ラグビー・リーグワン4強に共通する“強さの理由”。堀江翔太らが敬意抱く「メディアに出ない人達」の存在

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2023.04.27

埼玉ワイルドナイツ、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、東京サンゴリアス、横浜キヤノンイーグルス。2022-23シーズンのラグビー・リーグワン、プレーオフトーナメントに進出する上位4チームが出そろった。では4強に共通する“強さの理由”とはなんだろう?

(文=向風見也、写真=Getty Images)

堀江翔太が称賛する「なかなかメディアに出ないそういう人たち」

レギュラーがAチームで、それ以外がBチーム。

「その呼び方、やめませんか」                                                        

ラグビー選手の堀江翔太がそう問うたのは、髪形をいまのドレッドヘアにするよりもだいぶ前のことだ。2008年に初めて籍を置いた現・埼玉パナソニックワイルドナイツで主将を任された2013年、当時の首脳陣へ提案した。

ちょうど同時並行で、オーストラリアのメルボルン・レベルズにも在籍した。ここでは現地のコーチ陣が、主力選手の調整に集中していた。自身の加わることの多かった控え組がミスをすれば「集中しろ!」と、一喝された。どれだけ集中していてもミスをなくせないのがスポーツであり、人間なのに……。その年のレベルズは、国際リーグのスーパーラグビーで下位に低迷した。

堀江は、いざ日本一を狙うワイルドナイツの船頭役となるや、一体感を醸すための仕組み作りに奔走する。そしてチーム名を分割し、その時々の公式戦に出るグループを「ワイルド」に、その「ワイルド」に実戦練習で圧をかけるグループを「ナイツ」と名付けた。仲間をアルファベットで分類するのをやめた。

「(試合に)出られるのはラッキー、くらいに思ってやっている。誰が出ても、胸張ってできるように」

その人の好プレーはもちろん、誰かの好プレーにつながった価値ある動きを褒めることも心がけた。「ワイルド」「ナイツ」へ分け隔てなく、だ。

海外経験のある日本人選手も多かったワイルドナイツは、2015年度まで旧トップリーグにおいて3季連続で優勝した。戦力の入れ替わりやライバルの台頭などで一時、覇権から遠ざかるも、2021年のトップリーグ最終年からは国内タイトル2連覇中だ。今季のリーグワン1部でも、5月13日からのプレーオフへ一番乗りで進出を果たした。

「ワイルド」と「ナイツ」のつながりは依然保たれたままだと、37歳となった堀江は言う。

「僕も、レベルズでなかなか試合に出られない時期をやって(経験して)きている。非常にイライラがたまったりするんです。でも(ナイツは)その気持ちを(表に)出さずに、試合に出る(リザーブを含め)23人のために練習で相手のこと(再現)もやりながら、自分の成長もさせながら……。僕らがずっと上のほうにいられるのは、なかなかメディアに出ないそういう人たちのおかげだなと、つくづく思っています」

ワイルドナイツから代表入りの稲垣啓太が自ら報道陣に説いたのは…

3月某日。ワイルドナイツが国内リーグワンを戦っていた時のことだ。

その日は約1年半前に移転してきた埼玉県熊谷市の練習場で、攻撃システム上の動きを部分ごとに確認していた。

ここで相手役を担うナイツに「これ、ディフェンスも練習だから」といった旨で呼びかけるのは、布巻峻介。堀江に代わり、2017年度からの2シーズン主将を担った30歳だ。そのパーツ練習を経て、全体での実戦形式トレーニングへ移る折、今度はワイルドに伝える。   

「(それまで別々でやっていた動きを)つなげようね!」

堀江はこう説明する。

「峻、金田瑛司(29歳)、谷昌樹(32歳)とかが中心になって、いい動きをしている。そこらへんのメンバーが一生懸命やっている姿を見ると、若手も『やらなあかん』となると思います。僕らもそれに甘えるのではなく、『相手してくれてありがとう』というのは、表現している」

スポーツは人間がするものだ。一つのチームが一定以上のレベルの舞台で安定的に勝ち続けるには、いい選手をそろえ、かついい選手の活躍しやすい土壌を作らねばなるまい。

この春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を制した日本代表でも、ベンチに一体感があったと伝えられる。さらにラグビーの大舞台にあたるワールドカップでも、世界的名将のエディー・ジョーンズ氏が事例を示す。

2015年のイングランド大会で日本代表を率いる際は、元主将でメンバー外に回ることも増えていた廣瀬俊朗を最初にリストアップ。2009年のWBCで世界一となった日本代表の原辰徳監督に助言され、そう決断した。大会中、出番のなかった廣瀬は、相手チームの動きを分析したり、ロッカールームや練習グラウンドの周りを掃除したり、集団のモラルに大きな影響を与えた。

イングランド大会を通して南アフリカ代表戦などで歴史的3勝を挙げるまでの間、ワイルドナイツから代表入りの稲垣啓太は、自分から廣瀬の貢献度について報道陣に説くこともあった。各国の代表経験者の力を束ねて勝つワイルドナイツにおいて、主力組とそれ以外の面々の協調関係が強いのは当然といえる。

そしてこの潮流は、これからリーグワンのプレーオフへ出る他の3チームにも見られる。

スピアーズ・末永健雄はチームの粘り強さの理由を問われ…

クボタスピアーズ船橋・東京ベイが今季、その絆をにじませたのは3月4日。ワイルドナイツと直接対決した第10節でのことだ。

堅守速攻のワイルドナイツがスピアーズを引き離しにかかった終盤、何度も、何度も攻められながら、なかなか自陣ゴールラインを割らせない時間帯があった。結局は15―30で敗れたが、粘り強さを示した。

