「飛び級でフル代表に挑み、自信持ち戦うU20代表の経験も必要」影山監督が描く育成年代の理想像
2年ぶりに2種(高校生)年代の最高峰の戦いが幕を開ける。高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグが4月3日に開幕し、東西に分かれたJユース15チーム&高体連5チームが9カ月間に渡る激戦を繰り広げる。2つのワールドカップがコロナ禍により中止となった中、極東の島国・日本はいかにして“世界基準”を意識し続けるのか? U-20日本代表監督で今季からJFA(日本サッカー協会)の育成ダイレクターを兼務する影山雅永監督に、リーグ戦の文化が根づきつつある2種年代の現状や、世界を意識した今後の取り組みについて話を伺った。
(インタビュー・構成=松尾祐希、写真=GettyImages)
力を出し切って世界基準の強度でプレーできる環境を
昨季はコロナ禍の影響で2度の開幕延期を経て、2011年の創設以来初の大会中止となったプレミアリーグ。参加予定だったチームは代替大会として各地域のプリンスリーグに参戦(※関東圏の8チームはプレミアリーグ関東に出場)。1回総当たりのリーグで日程が短縮され、昇降格も設けられない異例のシーズンを戦った。そうした異例の事態を経て幕を開ける今季は例年通りWESTとEASTに分かれ、それぞれ10チームが出場する。ただ、今季は来年からプレミアリーグへの参加数が4チーム増えるため、降格チームが2チームから1チームに変更となった。大会創設から11年。初めてチーム数を増やす中でリーグ戦文化の定着とともに、日本の育成年代はどのように変化をしてきたのだろうか。
――U-20日本代表監督として育成年代に携わってきた影山監督は、プレミアリーグの創設によって育成年代がどのように変化したと見ていますか?
影山:リーグ創設当初はJクラブのアカデミー、街クラブ、高体連が一緒のリーグで戦うため、各方面から「どうなるんだ」という懸念があり、実際に最初は大差がつくゲームも珍しくありませんでした。しかし、毎年統計を取っていて数字にも表れていますが、本当にリーグ戦として面白くなってきました。世界で勝つために、JFA(日本サッカー協会)でも「2050年までにワールドカップで優勝する」という目標を掲げていますし、Jリーグでも国際的な指導者を育てるとうたっていて、“世界へ”というのはJFAもJリーグも一貫して同じ考えを持っています。
とはいえ、海外での経験は代表チームに選出されることで積めますが、国内では海外で積める経験を味わえないのも事実です。しかし、そこで終わらせてしまっても意味がありません。プレミアリーグやその下のプリンスリーグで勝負が懸かったギリギリのゲームを数多く育成年代でもやってもらいたい。実際にそういうゲームが多くなりました。なので、今度はインテンシティーが高いゲームをさらに増やすべく、2チームずつ増やす運びになったんです。
ただ、レギュレーションの変更をする上で、ゲーム環境の整備も含めてカレンダーの見直しも必要です。現状では話し合いの段階ですが、特に考えないといけないのが夏場の試合。30度以上の気温でインテンシティーの高いゲームを行うのは難しい。春や秋ぐらいの気候の中で思い切ってプレーをし、省エネではなくて力を出し切って世界基準に近いインテンシティーでプレーできるゲームを多くしたい。チーム数を増やすだけではなく、今後はゲーム環境の見直しについても取り組んでいかないといけません。
通年でリーグ戦を行っている競技はサッカー以外ない
――プレーの強度を求めていく中で、プレミアリーグを戦う一方で選手が世界基準を知っていないと実行に移せません。それを子どもたちに植えつける上で代表を経験してない選手たちは何を意識してゲームに取り組まないといけないのでしょうか?
