「日朝韓の架け橋になりたい」サッカー選手・韓浩康が“共生共存”を目指し行動する理由

Opinion
2023.11.21

Jリーグを経て、現在、韓国​Kリーグの水原三星ブルーウィングスでプレーする韓浩康(ハン・ホガン)が、今年12月、日朝韓の強豪校の高校生たちが集結する「MIRERO FESTIVAL 2023」を開催する。本フェスティバルのスローガンは「#かけろ」。日朝韓の架け橋になりたいと語る在日コリアン4世の彼が、オンザピッチでもオフザピッチでもその一瞬に「#かけろ」とメッセージを送る理由とは?

(インタビュー・構成=中﨑史菜、写真提供=韓浩康)

サッカー選手として、在日コリアンとして

――プロサッカー選手として、スムーズなステップアップをされている印象ですが、これまでのキャリアを振り返ってみるといかがですか?

韓:自分の感覚としては「遅咲き」ですね。大学入学時も、スピード面、フィジカル面で大きな差を感じましたが、そこで腐ることなく、自分自身と向き合い続けられたことがよかったのだと思います。大学2年生の時に再会を果たした憧れの安英学(アン・ヨンハ)さんと時間を共にさせていただく機会もあり、自分に足りていないものを見つめる時間も多く設けることができました。

 朝鮮大学サッカー部時代、他の部員がオフの期間も基礎練習や筋トレを怠らず、常に自分自身に矢印を向け続けましたし、「プロサッカー選手になる」という夢は常にブレず心の中にありました。公式戦のピッチに立つ機会もなく、理想と現実の狭間で憧れのプロの舞台が少しずつ遠ざかっている感覚の中でも、現実から目を背けることはありませんでした。

――学生時代の経験が、プロサッカー選手として数少ないチャンスをものにするまで努力し続ける逞しさにつながっているのですね。

韓:はい。プロになって肌で感じたことは、プロになる選手たちは長所がはっきりしていますし、吐き気がするほど自分自身と向き合い続け、自身にしかない明確な武器を磨き続けているということです。

 アン・ヨンハさんが学生時代にかけてくださった言葉に、忘れられない言葉があります。

「ピッチ上には仲間が10人いるけど、局面を切り取れば個々の勝負であり、すべての結果は自己責任。最終的には誰も助けてくれない。自分は立正大学に進学したけれど、友達を作りに行ったわけではなかったから、とことん自分に矢印を向けて、一つ一つの言動に責任を持ってやっていたよ」

 この言葉が「プロサッカー選手になる」覚悟を決めた人生最大のターニングポイントになりましたし、プロサッカー選手になったあとも自分を後押ししてくれる言霊でもあります。

――在日コリアンであることで、経験された苦労はありましたか。

韓:プロサッカー選手として、数々のクラブを渡り歩きましたが、日本でも韓国でも「ハン・ホガン」として受け入れていただき、ファンやサポーターの皆さんにはいつも支えられ、感謝の気持ちでいっぱいです。

 僕の曽祖父は、朝鮮半島の日本海側で漁師をしていましたが、仕事を求めて下関に移り、そこからさらに京都へ移ったと聞いています。

 小さい時から自分が「在日コリアンである」と意識していたわけではありません。強い自覚が芽生えたのは高校生のときでした。全国で高校の授業料が無償化されるタイミングでしたが、朝鮮学校は対象外となってしまいました。授業そっちのけで署名活動をしたり、大学時代には文部科学省の前でデモに参加したこともありました。同じ国で、同じ人間として生きているだけなのに、差別を受けなければならないという寂しさはその頃から感じていましたね。

