坂本花織が自分らしく“ポジティブ”になれる理由。「どうしても他人と比べてしまうことはあるけど…」

Opinion
2022.06.07

坂本花織にとって、特別なシーズンが終わった。北京五輪銅メダル、そして世界選手権優勝。苦しみの日々の中でたどり着いた「自分らしさ」に、日本中が歓喜に沸いた。
激動の1年を振り返り、坂本は今、何を考えているのだろうか。そして彼女にとっての「自分らしさ」とはどんなものなのだろうか。率直な思いを明かした――。

「本当にいい勉強になった」。坂本花織が参加した“サステナビリティ”を学ぶイベント

5月、坂本花織はあるイベントにオンラインで参加していた。

「今まで環境問題についてあまり深く考えたことはなかったんですが、今回のイベントを機会にいろんな問題があるんだということを知ることができたので、本当にいい勉強になりました」

この日、アスリートが“サステナビリティ”について学ぶ講義、『adidas Sustainability School(アディダス サステナ スクール)』が開催されていた。

アディダスでは2017年から「RUN FOR THE OCEANS」という取り組みを行っている。スマートフォンアプリを通じて誰でも気軽に参加できるこのイベントは、参加者が走った総時間数に応じて、アディダスと海洋環境保護団体パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズが沿岸地域からプラスチックゴミの回収活動を実施。昨年は全世界で500万人が参加した。

アスリート、スポーツ界にとって、環境問題は決して無関係ではない。真夏の猛暑はもはやスポーツに適した気候とはいえず、雪不足に悩まされるウインタースポーツも少なくない。環境汚染が進めば、口にする食べ物も汚染され、体にも大きな影響を及ぼすことになる。

アスリートにも環境問題を“自分事”としてほしいと考えて企画された今回のイベントには、羽根田卓也(カヌー)、岩出玲亜(陸上)、石川直宏氏(サッカー/引退)が会場で、オンラインで清宮幸太郎(野球)、浅野拓磨(サッカー)、井岡一翔(ボクシング)、中村亮土(ラグビー)、そして坂本花織(フィギュアスケート)ら総勢44人が参加。“サステナビリティ”に関するクイズも出題され、アスリートたちは皆、真剣に講義に向き合っていた。(※クイズの問題は記事の最後に記載します。読者の皆さんもぜひチャレンジしてみてください)

イベント後の坂本に話を聞いた。

(インタビュー・構成=沢田聡子、写真提供=adidas Sustainability School)

最高のシーズンを振り返って――「本当にすごく幸せな気分」

――今回のイベントでは“サステナビリティ”をテーマに環境問題を学んできましたが、坂本選手は普段、日常生活の中で何か意識していることはありますか?

坂本:レジ袋をもらわないようにするとか、ゴミの分別に気を付けたりとか、あとは何かな……今すぐに思いつくのはそれぐらいですけど、これから気が付いたことはやっていきたいなと思っています。

――講義の中で“講師”の長谷川ミラさん、伊達ルークさんが、「誰でもまずは『知る』ことから始まる、今日がそのきっかけになれば」と言っていましたね。そういった意味では、「RUN FOR THE OCEANS」への参加は考えていますか?

坂本:そうですね、毎日30分は走るようにしているので、「いつも走っていることが生かされる場がきたな」という感じがしました。

――今回のイベントでは、長谷川ミラさん、伊達ルークさんら若い世代の人たちが、生き生きと楽しく環境問題に取り組んでいる姿が印象的でした。坂本選手も競技に楽しく取り組む姿が印象的です。楽しさを感じるための努力もされていることと思います。

坂本:「練習は試合のつもりで、試合は練習のつもりでやる」ということを、小さいころに教えてもらって、それを今も引き続き意識してやっています。

――今季は北京五輪で銅メダル獲得、世界選手権で優勝と、素晴らしいシーズンになりました。振り返って、今はどのように感じていますか?

坂本:こんなにも最高の結果が2カ月のうちに2回も起こって、本当にすごく幸せな気分だし、「これからもまた頑張りたいな」という気持ちになりました。

坂本の考える“自分らしさ”――「自分自身が信じてあげること」

――女子シングルでは世界的に高難度ジャンプを跳ぶ選手が多くなった中で、坂本選手が「自分らしさ」を貫いて勝ったことに感銘を受けた人も多いと思います。「自分らしさ」を見つけて自分の強みにするために、どんなことが重要だったと感じていますか?

