浦和はいつまで「同じ過ち」を繰り返すのか 優勝を目指せる体制とはいえない歯痒い現実
AFCチャンピオンズリーグでは勇敢な戦いを見せたものの決勝でアル・ヒラルに敗れ、今季の無冠が確定した浦和レッズ。JリーグではいまだJ1残留争いの最中にいる。
毎年続く監督交代と変わる戦術。進まない世代交代。減る観客動員数。
果たして浦和に明るい未来は描けるのだろうか?
(文=佐藤亮太、写真=Getty Images)
続投要請の報道に覚える“違和感”
「来季の去就については分かりません。まだコメントできません」
11月24日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝、アル・ヒラル(サウジアラビア)との第2戦後の会見で浦和レッズ・大槻毅監督が答えた。そして翌25日、スポーツ新聞各社は一斉に「浦和 大槻監督に来季、続投要請へ」と打った。
「続投しない理由は見つからない」
10月下旬のこと、浦和・中村修三GMが語った。このとき続投理由をこう説明した。
「シーズン途中から監督をやってもらった。J1残留は前提だが続投は当然。積み上げたものを見られ、ほとんどの試合では主導権を握れている。ただ結果が伴っていないのが課題。前回は暫定だったが、今回は監督1年生。そこはちゃんと見ないといけない。ただ守っているだけではなく、攻めている。しかし、失点の仕方、時間帯が悪いのが今後の課題」
中村GMの言葉からは大槻監督のチームマネジメントへのある程度の評価と今後の伸びしろがあると判断していることがわかる。
オズワルド・オリヴェイラ監督からバトンを受けた大槻監督は「タイトル奪取と若手の育成」という難題に取り組んだ。
インテンシティ(強度)をベースにした堅守速攻とセットプレーで勝ち切るオリヴェイラサッカーから、より攻撃の色を出そうとした大槻サッカー。
就任後、今夏、ドイツから戻ってきたMF関根貴大、4月下旬からの2カ月間、太もも裏肉離れで戦線離脱していたDF橋岡大樹を復帰後、左右両サイドで起用。また秋口にはDFマウリシオからDF鈴木大輔に切り替えるなど主力の入れ替えを行った。
ACLではこれまでのクラブ・チームが培った経験。選手個々のモチベーション。そして分析と準備が功を奏し、ファイナルの舞台まで勝ち上がった。
ただ一方、リーグでは苦戦を強いられた。川崎フロンターレ、鹿島アントラーズ、サンフレッチェ広島、大分トリニータのようなポゼッションサッカーのチームにはまったく歯が立たず、就任後、リーグでの連勝はいまだなし。YBCルヴァンカップ準々決勝で鹿島に負け、天皇杯4回戦ではJFLのHonda FCに負け、敗退。
さらにこの1カ月間を考えると、リーグは10月29日の31節 広島に1-1で引き分け。ACL決勝の影響で11月1日に前倒しされた30節 鹿島に0-1で敗戦。大槻監督が鹿島MF永木亮太を突き飛ばし、退席処分。規律委員会から1試合のベンチ入り停止処分を受けた。続く、11月5日の32節 川崎戦では0-2の敗戦。そしてアル・ヒラルとのACL決勝。11月10日の第1戦、アウェイでは0-1で敗戦も、ホームでの第2戦に賭けたが完膚なきまでにやられ、0-2で完敗。現在、公式戦5戦勝ちなしの4連敗中。勝ち点は32節終了時点で清水エスパルス、サガン鳥栖と並んで「36」。得失点差でかろうじて13位。2011年シーズン以来の残留争いの只中にある。
そのなかでの続投要請の報道には違和感を覚える。
大槻サッカーが何たるか。ハッキリ示すことができないまま
11月上旬あたりから、まことしやかに浦和が来季にむけ新監督を探しており、ことごとくオファーを断られているらしいという話を耳にした。そのなかにはあっと驚く監督の名前もあった。真偽はどうあれ、問題はクラブの続投要請は来季のチームを託す積極的選択なのか、それとも断られたうえでの消極的選択なのかだ。
思い出されるのがここ数年の監督人事。2017年7月、独自の攻撃スタイルを5年半のあいだ浸透させたミハイロ・ペトロヴィッチ監督(以下、ミシャ)を契約解除。これを受け、堀孝史コーチが内部昇格。ミシャ時代の3-4-2-1と自身が推す4-1-4-1の併用でACL2度目の制覇を果たした。一方、リーグを見ると、前年の2016年は2ステージ制を敷いたシーズン。浦和は勝ち点トップの「74」をあげたものの、チャンピオンシップで負け、2位となったが、2017年は7位にランクダウン。シーズン終わりの3試合、鹿島、川崎、横浜F・マリノスに負け、3連敗でシーズンを終えた。
