なぜ浦和・リカルド監督は選手から絶大な信頼を得るのか? 元AKB48・高橋みなみも腐心した「ダマ予防」とは
東京五輪を挟み、Jリーグはシーズン後半戦がスタートした。明治安田生命J1リーグ23試合が終わって10勝5分8敗・勝点35の暫定8位。ルヴァンカップではプライムステージ準々決勝進出。天皇杯はラウンド16進出。依然として浦和レッズはタイトルを狙える位置にある。リカルド・ロドリゲス監督が就任し、薄氷の上を歩み続けながらも確かな成長曲線を描くチームづくりの根底には何があるのだろうか?
(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)
正しい成長曲線を描いた新体制を支えた意外な存在とは?
J1・浦和レッズは今季、リカルド・ロドリゲス監督の下、正しい成長曲線を描き、ここまで来たように思えるが、その実、チームはこの7カ月、薄氷の上を駆け抜けた。
シーズン前、FWレオナルド、DF橋岡大樹ら主力が次々と移籍。キャンプ中に2度目の規律違反で処分を受けた柏木陽介は練習参加を許されず、J3・FC岐阜に完全移籍と戦力ダウンは否めなかった。クラブの熟慮を踏まえてもMF小泉佳穂、MF明本考浩ら新加入選手が機能するかはまったくの未知数。加えて監督の敷く戦術は難解かつ浸透に時間がかかるとされた。そのため、巷間(こうかん)、期待の一方で今季は残留争いやむなしの声も聞かれた。
シーズンが明け、不安は的中。リーグ序盤は第2節・サガン鳥栖戦(0-2)、第4節・横浜F・マリノス戦(0-3)、第6節・川崎フロンターレ戦(0-5)と大敗。後日、耳にした川崎戦直後のチームのムードは最悪で、自信喪失の状態だったというが、それが大きなキッカケとなった。
その後、チームは奮起。選手にできるプレーの幅が増え、そのプレーがつながりを見せ、4月、5月と内容と結果が伴い、好転する。さらに追い風となったのがFWキャスパー・ユンカーの加入。得点力不足にあえぐチームを救い、ここまでリーグ11戦7得点とブレイクした。
さらにユンカーがスムーズにチームに合流できたのは大槻毅氏の存在があった。
2019年3月、クラブ内で設立された「海外クラブとのネットワーク構築推進プロジェクト」の責任者に就任。在任期間中に提携関係を結んだオランダ・フェイエノールトの協力で比較的、短い期間で合流がかなった。そればかりではない。トップチームの指揮官として、約1年半、攻守の切り替え、球際、ハードワーク、豊富な運動量を培った。昨季のメンバーはだいぶ入れ替わったが、大槻前監督の置き土産はロドリゲス監督の下で生きていることがわかる。
「選手たちに近い存在として感じてもらいたい」と同時に…
さまざまな不安要素の中、ここまで戦えているのはもちろんロドリゲス監督の手腕にある。どのようなチームづくりをしたのか? その根底には監督のこの言葉がある。
「私は常に、私と過ごしたシーズンがその選手にとって人生でのベストシーズンになってほしい」
裏付ける証言がある。「僕にとってリカはパパであり、僕は息子ですよ」、そう話すのが大宮アルディージャDF馬渡和彰だ。
「とにかくリカは選手をよく見ている。それに監督から声をかけてくれると選手としてはやはりうれしいものですから」
ロドリゲス監督がJ2・徳島ヴォルティス就任1年目の2017年に加入した馬渡は39試合出場し4得点・9アシストを記録した。
ロドリゲス監督のチームづくりはコミュニケーションから始まる。ただ、この単語、便利である反面、意味が曖昧(あいまい)すぎる。そこでロドリゲス監督はコミュニケーションを「選手との距離」と定義する。
「選手たちに近い存在として感じてもらいたい。選手とはジョークを言い合ったり、オフの日に何をしていたかを聞いたりもしている」と同時に「チームコンセプトをどこまで理解しているのかを確認している」と目配りも欠かさない。
そうした関わりをベースに指揮官は「選手の適正を見て、どのポジションでプレーすればより良いパフォーマンスを発揮できるのかを見極めている。アドバイスを送ったりしながら、トレーニングや映像ミーティングなどで指導している」と戦術浸透を促していることがわかる。