フランカーの末永健雄はその理由を問われ、控え選手の存在を思い浮かべながらこう述べた。

「いい準備をしてきたので。メンバー外の選手は昨日(ワイルドナイツ戦の前日)練習試合があった。大体、試合の前の日は、キャプテンズラン(軽めの確認)になるはずなんですが、その日も(2日後に試合を控えた)僕らのためにいつも通りの練習をしてくれた」

3季連続で4強以上を達成のスピアーズは近年、新人のリクルートで成果を出す。今季新人ながら16トライの木田晴斗は、金秀隆、根塚洸雅といった直近2年の国内リーグで新人賞に輝いた名手とウイングの定位置を争い、日々のトレーニングの中でも切磋琢磨する。

伏兵のタックルがファフ・デクラークらの突破を阻む環境

実力者が刺激を与え合うそのサイクルを、長年保っているのは東京サントリーサンゴリアスだ。

旧トップリーグで優勝5度の強豪は、昨季もプレーオフ決勝でワイルドナイツに接近した。東京都府中市内の拠点では、大学ラグビー界屈指の綺羅星と海外出身者が常に競り合う。

間近に控えた試合へ出る選手の攻めを、翌週以降の先発入りを目指す伏兵のタックル、ジャッカルが阻む。その傾向は、OBの田中澄憲監督が就任した今季、より強まったような。共同主将の齋藤直人は言う。

「次の試合のメンバーに入るために全力でやり、それが結果としてチームのためになっている。それが、このチームのいいところだと思っています。お互い、やり合う」

そのサンゴリアスが最後に優勝したのは2017年度。当時の指揮官だった沢木敬介監督はいま、横浜キヤノンイーグルスを率いる。

一時は下位に低迷していたイーグルスは、沢木が就任して2季目となった昨季は最後まで4強入りに絡んだ。今季も、悲願のプレーオフ行きを目指して白星を積んでいた。

1月28日の第6節でワイルドナイツに19―21と接近。スピアーズ、サンゴリアス、さらには昨季4強の東芝ブレイブルーパス東京と熾烈な争いを繰り広げた。

渦中の3月23日。東京都町田市内の練習グラウンドは雨に見舞われていた。新加入で南アフリカ代表のファフ・デクラークら先発候補のアタックが、時折、寸断された。実戦形式のセッションで、ライザーズと呼ばれる隊列が牙をむいていたのだ。ワイルドナイツでいう、ナイツにあたるグループだ。

ライザーズに回って奮闘する山本雄貴。敬意を抱く梶村祐介

「(試合の)メンバーが発表されたその日に、ライザーズというチームもできると、僕は思うんですよね。『メンバー外の一人ひとり』だったら距離感は離れる。ただ、『ライザーズ、ここでディフェンスラインを上げるぞ』『ライザーズからAチームにプレッシャーをかけていこう』となると、『俺たちがやらな』という意識が大きくなっていく」

こう語るのは、イーグルスで主にライザーズに回って奮闘する山本雄貴。自らも主力入りしたいのを前提に、組織への忠誠心を語る。

入部11年目の天野寿紀、現・コベルコ神戸スティーラーズから移籍してきた33歳の安井龍太らが、ナイツの布巻、谷、金田のような立場を全うしているのも大きいという。2人が試合のリザーブに選ばれ交代出場する際は、スタンドで応援するライザーズから歓声が飛んだ。

主将の梶村祐介は、昨秋の日本代表に選ばれた。主な配属先は、「柱メンバー」と呼ばれる控え組だった。ここで心身の状態を整えるのが難しく感じたことがあり、自軍のライザーズへの敬意が増した。

イーグルスには、組織文化を作るブランドリーダーという役職が設けられる。山本は25歳にしてその並びに入り、毎試合、戦前のウォーミングアップに際して見せるモチベーションビデオを作る。出場選手の動画や写真にBGMを添え、念を込める。

「試合に出ている、出ていない、うまい、下手は関係なく、それを超えるリスペクトが(選手間に)ある」

「3年で変わるのは早い。5、6年はかかる」

イーグルスの練習後、クラブハウスの応接室で監督の沢木が選んだ言葉から、かすかに矜持がのぞく。

「その環境になってきた、ってことじゃないですか。そこを直すのって、結構、時間がかかる。いま(就任)3年目で、ちょっとずつ変わってきているけど、3年で変わるのは早いほうだと思うし。やっぱ5、6年はかかるんじゃないですか。そういうの」

確かにワイルドナイツが「Bチーム」という呼称を禁じたのは10年も前の話で、それ以前から個人練習で高め合う習慣があった。スピアーズは南アフリカで実績を持つフラン・ルディケ ヘッドコーチを迎えたのが2016年。以後、しばらく我慢の季節を過ごしていたサンゴリアスでも、それこそ沢木が現役選手として在籍していた時代から世代有数の実力者が負けん気をぶつけ合っていた。「3年」が「早いほう」という見解は、決して誇張ではない。

いくつかの問答を経て、沢木はすっと立ち上がる。

「いまはまあ、なんとなくだけど、みんなちょっとよくなってきている。こう……チームの、選手のつながりみたいなのとかさ――」

視線が窓の外へ移った。その先には、グラウンドに残る選手の姿があった。ライザーズに回っても笑顔を絶やさぬ天野が、代表経験者で長らく主力の田村優が、ラグビーボールを使ったリフティングのようなゲームに興じていた。

「はい。もういい? うまいこと書いといて」

沢木がそう話して部屋を去った約1カ月後、イーグルスは、ワイルドナイツ、スピアーズ、サンゴリアスとのプレーオフへ進む最後のチームとなった。ライザーズの情熱を絶やさぬイーグルスは、5月13日、堀江とナイツが土壌を耕したワイルドナイツと準決勝を行う。

<了>

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