「正しいことほど広まらない」育成年代のトレーニング事情。専門家が“当たり前”を問い直す、親が知らない落とし穴

Training
2026.05.18

「太った?」――。何気ないその一言が、真剣にサッカーに取り組む子どもの成長を止めてしまうかもしれない。育成年代の選手にとって重要なのは、高度な筋トレでも特別なメニューでもない。「食事」「睡眠」「正しい知識」「基礎となる体づくり」――あまりに当たり前で、しかし見落とされがちな要素だ。複数のJクラブで指導経験をもつ大塚慶輔は言う。「正しいことほど、広まらない」。情報が溢れる時代に、子どもの可能性をどう守るのか。親と指導者が知っておくべき、育成の本質とは何か。

(インタビュー・文=大島和人、写真提供=大塚慶輔)

「太った?」はNG。大人の一言が成長を止める

サッカーのようなコンタクトスポーツの選手ならば「筋肉をつける」「身体を大きくする」ことは間違いなく大切だ。しかし食事や睡眠が不十分だったら、どれほどいいトレーニングをしても効果は出ない。要は効率的に筋肉が身につかない。また過負荷によりケガをしてしまったら、やはりトレーニングの効果が失われる。正しい知識をもとに、正しい方法で行わなければ、トレーニングは害にもなり得る。

今回REAL SPORTSのインタビューに応じた大塚慶輔は、現在U-19日本代表のフィジカルコーチを務めている。育成年代は男女双方を指導した経験を持ち、また「パーソナルトレーニング」「一般向け」など幅広い活動を行っている。

サッカーをプレーするのは大人だけではない。性別、成長段階に応じて、注意するべきポイントは変わる。小学生、中学生年代の選手はまだ知識や環境が不足している場合が多く、本人や指導者だけでなく、家族も含めた取り組みが必要になる。今回は育成年代、成長段階の選手にとって大切なフィジカル、コンタクトスキルのトレーニングについて、彼に語ってもらっている。

大塚は「育成年代の女子」について、まずこう強調する。

「男子は中学生くらいからが特に身長の伸びる時期ですが、女子は小学生のうちに伸びる選手が多いです。そして初潮、初経からの2年くらいは脂肪がつきやすくなります。何を食べても何をしても、脂肪がつくのは生理学上当然です。そのとき『ちょっと太ったか?』なんて言われてしまうと、ご飯を食べなくなったりして、パフォーマンスも下がります。食べなければ身長が伸びず、骨密度も低くなってしまいます。身長が伸びる時期に体脂肪が増えることを受け入れて、しっかりと食べて寝る環境を作ることが必要です」

これは大塚が、このような記事を通して広く一般に伝えたいポイントの一つだった。

「4種(小学生年代)の女子選手は大体が男子に混ざっています。4種のパパさんコーチには、そういう情報を知らない方が多くいます。誰がその子どもの成長を守るのかとなると、やはり親でしょう。食べるものと食べる時間、タイミングを正しく伝えて、お菓子でなく必要なものを食べなさい……と話ができればいいですね」

「正しいことほど広まらない」情報過多時代の落とし穴

身体が大きくなる成長期は、特に食事と睡眠が大切だ。鈴木彩艶が浦和レッズのアカデミーに在籍していた当時、彼のみ「週休3日」にして身体の成長に配慮したエピソードをご存知の方も多いだろう。大塚はこう補足する。

「そこは個別性で、身長が伸びる時期にしっかり休ませることは大事です。親はもちろんですし、指導者も『寝られるスケジュールを立ててあげる』べきです。普段のスケジュールだけでなく、特に夏休みや冬休みなど、まとまった休みに寝られるスケジュールを立ててあげることが重要という話は、私も講習会などでしています」

食事の「食べ方」も大切だ。

「平日にどうしても19時〜21時で練習しなければいけない状態なら、練習直後の21時過ぎにはできるだけしっかり(補食として持たせたり、クラブが用意した)ご飯を食べる、最低でも炭水化物、タンパク質を摂るべきです。そして家に帰ったら足りていない他の栄養素を補完してあげましょう。分けてご飯を食べる『分食』で胃に負担が掛からないようにすれば、睡眠の質も上がります。寝る直前ならカルシウム、タンパク質を摂取できたらいいと思います。具体的には牛乳、ヨーグルトなどで、寝ている間に筋肉、身体が大きくなるための材料として使われます」

この20年、30年で親と指導者の「リテラシー」は確実に上がった。Jリーグのアカデミーからも身長190センチ近辺の万能型アスリートが次々に誕生している。そこは身体的な成長も含めて、彼らが持っていた可能性を余さず引き出したからだ。

「今はフィジカルコーチと言われる、コンディションを担当する指導者が育成年代の現場にもいます。トレーナーの方がそれを担う場合もありますが、そうやって正しい情報が広まっているのかなとは感じています。あとクラブの認識も上がって、食事や寮の環境を整備するとか、食堂がなくても補食を用意してあげるとか、そのようなアクションが広がってきている肌感覚もあります。選手の伸びる可能性を潰す、可能性を下げることはなくなってきていると思います」

一方で情報が溢れ、取捨選択が求められる時代でもある。

「保護者に伝えるだけで、今の子どもたちはトライしてくれます。なので、正しい情報をきちんと伝えていくことは重要です。誰かが成功した、有名な選手がやっているからと、YouTubeも含めてさまざまな情報が飛び交います。基本的にどの理論も選手のパフォーマンスが上がればいいのですが、エビデンスがないものを僕は薦めません。そこにちゃんと理論があるのか、論文ベースできちんと検証されているかはチェックします。正しいものは得てして、当たり前すぎてなかなか広まらないのですが……」

子どもに「ベンチプレスをやるための基礎」が身についてる?

