football Park 立川・中村惇良氏)という。このサービスはピクセロットで撮影された映像を専用アプリでスマホやタブレットから視聴できる。録画映像を後から見るのはもちろん、生配信で見ることも可能だ。従来の固定カメラと違い音声も入るため、中継カメラのような感覚で見ることができるのだ。スマホやタブレットで気軽に自分のプレー動画を見ることができるのは、これまでのフットサル場にはない新しいサービスだろう。

ピクセロットが質の高いフィードバックを可能にする

当面のメインターゲットはキッズスクールに通う子どもたちの親御さんだ。これまでキッズスクールに子どもを通わせる親は自分たちでハンドカメラを回していた。このサービスによってその手間がいらなくなる。しかもハンドカメラでは撮影できない上からの俯瞰視点での映像だ。仕事で会場に来られないお父さんだけでなく、遠方に住んでいるおじいちゃんやおばあちゃんがアプリを通して孫の姿を見ることができる。ピクセロットの映像によって家族のコミュニケーションの広がりを期待しているという。

もちろん、それだけではない。通常のコート使用や個人フットサルの参加者、MIFA Football Park主催の大会参加者もこのサービスを気軽に利用できる。つまり誰でも簡単に自分のプレーやチームの戦術を映像によってフィードバックを得ることができるのだ。特に個人の技術向上において、このサービスはフットサル場としての新たな可能性を感じさせるものである。

以前、ベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称『ビリギャル』)の著者・坪田信貴氏が、REAL SPORTSのインタビュー内で指導においてのフィードバックについてこんなことを語っている。

「錦織圭選手が通っていた有名なテニススクール(島根県松江市にある『グリーンテニススクール』)がありますよね。あのスクールでは、すべて録画されていて、あとで練習を見返してコーチが指摘できるようになっているんです。究極それだけでいいぐらいなんですよ。例えば、鏡って光速でフィードバックしてくれるのですが、鏡を見て寝ぐせがついていたら直すじゃないですか。でも鏡がないと気づかない。とてもシンプルな話です。要は、フィードバックさえすれば、人って自分の価値観に応じて良くなろうとするんですよ」

映像による客観的なフィードバックをコーチングに生かすことは、前述したビッグクラブでも当たり前のように取り入れられているものだ。そうしたトップ選手、トップクラブもやっていることを民間のフットサル場で簡単にできてしまうというのが、このサービスの画期的といえるところだ。

フットサル場の新たな価値創出の可能性

その日の練習や試合の映像を見ながら親子で振り返るだけでもいいフィードバックになるだろうし、今の時代であればパーソナルなコーチングサービスもある。そこでピクセロットの映像を活用すれば、より質の高いフィードバックを得ることができる。

「立川、豊洲、仙台のMIFA Football Park 3施設のコーチ間で映像を共有して、スクール運営や指導方法のフィードバックに役立てていますが、映像を指導自体に活用することも検討しています」(MIFA Football Park 立川・中村惇良氏)と、MIFA Football Parkとしても将来的にピクセロットを使った幅広いサービスを模索していくつもりだという。

スタートしたばかりの「プレー動画配信サービス」は単純にプレーの視聴サービスとしても面白いが、個人の指導などにも積極的に生かされるようになれば、さらなるフットサル場の新たな価値の創出につながるだろう。

<了>

MIFA Football Park 立川
https://tachikawa.mifafootballpark.com/

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