阪神・藤浪晋太郎はもう迷わない。「立ち返る場所」で勝負する1年、過去との決別
2022シーズン、阪神タイガースのキーマンは誰か?「スポーツニッポン(スポニチ)」で阪神担当記者を13年務める遠藤礼氏は、藤浪晋太郎の名前を挙げる。長いトンネルに迷い込んだエースが「自分のエゴ」と称して先発で勝負すると決めた1年。ついに見つけた「立ち返られる場所」とは――。
(文=遠藤礼、写真=Getty Images)
2年連続で巡ってきた開幕投手の大役。藤浪晋太郎の真価が試される
期せずして自らの第1球で“号砲”は打ち鳴らされる。阪神タイガースは、ホームの京セラドーム大阪に昨季のリーグ王者・東京ヤクルトスワローズを迎え、開幕シリーズを戦う。球団史上最年少の開幕4番を務める2年目の佐藤輝明と共に、キーマンとなりそうなのが、2022年のオープニングピッチャーを務める藤浪晋太郎だ。
昨季に続き2年連続の大役ながら、今年は内定していた青柳晃洋のコロナ感染で開幕2戦目を予定していた右腕に急きょ、代役が巡ってきた。本番を1週間後に控えた18日のオリックス・バファローズとのオープン戦で5回を投げ終えた後、矢野燿大監督から通達された本人も「もともと青柳さんで決まっていたわけですし、あんまり気負わずに“開幕代行”なので力み過ぎず落ち着いて入れれば」と、驚きを隠せなかった昨年とはリアクションもまったく違っていた。
特別な一戦というより、今回はより「143分の1」の意識を強くしてマウンドに上がることだろう。ただ、たとえ1戦目でも2戦目でも、藤浪の今季初登板は船出となるチームにとっても重要な意味を持ちそうだ。「自分のストロングポイントはタフネス。今年はイニングをしっかり投げていきたい」と意気込むように、過去の実績、ポテンシャルを考えても1年間ローテーションを守れば10勝、規定投球回は十分に計算できる。藤浪の復活は投手陣、ひいてはチームにとっての“大補強”に相当することは間違いない。近年の不振を見ればそれが簡単でないことは明らかではあるものの、春季キャンプからの競争を制し、結果を積み上げてローテーション入りしてきた過程からは、ずっと低空飛行を続けてきた過去の自分と決別するような手応えもうかがえる。
批判もされた合同自主トレ。巨人・菅野智之から得られた収穫
節目のプロ10年目。年明け早々、機上の人となって地元・大阪から向かったのは南国・宮古島だった。読売ジャイアンツの菅野智之と約2週間、合同自主トレを敢行。シーズン中は「伝統の一戦」で対峙(たいじ)する宿敵のエースとの“呉越同舟”はこれまでも前田健太、ダルビッシュ有など豪華な面々とトレーニングをしてきた過去もあって批判もされた。
それでも「周りには、菅野さんとやって、わらにもすがる思いで劇的に変えてやろうと見えているのかもしれないですが、自分は一ミリもそんなこと思っていない。そんな簡単に変わるとは思っていない。いろんな人の良いところを盗んで、盗んで、積み上げてオリジナルをつくりたい」と意に介さず。今回も「フォームの再現性を学びたい」と明確な目的があったからこそ、共通の知人を介して菅野に弟子入りを志願。限られた時間でしっかりと収穫も手にした。「(投球動作の中で)つぶれてしまうようなことがある」(菅野)と指摘されたのは軸となる右足の動き。「(菅野からの指摘で)新しい視点でできている」と固めてきたフォームをさらに強固にするヒントになった。
春季キャンプでは例年通り、連日ブルペン入りする姿は変わらなくても、「回数」が少なくなった。昨年までは午前に全体メニューの中で投球練習を行った後、午後からの個別練習でもマウンドに向かい、腕の位置、足の上げ方など試行錯誤するように腕を振った。合計で200球、300球投げ込むことも珍しくなかった。今年はフォームで迷う姿はなくなり「今は立ち返られる場所があるというか。これさえやっておけば大丈夫というのがある」とうなずく。
今の藤浪を支えるキーワードは「脱力」。実戦でも手応え
実戦でも、その言葉と手応えを裏付けるようなパフォーマンスが随所に見られた。3月12日の中日ドラゴンズ戦は初回、先頭の岡林勇希に制球が定まらず四球を献上。不穏な空気を漂わせながらも後続を連続三振に斬るなど無失点でしのぐと、5回まで無安打投球と完全に立ち直った。「調子自体は良くなかったけど、いい意味でごまかせた。よくいえば修正。しっかり力が抜けて投げられた」。
「脱力」は今の藤浪を支えるキーワードだ。今年は2月から事あるごとに「力まないように」と意識付けするように口にしている。本人いわく、力んで上半身が突っ込めば腕の振りが窮屈になってボールの操作性が失われる。そのため、右腕を脱力して前で振ることを心掛けているという。これが「立ち返られる場所」なのだろう。今春の実戦で大きく崩れたのは4回5失点した5日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦の1度だけ。その乱調から1週間で立て直したのが先の中日戦で、首脳陣の信頼も高まって開幕ローテーション入りを確実なものとした。
3年ぶりに復活する「延長12回制」。藤浪の活躍が投手運用に好影響
今季は延長12回制に戻される予定で、1試合当たりのリリーフの起用人数も増えることが予想される。そんな中で完投能力があり、登板間隔の短縮にも対応できる背番号19の「タフネス」は年間を通して強力なオプション。リリーフの負担軽減など投手運用の面で藤浪が活躍することで生まれる相乗効果は小さくない。
とはいえ、置かれた立場は決して安泰ではない。青柳、ジョー・ガンケルは開幕に間に合わないものの秋山拓巳、西勇輝、伊藤将司などを擁するローテーションは12球団屈指。出遅れた2人も早い段階で戻ってくる。2軍には左肘手術明けの髙橋遥人も控えており、不調が続けば開幕投手とて藤浪がローテからはじき出されることもあり得る。昨年も4月下旬に降格し、再昇格は中継ぎとしてだった。
昨年12月の契約更改では「自分のエゴ」と発言して先発一本で勝負する気概を示した。「ここで言わないと中途半端になる。自分の中で決心をつける意味もありました」。キャリアの浮沈を懸けて臨むシーズンが間もなく始まる。あすの開幕戦。手にする1勝は、大きな意味を持つ。
<了>
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