坂本:スピードと迫力、ジャンプの大きさは他の選手に負けないと思っているので、自分が「勝てる」と思っている要素でしっかり戦っていくことを(中野園子)先生と決めました。文句なしの点数をつけてもらうために、その要素を徹底的に、そして必死に練習して、やっと試合で認められたので、それがすごくうれしかったです。

――中野先生は、坂本選手が自分でその方向性を決めたと言っていました。

坂本:うーん、自分で決めたことになるのかな?(笑) 「どうしたいの?」と(中野コーチに)聞かれ、「自分はこうしたいです」という意見をはっきり先生に言った結果、「その方向でいこうか」という感じになりました。

――スポーツに限らず、必ずしも「自分らしさ」を「強み」にできている人ばかりではないと思います。「自分らしさ」をどうやって「強み」に転換していけると考えていますか?

坂本:どうしても、他人と比べてしまうことはあります。「やっぱり、自分は大技ができないから」とか、すごくマイナスの方向に考えてしまうこともあったんですけど……でも自分ができることはゼロじゃないし、ちょっとでも強みがあるということを、自分自身が信じてあげることかなと思います。それでだんだん、自分らしさが出てきたのかなと。

――「マイナスに考えてしまうこともあった」ということですが、その考え方が変わるきっかけがあったのですか?

坂本:そういう、マイナスな考えをしている時間が嫌なので。マイナスに考えているときは結構無意識というか、勝手にそういう方向に考えてしまっていて、「あ、今マイナスなこと考えてる」って気付いたときに戻すようにしています。

――自分がポジティブになれるための時間を意識的につくったりはするんですか?

坂本:友達としゃべるのが好きですね。結構すぐため込んでしまうので、しゃべって発散しています。しゃべることによって友達からの意見とかも聞けるので、その時間が一番プラスかなと思っています。

キスアンドクライで感情を爆発させる姿は――「集中力が切れた瞬間に…(笑)」

――世界選手権のキスアンドクライで感情を爆発させている姿も、競技とは違う意味で坂本選手らしい姿でした。

坂本:演技では自分らしく滑ってはいるけど、やっぱり表情とかは自分らしいというよりは逆に作っているので……その集中力が切れた瞬間に、思うがままに泣いたり笑ったり叫んだりしているので、そんな感じかなと思います(笑)。

――キスアンドクライでの姿は、演技でしっかりと自分をつくり込んでいる反動が出ているということなんですね。

坂本:そうですね、はい(笑)。

――今季は最高の結果を残しましたが、来季以降は何を目指して演技しようと思っていますか?

坂本:来シーズン、やっぱりプログラムの雰囲気もちょっとずつ変えていきたいなと思っているし……「こういうプログラムもできるんだね」と言ってもらえるように、しっかり練習も積んでいきたいなと思っています。

――これから、どういうスケーターになりたいですか?

坂本:今はジャンプの大きさで魅せている部分が大半なので、ジャンプだけではなくて他の部分でもしっかり魅せられるような選手になりたいなと思っています。

<了>

坂本花織が掴んだ、銅メダル以上の意義。4回転全盛時代に、それでも信じ続けた“自分らしさ”

坂本花織の勝負強さ、ただ一つの理由。「急に金メダル候補と言われて…」重圧を乗り越えた新世界女王

なぜ浅田真央はあれほど愛されたのか? 険しい「2つの目標」に貫き続けた気高き信念

宇野昌磨とランビエールの“絆”に見る、フィギュア選手とコーチの特別で濃密な関係

羽生結弦は、自ら創った過酷な世界で、永遠に挑戦し続ける。カメラマン高須力が見た素顔

宇野昌磨、人生のどん底から這い上がった3年の軌跡。遂に辿り着いた世界王者の、その先へ…

================

【サステナビリティクイズ】
Q1 サステナビリティはどういう意味?
①自然環境
②温暖化防止
③持続可能性

Q2 2022年4月から施行されたプラスチック新法がある。基本原則としてこれまでの「3R」は「Reduce(ゴミを減らす)/Reuse(繰り返し使う)/Recycle(資源として再利用する)」、もう一つ加わった「R」は?
①Refuse(断る)
②Renewable(再生可能)
③Repair(修理する)

Q3 年間でどれぐらいのプラスチックゴミが日本の海に流れ込んでいる?
①約600t
②約6,000t
③約60,000t

Q4 このまま海にプラスチックゴミが流れ続けると?
①プラスチックの量が魚の量を超える
②魚が巨大化する
③海水が真水に変わる

================

【正解】
Q1:③ Q2:② Q3:③ Q4:①

================

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事