日本代表の決勝トーナメント進出は、非現実的ではない。W杯優勝経験国のGL突破率「33.3%に激減」の怪
熱戦の続くFIFAワールドカップはついに今夜、日本代表の初戦を迎える。強豪ひしめくグループに組み込まれた日本代表に、果たして決勝トーナメント進出の芽はあるのだろうか? ここで一つ、気になるデータがある。ワールドカップ優勝経験国が1チームだけグループに入った場合、グループステージ突破率は実に90.3%を誇る。だが2チーム以上がグループに同居した場合、その数字は33.3%にまで落ち込み、2チームが共にグループステージを突破したことはない。ドイツ、スペインといった優勝経験国2チームと同組に入った日本代表にとって、このデータは追い風となるだろう。過去の事例をひも解くことで、日本代表が決勝トーナメントに進出するシミュレーションをしてみたい。
(文=藤江直人)
優勝経験国2チーム以上が同居したのは過去4度。なぜいずれも成績が極端に悪化したのか…
カタール大会で22回目を迎えるFIFAワールドカップ(W杯)で、優勝を経験しているのは8チームしかない。最多5度を誇るブラジルを筆頭に、4度のイタリアとドイツ、2度のウルグアイ、アルゼンチン、フランス、そして1度のイングランドとスペインが続いている。
優勝経験国がグループステージで顔を合わせたケースは、出場国数が32チーム体制になった1998年フランス大会以降の過去6大会で4度。カタール大会で日本代表が入ったグループEで、ドイツとスペインが同組になったのが5度目となる。
過去4度の結果はどうだったのか。2002年日韓大会のグループAはウルグアイが3位、フランスが4位でそろってグループステージ敗退。同大会のグループFではイングランドが2位で突破したものの、アルゼンチンが3位でグループステージ敗退を喫している。
ウルグアイが1位突破した2010年南アフリカ大会のグループAはフランスが4位で敗退。ウルグアイ、イタリア、イングランドが顔をそろえた2014年ブラジル大会では、伏兵コスタリカが1位で突破。ウルグアイが続いて、イタリアとイングランドはグループステージで姿を消した。
要は延べ9チームのうち、グループステージを突破したのはわずか3チームしかない。突破率は33.3%に甘んじている。逆に、単独でグループステージを戦った場合は一気に90.3%へとはね上がる。延べ31チームの中でグループステージ敗退を喫したのは、2010年南アフリカ大会のイタリア、2014年ブラジル大会のスペイン、そして前回2018年ロシア大会のドイツだけとなっている。
33.3%に対して90.3%と、あまりにもかけ離れた数字がはじき出されたのはなぜなのか。何よりも優勝経験チームが同居したケースで、成績が極端に悪化するのはなぜなのか。それぞれのグループステージにおける戦いや敗因を具体的に振り返りながら、共通項の有無を調べていきたい。
2002年日韓大会、前回王者フランスの衝撃的な未勝利・無得点での敗退
2002年日韓大会のグループAはデンマークが1位、セネガルが2位で突破している。このグループの最大のサプライズは、ディフェンディング王者・フランスの最下位での敗退だった。
2年前のUEFA EURO 2000も制していたフランスは、大会の優勝候補筆頭に挙げられていた。しかし、開幕直前に行われた韓国代表との国際親善試合で、大黒柱のジネディーヌ・ジダンが左太ももに肉離れを起こし、さらに相手選手のタックルで左膝も痛めてしまった。
迎えた5月31日の開幕戦。セネガルと対峙(たいじ)したソウルワールドカップ競技場のピッチに、ジダンの姿はなかった。絶対的な存在を欠いたフランスは、30分の失点を取り返せないまま0対1で敗れた。
実はセネガルとの対戦が決まってから、チーム内には緩んだ雰囲気が漂っていた。日韓大会で初出場を果たしたセネガル戦へ向けて、フランス国内では楽観論が支配していた。ジダンを欠いても危機感は高まらない。前日にソウルワールドカップ競技場で予定されていた公式練習にフランスが姿を現さなかったのも、問題なしと相手を見下していたからだと指摘された。
対照的にセネガルには世紀の番狂わせを介して、世界へ母国の名前をとどろかせようというモチベーションに満ちあふれていた。中盤での激しいボール奪取から電光石火のカウンターを仕掛ける。千金の決勝ゴールは、開幕戦に照準を合わせて磨き上げてきた絶対的な武器だった。
