33歳で欧州初挑戦、谷口彰悟が覆すキャリアの常識「ステップアップを狙っている。これからもギラギラしていく」

Career
2024.10.10

北中米ワールドカップ出場をかけたアジア最終予選で3バックの中央として、日本代表を束ねる谷口彰悟。今夏、中東カタールのアル・ラーヤンからベルギーのシントトロイデンへ、33歳で初の欧州挑戦を成就させ、リーグ戦でも存在感を示してきた。31歳で臨んだカタールワールドカップを機に、“年齢の壁”を意識することなく異色のキャリアを切り開いてきたベテランの過去・現在・未来に迫る。

(文=藤江直人、写真=Panoramic/アフロ)

33歳で初の欧州挑戦。「まだギラギラしている」

熊本県の強豪・大津高校から名門・筑波大学をへて、2014年に川崎フロンターレへ加入。公式戦377試合に出場して、4度のJ1優勝を含めて国内三大タイトルをすべて獲得。リーグ選出のベストイレブンに4度輝き、日本代表として2022年のカタールワールドカップで2試合ピッチに立った。

一人の選手として谷口彰悟が刻んできた輝かしいキャリアは30歳を超えて、特に33歳になった今夏を境にいい意味で激変した。それは谷口自らが強く望み、強い意思で切り開いたものだった。

まずは誕生日から4日後の7月19日に、カタールのアル・ラーヤンからベルギーのシントトロイデンへの完全移籍が発表された。33歳でのヨーロッパ初挑戦を、谷口はこう語っていた。

「なかなか前例がないというか、あまり聞かないようなキャリアの歩み方をしていると自分自身もよく理解しています。ただ、常にレベルの高い場所というか、自分が成長できる場所、面白いと思える場所でサッカーをしたい、という思いは常にもっていました。この年齢で初めてとなるヨーロッパ挑戦を僕自身もワクワクしているし、まだまだギラギラしている、という思いは強いですね」

しかし、新天地で初先発を果たしたロイヤル・アントワープとの第3節は大量6失点の完敗。シントトロイデンも開幕3連敗を喫する非情な現実に、谷口は「僕自身、90分間出場して6失点は、なかなかショッキングな結果でした」と振り返りながら、挑戦への思いを強くしている。

「ベルギーへ移籍してきて、全然ダメだとなれば『ほら見たことか』となるはずなので。そこは自分自身に大きなプレッシャーをかけながら、力があればこの年齢でもヨーロッパの舞台でしっかりと戦えると示していかないといけない。それができれば『日本人、戦えるじゃないか』という全体的な評価にもつながってくるので、そういった思いを多少なりとも背負ってはいます」

ヨーロッパ組として臨むアジア最終予選

9月に入ると、2026年の北中米ワールドカップ出場を懸けたアジア最終予選に臨む森保ジャパンに招集された。ヨーロッパ組という肩書がつくのも、もちろん初めての体験だった。

「コンディションを最優先していただいてチャーター便を用意してもらった点を含めて、ストレスを最低限に抑えてもらっているので、そこには本当に感謝しています」

埼玉スタジアムに中国代表を迎える9月5日の初戦へ向けて、ヨーロッパから帰国するチャーター便を手配した日本サッカー協会に感謝しながら、谷口はモードを代表へ切り替えている。

「前回の活動から時間も空いているし、それぞれが所属クラブでプレーしていて、あるいはクラブが変わった選手もいる。僕も所属クラブが変わった一人なので、当然やり方も変わるし、メンバーも変わるし、いろいろなところでいろいろな変化が起きていますけど、代表に帰ってきたからには頭のスイッチを切り替えて、全力を尽くして最終予選を戦っていかないといけない」

また、谷口が日本に滞在している間に、シントトロイデンは今夏に就任したばかりのイタリア出身のクリスティアン・ラタンツィオ監督を成績不振に伴って解任した。ベルギー出身のフェリス・マッズ新監督が就任したニュースを、谷口は「SNSで知りました」と明かしている。

「クラブからは連絡もきていなかったですし、初めて知ったときには『マジか……』と思いましたけど、いまは代表期間中なので最終予選に集中しています」

31歳で臨んだワールドカップが転機に。「サッカー人生で後悔したくない」

谷口自身は年齢の壁を意識せずにキャリアを歩んできた。30歳になる直前の2021年6月。約3年半ぶりに代表へ復帰した際に、谷口は「自分で自分の可能性は制限しません」と語っている。

「年齢のところで言うと、フィジカル、メンタル、経験を含めていまが本当に一番いい状態だと自分のなかでは思っています。ディフェンダーはさまざまな経験を通して学んでいくポジションでもあるので、その意味でもいまは非常に充実している。ただ、僕には国際経験が少ないし、その差は正直、大きい。それを埋めるためにはいろいろな方法があると思っていますけど、現状で置かれている立場でしっかりとやっていかなければ、この先に何も見えてこないと思っています」

当時は東京五輪に臨むU-23日本代表に冨安健洋と、オーバーエイジで吉田麻也が招集。センターバック陣が再編成されたなかで、川崎の最終ラインに長く君臨してきた谷口も招集されていた。

「2人の壁が高いのは、代表戦を見ていれば誰でもわかる。でも、2人の陰に甘んじているようではダメ。空いた2枠に入れてもらったかもしれないけど、このチャンスを生かしたい」

