「2002年は中山さんや秋田さんが…」中田浩二が考える森保ジャパンが勝てるチームになるための条件
FIFAワールドカップ2022 カタール大会への出場を約半年後に控えているサッカー日本男子代表。過去の大会と比べると欧州組の選手が中心となり、多様性に富んだメンバーが名を連ねている。新型コロナウイルス感染症の流行から初めてのワールドカップを迎えるにあたり、スペインやドイツといった強豪国が属するグループEでグループステージを戦うこととなった日本代表は、勝ち抜いていくためにどのようなことがカギとなっていくのか。
日本サッカー界の歴史に残る“黄金世代”の一人として活躍した元サッカー日本男子代表の中田浩二さんに、初のベスト16入りとなった2002年とグループステージ敗退に終わった2006年の2大会を振り返りながら、日本代表が勝ち進んでいくために必要なチームづくりのヒントをひも解く。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部)
2002年にあって、2006年になかったこと
――サッカー日本男子代表は、11月に行われる2022 FIFA ワールドカップ カタール大会への出場が決まりました。中田さんは現役時代に、2002年の日韓大会、2006年のドイツ大会の2大会に出場され、2002年はベスト16入り、2006年はグループステージ敗退という結果でした。今あらためて振り返ってみると、それぞれのチームにどのような違いがあったと思いますか?
中田:これは自分も含めてなんですけど、試合に出ていないメンバーたちの振る舞いに大きな違いがあったと思います。2002年はやっぱり中山(雅史)さんや秋田(豊)さんといったベテランの方が、試合に出られない中でもチームを盛り上げるためにすごく必死にやってくれていました。トレーニングはもちろん、それ以外のところでも不平不満を言わずにチームのために行動してくれたと思います。だからチーム全体として、グループステージ突破という目標に向かってベクトルが合っていたと感じています。
一方で2006年は、もちろん「試合に勝ちたい」とか「グループステージを突破したい」というのはあったんですけど、みんなまず「自分が試合に出たい」という思いが強くなってしまっていたので、チームとしてのまとまりがなかったのかなと。2002年の時と比べてメンバーも大きく変わらないし、実際に選手個人の経験や実力という面では2006年のほうが間違いなく強かったと思うんです。
――確かに、本当にすばらしいメンバーがそろっていました。
中田:一人一人を見ると、本当にすごくいい選手がそろっていたと思うんですけど、チームになった時に、1+1が2になるとは限らないじゃないですか。だから2002年はそれが1+1が2じゃなくて3にも4にもなっていたけど、2006年の時はどうしても、1+1が2以上にはならなかったのかなという気はしていました。
「中山雅史」と「秋田豊」という大きな存在
――2002年にフィリップ・トルシエ監督は、時には自分自身が悪者になってでも強い集団にしていこうという感じがありましたが、2006年のジーコ監督は、ブラジルや鹿島アントラーズでの経験から、チームがチームとして自然と形になっていくのは大前提という感覚もあったのでしょうか?
中田:そこは僕も思っています。だから、そこを何とかしなくちゃいけないなというのは感じていたんですけど、やっぱり一人ではなかなかチーム全体の意識を変えていくということは難しくて……。一方で2002年はトルシエが暴走していた部分もあったんですけど、中山さんや秋田さんが「いいんだよ、あんなやつ放っておけば」みたいな感じでうまくチームをまとめてくれて(苦笑)。その中で先輩たちが「お前らがやることはこうだからな」ということもちゃんと示してくれていました。
2006年は、誰がどうというわけではなく、やっぱりそれぞれのベクトルがどうしても少しずつずれてしまっていた。だから、初戦のオーストラリア戦(グループステージ第1戦 3―1)で1点リードしていたものの、わずか8分あまりの間に3点を奪われて逆転という形で負けて、なおさらチームが一つにまとまるということが難しくなってしまった気はします。あの試合で勝っていたらまた違う形になっていたのかもしれないですが……。
――確かに、スポーツに限らず仕事などでも、うまくいっている時は組織に一体感は出るけれど、やっぱりうまくいかない時に、ネガティブな部分が顕在化される気がします。
中田:そうなんですよ。それが悪い方向に出てしまったのが2006年かなと。ワールドカップは短期決戦の場なので、その後も修正しきれないまま終わってしまった。そもそも、みんなオーストラリアには勝てると思っていましたからね。
森保ジャパンの「チーム力向上」のためにもっとも必要不可欠なのは…
――ワールドカップも含めこれまでの経験を通して、チームとしての一体感を出すためにはどんなことが必要だと考えますか?