出鼻をくじかれたフランスは、ウルグアイとの第2戦をスコアレスドロー。この試合も欠場したジダンは、患部を包帯で何重にも覆った痛々しい姿でデンマークとの最終戦に強行出場した。しかし、本来のスーパープレーには程遠く、チームも0対2で完敗を喫した。
結局、グループステージの3試合で白星どころか、ゴールさえも奪えずにフランスは大会を去った。短期間での修正がいかに難しい作業なのか。もっとさかのぼれば、代えのきかない中心選手の負傷離脱と、それでもチーム内に巣食い続けた油断や慢心の類いが王者を転落させた。
3位で敗退したウルグアイは、日韓大会が3大会ぶりのW杯出場だった。優勝経験国といっても1930年に自国で開催された第1回大会と1950年のブラジル大会で、1970年以降は南米予選敗退が多くなった。古豪と呼ばれて久しい存在だっただけに、ある意味で必然の敗退でもあった。

2010年南ア大会、内紛から空中分解したフランスがふがいなく最下位で敗退
ウルグアイとフランスは2010年の南アフリカ大会でもグループAで同居した。
当時のウルグアイはルイス・スアレスやエディンソン・カバーニ、ディエゴ・フォルランら攻撃陣にタレントが集結。最終的に40年ぶりのベスト4へ進出するなど、復活への序曲を奏でつつあった。
対照的に2006年ドイツ大会で準優勝したフランスは、戦う集団ではなくなっていた。レイモン・ドメネク監督への求心力が著しく低下していた中で、一部選手の淫行疑惑や悪化する一方のチーム内の人間関係、それに導かれる一体感の無さが同国メディアから再三指摘されていた。
ウルグアイとのグループステージ初戦を0対0で引き分けると、メキシコとの第2戦では0対2で完敗。しかも、ハーフタイムにはドメネク監督へ不満を募らせていたニコラ・アネルカが暴言を吐いたとして代表追放とフランスへの強制帰国を命じられた。
直後から他の選手たちがアネルカに対する処分に反発。南アフリカとの最終戦へ向けた練習をボイコットする前代未聞の事件が発生した。内紛から空中分解したチームでは、もちろん試合は戦えない。最終戦は南アフリカに2点を先行され、一矢を報いるのが精いっぱいの完敗だった。

2002年日韓大会、因縁の深いイングランドとアルゼンチンが同居したグループで…
2002年日韓大会に話を戻せば、グループFはイングランドとアルゼンチンが対峙した第2戦がすべてだったといっていい。1998年フランス大会のラウンド16、デビッド・ベッカムの一発退場でリズムを失ったイングランドは、PK戦の末にアルゼンチンに屈していた。
ベッカムの退場をめぐって、レッドカードをアピールしたディエゴ・シメオネとの論争が起こった。さかのぼれば1986年メキシコ大会準々決勝では、ディエゴ・マラドーナによる「神の手」ゴールがあり、1982年にはイギリス、アルゼンチン両国の間でフォークランド紛争が勃発していた。
さまざまな因縁に加えて、イングランドは1980年を最後にアルゼンチンに勝てていなかった。組み合わせが決まった瞬間から両チームが火花を散らし、札幌ドームを舞台にした一戦は前半終了間際に獲得したPKをベッカムが決めてイングランドに軍配が上がった。
照準を合わせていた分だけ、試合結果が第3戦に与えた影響も大きかった。引き分けでもOKという状況をつくったイングランドは、注文通りにナイジェリアとスコアレスドロー。対照的に勝つしかなかったアルゼンチンは、首位で突破したスウェーデンと引き分けるのが精いっぱいだった。

2014年ブラジル大会、コスタリカが優勝経験国3チーム同居のグループを1位突破
ウルグアイ、イタリア、イングランドと優勝経験チームが3つも同居した2014年ブラジル大会のグループDは、コスタリカが勝点の草刈場となると他の3チームに完全に見下されていた。
ブラジル大会へ向けた観戦ガイドブックの編集に携わった経験がある。グループDに関して、イタリアとイングランド出身のタレントによる対談を企画。コスタリカだけでなく長く優勝していないウルグアイも問題外と位置づけ、イタリアとイングランドの優劣を競う話に終始した。
二人のタレントの言葉には、両国内の世論が色濃く反映されていた。世論の「楽観」はチームの「油断」と同義語となる。果たして、初戦でコスタリカに1対3と逆転負けを喫したウルグアイには、チームを立て直すだけの時間と、スアレスやカバーニ、フォルランらのタレントを擁していた。
対照的に第2戦でコスタリカに屈したイタリアは、最終戦でもウルグアイに苦杯をなめた。初戦でイタリアに敗れていたイングランドは、第2戦でもスアレスの2ゴールでウルグアイに敗れ、この時点でグループステージ敗退が決まった。
