「浦和を背負う責任」とは? サポーターと共に闘った闘莉王、那須が顕示した再建の礎

Opinion
2020.01.10

AFCチャンピオンズリーグでは決勝に進出したものの、明治安田生命J1リーグでは14位と低迷した浦和レッズ。

定まらない戦術プラン。なかなか進まない世代交代。そして減少傾向にある観客動員数。

かつての浦和レッズ・ブランドを失いつつあるいま、2020シーズンは現状を変える抜本的な変革期にしなければならない。

(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)

原点回帰で見据える「3年で優勝を果たせる陣容」

出直しと言うべきか、ここ数年の清算への一歩と言うべきか……昨年12月、浦和レッズは新強化体制の記者会見が行い、立花洋一代表をはじめ、土田尚史スポーツダイレクター(以下SD)ら新強化スタッフが並んだ。

30分にわたる会見の印象はどこか抽象的な表現が目立ち、いま一つ詳細が伝わらなかったが、その中でわかったことがある。これから浦和が目指すサッカーの2つの骨子だ。

1つは「2点取られても3点取り返すサッカー」。
2つめは「ゴールに向かって前進し続けるサッカー」。
目新しいコンセプトのようにも感じるが、実は違う。

「2点取られても3点取り返すサッカー」は、3-4-3の攻撃スタイルを敷いた故・森孝慈監督のサッカーであり、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督時代も当てはまる。

また「ゴールに向かって前進し続けるサッカー」は犬飼基昭代表が在任期間中、提唱した「速く・激しく・外連味(けれんみ)なく」に通じる。当時、犬飼代表はこのサッカーを実現できる監督をリストアップ。面談したうえで監督にギド・ブッフバルト氏、また監督候補者にも名前が挙がっていたゲルト・エンゲルス氏をコーチに招聘した経緯がある。

さきほど挙げた2つのコンセプトは、決して新しい方向性ではなく、いわば浦和レッズの原点回帰なのである。

会見で語られた「勝つだけでなく、見て楽しい魅力的サッカー」。これをベースにクラブは強化部が宣言した「3年でリーグ優勝を果たせる陣容」をいまから整えなければならない。

失いつつある「浦和レッズ・ブランド」

会見で土田SDは補強ポイントを「FWとDF」と明言するなか、我々から見て、補強は思うように進んでいない。昨年末、アルビレックス新潟からJ2得点王のFWレオナルドを獲得。期限付き移籍中のMF伊藤涼太郎が復帰。「柏木陽介の後継者」青森山田高校のMF武田英寿の加入が内定している。

その一方、オファーを出したとされる湘南ベルマーレDF杉岡大暉、サガン鳥栖MF原輝綺、大分トリニータMF小塚和季に断られたと報道された。それ以降、1月7日現在まで獲得リリースはない。土田SDが「契約年数がまたがっている選手が多い」と話したように、チーム編成を切り替えたくてもできない現状も浮き彫りになった。

これまで他チームの選手が浦和に加入する理由はいくつかあった。浦和でレギュラーを取って自身の力を示したい。あるいはミハイロ・ペトロヴィッチ監督のときのように「あのサッカーを体感したい」「あの監督のもとで成長したい」というケース。ドイツ2部・シュトゥットガルトに在籍する遠藤航のように注目度の高いクラブでプレーして海外挑戦への足掛かりとするケース。もちろん、多くの年棒をもらいたい、プロとして格を上げたいということもある。

その中で、杉岡や原のように将来の有望株がなぜ加入しなかったのか? 将来設計、自チームへの愛着はもちろん、昨季、浦和の成績低迷や来季、AFCチャンピオンズリーグに出られないこと。ここ数年、主力選手が変わっておらず、出番が減る恐れなどが考えられるが、最大の問題は、クラブが選手側にそれ以上の価値や指針を提示できなかったことにある。

現役引退した2人のレジェンドが語る金言

では、浦和にはどのような選手が求められているか? そのヒントが昨季限りで現役引退した2人の選手の言葉にある。

「(サポーターとは)時に檄を飛ばし、時に檄を飛ばされ、真剣に向き合ってきた」。引退会見でこう語ったのは田中マルクス闘莉王だ。

その熱情、その激情ゆえ、サポーターと言い合うこともしばしば。浦和在籍時には試合翌日、クールダウンのためピッチをランニングしていたはずの闘莉王が、気づけばフェンス越しのサポーターと言い合いになり、「おい、次の試合で必ず男(漢)を見せてやる!」と激しい口調で言い放っていた。それでも「最後の最後にはやっぱり(サポーターを)リスペクトしていましたし、サポーターのためにも勝ちたかった」とその存在の大きさを語った。

そしてもう一人。「選手の心にサポーターあり。サポーターは一緒に戦う仲間」。この思いで戦った那須大亮だ。

那須といえば、浦和時代、試合前の儀式が有名だった。ピッチ脇でスタッフから背中を力いっぱい叩いてもらい、気合を注入。さらに、キックオフ直前にはさまざまな思いを受け止め、力に変え、戦いたいという誓いを込め、両腕を高く上げる、通称「元気玉」ポーズで気持ちを高めた。また試合では鼻骨を骨折しながらプレーし続けた。その戦いぶりでサポーターから「那須のアニキ」と呼ばれ、加入間もない頃からすぐにチームを支える重要な選手として認められた。

「いろんな人のさまざまな思いに突き動かされ、ここまで来た」。18年間の現役生活の原動力がまさにここにある。

“痛み”を明るい未来に変える方法

かつて浦和に所属した選手たちは異口同音にこう言う。「あれだけの多くのサポーターのために戦わない選手がいるのなら浦和にいる資格はない」。

すべてはこの言葉に行きつく。

長く浦和を見続けるサポーターから「ここ数年、埼玉スタジアム(2002)から熱のようなものが感じられなくなった」と聞いた。その熱なるものは何か。その熱は再び、スタジアムで感じられるものとなるのか。

そのヒントを那須は「火の起こしどころ」という言葉を使い、説明した。

「小さな火が多ければ、大きな火になる。僕の場合は何かを伝えることを大事にしてきたし、自分の思いを絶対に言葉やプレーに乗せてきた。いまの浦和だと、例えば関根(貴大)がガムシャラなプレーを見せることも『火の起こしどころ』の一つ。そこには100%以上にやらないと『大きな火』は付かない。そうしたキッカケに気がついた選手がチーム全体に伝えることが大事。チームを良くするために、何をすればいいか。苦しんでいる選手にどんな言葉をかければいいのか、考えてきた。そして監督、コーチ、選手、サポーターが同じ方向を向いて戦えるかだと思う。浦和に限らず、選手は誰かに生かされているともっと考えたほうがいい。誰かの思いを感じることは必ず自分の力になるから」

勝ち負けだけではなく、最後まで戦う姿勢を伝えることができる選手、あるいは自然と伝わるプレーができる選手。誰かの思いを背負って戦える選手。サポーターのプレッシャーを力に変えられる選手。これがいま浦和に必要な選手ではないだろうか。

これこそ土田SDが再三、語った「浦和を背負う責任」につながっていく。

リーグ戦での成績低迷。不明確な戦術プラン。進まない世代交代。減少傾向にある観客動員数。遠くなるクラブとサポーター、そして浦和という街の距離。

2020シーズンは現状を変える変革期にしなければならない。しかし、そこには必ず多かれ少なかれ“痛み”が伴う。その痛みを必ず明るい未来に変えなければならない。

「浦和を背負う責任」を体現できる選手の出現こそ、巻き返しへの近道だ。

<了>

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