バルサのカンテラ加入・西山芯太を育てたFC PORTAの育成哲学。学校で教えられない「楽しさ」の本質と世界基準

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2024.10.07

小学校4年生で、バルセロナの下部組織に飛び級で加入した西山芯太くんは、一体どんな環境でその才能を磨いたのだろうか。そのキャリアを形作ったクラブの一つが、小学生時代にプレーしていた神奈川県のFC PORTAだ。強豪Jクラブの下部組織などに子どもたちを送り出す同クラブの指導方針や哲学とは? 同クラブの羽毛勇斗監督に、芯太くんと同じキャリアを夢見る子どもたちへ向けてのアドバイス、そして留学ビジネスの現実についても話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=FC PORTA)

世界で戦うために必要な「マインド」の引き出し方

――世界と戦う選手を育てるために、FC PORTA(以下、ポルタ)が大切にされていることを教えてください。

羽毛:ポルタが掲げるビジョンは、「Stay Hungry(貪欲であれ)」「圧倒的な個の育成」の2つです。その土台となるのが、メンタルや考え方だと思っています。それが身につかないと、何を教えても限界があると感じています。もちろん技術や戦術的なことは教えますが、うまくいかなかった時には、親やコーチのせいにすることもできる。でも、そこで自分に矢印を向けられる選手は、「どうすればいいか」を考える力がつきます。だから、選手たちには「練習できついことにも向き合い、試合でうれしい思いをするか、練習を楽にやって試合できつい思いをするのとどっちがいい?」と、よく聞くんです。楽しい練習だけでトップトップでやれるとは思わないので、世界で戦えるような考え方やマインドを育てることは特に大事にしていますね。

――そのメンタリティを育てるために、子どもたちに声をかける際にはどんなことを大切にされていますか?

羽毛:例えば「ドリブルやパスをもっとうまくなりたい」「リフティングができない」と子どもたちが言ってきたら、「どれくらい練習したの?」と聞いて、練習方法を見せてもらうんです。そうすると大抵、「それは俺たちの基準じゃない。これぐらいの量じゃ難しいから、もっと考えてやらないといけない。それを全部やって、それでもうまくならなかったらもう一回聞きにおいで」と言うことになります。結局は「自分」ですから。ポルタの選手は元気があるね、気持ちが強いね、とよく言われるのですが、そういう考え方も影響していると思います。

――子どもたちの積極性や気持ちの強さを引き出すために、他に工夫されていることはありますか?

羽毛:ポルタのコーチ陣が、そんなにコーチっぽくないというか、自分のように一般的には「変わっている」と言われるタイプのコーチしかいないんですよ(笑)。選手とコーチ、という壁がないので、どんなことでも対等にしゃべります。

 子どもは周りの大人に影響されるので、「こういうのもしゃべっていいんだ」という感覚になれば、なんでも話すようになります。ただ、集合する時などはガラッと空気を変えています。そういうメリハリや、メンタルの強さは持ってほしいですし、そういうクラブの考え方や基準は親御さんにもその都度伝えるようにしています。

――「なんでも話す」というのは、プレーや戦術のことも常にディスカッションしている感じですか?

羽毛:そうです。例えば、練習や試合でうまくいかない時に最初の2、3分は「自分たちで何がうまくいっていないのか話して」と課題を出すんです。そうやって自分たちの考えを言葉にしてもらった上で、まだ考えの引き出しが少ないので、コーチ陣がそこに少し上乗せして伝えていく。そうすると「なるほど」と理解できて、それをやってみたりする。そういうやりとりを繰り返しながら、常に考えて、自分の言葉で話させるようにしています。

学校では教えられない「楽しさ」の本質

――ジュニア年代におけるトーナメント形式の大会については、試合の勝敗にこだわりすぎることや、出場試合数に格差が生まれて多くの選手に出場機会が確保できないことなどの議論がありますが、羽毛監督はどのように考えていますか?

羽毛:ポルタは「積み重ねてきたものをどれだけ逆算して試合で発揮できるか」を大切にしています。そこで、緊張感のある試合と緊張感がない試合だと、出せる力が変わってくるんです。例えば、練習試合でめちゃくちゃ良くても、重要なゲームになるとできない選手もいます。ただ、トップレベルにいったら重要なゲームが増えていくので、「プレッシャーを感じないぐらいになってほしい」と考えています。そのためには、自分たちと同じか、ちょっと上のレベルの相手と戦い続けないと最大出力が出ない。そういう意味では、「トーナメントかリーグ戦か」ということよりも、「5年生はこれくらいできるようになってほしい。6年生では……」と、FC PORTAの基準を設定した上で、いろいろな大会に参加しています。もちろん、目の前の試合は必死に勝ちにいきますが、結果よりも「基準に達しているかどうか」を重視しています。だからこそ、勝っても課題を抽出して追求していくので、子どもたちはトーナメントでもリーグ戦でも「勝てばいい」という感覚は持っていないと思います。

――10歳以下の年代で、サッカーの楽しさの本質を理解するためにはどんなことが必要だと思われますか?

羽毛:「楽しい」の基準はみんな違っていて、公園で遊ぶことが楽しい子もいれば、真剣に必死にやるのが楽しい子もいて、クラブでその基準は一定にしないといけません。FC PORTAとしては、真剣にバチバチ1対1を戦って勝ったり負けたり、「ここで負けたらやばい」という緊張感、ユニフォームが真っ黒になってでもサッカーが大好きだと思えることなどが競技においての楽しさだぞ、と教えています。逆に、周りに文句を言ったり、試合中ずっと歩いている選手がいたら、「それはめちゃくちゃダサいよ」とはっきり言います。「友達としゃべったり、練習をラクにやることが『楽しい』なら、ポルタじゃないよ」と伝えて、子どもたちの基準を変えていきます。そういうことは学校で教えられないことだと思いますから。

――羽毛監督が指導していて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?

