原巨人は最大の「緊急事態」をどう戦うのか? 3連覇へ導くための秘策となるカギは…
新型コロナウイルスの影響で観戦の制限が余儀なくされる中、日程が不安定ではあるが、プロ野球は開幕から大きな盛り上がりを見せている。そこで今回は、『巨人軍解体新書』(光文社新書)の著者でプロ野球選手を始め巨人ファンを中心に数多くの野球ファンから支持されているゴジキ氏(@godziki_55)に、プロ野球開幕から約1カ月が経った今、3連覇を狙う巨人について分析してもらった。
(文=ゴジキ、写真=Getty Images)
コロナ禍や攻守の要の離脱の中、原辰徳のマネジメント力に注目
監督の原辰徳は、自身3度目の3連覇を今シーズン狙う。その中でも際立つ状況は、昨シーズンと同様にコロナ禍による不安定な日程だ。
監督としての経験値は、ずば抜けている。なぜなら、百戦錬磨で勝ち慣れていることやペナントの戦い方を熟知していることから、他球団の監督から見たら驚異に違いない。これまでの優勝の仕方も、巨大戦力を生かした勝ち方から、貧打のチームにトップクラスのディフェンス力を植え付けた勝ち方まである。
とはいえ、長年巨人軍の投打の要である菅野智之と坂本勇人がケガで離脱していることは、監督としてのキャリアで最大の窮地かもしれない。その中でも、これまで培ってきた経験値からの対応力やマネジメント力で阪神を猛追できるか注目だ。
若手選手と新戦力の起用法のカギは“バランス”
特異な状況の中でも、巨人は「育成しながら勝つ」ことにおいても健在ぶりを見せている。他球団からトレードで加入した香月一也と廣岡大志は、打線の起爆剤となったのは間違いない。
4月上旬にチームのコアである丸佳浩が新型コロナウイルスに感染した影響で、一時的に打力は下降をたどった。その中で、一軍で躍動を見せたのが香月と廣岡だ。香月は4月の大一番となった22日の阪神戦で、初のお立ち台に上がる活躍を見せた。廣岡も、移籍後初安打を決勝打で飾った。さらに、移籍後の初ホームランも決勝打となり、「ロマン砲」としての実力を見せた。
その他の選手に注目すると、松原聖弥のトップバッターとしての活躍だ。開幕時点では、丸を始めとした新戦力の梶谷隆幸や、ゼラス・ウィーラーといった層の厚い外野陣の中に埋もれていたが、丸などの離脱期間に香月や廣岡と同様に、チームを引っ張る存在にのしあがった。
しかしそんな中でも、阪神に対戦カードで勝ち越した勢いが止まる時期も見られた。それは、香月と廣岡が二軍に降格し、松原のスタメン起用が減少した時だ。実績組が復帰した時も、調子がいい若手を起用することによって勢いを止めることなく生かしていくことも、今後のカギを握るだろう。
さらに、メジャー通算196本塁打を記録しているジャスティン・スモークは、昨年の巨人打線の課題でもあった火力不足と、打線に長打力の強化などで厚みを増すことの肥大化を改善すべき選手として、期待できる活躍を見せている。
各選手のストロングポイントや、若手特有の勢いを生かした起用法が、首位浮上へのステップになっていくはずだ。
チームリーダー坂本勇人の離脱…野手陣の層の厚さでカバーできるか
チームリーダーの坂本勇人がケガのため離脱した巨人軍は、まさに緊急事態といっても過言ではない。ただ、今シーズンの巨人軍は、野手陣の層が非常に厚い。
昨シーズンの欠点であった、坂本勇人・丸佳浩・岡本和真のコア3選手に頼りすぎたがゆえに、3選手の調子とチームの調子が連動してしまう点を解消できるかが注目である。特に、昨シーズン本塁打王と打点王の二冠に輝いた、4番の岡本がキャンプから不調である。その中で、チームリーダーの坂本を中心に、ウィーラーや梶谷といった加入組や、若手の廣岡・香月・松原が出てきた時のバランスは非常によかった。