影山:リーグ戦の文化が少しずつ根づいてきて、さらに良いレギュレーションにする試みは素晴らしい動きだと感じています。今も「ノックアウト方式だからこそ緊張感がある」という声も少なからずあり、選手にとって一発勝負のトーナメント戦がいいという人もいます。ただ、他のスポーツを見ても通年でリーグ戦を行っている競技はありません。毎週公式戦ができる重要性を理解し、1年間で数多くの試合数をこなせる意味を理解している人が多いから開催できています。
ただ、国内のリーグ戦の中で全ての選手に世界基準を求めていくのは難しい。なぜならば、日本が極東の島国であるからです。そこはわれわれが持っている難しさではないでしょうか。代表選手に選ばれる者だけが、国際経験を積んでSAMURAI BLUE(日本代表)だけが経験を積んで海外基準を持っていたとしても全体のレベルアップにつながりません。なので、われわれが各方面に発信をしながら、国内でもそこに近いレベルで戦えるように高めていくことが重要ではないでしょうか。
――特に今年はU-20とU-17のFIFAワールドカップが中止になってしまいました。より国内のリーグ戦が強化の重要な場となります。そこはどのように感じられていますか?
影山:ワールドカップの中止は大きな損失です。国内だけに留まっていると、日本は島国なのでサッカーがガラパゴス化してしまいます。ヨーロッパは国が隣り合わせなので国同士の戦いが非常に多く、常日頃からアンダーの世代でも大会がすぐに行えて、クラブでもユース版のUEFAチャンピオンズリーグが開催できています。これは日本ではできない取り組みです。日本において、日常で海外経験を積む唯一といえる方法は代表活動しかありません。育成年代のクラブレベルにおいて海外遠征は年に1、2回ぐらい。だからこそ、U-17やU-20におけるワールドカップの経験は日本にとって大事。なので、国際大会が両方とも中止になってしまったのは痛いですし、ギリギリの戦いをしてやっとの思いで本大会に挑む中で予選を兼ねるアジア選手権が中止になってしまったのも残念。
ただ、一方で、U-20、U-17の大会がなくなったからといって終わりではありません。コロナ禍で大会がなくなった時期だからこそ、代表活動の継続が大切です。今年も数は少ないですが合宿が予定されているので、常に世界を意識しながら上のカテゴリーを見据え、代表で活動していくことがわれわれにとっては大事だと思います。
根本的な考え方として「飛び級」は必要
――ワールドカップが中止になり、海外遠征もなかなかできない現状があります。その中で国内でレベルアップを行う一つの手段として、飛び級が考えられると思います。今年からスタートするU-21以下の選手の出場機会創出を目的としたJエリートリーグやJリーグのアカデミーによるJユースリーグ(U-17以下の選手をベースにU-18の選手も一部出場可能な大会)も含め、世代を超えて上のカテゴリーに挑戦することも選手の成長を促す手段になるのでしょうか?
影山:正直、それらのリーグ戦については、まだ始まったばかりなのでどのようなリーグになっていくのかわかりません。Jエリートリーグのメンバー表を見ると、意外にU-23の選手が少なく、30歳以上の選手が多い現状も見受けられます。ユース所属の選手は交代出場が多くなるかもしれませんが、今後どのような課題が出てくるかは注視すべきです。
ただ、根本的な考え方として、飛び級は必要だと考えています。能力がある選手が同世代の中で余裕を持ってプレーするだけでは、さらに成長する上で好ましくありません。ただ、飛び級をする理由が人数合わせのためだけになってはいけない。本当に高いレベルの選手が自身の限界値を飛び越えるために飛び級は必要。今後、どのようなリーグになっていくかは見ていきたいですね。
――確かにその通りですよね。影山監督の中でJエリートリーグやJユースリーグについて、理想像はあったりしますか?
影山:世代別代表で出場機会を得られていない選手がそこでどんどん出場機会をつかみ、力をつけた上でクラブのトップチームに入っていく。そのサイクルが根づいてほしい。ただ、同じようにU-21のリーグ戦を行っているイングランドとは異なる構造が日本にはあります。なので、飛び級でU-21リーグに挑むことと拮抗したU-18のリーグが共存できるのが一番良い。そうすると、非常に良い構造のリーグ戦になっていくのではないかなと思います。
「個人昇格」して年上と戦いながら、自分が中心で引っ張る場所も必要
――飛び級に関して、直近の成功例を挙げると、サガン鳥栖U-18の中野伸哉選手だと思います。本来はU-18日本代表のカテゴリーですが、U-20のカテゴリーを飛び越えて東京五輪を目指すU-24日本代表に招集されました。そうした事例はどのように見られていますか?
