鎌田大地の新たな挑戦と現在地。日本代表で3ゴール関与も、クリスタル・パレスでは異質の存在「僕みたいな選手がいなかった」
9月10日に行われたFIFAワールドカップ・アジア最終予選のバーレーン戦。なかなか得点が生まれない重苦しい雰囲気を一転させたのが、PK獲得につながる好プレーを見せた鎌田大地だった。後半もフリーランとスルーパスで好機を演出し、90分間日本代表チームを牽引し続けた。一方で、今季からプレーするプレミアリーグのクリスタル・パレスでは、まだ鎌田が本領発揮しているとはいえない状況が続いている。ドイツ、ベルギー、イタリア、イングランドと欧州4カ国を渡り歩いてきた鎌田の現在地とは──。
(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)
「僕みたいな動き出しをする選手があまりいなかった」
クリスタル・パレスでは異質の存在ゆえ、真価を発揮するには一定の時間がかかる──。それが、プレミアリーグにおけるここまでの鎌田大地の印象だ。
日本代表MFは、8月18日に行われたブレントフォードとの開幕戦で3−4−2−1の攻撃的MFとして先発。中盤を幅広く動き、スムーズなボール回しに貢献した。前線にスルーパスを入れてチャンスを生み出すシーンもあったが、この試合では、むしろ周囲との連携を構築している途中だと感じた。
例えば、鎌田が絶妙なタイミングで相手DFラインの背後に飛び出しても、パスが出てこない。鎌田の動きに合わせてパスが出ていればビッグチャンスになるのは間違いない場面でも、肝心の味方がサムライ戦士の動き方や特性をまだつかんでいないようだった。
象徴的だったのは後半4分のシーン。パス展開力に定評のあるイングランド代表MFアダム・ウォートンがボールを持つと、鎌田はDFラインの背後に飛び出した。しかし20歳MFは鎌田の動き出しを感じ取れず、チャンスにならなかった。ウォートンの能力云々というより、チームとしてまだ鎌田の生かし方を掌握しきれていないようだった。
1−2で敗れたブレントフォードとの開幕戦後、この点について鎌田に質問してみた。28歳のMFは次のように答えた。
「クリスタル・パレスの前線の選手たちはすごく能力が高い。敵を背負いながらキープできるような選手が多く、僕みたいな動き出しをする選手があまりいなかったと思う。プレシーズンマッチで、僕は10番(攻撃的MF)と6番(守備的MF)として半々プレーしました。試合を重ねていけば、そういう部分は解決していくかなと思います」
背景にある練習不足。「そこはまたチームメートと話していきたい」
攻撃的MFとして先発したブレントフォード戦で、鎌田は相手DFの背後に抜けるランを意識的に行っていたという。ポイントは、最終ラインを高い位置に設定したブレントフォードのアプローチ。相手の出方を正確に読み取り、前に仕掛ける走りが「効果的」と判断した。
「相手のDFラインが結構高い位置にあった。だから、自分が足元でボールを受けるより、できるだけ背後に抜け出そうと思っていた。
(攻撃的MFでコンビを組んだ)チームメートのエベレチ・エゼは、あまりそういうタイプの選手ではない。その分、自分が裏に抜け出していって、という感じに思っていました。自分が良いタイミングで動き出した場面も何回かあったので、そこはまたチームメートと話していきたい。ブレントフォードのような相手に対しては、『足元、足元』でパスをつなぐより、(相手DFラインの)背後で少しプレーできると、チャンスがより作れると思う。今後のチームミーティングでも、そういう話になると思う」
背景には練習不足もあった。
最前線に陣取るセンターフォワードのジャン=フィリップ・マテタは、フランス代表のオーバーエイジ枠で7月から行われたパリ五輪に出場。また、攻撃的MFのエゼはイングランド代表の一員として6月のUEFA EUROに参加した。彼らは休暇を挟んだためチーム合流が遅れ、開幕戦の時点で鎌田とはほとんど練習ができなかった。
「マテタやエゼとは1週間ぐらいしか練習できていない。どちらかと言うと、彼らはコンビネーションより、個のクオリティーでプレーできてしまうタイプ。ただ逆に、お互いを使うところは使ったりしていけば、攻撃の幅がもっと広がると思う。このあたりは時間がもう少しあれば、もっと良くなるのかなという感じですね」
