17歳・河辺愛菜はなぜ北京五輪イヤーに急成長したのか? トリプルアクセルと共に歩み続けた道程

Career
2022.02.05

北京五輪・フィギュアスケート女子シングルに、17歳の河辺愛菜が登場する。シニアデビューから2年目を迎えた今シーズンが始まる前は、決してオリンピックの代表候補に名前の挙がる存在ではなかった。だがそこから急成長を遂げ、見事に北京への切符をつかみ取った。なぜ彼女は短期間でこれほど成長できたのだろうか。代名詞ともいえる「トリプルアクセル」と共に歩んだキャリアを振り返る。

(文=沢田聡子)

河辺愛菜の最大の武器「トリプルアクセル」、ジュニア時代からのストーリー

河辺愛菜が初めて試合でトリプルアクセルを成功させたのは、2019年11月17日だった。KOSÉ新横浜スケートセンターで行われた全日本ジュニア選手権・フリーに最終滑走者として登場した河辺は、『ブラックスワン』の旋律に乗って思い切りのよい踏み切りからトリプルアクセルを跳び、きれいに着氷。15歳だった河辺はショートに続いて1位になり、全日本ジュニア女王のタイトルを獲得した。

この全日本ジュニアでの河辺は、「きっとこの選手が勝つだろう」と思わせる雰囲気を終始漂わせていた印象がある。6分間練習で他の選手と一緒に氷に乗っていても、スピード感あふれる滑りと大きなジャンプはひときわ目を引いた。『ブラックスワン』の強い曲調と黒い衣装もよく似合っていた河辺には、15歳らしからぬ迫力があった。前シーズンの西日本ジュニア選手権ではショート28位でフリーに進めず、全日本ジュニアに出場できなかった悔しさを晴らす優勝だった。このシーズン、一気にジュニアの主役に躍り出た河辺は、2020年1月にスイス・ローザンヌで行われたユースオリンピックで4位に入り、充実のシーズンを終えている。

昨季シニアに上がった河辺は全日本選手権に出場、ショート・フリーの両方でトリプルアクセルに挑んだ。トリプルアクセルの成功はなかったものの、他の要素をまとめて6位に入っている。これでトリプルアクセルが入れば、と期待させる結果だった。

迎えた北京五輪シーズン、飽くなきトリプルアクセルへの挑戦

北京五輪シーズンとなる今季の本格的な開幕前、昨年10月に行われたジャパンオープンで、河辺はトリプルアクセルを成功させている。

「毎回アクセルだけに集中をしてしまって、他のところにあまり集中できてないということがあったんですけど、今日は練習の時のアクセルの調子もよかったので、余裕を持っていけたかなと思います」
「跳び方を、すごくいろいろ試していて。タイミングやカーブの形をいろいろ試したんですけど、今の跳び方は(2019年)全日本ジュニアの時の跳び方とタイミングも似ているので、それがうまくはまったのが一番よくなった要因かなと思います」

フリーだけで競うこのジャパンオープンで、河辺の技術点は出場した6選手の中で一番高かった。河辺は「めちゃくちゃうれしいです」と素直に喜びながらも「でも、下の点(演技構成点)がまだまだ上の選手には勝てないかなと思っているので」と語っている。

「やっと技術点は追いつけたので、あとはスケーティングとか、そういうところの基礎の練習を、もっともっと全日本までに頑張って。技術点だけではなくて、スケーティングのところの点数も追いつけるように頑張りたいなと思います」
「少しこの大会で自信がついたので、全日本までに今日以上の演技をちゃんとできるようにもっと練習して、北京五輪を目指していきたい」

予期せぬチャンスの到来が転機に。力強いガッツポーズ

しかし、グランプリシリーズ初戦・スケートカナダのショートでトリプルアクセルを跳んだ河辺は、回り切らずに転倒してしまう。動揺したのか、続く3回転ルッツでも転倒し、最後の3回転フリップに2回転トウループをつけてリカバリーしたものの、12位からのスタートになった。

しかし、フリーではまったく違う河辺がいた。冒頭のトリプルアクセルは4分の1回転不足と判定されたものの着氷、大きなミスなく演技を終え、総合9位まで順位を上げている。

「カナダ大会では、フリーが自分の自信につながった。ショートの後にちゃんと切り替えてできたところがすごくよかった」と河辺は振り返っている。

そして、大きな転機となったのがNHK杯だ。当初はエントリーしていなかった河辺だが、直前に出場が決まり、そのチャンスを生かす強さを見せた。ビバルディの『四季』より『冬』を使うショートの冒頭で跳んだトリプルアクセルは、2.06の加点がつく出来栄えで成功。大きなミスなく滑り終え、ガッツポーズを見せた河辺はショート2位と好位置につけた。フリーではトリプルアクセルで転倒したものの、その後の演技をまとめて総合2位に入り、表彰台に乗っている。