ただ、巨人軍の場合、伝統や文化が足かせになることもある。スタメンに関しては、移籍組やトレード組は序列で下になることがあり、不びんな起用法も目立つ。現状であれば、亀井義行が優遇されている中で、なかなか結果が出ていない状況だ。また、エスタミー・ウレーニャが一軍に昇格し、香月や廣岡は上がれない状況もあった。その時の実力や調子を見極めた上で起用していくことにより、層の厚さを充分に生かしていけるだろう。
現在は、長年巨人軍を支えてきた坂本がケガで離脱している状況だ。この状況でも戦える野手陣はそろっているため、廣岡の思いっきりのよさや、吉川尚輝の奮起などに期待していきたい。
手痛いエース菅野智之の離脱
野手陣の層の厚さは充分だが、今シーズンは投手陣が苦しい状況だ。エース・菅野智之が右肘の違和感のため、5月段階で早くも今シーズン2度目の離脱になった。そのため、現状は先発の軸が不在の状況である。4月も菅野が不在の期間はあったが、高橋優貴や今村信貴がその穴を埋めるかのような活躍を見せた。
しかし、この両左腕の実力だけでは、シーズン通して、菅野の穴を埋めていくことは非常に困難である。近年で菅野が不調や離脱したシーズンは2019年。このシーズンは山口俊が投手三冠に輝く活躍を見せて、菅野の穴をしっかりと埋めてリーグ優勝に導いた。このシーズンの山口のように、イニングイーターで計算できた上で菅野の穴を埋められる投手は現状いない状況だ。
一人の投手に責務を負わせるのではなく、4月の高橋と今村のように、複数人で埋めていくことが最適であるのは間違いない。そこで、もう一つのピースとしては、C.C.メルセデスの復帰が不可欠だ。2019年と2020年は、先発ローテーションを担っていた。高橋や今村と同様に、5回から6回まで試合をつくれる、ゲームメイク能力が優れており、期待できる投手である。
また、3年目の横川凱も二軍で好投を継続している。昨シーズンの終盤には一軍デビューを果たした。こういった若手選手に一軍の機会を与えた上で戦力の底上げをしていくことも、必要に違いない。
投手運用の課題と昨シーズン制した秘策
昨シーズンは選手の実力でカバーしきれていた、ブルペン陣の運用が今年も不安定だ。ここ数年ブルペン陣を支えてきた中川皓太は、不安定な投球である。この要因としては、便利屋のような起用法が一番に挙げられる。中川に限らずだが、昨シーズンと同様に勝ちパターンなどを確立せずにこのような起用法を続けていくことにより、不可解な失点が増えている。
また、回跨ぎも平気で行っている現状を見ると整備は必須だ。その中でも、結果を残している高梨雄平の起用法も便利屋ではなく、優勝へのキーパーソンとして適材適所で起用していきたいところだ。
それに関連すると、投手陣を支えるディフェンス力の強化も必要になってくる。今年の巨人軍の終盤の失点は、ブルペン陣の運用面の問題もあるが、捕手・小林誠司不在も大きい。昨シーズンもケガによる離脱で長期間の不在があった中で、リーグ優勝を果たせたが、小林の穴は埋めきれていなかった。今シーズンは、その穴が試合終盤で顕著に見られている。
さらに、捕手事情は大城卓三のみに負担がかかっており、2019年のような併用が必要だろう。大城がカバーリングできない部分を強みにしている小林を直ちに一軍にあげた上で、投手陣を牽引していくことが求められる。
センターラインのディフェンス陣にひもづけると、吉川尚輝の復活も必要である。昨シーズンは、球団の二塁手としては2014年の片岡治大以来の規定打席に到達した。坂本との二遊間の守備は鉄壁だったこともあり、投手陣を随所で助けていた。攻守において優勝に貢献した吉川だが、今シーズンは開幕から打撃の調子が上がらず、廣岡や若林晃弘といった選手にスタメンを奪われている。優勝実現に必要な選手であることは間違いない。
昨シーズン、リーグ制覇を果たした要因である「ディフェンス力」と「ブルペン陣」の復活も、今後のシーズンにおけるキーポイントである。
<了>
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