続く翌2018年、ACL出場権を目指し、より攻撃的なサッカーを行うべく4-1-2-3を志向。意気込みとは裏腹に“やりたいサッカー”に対して“陣容不足”、さらにシーズン前のキャンプでの調整不足で堀監督はリーグわずか5試合で契約解除となった。
もし大槻監督が来季続投とならば、任命した中村GMが今季限りでの退任となるなか、代わって就任したOBである土田尚史スポーツダイレクター(SD)とはどう今後すり合わせていくのか。堀監督、オリヴェイラ監督のようなシーズン途中での契約解除が繰り返される可能性がある。
また監督が代われば戦術も変わる。ミシャの超攻撃サッカーから堀監督はバランスを重視し、翌年は攻撃サッカーへ。大槻代行監督を経て、オリヴェイラ監督は堅守速攻。布陣は鹿島時代同様4-4-2を採用したかったが陣容が足りず、現実路線で3バックを採用。チームを一時的に立て直し、リーグ5位。天皇杯優勝を決め、ACL出場を手にした。
そして今季、いよいよ4バックに着手とDF山中亮輔らを獲得。5節 FC東京戦で初めて4-4-2で戦い、1-1で引き分けたものの、続く6節 横浜FM戦0-3で完敗。それ以降、4バックを封印した。また序盤から頼みのFWファブリシオ、MF青木拓矢、FW武藤雄樹らが戦線離脱。帰還を待つ間、より守りを固めたため、攻撃の色はさらに失った。10節からジュビロ磐田、名古屋グランパス、湘南ベルマーレ、広島と4連敗を経て、契約解除。そして大槻監督は攻守の切り替え、ハードワークをより強調した。一定のルールはあるが相手に合わせた戦い方をするため、大槻サッカーが何たるか。正直、いまもハッキリ示すことができないままでいる。
一番欲しいリーグ優勝。それを目指せる体制にあるのか?
またクラブは方針転換を打ち出した。去年5月中旬、打ち出された浦和レッズの理念。その一番に挙げられているのが『サッカーを極め、勝利を追求する』。至極、当たり前なのだが、これまでの浦和は見ていて楽しい、心躍るようなサッカーを目指していたと認識していたが、言うなれば勝利至上主義に舵を切った。
勝利至上主義。行きつくところは優勝、タイトル。ここ数年、浦和はACL、天皇杯、ルヴァンカップを手にしたが、一番欲しいもの、それはリーグ優勝。
あれは2010年だったと記憶しているが当時、指揮を執ったフォルカー・フィンケ監督が会見でこんなことを言った。「このクラブは1回しかリーグ優勝していないのになぜ優勝、優勝と言うのか」と疑問を呈した。就任当時、浦和は黄金期と言われた2006年から2008年を過ぎた頃。優勝よりこれからどう世代交代をすべきか模索していた時期。ただ、思うように成績は表れず、2009年は6位。2010年は10位。さらに観客動員数減少も手伝い、2シーズンいっぱいでの交代となった。
奇しくも時を経て、フィンケ監督と同じ疑問を呈していたのがFW興梠慎三。リーグ7戦未勝利に終わった26節 セレッソ大阪戦後(9月13日)、こう話している。
「浦和は勝たないといけないチームだと言うが、何をもって言うのか自分にはわからない。鹿島のようにタイトルをいっぱい取っているならわかるが、当たり前のように言うのはおかしい。それなら結果で見せてみろと自分は思う。簡単なことは言えないが、このメンツを見れば勝たないといけないし、この順位にいるチームではない。個人として残留争いをしたことはない。優勝争いをするチームに早くなりたい」。何とも言えない歯がゆさが感じられた。
目の前の試合に勝つのは当たり前。優勝を目指すのも当然だが毎年続く監督交代と変わる戦術。進まない世代交代。減る観客動員数。
いまの浦和が果たして優勝争いできる、あるいは優勝をリアルに目指せる体制にあるのだろうか。
スクラップ&ビルド。世間では改革の旗印のような言葉として使われているが、そこに一本筋の通った哲学、志向があったうえで、さらに継続しなければ、何も残らない。ただの更地になり果てる。スクラップ&ビルドを繰り返した浦和レッズが近い将来、そうなってしまう可能性はある。
いまのところ会見の予定はないようだが、土田尚史SDは何を語るのか。ここに浦和の明るい未来を見出すことを期待したい。
<了>
ACL決勝よりもJ優先。浦和を苦しめた「地獄の4連戦」過密日程は仕方ないのか?
なぜ浦和・鈴木大輔は、現役でありながら自分自身のメディアを始めたのか?
森保「兼任」体制はやめるべき。今ならまだ間に合う、望む日本サッカー協会の英断
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