チームの攻撃を「剛」と表現するなら、鎌田のそれは「柔」
振り返ると、近年のクリスタル・パレスは、個人技を全面に押し出したサッカーを展開してきた。端的に言えば「堅守速攻」である。今年2月まで指揮を執ったロイ・ホジソン監督は守備的な堅実なサッカーが持ち味で、しぶとく勝ち点を重ねることでリーグ中位を維持してきた。良く言えば安定感はあるが、選手3〜4人が連動して崩すアタックは少なく、攻撃は個人技に頼る傾向が強かった。
しかし健康上の理由からホジソンの退任が決まり、新たにオリバー・グラスナー監督がやって来た。オーストリア人指揮官は、フランクフルト在任時代に鎌田を指導。ピッチでは攻撃的な「3−4−2−1」を採用し、人もボールもよく動くアタッキングフットボールを植え付けようとしている。
クリスタル・パレスの特性から考えるなら、鎌田のプレースタイルは異質だ。相手守備陣の「間(あいだ)」に滑り込み、パスを受ける。チャンスと見ればDFラインの背後に飛び出し、味方からスルーパスを引き出す。さらにパスの出し手になり、縦パスからチャンスを生み出すこともできる。クリスタル・パレスの攻撃を「剛」と表現するなら、鎌田のそれは「柔」と言えるだろう。おそらくグラスナー監督は、鎌田のような選手をクリスタル・パレスに組み込むことで、チーム内での化学反応を期待しているのではないか。
その鎌田が徐々にチームにフィットしてきた印象を残したのが、9月1日の第3節チェルシー戦だ。鎌田は3−4−2−1の攻撃的MFとして再び先発。この試合で目についたのはパスの「出し手」としての動きで、右ウイングバックのダニエル・ムニョスへのスルーパスで好機を演出するシーンが複数あった。そのムニョスからリターンパスを受け、GK強襲の力強いシュートを打った場面も。アウェイマッチに乗り込んだクリスタル・パレスのサポーターを大いに沸かせた。
1−1の引き分けに終わったこの試合で、英サッカーサイトの『90mins』は鎌田に「6点」の及第点をつけ、「素早い状況判断とワンタッチパスで攻撃をうまくまとめた」と評した。地元ニュースサイトの『ニュース・ショッパー』も「6点」とし「プレミアリーグに適応し始め、試合ごとに調子を上げている」と前向きに伝えた。鎌田は8月27日に行われたリーグカップのノリッジ戦(英2部)で加入後初ゴールをマークし、アシストも記録。加入から2カ月が経過し、緩やかに調子を上げてきたと、そう評価できるだろう。
イングランドで輝き始める日は…
だが、日本代表として出場したFIFAワールドカップ・アジア最終予選のバーレーン戦での鎌田のパフォーマンスから判断するなら、クリスタル・パレスではまだまだポテンシャルをフルに出せていない印象だ。
日本代表の先制点の場面では、腕を広げてスルーパスを要求し、クロスボールを入れて相手のハンドを誘発した鎌田のフリーランが光った。
3点目のシーンでも、サイドのスペースに飛び出してパスを求めた鎌田に、守備的MFの守田英正からロングパスが入ったのがその始まり。4点目のシーンでも、三笘薫にスルーパスを出したのは鎌田だった。
いずれもパスの“受け手”にも“出し手”にもなれる鎌田のストロングポイントが表出したシーンだが、周囲との連携が完成されていないクリスタル・パレスではこうしたプレーはまだ少ない。プレミアリーグでも、日本代表でのような活躍を今後増やしていきたいところだ。
鎌田は言う。
「僕自身、ディフェンスの選手たちを背負いながらやるようなタイプではない。ワンタッチでボールを捌いたり、良いポジションに入って、良いところでボールを受けて──というようなプレーをやりたい。基本的にどのリーグでもやることは変わらないですけど、まだまだ良くなる感触はあります。もっと良くなるという感じですかね」
鎌田は淡々と、そしてひょうひょうと語った。クリスタル・パレスはこれからレスター戦(14日、プレミアリーグ)、英2部QPR戦(17日、リーグカップ)、マンチェスター・ユナイテッド戦(21日、プレミアリーグ)と連戦が続く(※)。
この夏、イタリアから世界最高峰プレミアリーグに挑戦の舞台を移した鎌田大地。周囲との相互理解が進めば、イングランドで輝き始める日は、そう遠くないはずである。
※日時はいずれも現地時間
<了>
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