「期限付き移籍」成功例として思い浮かぶ日本人選手は誰? なぜ浦和には選手が戻らないのか

Opinion
2020.08.25

8月11日、久保建英選手のレアル・マドリードからビジャレアルへの期限付き移籍会見が行われ大きな話題となった。その翌日、国内のJリーグでは浦和レッズの荻原拓也選手のアルビレックス新潟への期限付き移籍が発表された。若き選手たちにとって期限付き移籍先での活躍は将来における重要な試金石となる。一方で、思えば浦和からの期限付き移籍を経て、古巣に戻り、主力として複数年活躍した選手は過去にいたのだろうか? Jリーグ全体ではどうだろう? 浦和の事例を振り返りながら、日本における「期限付き移籍」について考える。

(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)

そもそも「期限付き移籍」とはなにか?

今月12日、浦和レッズDF荻原拓也のアルビレックス新潟への期限付き移籍が発表された。

下部組織からトップチームに昇格した荻原は向こうっ気の強いドリブルと得意の左足で将来を嘱望された選手だ。クラブを通じて「クラブにもファン・サポーターのみなさんにも必要とされる選手になって必ず戻ってきます」とコメントを残した。

荻原の新潟での活躍、そして一回り成長して浦和への復帰を期待する一方、こんな疑問も湧いてくる。

なぜ浦和は若い選手を育てられず、最終的に、ほかのチームに行ったきりとなってしまうのか?

そもそも「期限付き移籍」とはなにか?

選手が現在所属しているクラブとの契約を保持したまま、期間を定めて他のクラブへ移籍する制度。ある程度の実力がありながら戦力や戦術、監督の意向などのチーム事情からなかなか試合に出られない選手が出場機会を求めてシーズン途中に移籍する。若手選手にとっては将来に向けた武者修業の場だ。

ただ問題はそのあと。所属元に戻る場合もあれば、移籍先で期間延長、あるいは完全移籍となるケースもある。一度、所属元に復帰したものの、また新たに他チームに期限付き移籍するケースなどもありさまざまだ。

成功例として真っ先に思い浮かぶ選手は誰?

クラブしては、チームに戻ったのち、主力となることだが理想だが、実際はどうなのか?

REAL SPORTSのSNSで「『期限付き移籍を経て移籍元のクラブに復帰し、主力として活躍した選手』として、真っ先に思い浮かぶ選手は誰ですか?」との質問を募集し、次のような答えが返ってきた。

髙萩洋次郎(広島→愛媛→広島、現在はFC東京所属)
森脇良太(広島→愛媛→広島、現在は京都所属)
倉田秋(G大阪→千葉→C大阪→G大阪)
齋藤学(横浜FM→愛媛→横浜FM、現在は川崎所属)
竹内涼(清水→北九州→清水)
橋本拳人(FC東京→熊本→FC東京、現在はFCロストフ所属)
中村航輔(柏→福岡→柏)
金子翔太(清水→栃木→清水)
仲川輝人(横浜FM→町田→横浜FM→福岡→横浜FM)

ほかにも主だった代表例としては以下の選手たちも挙げられるだろうか。

飯倉大樹(横浜FM→熊本→横浜FM、現在は神戸所属)
平岡康裕(清水→札幌→清水、現在は仙台所属)
柿谷曜一朗(C大阪→徳島→C大阪)
奥埜博亮(仙台→長崎→仙台、現在はC大阪所属)
白崎凌兵(清水→富山→清水、現在は鹿島所属)

確かに成功例はある。一方で彼らはレアケースともいえる。期限付き移籍を経て古巣で成功を手にするのはそう簡単ではない。

浦和における期限付き移籍事情

浦和における事例を見ていこう。

例えばMF山田直輝の場合。地元出身の生え抜き。「浦和ユース黄金世代」の山田は2009年、世代交代、若手への切り替えを狙ったフォルカー・フィンケ監督に起用され、日本代表にも選出された。しかし度重なるケガに見舞われ、思うような活躍がかなわなかった。そのなかで山田は2015年、チョウ・キジェ監督たっての希望で湘南ベルマーレに期限付き移籍。みっちり鍛え上げられ、J2時代の2017年に39試合出場5得点を挙げ、主軸となった。ちなみに3シーズンの期限付き移籍は異例中の異例。浦和側が山田本人の意思を尊重したかたちだ。

山田はその後、J1昇格を置き土産に2018年浦和に復帰。念頭にはFIFAワールドカップ・ロシア大会での日本代表選出という目標があった。当時、山田は柏木陽介、長澤和輝からレギュラーを奪い、代表に入りたいと意気込んだが、リーグ3試合、カップ戦4試合、天皇杯1試合の出場のみに終わる。そして、この年6月中旬、練習中に右足腓骨骨折で離脱。完治した翌2019年、出場はリーグ1試合、天皇杯1試合にとどまり、7月に再び湘南に期限付き移籍し、2020シーズンから完全移籍。いまに至っている。