羽毛:芯太がうちに入る前から「世界のトップレベルで活躍するような選手を輩出したい」という思いがありました。実際に芯太がそれを叶えてくれたことはうれしいですし、他にもJリーグの強豪クラブの下部組織に勝ったり、選手が目指していたチームのセレクションに受かったりした時もうれしいです。
 でも、本当に目指さなければいけないのはそういうことではないと思っていて。大事なのは「世界で活躍するために、逆算したら16、17、18歳の時はどうなっていなきゃいけない」とイメージして、そこを目指すことだと思っています。その点では、芯太がどんどん基準を塗り替えていくので、自分たちも負けていられないというプレッシャーが常にありますし、将来、世界で活躍するようになった選手たちが「ポルタではこう言われていたな」と思い出して逆境を乗り越えてくれた時に、本当のやりがいを感じると思います。

バルサ出身者に多い「ダム」「ブレインフットボール」とは

――西山芯太くんは8歳の時に家族の仕事の都合でスペインに移住されました。現地に渡ってから所属していた「エストレージャ・ダム」は、スペインではどういう立ち位置のクラブなのですか?

羽毛:バルセロナのビールメーカー「エストレージャ・ダム」が親会社となっていて、国内屈指の育成組織です。レアル・マドリードやバルセロナ、エスパニョールの下部組織や、トップチームにも選手を輩出しています。カタルーニャ地域では、「ダムで認められないとうまくいかない」とさえ思われる、登竜門のようなクラブです。芯太はスペインに引っ越してから、さまざまなクラブに練習参加する中で、ダムからもスカウトの声がかかったと聞いています。

――また、スペインで西山くんが通っていた「ブレインフットボール」というフットボールスクールは、ポルタもつながりがあるそうですが、どんなものなのですか?

羽毛:バルセロナ地域でやっていることもあって、うまい子たちが集まっているスクールです。エリートクラスには、芯太のようにダムの子もいれば、バルサの選手やエスパニョールなど、カタルーニャ地域の強豪クラブのうまい子たちが集まっています。選手の育成だけでなく、世界中から選手の発掘をすることもブレインフットボールの武器だと思います。 芯太がスペインでブレインフットボールに通い始めた後に、一度ポルタの選手たちも武者修行に行かせていただいたのですが、代表のニル(・コンゴスト)と、「子どもたちのために何か一緒にやれたらいいですね」と話をさせていただいたんです。それで、彼らが日本に来たときにポルタの選手たちを見てくれることになりました。指導方針としては、ポゼッションやゲーム形式など、試合を想定してデザインされたものでした。

「ラ・リーガクラブの下部組織に入れる」留学斡旋ビジネスの闇

――近年は「ラ・リーガクラブの下部組織に入れるかも?」を売り文句にした留学斡旋ビジネスが増えていると聞きますが、この現状について、羽毛監督はどのように感じていますか?

羽毛:日本は島国という国柄もあって、現地の正しい情報がなかなか入ってこないので、目に入ってくる情報を鵜呑みにしてしまう傾向があると思います。そういう謳い文句で子どもたちを集めようとするビジネスは多くありますが、基本的にはFIFAのルール(*)があるので、さまざまな条件がそろわないと、ラ・リーガの下部組織に入ることは難しいことは知っておいてほしいです。「スペインで行われている特定の大会に出られる」という謳い文句なら実現できますが、できないことをできるように見せているのは、選手の未来を潰しているようにしか思えません。そういうビジネスが横行しすぎている気がしますし、親御さんは慎重に情報を見極めてほしいですね。

(*)編集部注:FIFAが18歳未満の国際移籍を禁止しているため、日本在住の子どもはラ・リーガのクラブの下部組織に入れない。

――現地では、そういう情報はどんなふうに受け止められているんでしょうか?

羽毛:現地のサッカーに精通したスペイン人にそういうビジネスが可能なのか聞くと、「それはない」とはっきり言われます。例えば、「バルサのカンテラと対戦できる」と謳っていても、実際にはバルサのスクール選抜だったりするんですよ。でも、行く人たちはそれを知らないことも多いです。「海外でサッカー留学できるよ」と言っても、クラブに所属するのにはFIFAのルールが障壁になります。「特例で行ける」と抜け道を探っても、誰にでも特例が適用されるわけではないですから、注意してほしいですね。

 イメージとしては、スクールやアカデミーは選手選考こそあるかもしれませんが、基本的には誰でも入れます。ただカンテラは選ばれた選手しか入れない狭き門なんです。

【連載前編】9歳で“飛び級”バルサ下部組織へ。久保建英、中井卓大に続く「神童」西山芯太の人間的魅力とは

【連載後編】海外ビッグクラブを目指す10代に求められる“備え”とは? バルサへ逸材輩出した羽毛勇斗監督が語る「世界で戦えるマインド」

<了>

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[PROFILE]
羽毛勇斗(はけ・ゆうと)
1994年12月24日生まれ、神奈川県出身。FC PORTA監督。横浜FCジュニアユース、横浜FCユースを経て、東海大学サッカー部を卒業。現役時代のポジションはMFで、U-16日本代表歴を持つ。大学卒業時に現役を引退し、2017年に指導者のキャリアをスタート。2019年に創設されたFC PORTAの監督として、日本トップクラスで活躍できる選手の育成に携わり、多くの選手をJリーグの下部組織などに送り出している。

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