中田:今の日本代表を見ると、ヨーロッパでプレーしている選手も多く、経験値もあって能力も高い選手がそろっていると思うので、あとはチームとしてどう戦うか。そこを、森保(一)さんがどうやってまとめるかというところだけかなと思いますね。同じ方向を向いて戦えば、間違いなく日本もそこそこやれると思うので。あとは、メンバーの選考をどうするか。僕はやっぱりベテランを入れたほうがいいなと思っています。そういったメンバーの選考の部分では、2002年のトルシエ監督はうまかったので。
試合に出る選手についてはもちろん、プラスアルファのところで全体の一体感づくりを見据えてチームをマネジメントするというのが、ワールドカップで勝ち進むためには必要不可欠なんだろうなと。もちろん、プロ選手ですから自分としてこれをやりたいというのは当然あるんですけど、それ以上にチームのために行動できる選手の存在が、やっぱり必要になってくるのかなと思いますね。
――実際に中田さんから見て、今の森保ジャパンはどんなふうに見えていますか?
中田:一体感はすごくあると思うし、本当にいいチームだなと思っています。川島(永嗣)のようなベテラン選手もきっとうまくまとめているでしょうし。でも、勝ち進んでいくためにはこのままではだめだと思うので、ここから競争がどう起きていくのか。これまでは最終予選を突破するためのメンバーという選択があったと思うんですけど、今後その一回りも二回りも成長しなくちゃいけない中で、本番のメンバー入りに向けた競争を勝ち抜くことを目指していく。その選定において、森保さんがどう考えて、どうチョイスしていくかがカギなのかなと。
だから若い選手がもっともっとチャンスを与えられて成長していけば、たぶんもっともっといいチームになるだろうし、ベテラン選手が若い選手に負けないようにと競争が生まれていくことで、より個が強くなってチームの力も大きくなっていくんじゃないかなと思います。
どの国も条件は同じ。その中で監督がやるべきこととは
――ヨーロッパでプレーしている選手が中心で、さらにコロナ禍の影響もあり一緒に過ごす時間が限られている中でのチームづくりは、かなり難しいですよね。
中田:本当に難しいと思いますよ。この後まず6月に4試合(キリンチャレンジカップ・キリンチャレンジサッカー)組まれていますが、特に海外組は移動を伴いますからメンバーもどのように選ばれるか分からないですし、チームづくりとしてはすごく難しいんだろうなとは思います。それでも、どの国も条件は一緒ですから、それを踏まえてやらなくちゃいけないと思うし、監督がやるべきことなんじゃないかなと思っています。
――そこが一番重要な部分になってくるのかもしれませんね。
中田:監督としてはそういう部分も含めてチームマネジメントをしっかり行っていただいて、あとはもう選手がやってくれるというふうになると思うので。森保さんとはお話ししたこともありますが、勝つために最善を尽くしていらっしゃると思うので、きっとできると信じています。
<了>
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PROFILE
中田浩二(なかた・こうじ)
1979年生まれ、滋賀県出身。元サッカー日本男子代表。帝京高校卒業後、1998年に鹿島アントラーズへ加入。11の国内タイトル獲得に貢献した。2005年よりマルセイユ(フランス)へ、2006年にバーゼル(スイス)へ移籍し、海外でもタイトル獲得を経験。2008年より古巣の鹿島アントラーズへ移籍後、2014年シーズンをもって現役を引退。日本代表としては2002年、2006年の2度のFIFAワールドカップに出場。2002年日韓大会ではディフェンダーとして全試合フル出場を果たし、ベスト16入りに貢献。ボランチ、センターバック、サイドバックとさまざまなポジションをこなすポリバレントとして、現役時代は大きな実績を残した。引退後の2015年からアントラーズのC.R.O(クラブ・リレーションズ・オフィサー)に就任し、その他解説やメディア出演など幅広く活躍している。
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