「フリーでアクセルを失敗した後にすごく切り替えて落ち着いていけたので、そこは成長した部分かなと思っていて。合計点も自己ベストが出せたので、すごくうれしいです」

フリー後のミックスゾーンでグランプリシリーズ2戦について振り返った河辺は、次のように語っている。

「カナダ大会では、フリーが自分の自信につながった。ショートの後にちゃんと切り替えてできたところがすごくよかったと思っていて。今大会はショートからちゃんとできたので、試合でアクセルを決められる確率が、少しずつですけど上がってきてはいる」

会心の演技を見せた全日本選手権。ミスにも動じないリカバリー力

NHK杯後に「全日本までもっと練習して、スピンやステップもちゃんと練習して、全日本で完璧な演技を見せられるように頑張りたいです」と語った河辺は、全日本で会心の演技を見せる。ショートでは冒頭のトリプルアクセルを成功させ、他のジャンプも全て決める。また言葉通り、スピン・ステップも全てレベル4をそろえた。滑り終えてガッツポーズをした河辺を、観客はスタンディングオベーションでたたえている。全ての要素に加点がつき、3位と好発進した。

フリーでも、河辺は「自分の中で100点のアクセルが跳べた」という出来栄えのトリプルアクセルを決める。直後の3回転ルッツ―3回転トウループはセカンドジャンプが2回転になった。また2回転トウループをつけてコンビネーションジャンプにする予定だった2本目の3回転ルッツは単発になってしまうが、後半の3回転フリップに3回転トウループをつけてリカバリーする強さを見せる。北京五輪への切符が懸かる緊迫した全日本で3位に入り、表彰台に上がった。

フリー後、河辺は「ショートよりも崩れてしまって、すごい緊張の中だったんですけど」と振り返っている。

「強い気持ちで『失うものはないのでいくしかない』と思っていけたのが、すごくよかったかなと思います」

短期間で急成長を遂げた要因は? 河辺の出した答え

NHK杯から全日本にかけての成長の要因を問われ、河辺は「国際大会を経験したのが一番大きいかなと思っていて」と説明した。

「そこでやっぱりメンタルというか、あまり周りを気にしないということができるようになってきていて。自分に集中するということが去年はできていなかったんですけど、それができるようになったのが一番よくなったところかな」

そして、やはり大きかったのは武器であるトリプルアクセルがショート・フリーの両方で決まったことだろう。

「ショート・フリーでアクセルをそろえるということをずっと課題にしてきて、それがクリアできたのが一番自信にもつながったし、すごくうれしかった。それを今後の試合でも出せるように、しっかり練習していきたいです」

日本代表に選ばれ、代表会見に臨んだ河辺は、初々しく抱負を語った。

「オリンピックは小さいころからの夢の舞台で、出られるということをまだ実感できていない。今自分が世界でどれぐらいの位置にいるかも分からないので、本当に練習するしかないと思っているんですけど、小さいころからの夢である大きな舞台で楽しんで演技をできるように、練習を頑張りたいです」

トリプルアクセルを磨くことで、夢の舞台への道を切り開いた17歳の河辺は、4回転ジャンプも練習している。昨年秋から取り組んでおり、全日本でも男子の4回転を見て参考にする意欲を見せていた。北京五輪には間に合わないかもしれないが、河辺は世界トップの女子でスタンダードになりつつある4回転にも着手しているのだ。

フリーの曲『Miracle』を体現するような快進撃で、北京五輪代表に駆け上がった河辺愛菜。その勢いのまま、北京でもトリプルアクセルに挑む。

<了>

なぜアクセルジャンプは特別に愛されるのか? 羽生、浅田、そして…永遠に語り継がれる物語

フィギュアの“表現力”って何だ? よく耳にするけどどこか曖昧…その本質を考える

坂本花織、21歳の今しか表現できない「女性の強さ」で北京に挑む。“4年の寄り道”で芽生えた揺るぎない意志

羽生結弦、4回転アクセルで示す生き様。身体への負担、見合わぬ基礎点、それでも挑み続ける理由

宇野昌磨が「その全てを受け入れる」と決意した覚悟。恩師のために…2度目の五輪で渇望するもの

鍵山優真、恐れ知らずの快進撃も潰れかけた18歳の素顔。重圧から解放した父・正和コーチの言葉

三浦璃来&木原龍一、日本人ペア史上初の快挙も、涙を流した理由。世界が魅了された確信の急進化

この記事をシェア

KEYWORD

#CAREER #COLUMN

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事