2度の離脱…エース菅野智之が示す存在感 巨人軍投手陣にかかる“お膳立て”の期待
新型コロナウイルスの影響で、日程が不安定ではあるが、プロ野球は交流戦が開幕した。そこで今回は、『巨人軍解体新書』の著者で、プロ野球選手を始め巨人ファン中心に数多くの野球ファンから支持されているゴジキ氏(@godziki_55)に、巨人軍のエース・菅野智之の離脱に関する影響について分析してもらった。
(文=ゴジキ、写真=Getty Images)
昨シーズンMVPのエースがまさかの2度目の離脱
昨シーズン、MVPを受賞した菅野智之がまさかの2度目の離脱をした。
これまでの貢献度は計り知れないものではあるが、菅野が複数回離脱したということは、非常に大きな負担がかかっていたのではないだろうか。
今シーズンは開幕直後の3月30日に足の違和感で1度目の離脱をして、5月8日には右肘の違和感で離脱した。キャリア序盤は離脱が何度もあったが、複数回の離脱は2019年以来だ。
また、肘のケガによる離脱は2014年のシーズン終盤にあったが、その時の影響もあり、2015年のシーズンでは、球威が下がっていた。そのため、今回の離脱からの復帰後に球威や球速の低下が懸念点でもある。
ただ、菅野の存在感は多大なるものであり、唯一無二でもある。特に若手から中堅までの世代の投手陣から見ると、実績以上に「生きる教科書」としても、非常に大きな意味を持つ選手であることは間違いない。
だからこそ、菅野の復帰は急務であり必要不可欠だ。いち早くマウンドで投げる姿を一ファンとして早く見たい。
長年のキャリアでイニングイーターであり勝ち頭
菅野のキャリアを通して見ても、腰の故障をした2019年シーズン以外は、ルーキーイヤーから規定投球回数をしっかり投げていた。また、ブルペン陣が登板過多の時期には完投するなどといった、イニング数だけでは見られないエースとしての理想的な姿も見られた。
さらに、援護がなかなか無かった2016年以外は、二桁勝利を記録している。特に、2019年のシーズンは3度の離脱がありながらも二桁勝利を挙げており、11勝6敗と、貯金も5つつくる働きを見せた。
奮起を賭けた2020年のシーズンでは、プロ野球新記録となる開幕投手として13連勝を記録した。この年は、自身最高となる勝率.875を記録するなど完全復活を果たした。
不調や故障が原因の離脱がある中でも、何かしらのものを残すことができるのは菅野だからに違いない。だからこそ、今シーズンの2度目の離脱は非常に痛手である。
ここまでも、離脱がありながらも防御率は1.93を記録しており、完投数も2つを記録している。4月は髙橋優貴や今村信貴といったあたりが好調を維持していたが、先発陣の軸である菅野がいたからこその結果でもあるだろう。
2010年代の巨人軍の先発陣を引っ張っていったのは、内海哲也ではなく菅野といってもいいだろう。ルーキーイヤーからポストシーズンで前田健太や、田中将大から勝利するなど並外れた実力を見せていた。ここ一番の勝負強さや、他球団のエースとの対決時のパフォーマンスは非常に高いものが見られた。
エースとしての責務と存在感
菅野の投球やコメントはもちろんのこと、行動を見ても巨人軍のエースとしての責務は常に感じられる。
2020年から2021年にかけたシーズンオフにメジャー移籍がささやかれたが、巨人軍に残留を決めた。
プレースタイルを見ても、自身がコメントするほど「完璧主義」な投球スタイルでもある。これは、良い点でもあるがマイナスになることもある。だからこそ、多少の妥協も必要であり、オーソドックスな部分も問われてくる。