川崎で培ってきたものをアピールした谷口は、カタールワールドカップ出場を懸けた同年11月のアジア最終予選から森保ジャパンに定着。先述したように本大会ではスペイン代表とのグループステージ最終戦、クロアチア代表とのラウンド16で、3バックの右で先発フル出場した。

そして、31歳にして初めてワールドカップを戦った過程で、自身に足りなかった国際経験を日常から積み重ねていく覚悟を決めた。カタール大会後に発表されたアル・ラーヤンへの移籍。谷口は「本当にたくさん悩みました」と愛着深い川崎を退団し、退路を断つに至った理由を明かしている。

「これからもフロンターレで自分自身とチームのレベルアップを目指していく選択肢もありましたが、海外のまったく違ったサッカー環境に身を置き、サッカー選手として成長したいという思いでチャレンジする決断をくだしました。キャプテンという責任ある立場で、非常に申し訳ないと考えています。しかし、サッカー選手としてまだまだ成長できる可能性はあると感じましたし、残りの自分のサッカー人生でチャレンジをしなかったことへの後悔はしたくないと考えました」

野心的な若手をまとめるリーダー。見据えるのは2026年ワールドカップ

もちろん中東の地が、谷口の最終目的地ではなかった。ヨーロッパへ挑戦できるチャンスをうかがっていた谷口と、香川真司、昨シーズン限りで引退した岡崎慎司に続く、リーダーを担えるベテラン日本人選手を求めていたシントトロイデンのニーズが合致。今夏の移籍が実現した。

日本企業のDMMグループが経営権をもつシントトロイデンには、さらなるステップアップを望む若手選手が数多く所属する。日本人選手では過去に冨安、MF遠藤航、MF鎌田大地が5大リーグへ羽ばたき、今夏にはGK鈴木彩艶がセリエAのパルマにステップアップした。

野心をたぎらせる若手のまとめ役を託されながら、谷口も「みんなのエネルギーをすごく感じるし、自分もいい意味で刺激を受けている」としながら、自身のプレーにこう言及していた。

「ベルギーリーグの特徴として、フィジカル面でより優位性を取ろうとしてくるチームが多い。どのチームにも個の能力が高い選手が多いので、そういうアタッカー陣との1対1でバチバチ戦い、ボールを奪い切れるようになれば自分のなかで引き出しも増えていくし、チームとしての結果もついてくる。その意味でも、僕はこのチームに経験を積むためにきたつもりはない。常に存在感を示し、あの選手がいるから難しい、と思わせるようなプレーを示していきたい」

シントトロイデンでのプレーは、森保ジャパンでのそれに直結する。9月シリーズで対戦した中国代表は帰化選手を、バーレーン代表もくせ者を前線に配置する。6月シリーズから導入している攻撃的3バックの真ん中で、ともに先発フル出場した谷口は無失点での連勝発進を縁の下で支えた。

その視線の先に、35歳になる直前に開幕する次回ワールドカップをすえる谷口が言う。

「代表は自分のなかで常に大きなものだし、いまは僕自身の最大の目標である2026年のワールドカップ出場を目指している。そのためにも所属クラブで常に高いパフォーマンスを発揮していかなければいけないし、存在感を示すだけでなく、まだまだ成長していかないといけない」

クラブ状況も好転。代表との両輪で目指すステップアップ

代表デビューを果たした2015年6月。当時のヴァイッド・ハリルホジッチ監督から「頭ですべて弾き返してこい」とハッパをかけられ、ボランチで途中出場したプロ2年生の谷口は、27歳になる直前で迎える2018年のロシアワールドカップをこう位置づけていた。

「年齢的にも多分、最後のチャンスになると思っている」

しかし、他の選手とは明らかに一線を画し、前方には日本人選手が誰一人としていないキャリアを歩みながら、谷口の目標はカタール大会の次、2年後の北中米大会へ自然に修正された。

そして、挑戦の過程に位置されるシントトロイデンでの状況も、代表の9月シリーズ後にこれもいい意味で激変している。マッズ新監督のもとでも最終ラインの要を託された、ルーヴェンとの再開初戦。シントトロイデンは2-1で制し、7試合目にしてリーグ戦初白星をあげた。

続くベールスホットとの第8節の開始9分には、左コーナーキックからのこぼれ球を右足で押し込む移籍後初ゴールとなる先制弾をマーク。最終的には3-0と初の完封勝利で連勝した。

続くセルクル・ブルージュ戦、ヘンク戦はともに1-1で引き分けた。それでも2勝5分けと7戦連続無敗をマークした手応えをさらなる自信へ変えながら、谷口は再びモードを代表に切り替え、サウジアラビア代表とのアジア最終予選が行われる敵地ジッダに入っている。

実はシントトロイデンへの加入後に、谷口は笑顔を浮かべながらこんな言葉を残している。

「(ベルギーからの)ステップアップを狙っているのか、と言われれば、そこは狙っています。まだまだ僕も頑張っていきますし、これからもギラギラしていきますよ」

33歳を迎えたシーズンでのヨーロッパ初挑戦も通過点。川崎時代から武器としてきたビルドアップ能力だけでなく、屈強な大男たちとの肉弾戦も厭わないフィジカル能力にも磨きをかけながら、所属クラブと日本代表とで、谷口はサッカー界の常識を覆すキャリアを自らの力で紡いでいく。

<了>

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