監督のいう「見極め」。前述の馬渡は徳島加入当初、左サイドバックだったが、徐々に右サイドバックにシフト。現在の大宮では右サイドバックでレギュラーとして起用されている。チーム事情に照らしながらも、選手に対する適正の見極めがその後のキャリアに生かされていることがわかる。
何より意識しているのは「ダマ予防」
戦術浸透、選手の適正を目的にしたコミュニケーションは監督一人では手が回らない。そこには徳島時代からの懐刀で通訳も務める小幡直嗣をはじめ、平川忠亮、工藤輝央らコーチ陣の存在が欠かせない。
「効率性を重視して分かれてやっており、やるべきことは決まっているので、お互いに情報共有をしながら進めている」
コーチ陣は選手とより近い立場から、会話や全体練習前後に行われるボール回しに参加することでコンディション、メンタル両面の細かい変化を捉え、共有している。
「重要なことはやりたいことの情報が選手たちにどうやって伝わっていくか、どうやって伝えられるかということ。選手たちが少しずつ理解し、いま何をしていきたいのかを理解することが目的」。これが奏功したからこそ、戦術浸透が進んだといえる。
と同時に、チームを同じ方向を向ける大きな集団にしなければならない。そのために指揮官が気にしたことは何か? 分野は離れるが、元AKB48総監督としてグループのリーダーの役割を担った高橋みなみさんがかつて、好きなメンバー同士が集まってしまう小さなグループを「ダマ」と呼んだが、この「ダマ」の予防だ。
徳島は毎年、入れ替わりが多い分、年齢、キャリアに関係なく、自然とまとまるチームだったそうだが、浦和ではこのダマ予防をより強く意識している。
「仲がいい選手たちがいて、よく話す人がいるということはいいことだが、小さなグループに分かれてしまうことは避けなければならない」
「コミュニケーションのネットワークを全体に張り巡らせて、若手と経験を積んだ選手もできるだけ一体になってもらいたい。経験を積んだ選手と若手との間に少し距離があるのは当たり前なことだが、そのようなバリアも壊して全体で一つのファミリーにならなければならない。それは選手だけでなくスタッフ全体でも同じことがいえる」
選手一人一人の特長や性格を把握すると同時に、成長を促し、チームを一つのファミリーにしていく。そのためにコミュニケーションは不可欠だ。
ロドリゲス監督は“人間そのものへの興味”が強い?
会見でロドリゲス監督の話を聞くかぎり、「監督はもとから人間そのものへの興味が強いのではないか?」と感じ、直接本人に投げかけてみた。
「全てがそこから始まると私は思う。人間としてつながるところから監督と選手の関係が始まり、スタッフとも常にいい関係を築きたい。つながりができれば選手にも興味を持ってもらえ、良いパフォーマンスを見せ、良い試合にしようという気持ちが高まる。そして、パフォーマンスが上がっていない時も私は気にかけ、選手たちを成長させようとしている」
この言葉通り、J1初挑戦の小泉、明本の躍動をはじめ、天皇杯3回戦以外、全ての公式戦に出場する大卒ルーキーMF伊藤敦樹、GK鈴木彩艶の抜擢(ばってき)とポジティブな要素が見られた。また彼らに刺激を受けて引っ張られるように最終ラインを守る槙野智章・岩波拓也。再び定位置を取り戻しつつあるGK西川周作が復調。そしてMF関根貴大やMF汰木康也など、ここ数年、芳しい成績が残せず、悔しい思いをした選手たちにも奮起をもたらした。
東京五輪を経て、Jリーグが再開。8月9日、シーズン後半の初戦となった第23節・コンサドーレ札幌戦では新加入MF江坂任が先発したものの、調整不足により1-2で敗戦。連敗を喫した。
今夏の新加入選手は他にも東京五輪代表で大活躍したDF酒井宏樹をはじめ、DFアレクサンダー・ショルツ、MF平野佑一が加入。今季、来季に向けた補強を着々と進めたが、戦術理解・浸透は別の話。監督は徳島での経験から「ゼロからスタート」と陣容に甘んじていない。
前半同様、薄氷の上を歩み続ける後半戦となりそうだ。
「私と過ごしたシーズンが選手にとってのベストシーズンに」
17歳の時、膝の大ケガで選手としてのキャリアを断念したリカルド・ロドリゲス監督。だからこそ、指導者としての信念・願いがこの言葉に凝縮されている。
<了>
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