ただ、これだけ完璧主義なピッチングに拘りを見せるのは「エースとしての責任感」が誰よりも強いからではないだろうか。2019年の不振から復活を遂げだが、昨シーズンの開幕前はこれまでのシーズンと比較しても、シーズンに賭けるものが大きかったのは間違いない。
さらに、存在感に関しても、偉大なるものはある。これまでのキャリアにおいて、2度の沢村賞とMVPは現役選手では菅野だけであり、巨人軍だけではなく、球界を見ても宝のような存在だろう。
巨人軍に入る経緯に関しても、拘りがあったからこそ、1年の浪人をした上で入団した。その後のバッシングなどをものともせずに実力で黙らせたことは、巨人軍のエースにふさわしいメンタリティの持ち主ということが証明された。
こういった経緯だからこそ、結果や実績で黙らせなければいけないプレッシャーがあった中で、これまでの功績は成績以上に評価されるべきものだ。
巨人軍だけではなく、球界の多くの投手から模範とされる菅野が万全な状態で復活することが待ち遠しい。
現在の巨人先発陣に求められるもの
菅野が離脱した2019年は、山口俊が最多勝・最高勝率・最多奪三振の三冠を達成する活躍をしてカバーできた。今シーズンは、4月に髙橋・今村が穴を埋める形で活躍を見せたが、山口のようにシーズンを通した形は難易度が高いだろう。
だからこそ、現状の先発陣が個々で高いパフォーマンスを残せるかが重要だ。昨シーズン高卒2年目ながらも、先発ローテーションを担い、9勝を記録した戸郷翔征は、昨年の前半と比較すると、パフォーマンスが低下していると見ている。さらに、今年は投げているボールの威力が低下したにも関わらず、他球団からのマークも厳しくなっている。
ただ、そういう状況だからこそA.サンチェスや畠世周への期待は高まる。この両投手は昨シーズン、チームの調子が下降気味だった後半戦で、調子を上げていき優勝に貢献した。
今季、畠の5月の月間成績は勝ち星に恵まれなかったものの、防御率は1.42を記録した。さらに、サンチェスも5月に調子を上げていき、3勝0敗 防御率2.21を記録した。
ポテンシャルを考慮しても、昨シーズン終盤のように、この2枚の先発陣が高いパフォーマンスを残していければ菅野が復帰するまでの穴を埋められる可能性もあるだろう。
その他で挙げられるのは、現在調整中のC.C.メルセデスと、3年目の横川凱だ。
メルセデスに関しては、5回まで試合をつくれるゲームメイク力は高い投手だ。さらに、ペナントレース以外を考慮しても、メルセデスのポテンシャルを見るとポストシーズンも頼もしい存在になるのではないだろうか。さらに、起用法も出力が最大限生かせる中継ぎとしても活躍の場を設けられる馬力は間違いなくある投手である。このことを踏まえても、メルセデスの復帰は必要不可欠だ。
横川は、先日5月25日に1軍に昇格した若手期待の有望株だ。2軍では、5勝0敗 防御率2.01 を記録している。大阪桐蔭時代は、エースの柿木蓮や二刀流の根尾昂といった選手と3本柱を組んでいたが、登板機会を考えると、一番成長したといっても過言ではない。さらに、横川のストロングポイントといえば、牽制のうまさだ。プロ入り後を見ても、実戦の中で持ち前の牽制を生かして、ランナーを刺す場面は多々見られている。今シーズン初先発をした楽天戦の投球を見ても、敗戦投手にはなったものの、ポテンシャルを考えると先発ローテーション入りできる力はあると見ている。
この横川が、実戦で結果を残していくことによって、若手投手陣の底上げも図れるに違いない。
若手から中堅・外国人投手の先発陣が、「菅野さんが帰ってくるまで埋める」といったメンタリティを高ぶらせて、今まで投手陣の大黒柱として支えてきた菅野が帰ってくる頃にはお膳立てができる状態にしておきたい。
<了>
[プロ野球12球団格付けランキング]最も成功しているのはどの球団?