身体が未完成な少年、少女にどのレベルの負荷でトレーニングするかは、可能性を潰さず、引き出すために大切なポイントだ。

成長には個人差があり、高校生になっても骨端線(成長期の子どもにだけ存在する、骨を伸ばすための軟骨の層)が残っている場合もある。一般的に「身体ができていない」時期は器具を使うトレーニング、本格的なトレーニングを避けるべきだと言われている。

「骨端線が開いている最中は(身長の)伸びる可能性があるので、過負荷を避けたほうがいいというのは、僕もアグリーです。だけど、筋トレをまったくしなくていいかといえば違います。例えば自体重の腕立て伏せ、自体重のスクワット動作、片足のスクワットはやっていいはずです。『筋肉を動かすことすべてがダメ』みたいな雰囲気になりつつあるけど、僕は『そうではない』という立場です。それに男子なら通常は中3くらいからほぼ骨端線も閉じて、もうトレーニングができるはずです」

本格的なトレーニングを始める上で大切なのはそこに向けた準備、仕込みだ。

「子どもにベンチプレスをやるための基礎筋力がついているか? と言えばついていないわけです。体幹、軸をしっかり作れていなければ、スクワットも当然できません。サッカーだけしかやっていないから、下半身がちょっと硬かったり、背中が硬かったり、あと『他のケガを併発していて、とても筋トレができる状態ではない』なんて子もいます。そういう状態でも中1から正しい身体の使い方、動きをして、中3で筋トレは大体もうできる状態にしておく必要があります。前振り、仕込みが足りていないことは日本の問題です。あとはもう、圧倒的に障害予防が足りていません」

防げたはずのケガは“人災”である。準備不足が招く必然

障害予防も意識づけと最低限の知識が必要になる。

「まずトレーニング前に、自分の身体をうまく使えるための準備をすることが大切です。中学生や高校生に対して、プロのように1時間前から準備しろとは言いません。でもいきなり来てグラウンドでロングボールを蹴り出すのでなく、5分でも10分でも準備をして、終わってからそこでしっかりストレッチする。帰宅後は湯船に浸かって身体をほぐして、ちゃんとリセットする習慣はつけるべきです」

そこは選手を教える、情報を伝えるコーチの責任が大きい。

「ストレッチ、ケアの重要性を伝えるためには、『こういうトレーニングをしなさい』と具体的に伝えられる知識を持つ必要があります。『ストレッチやっとけよ』と言って終わるのはダメで、その時期にやらなければいけない3つ、4つをちゃんと伝えることが必要です。それを伝えていない状態でケガするのはもう人災でしょう。今は小学生でも人工芝のような、硬いサーフェスでスパイクを履いてトレーニングしています。そうすると足首、ふくらはぎに負担がかかり筋肉が硬くなってしまいます。だからそこは意識してケアをするべきです。オスグットシュラッター病、中足骨骨折、シンスプリント、腰椎分離症は長く休む必要のあるケガですが、本来は未然に防げる可能性があるのです」

「やられないことが一番ダメ」な理由

しっかり栄養と睡眠を取り、ケガを避けて、身体を大きくする。そして身体をしっかり動かせるようになったら、その先にはスキルがある。コンタクトプレーならば相手への寄せ方、減速の仕方といった「巧緻性」が大切になる。そのために必要な知識も、大塚が意識してトレーニングで若い選手に伝えているポイントだ。

「例えばスキーもそうですが、減速の仕方を教えないと、正しくアプローチできません。そうしないと、1対1でやったときになぜミスしたかもわからないでしょう。アプローチの距離が遠かったのか、近かったけど減速できずに対応が遅れたのか。自分が狙っていた方向に誘導できたけどスピードが遅かったのか、誘導しようと思ったけど逆を取られたのか。そうやって、どうやられたのかを理解しないとフィードバックもできません。だから、子どもたちに教えるときはそこをきちんと説明します」

コンタクトもボールコントロールも、スキルは指導したらすぐに完全に習得できるものではない。だからこそ、大塚は失敗の大切さを強調する。

「何でもできる距離、例えば相手と2メートルの位置で止まって減速して対峙すればミスは起こりません。でも、相手にしたらあまりプレッシャーになっていないでしょう。1メートル、もしくは1メートル半まで近づいていく。その距離を短くするために、このステップワークをすれば、こうアプローチしたら行けるはずだと伝えて、武器を持たせてトライさせます。そこでやられてしまったら、なぜやられたのかを伝える。やられた回数が増えれば、それがスキルとしてできるようになっていきます。『やられないことが一番ダメ』という話は、選手に伝えています」

【連載前編】Jクラブのトレーニング施設は“貧弱”なのか? 専門家が語る日本サッカー「フィジカル論」の本質

<了>

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