2015年、トップチームに昇格したDF茂木力也は2016年に愛媛FCに期限付き移籍。当時の指揮官・木山隆之監督に評価され、2017年にともにモンテディオ山形に移った。2018年7月、浦和DF遠藤航の海外移籍に伴い、右センターバックが手薄になったことから呼び戻されたが、出場はわずか1試合。翌2019年7月、再び愛媛に期限付き移籍。今季、完全移籍となった。

浦和ではほかにも、柏レイソルDF高橋峻希、ファジアーノ岡山DF濱田水輝、湘南DF岡本拓也、ガンバ大阪MF矢島慎也など、期限付き移籍後、ほかのチームに移籍し、輝きを放つ選手は多い。

こんなケースもある。2006年トップチームに昇格した小池純輝は2009年ザスパ草津(現ザスパクサツ群馬)に期限付き移籍。ザスパでの活躍が認められ、2010年に水戸ホーリーホックに完全移籍したのち、2012年東京ヴェルディ→2014年横浜FC→2016年ジェフユナイテッド千葉→2017年愛媛→2019年東京Vと渡り歩き、J2・400試合出場が目前に迫っている。

なぜ彼らは浦和で力を発揮できなかったのか?

十分な実力はある。にもかからわらず、なぜ彼らは浦和で力を発揮できなかったのか?

浦和に関していえば、一つ思い出されるのが2012年から2017年7月まで続いたミハイロ・ペトロヴィッチ(以下ミシャ)監督体制。豊富な運動量をベースにした独自の攻撃サッカーを敷いた。しかし、そのミシャサッカーが特殊なゆえに選手にポテンシャルがあったとしても、戦術に適合しなければほとんど起用されなかった。

加えてミシャはかつて指揮したサンフレッチェ広島、あるいは適応すると目される選手を毎年獲得したため、もともと出番の少ない選手は余計に出場機会を失っていく。またミシャは同じ選手を起用し続ける傾向があったため、主力の選手がケガや出場停止の状況でなければ、チャンスすら巡ってこなかった。出場経験の少ない、特に若手選手はほかのチームに移籍せざるを得なくなる。その例が先ほど挙げた山田であり、茂木、高橋らのケースだ。

こういったケースの場合、クラブにとって期限付き移籍は親心なのかもしれないが、復帰したとしても監督が交代する、あるいは戦術が大きく変わらなければ、取り巻く状況はさほど変わらない。

そのなかで、トップチームに昇格し、レギュラーを掴んだ成功例の一人がMF関根貴大だ。2014年トップチームに加入した関根は途中出場ながら、少しずつ出場時間を延ばし、翌2015年にはレギュラーに定着したが、その理由はユース年代にある。2013年、この年、育成ダイレクター兼ユースで指揮を執った当時の大槻毅監督がトップチームに昇格してもすぐに適応できるようにと、ミシャスタイルのエッセンスをトレーニングに取り入れたのが大きな要因だ。関根が右サイドにコンバートされても適応できた理由がそこにある。時系列は下がるが、同じくユース時代、大槻監督に鍛え上げられ、2018年のルーキーイヤーからリーグ戦25試合に出場。大槻監督の現体制でレギュラーを張るDF橋岡大樹も当てはまる。

つまり、トップチームの戦術に合うような育成をする、獲得するということがクラブの理想とするところ。一方で監督が代われば大きく戦術が変わる。クラブ自身が監督によらない一貫したスタイルを持つかどうかも大きく左右する。下部組織出身の10代の選手が活躍する東京Vはその好例だろう。

また浦和の特性としては、若手、特に生え抜き選手への期待と愛情は深いものの、必要以上に勝利を求められるチームにあって、なかなか起用しづらいのも事実。選手を育てながら、チームを強くしていく、これはどのクラブにとっても永遠のテーマだ。

森脇良太にとって「期限付き移籍」は背水の陣だった

Jリーグにおける期限付き移籍の数少ない成功例の一人、森脇良太は広島から愛媛に移った際の心境を以前、こう語った。

「もう二度と戻れないと思っていた。だから、絶対に戻ろうと必死だった」

広島時代、若手だった森脇は周りのレベルの高さに「25歳までプロ生活は続かないだろう」と本気に思っていたそうだ。まさに愛媛への期限付き移籍は背水の陣だった。このラストチャンスを逃さず、2シーズン主力として活躍。広島に戻り、タイミングよくミシャに見出され、日本代表にも選出された。浦和で7シーズン過ごし、現在は京都サンガF.C.所属と息の長い選手となった。

クラブの方針はもちろんのこと、戦術、または運という部分もあるが、大事なのはその選手が期限付き移籍をどう捉えるか? そのことを忘れてはいけない。

<了>

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