 Face to Faceで話すことができれば、政治的な国と国の関係は抜きにして「人」と「人」としての関係性を築くことができる場合がほとんどなのですが。

「MIRERO FESTIVAL 2023」のスローガン「#かけろ」に込めた想い

――3年前からオフザピッチでの取り組みを始められたそうですね。

韓:はい。3年前から毎年、高校生を対象としたサッカーフェスティバル「MIRERO FESTIVAL」を開催しています。非日常の体験を通じて高校生たちに夢を与えたいという想いで始めたイベントです。今年は在日コリアンと日本の学生に加え、韓国の学生も交えた交流戦だけでなく、異文化交流のディナーやミニゲームなどを実施します。在日朝鮮高校選抜、京都橘高校、興國高校、輔仁高校(韓国の強豪校)の4チームを招待し、総当たり戦を行ったうえで、全チームをミックスして即席チームを組成し、フットサルでの交流後にディナーを通じて親睦を深めていただく予定です。

 言語が通じない仲間とコミュニケーションをとりながらプレーする経験を通じて、「何か新しいこと」を感じてほしいんです。僕が「高校生たちに特別に感じてほしいこと」があるわけではありませんが、参加される学生一人一人がフェスティバルを通じて自分自身の価値観を広げ、育ててほしいと思っています。

――今年のスローガン「#かけろ」に込められた想いを教えてください。

韓:高校生たちに次のステージへと橋を架けてほしい、自分の可能性に賭けてほしい。夢に魂をかけてほしい、そしてこのイベントが日朝韓の架け橋となること、スポーツは政治的な制約を超えて架け橋となる力があること。加えて「これがラストチャンスだと一つ一つのプレーに人生をかけること」というようなさまざまな想いを込めています。

 このイベントは、在日コリアンである自分だからこそ、そしてプロサッカー選手として活動する自分だからこそできることだと思っています。

――過去2回の開催で得た手応えと、課題を教えてください。

韓:参加した高校生たちの表情や発せられる言葉から、フェスティバルを通じて「夢に”挑戦”するきっかけ」を与えられたという実感がありました。一方で、このイベントの認知度はまだまだ低く、永続的に続けていくためには応援してくださる方の輪を広げていく必要があると感じています。そのために、今年はクラウドファンディングを通じてより多くの方に知ってもらえるように働きかけています。クラウドファンディングを通じて、日朝韓の問題を当事者意識を持って考える人が一人でも増えたらと思っていますし、未来ある高校生たちにきっかけを与える賛同者になっていただきたいと願っています。

――最後に、韓選手のこれからのビジョンを教えてください。

韓:徴兵制の関係から、韓国でプレーできるのはあと1年。まずは、2023年シーズンリーグ終盤での残留に向けてチームに貢献し、悲願である2026年のワールドカップに朝鮮代表として選出され母国を代表して戦うことを目標にしています。

 最終的には本イベントに限らず、日本と朝鮮と韓国の3つのルーツを持っている自分だからこそできるあらゆる活動にチャレンジしていきたいと思っています。在日コリアンと日本社会との関係性を改善し、今まで受けてきた差別は僕らの代で終わりにしたいんです。過去はお互いに憎しみあっていたかもしれませんが、同じ国に住む同じ人間同士、憎しみあっても意味がない。後輩たちや子どもたちの代には「共生共存」してほしい――そう心から願っています。

<了>

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PROFILE
韓浩康(ハン・ホガン
1993年9月18日生まれ、京都府京都市出身(国籍:韓国)のプロサッカー選手。
在日コリアン4世であり、朝鮮大学校卒業後、2016年にモンテディオ山形に加入。同年にブラウブリッツ秋田へ期限付き移籍を経て2018年から完全移籍。2020年には同クラブ2回目のJ3優勝、J2昇格に大きく貢献した。同年12月に横浜FCへの完全移籍が発表され、念願のJ1プレーヤーへ。現在は、Kリーグの古豪全南ドラゴンズを経て、水原三星ブルーウィングスに所属。「在日社会と日本社会の架け橋になる」という目標を人生のゴールに掲げ、幼少期・地元サッカースクール体験時の自己紹介で経験したアイデンティティの問題から、「非日常の体験を通じて、夢に”挑戦”するキッカケを届ける」プロジェクトを発起。自身もW杯出場を目指しながら、このプロジェクトから夢に挑戦する高校生たちを支援し続けていく。

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