いつまで日本は炎天下での激しいアップを続けるのか? バルサもこだわる体温調節の重要性

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2019.07.16

昨今は猛暑が続き、“夏”のスポーツ活動については本格的に議論を交わす時期にきている。
例えば、昨年は新潟県加茂市が5つの市立中学校で「夏休みなど長期休暇中の部活動を原則休止」にしたり、今年は東京都少年サッカー連盟が「夏季休暇の間の公式戦は基本的に行わない。
この期間に試合を実施する場合は猛暑対策をとり、日本サッカー協会(JFA)の熱中症対策ガイドラインに沿って行うこと」と発表をしたり、各地でさまざまな措置がとられている。
そこで、日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防」に関する研究班の一員である安松幹展氏に熱中症対策としての体の冷やし方、また体温調節とパフォーマンスとの関係について、いろいろと話を聞いた。

(インタビュー・構成=木之下潤、写真=Getty Images)
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夏の熱中症対策としては、まず体を冷やすこと

これから夏本番に向け、どんどん暑くなります。そういう環境下でスポーツをするには、体温調節が大切なことです。そのためには、きちんとした水分補給が非常に重要です。例えば、水温は冷たいほうがよかったりするのでしょうか?

安松 水の温度は5~10度がいいとされています。外は暑いですから冷たいほうが飲みやすいですよね。そして、量が大事です。汗で失った分の水分量を補うことがとても大切。ただ、小学生の場合は飲みすぎの心配があると思いますが、そこは練習と休憩との時間調整によってアプローチできるところです。
やはり休憩時間が長ければ、子どもはついつい多く水分を摂ってしまいますから。
でも、かといって休憩時間が短すぎると体温が下がらないので、私は、例えば15分トレーニング、5分休憩、15分トレーニング、5分休憩というように時間をコントロールすることが重要だと考えています。
水をガブ飲みしすぎても、胃から腸に送られる量は15分で250mlと言われていますから、すぐに体内に吸収されるわけではないんです。
だから、水分補給の目安は1時間あたり400~800mlくらいが適量です。もちろん個人差があるので、運動前後に体重を測って2%以内に抑えるのが重要です。

冷たい水を15分に1回、体内に入れるのは“冷やす”という意味でも大事なことですね。

安松 もちろん水は冷たいほうが体は冷えます。でも、10度の水を飲んでも、体温が38度くらいなら胃の中ですぐに温まってしまいます。だから、最近では“アイススラリー”が推奨されています。
アイススラリーとは、小さい氷の粒のことです。例えば、鮮魚店で魚の鮮度を保つために、たくさんのザラメ氷を使って魚を覆っています。要領としては、それと同じです。
そのように小さい氷を体内に入れ、素早く体温を下げる工夫も出てきたりしています。でも、胃腸が弱く冷たい飲料で腹痛や不快感を持つ選手もいるので、そういう子は注意が必要です。

体を冷やす方法も進化していて驚きました。

安松 例えば、箱根駅伝のランナーがひじまでの長い手袋で腕を覆って走っていることを見たことはありませんか? あれは腕が熱交換が多く行われる場所だからです。運動生理学的な説明をすると、末端に近い腕の部分が動脈から静脈に移り変わる場所になっているから、そこは熱が逃げやすいところでもあるわけです。
体の原理で言えば、人間は心臓から離れた手先や足先、頭のてっぺんなど末端部分が動脈から静脈に入れ替わる部分です。だから、寒い冬に長い手袋をつけて腕を冷たい外気から守ることは、体温を下げないための工夫なわけです。
逆に、夏はここの部分を冷水に浸すなどして冷やせば、体温の低下に貢献できます。

ここ数年、夏場に頸部冷却するネッククーラーのようなグッズが流行りましたが、最近では手掌冷却も勧めています。
体を冷やすという意味で理想的には、例えばサッカーのハーフタイム時にはアイススラリーを飲みながら頸部の冷却、前腕部の冷却、冷水につけたタオルでの太もも冷却などを行い、とにかく体内外から冷やしてもらいたいです。
でも、体温を急に下げたからといって、それがパフォーマンスにつながるとは一概には言えません。なぜなら気持ち的にも“合う”“合わない”があるからです。

確かに、例えばアイスラリーで体内から急激に冷やすことが感覚的に合わないと思う選手もいるかもしれません。でも、夏場は活動中に体温を下げることは大事ですよね。

安松 体の、命の安心安全という面では冷やしたほうが絶対にいいです。でも、それとパフォーマンスの関係については、まだまだ研究段階です。近頃は、ハーフタイムクーリングを推奨している研究者の方もいます。

スポーツ活動では、安心安全がとても重要なことです。

安松 今年は、アスリート用の身体冷却ウェアとして、新しくミズノ・クーリングベストというアイテムも登場しました。この開発には、暑熱研究で有名な広島大学の長谷川博教授が関わっています。暑熱の環境下で、運動の休憩時に着用するとその後のパフォーマンス低下の抑制につながる、とのデータもあるようです。