影山:それがまさに僕らがずっといっている「個人昇格」なんです。個人昇格をし、年上の相手と戦う。一方で自分自身がキャプテンシーを持って戦えるチームがあることも必要です。彼は昨年からFIFA U-20ワールドカップを目指す代表に3歳年下ながら継続的に招集をしていました。ただ、もし2年後にSAMURAI BLUEに入る力を持っていたとしても、U-20ワールドカップに中心選手として挑んでほしい。U-20日本代表が世界一を取るために自分が引っ張るような場所も僕は大事だと思うんです。
飛び級の良さを生かしながら、キャプテンシーとリーダーシップを持って戦う経験も選手の育成には必要です。選手自身がSAMURAI BLUEやオリンピックを目指す代表に行ってもらっても構わないのですが、U-20でもワールドカップを取りにいってもらいたい。世界一を取る舞台に自信を持って挑み、世界一の経験がある選手がSAMURAI BLUEに入っていく。この構図が個人的には望ましいと思っています。
――Jユースは飛び級の環境が整っていると思うのですが、逆に高体連は飛び級がなかなかできません。高体連組はどのようにして強化を進めていけばいいのでしょうか?
影山:加入が内定した選手は特別指定選手の制度を使い、高校生でもJリーグデビューをする選手が増えています。この取り組みは日本の進歩。選手の実力が上がってきていることに加え、指導者も高校生だから同じカテゴリーでやるべきという考えではなく、力のある選手は上のカテゴリーでやるべきだという考えが浸透してきています。そういう選手の数が増えた点は素晴らしいことですね。
――これまでは高体連とJユースの色がそれぞれあったと思うのですが、徐々にその色に差がなくなってきているように見えます。例えば鳥栖U-18はテクニックがあり、かつ戦う姿勢も持ち合わせています。プレミアリーグの創設により、タフな選手が多い高体連と技術に長けたJユースの特徴がミックスされるようになってきたのでしょうか?
影山:まさにその通りだと思います。プレミアリーグができた当初は根性で戦う高体連、うまいけれども戦えないJクラブといわれていました。Jアカデミーの指導者の多くは悔しい思いをしてきたはずで、U-17日本代表で監督を務める森山佳郎さんもその一人。そこからうまくて戦える選手の育成を目指しました。逆に高体連は戦えるだけで身につけるべき技術を身につけていないと評され、悔しい思いをした指導者がたくさんいたはずです。サッカー選手を目指すのであれば、その両方が持っていないといけない資質であり、お互いがリーグ戦を通じて育成と強化を進めてきました。
高体連とJユースの色に差がなくなってきたという部分で、個性はまだまだあるけど、ネガティブな差はなくなってきたと僕は思います。強い気持ちとテクニックをお互いに高め合い、良い競争ができています。それがプレミアリーグとプリンスリーグができた大きな効果で、今後もそこは大事にしていきたいですね。
<了>
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PROFILE
影山雅永(かげやま・まさなが)
1967年生まれ、福島県いわき市出身。福島県の磐城高校を経て筑波大学に入学。卒業後は古河電工(現・ジェフユナイテッド千葉)に入団。Jリーグでも活躍し、1995年は浦和レッズ、翌年はブランメル仙台(現・ベガルタ仙台)に籍を置いた。引退後は筑波大学の大学院に進学し、1998年にはFIFAワールドカップに初出場した日本代表で対戦国のスカウティングを担当。その後はケルン体育大学などで学び、2001年からはサンフレッチェ広島でコーチを務めた。以降はアジア各国でA代表や育成年代の監督を歴任。2009年からはファジアーノ岡山のヘッドコーチに就任し、翌年からは監督として指揮を執った。2017年からはU-18日本代表監督(U-20ワールドカップを目指すチーム)となり、昨年5月のFIFA U-20ワールドカップではチームを2大会連続となるベスト16入りに貢献した。
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