原巨人は最大の「緊急事態」をどう戦うのか? 3連覇へ導くための秘策となるカギは…
特別扱いされなかった「超エリート」菅野智之の少年時代。変わったもの、変わらないもの
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
沖縄、金沢、広島…魅力的なスタジアム・アリーナが続々完成。新展開に専門家も目を見張る「民間活力導入」とは?
2024.04.26Technology -
なぜ横浜F・マリノスは「10人でも強い」のか? ACL決勝進出を手繰り寄せた、豊富な経験値と一体感
2024.04.26Opinion -
ラグビー姫野和樹が味わう苦境「各々違う方向へ努力してもチームは機能しない」。リーグワン4強の共通点とは?
2024.04.26Opinion -
バレー・髙橋藍が挑む世界最高峰での偉業。日本代表指揮官も最大級評価する、トップレベルでの経験と急成長
2024.04.25Career -
子供の野球チーム選びに「正解」はあるのか? メジャーリーガーの少年時代に見る“最適の環境”とは
2024.04.24Opinion -
子育て中に始めてラグビー歴20年。「50代、60代も参加し続けられるように」グラスルーツの“エンジョイラグビー”とは?
2024.04.23Career -
シャビ・アロンソは降格圏クラブに何を植え付けたのか? 脆いチームを無敗優勝に導いた、レバークーゼン躍進の理由
2024.04.19Training -
堂安律、復調支えたシュトライヒ監督との物語と迎える終焉。「機能するかはわからなかったが、試してみようと思った」
2024.04.17Training -
8年ぶりのW杯予選に挑む“全く文脈の違う代表チーム”フットサル日本代表「Fリーグや下部組織の組織力を証明したい」
2024.04.17Opinion -
育成型クラブが求める選手の基準は? 将来性ある子供達を集め、プロに育て上げる大宮アカデミーの育成方法
2024.04.16Training -
ハンドボール、母、仕事。3足のわらじを履く高木エレナが伝えたい“続ける”ために大切なこと
2024.04.16Career -
14歳から本場ヨーロッパを転戦。女性初のフォーミュラカーレーサー、野田Jujuの急成長を支えた家族の絆
2024.04.15Education
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
なぜ横浜F・マリノスは「10人でも強い」のか? ACL決勝進出を手繰り寄せた、豊富な経験値と一体感
2024.04.26Opinion -
ラグビー姫野和樹が味わう苦境「各々違う方向へ努力してもチームは機能しない」。リーグワン4強の共通点とは?
2024.04.26Opinion -
子供の野球チーム選びに「正解」はあるのか? メジャーリーガーの少年時代に見る“最適の環境”とは
2024.04.24Opinion -
8年ぶりのW杯予選に挑む“全く文脈の違う代表チーム”フットサル日本代表「Fリーグや下部組織の組織力を証明したい」
2024.04.17Opinion -
J1でも首位堅守、躍進続ける町田。『ラスボス』が講じた黒田ゼルビアの倒し方とは?
2024.04.12Opinion -
指揮官“怒りのインタビュー”が呼んだ共感。「不条理な5連戦」でWEリーグ・新潟が示した執念と理念
2024.04.04Opinion -
世界卓球、女子団体で起きた2つの衝撃。中国一強を終わらせる台風の目「インド」と「張本美和」
2024.04.02Opinion -
なぜ球数制限だけが導入されたのか? 日本の野球育成年代に求められる2つの課題
2024.03.29Opinion -
「学校教育にとどまらない、無限の可能性を」スポーツ庁・室伏長官がオープンイノベーションを推進する理由
2024.03.25Business -
ドミニカ共和国の意外な野球の育成環境。多くのメジャーリーガーを輩出する背景と理由
2024.03.22Opinion -
今年こそ! 中日“強竜復活”に期待できるこれだけの理由。最下位脱出の生命線は投手力、懸念はやはり二遊間
2024.03.19Opinion -
能登半島の子どもたちが“おらが街のスタジアム”で見せた笑顔。サッカーの絆がつないだバスツアー「30年後も記憶に残る試合に」
2024.03.11Opinion