胴体を覆うように冷やすんですね。

安松 皮膚の温度は確実に下がります。表面的な温度を下げることで脳はリフレッシュします。でも、一般的には、屋外でスポーツをしている時に体の深部の温度まで下げることは難しいことに変わりはありません。結局、深部まで冷やそうとすると、水風呂に入るしかありませんから。

ガンバ大阪の遠藤保仁選手はよくハーフタイム中にシャワーを浴びると聞きますよね。

安松 そのことは、私も耳にしたことがあります。埼玉スタジアムには、選手がリカバリーのために水風呂に入ることができるように浴槽がありますし、ヨーロッパのスタジアムでは設置しているところが多いと聞きます。

自分に合う暑さ対策を見つけることが大事

とにかく表面温度を広い範囲で冷やすことで、そこで使うはずだったエネルギーを“深部を冷やすほうに回せる”というか、そういうところで他に及ぼすいい効果も少なからずありますよね?

安松 一般的に冷却中は心拍が下がるので、他の部分にいい効果が回っていると思います。本来、熱を逃がすために使うはずだったエネルギーを別のことに使えるということになりますから。
私もサッカーのハーフタイム中に“下肢だけを冷やす”実験を行ったことがあります。その際は、後半の心拍が下がりスプリントタイムの低下が抑えられました。選手たちに感想をたずねてみると、「フワフワした感じになる」との答えが多く聞かれました。
その軽くなった感じがいいという選手もいれば、逆に苦手だという選手もいます。個々によって感じ方が違うものなので、だからこそ自分がいいと思うものを見つけておくことはパフォーマンスを維持するためにも大事なことです。

それは「どの程度の間隔で、どの程度の量を飲めばいいのか」という水分補給についても同じことが言えるのではないでしょうか。何が自分にとって効果的なのか。
監督やコーチに言われるまま体を冷やしても、自分が違和感や嫌悪感を抱くのなら、やはりパフォーマンスに影響を及ぼします。
だから、コーチがいろんなものを試す環境を作って、選手が「自分が感覚的に合うものを見つけよう」と試すのは大切なことかもしれません。それが自分自身で暑さ対策を探していく“自立性”という点につながっていきます。

ハーフタイム中にどう体を冷やすのかも“自分なりに試しておくこと”が大事かもしれません。やはり暑さ対策については、まずいろんなことを知っておくことが絶対に重要です。

安松 体温を下げることとパフォーマンスの向上は、まだ解明されていないことがたくさんあります。特に休憩を挟んだ連続的な運動に関しては、実験段階のものも多いです。でも、夏場は体を冷やさないと命の危険にさらされるわけですから、理屈の上では“丁度よく冷やす”というのが一番いいわけです。

毎年、夏休み最後の時期にU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジという大会を取材します。FCバルセロナの日本でいうU-12年代のチームが参加するのですが、この大会は1日1試合ではなく、2試合をこなさなければなりませんから、特に2試合目以降に関しては、選手たちは試合開始のギリギリまでクーラーの効いた部屋から出てきません。体を冷やすことにすごくこだわっています。

安松 そうなんですね。参考になります。実は、暑い時ってやり方によっては1分で筋温が上がるんです。だから、アップの仕方も考えなければいけません。以前、私は筋温の計測実験をしたからよくわかります。

育成年代のスポーツの試合を見ていると、夏場でもウォーミングアップでガンガン走らせているシーンを見かけます。

安松 夏場はガンガンまでは必要ないですよね。でも、呼吸循環系や神経筋系へのウォーミングアップも必要です。だからと言って、暑い場所でやることはありません。
例えば、サッカーの日本代表の選手たちも試合前はクーラーが効いた部屋でストレッチしたりしています。近所の試合を見たりしていると木陰があるのにもかかわらず、炎天下の中でわざわざ走らせたりしているのを見ると、体温が上がりすぎると心配になります。

ヨーロッパのリーグに目を向けると、交代するときによく抱え込みジャンプをしてからピッチに入っている選手を見かけませんか? あれはジャンプを2回すれば筋温が上がりやすいからです。
もちろん、飛びすぎたらダメですが、筋肉を温めたいならジャンプ2回で十分に上がります。
いずれにしろ、夏場のスポーツ活動についてはいろんなことを知っているだけで体への負担を減らすことができるし、体のエネルギーを効率よく使うことができることに変わりはありません。

<了>

PROFILE
安松幹展(やすまつ・みきのぶ)

立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授。専門は運動生理学。現在、主にサッカー選手のコンディショニング、パフォーマンス分析をテーマに研究。日本サッカー協会技術委員会フィジカルフィットネスプロジェクトメンバー。アジアサッカー連盟のフィットネスコーチインストラクターとして選手、指導者に対するコンディショニングサポートを行う。日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」の著者も務める。

第1回 「夏の公式戦中止」は本当に正しい判断か? 子どもの命を守る「対策」とは

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