イタリアは現時点で、ウルグアイ戦がW杯における最後の試合となっている。最下位での敗退を深刻に受け止めたイングランドは、アンダーカテゴリーからプレースタイルを体系化させて今現在につながる、イングランドサッカー協会(FA)主導の大改革を加速させていった。
ドイツ・コスタリカ・スペインと同組の日本代表がヒントにするべきは…
ここまで2つ以上の優勝経験チームが同居したグループステージの詳細をたどってきたのも、ドイツ、スペインと戦う日本がカタール大会のグループEを突破する上でのヒントを求めたからだ。
2002年日韓大会のフランスのように、チームの大黒柱を欠いて開幕を迎える非常事態は両国ともに無縁だ。ドイツは2018年ロシア大会にも出場したティモ・ヴェルナー(ライプツィヒ)が左足首の靭帯損傷で選外となったが、ワントップ争いで絶対的な存在ではなかった。2010年南アフリカ大会で全世界へ醜態をさらしたフランスのような内紛も両国からは伝わってこない。
第2戦で優勝経験チーム同士が対戦する試合の順番を加味すれば、カタール大会のグループEを取り巻く状況は、2002年大会のグループFに酷似しているといっていい。
イングランドがアルゼンチンを下した一方で、グループFの伏兵として位置づけられていたスウェーデンが、結果として草刈場的な存在となったナイジェリアからしっかりと勝点3を獲得。イングランドと引き分けた初戦と合わせてこの時点でトップに立ち、アルゼンチンとの最終戦で負けなければグループステージを突破する、という状況をつくり出した。
イングランドをドイツに、アルゼンチンをスペインに、ナイジェリアをコスタリカに、そしてスウェーデンを日本に置き換えてみる。スウェーデンはイングランドとの初戦でしっかりと勝点1を稼いでいた。まったく同じ図式がドイツと対峙する日本にも求められる。
前回ロシア大会のグループステージ初戦でドイツはメキシコに苦杯をなめ、立て直せないまま韓国との最終戦も落として最下位で大会を去った。同じ轍は踏まないとばかりに、エンジンを全開にして臨んでくるはずの初戦で勝点3を手にできなければリズムが乱れる。引き分けでも構わない、という戦い方を選択肢の一つに据えているであろう第2戦のスペイン戦のプランも変わってくる。
そして、ドイツとスペインが対峙する前に行われるコスタリカ戦で、日本が確実に勝点3を獲得すれば追い風が吹き始める。絶対にスペインに勝たなければいけない、という構図で最終戦を迎えたくない日本にとって、引き分けでも可能性を手繰り寄せられる状況が生まれる。
ブンデスリーガでプレーする遠藤航は、ドイツ戦をどう見ているか?
こうした流れを可能にする上でも、ドイツとの初戦の重要度がさらに増してくる。2002年大会のフランスや2014年大会のイタリアとイングランドのような、「楽観」もしくは「油断」はドイツにあるのだろうか。ブンデスリーガ(ドイツ)でプレーする日本代表の遠藤航(シュトゥットガルト)は、カタール時間15日の練習後に応じた取材の中で、ドイツ戦に対して次のように言及している。
「ドイツもまったく知らない相手というよりも、日本には顔見知りがいるというか、ブンデスリーガでプレーしている選手たちが多いことは分かっているので、自分たちを見下すようなサッカーはしてこないと思っている。本気のドイツと対戦するという意味で、難しい試合になるのは分かっているけど、そこへトライして勝ちに持っていこう、というのを求めて自分たちはここに来ている」
もちろんスウェーデンと日本はまったく異なるし、2014年大会ではベスト8に進出しているコスタリカが、20年前のナイジェリアのように勝点の草刈場になるとも限らない。それでも第2戦で優勝経験のある強豪同士が対戦する中で、初戦に占める重要度は必然的に増してくる。
日本が出場した過去6大会を振り返れば、初戦で勝点を獲得した2002年、2010年、そして前回大会2018年はすべてグループステージを突破している。対照的に敗れて勝点0でスタートした1998年、2006年、2014年大会はいずれも巻き返せずにグループステージで姿を消している。
コスタリカとの第2戦目までに、最低でも勝点4を獲得する。グループステージを突破する上で、これほど分かりやすい構図もない。残された時間の中ですでに描かれているはずの「ドイツ戦で勝点を獲得するための青写真」を細部まで煮詰めていく作業が必須になってくる。
<了>
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