覚醒した鎌田大地、欧州の舞台でも無双する最大の武器とは? 中盤を支配し、ゴールに絡む“凄み”の理由
ついに開幕したFIFAワールドカップ。23日に強豪ドイツに挑む日本代表において、一際活躍が期待される選手が鎌田大地ではないだろうか。ドイツ・ブンデスリーガのフランクフルトで、昨季はUEFAヨーロッパリーグ優勝に大きく貢献。今季もこれまで公式戦22試合で12ゴール3アシストを記録。多くの得点機に絡み、試合をオーガナイズし、中盤で体を張ってボールも奪う。いまや欧州ビッグクラブからも注目を集める存在だ。では、そんな多くの魅力を持つ鎌田の一番の武器とは一体なんだろう?
(文=中野吉之伴、写真=Getty Images)
クラブ史上初に貢献。ドイツナンバー1の肩書を持つ日本代表
元日本代表キャプテン長谷部誠もプレーする所属クラブのフランクフルトで、コンスタントに好パフォーマンスを披露し、もはや絶対的な存在となっている鎌田大地。
第15節終了時でドイツのサッカー専門誌キッカーにおける平均採点がドイツ・ブンデスリーガ・ナンバー1。世界最高峰のUEFAチャンピオンズリーグ(以下、CL)で日本人史上初となる3試合連続ゴールを挙げるなど、クラブ史上初となるCL決勝トーナメント進出に大きく貢献している。
今シーズン途中からはこれまで主戦場だった攻撃的MFだけではなく、より低めな位置でゲームをコントロールしたり、相手の攻撃の芽を摘むボランチでもプレーをしているが、得点機に絡み続けている。ポジションを一つ下げながらもリーグ7位タイの7得点(第15節終了時点)というのは見事としか言いようがない。
狙い通りのゴールに象徴される、鎌田の注目すべきワンプレー
難しいボールでもうまく自身のコントロール下に置き、滑らかでスムーズな動作からチームにポジティブな影響をもたらすプレーができるのが鎌田の素晴らしさの一つだ。
限られた条件下だけではなく、試合の流れにおけるそれぞれの状況に応じて適切なプレーを選択できるプレーインテリジェンスを持っている。そして「得点の可能性が高くなりそうなスペースと状況を把握し、タイミングよく走り込んだり、待つことができる」のが彼の持つ大きな特徴だ。
プロサッカーという世界では、技術的なミスによるものよりも、戦術理解の不足や不一致、状況認知・判断におけるズレやミスによってボールを失うことが全体の80%とされている。その点、鎌田はチャンスに絡む局面での認知・判断の質が極めて高い。ボランチの位置でプレーしていてもゴールに絡む頻度が多いのは、そのあたりの感覚が優れているからだ。
10月に行われたCLグループステージ・マルセイユ戦のゴールはまさにそんな鎌田の良さが凝縮されたものだった。この日もダブルボランチの一角としてスタメン出場を果たした鎌田がチームに貴重な先制点をもたらす。
開始わずか3分、攻め上がった左センターバックのエヴァン・エンディッカからのパスをペナルティーエリア前で受けると、完璧なコントロールでゴール方向へボールを運ぶ。次のボールタッチで微調整をし、3タッチ目で冷静かつ正確なシュートをゴール右へと決めたのだ。
このシーンで重要だったのは、鎌田の攻め上がりのタイミング。エンディッカが味方とのワンツーで左サイドを駆け上がったとき、ペナルティーエリア前のセンターにはマルセイユの中盤が守備組織を整えることができずに、ぽっかりとスペースが空いていた。
鎌田はそのことを瞬時に認知しながら、すぐにダッシュで入り込まなかった。動き出しは早ければ早いほうがいい訳ではない。こちらが動けば相手が気づく。相手が対処できないタイミングで動き出すことで、よりゴールへの可能性を高めることができる。
この場面で鎌田は、同僚のデンマーク代表FWイェスパー・リンドストロームが相手DFと並走しながら動いているのを察知し、その後ろへスルスルと移動。鎌田の意図を理解したリンドストロームはパスに触れずにそのままスルーし、鎌田はゴールへ前を向いてスピードに乗り出した状態でボールを受け、必死で守ろうとする相手DFをしっかりとブロックしながら、見事にゴールを決めた。このゴールに鎌田本人も狙い通りであったと語った。
「相手がマンツーマン(守備)でやってくる戦術だったので、うまく前に入っていけたらいいなと思っていた。イェスパーがスルーしてくれたので、ファーストチャンスをしっかり決め切れて良かった」
「今年と去年までとを比べると…」鎌田本人が語る役割の変化
鎌田本人は自身が今季多くのゴールに絡めている理由についてどのように感じているのだろう。
「今年と去年までとを比べると、フィリップがいるといないのとで自分の役割はかなり変わってくる」
以前、そんなふうに話していたことがあった。フィリップというのはセルビア代表MFのフィリップ・コスティッチ。昨シーズンまでフランクフルトで攻撃の切り札として活躍し、今季からイタリアの名門ユベントスでプレーする選手だ。爆発的なスピードとダイナミックなドリブルで彼が左サイドを駆け上がり、そこからのクロスやシュートでチャンスをつくるというのがフランクフルトにおける大事な生命線だった。実際にコスティッチは高い確率でゴールやアシストを決めていく。鎌田にしてもボールを持ったらまずコスティッチへパスを展開できるかどうかを探るのが定石だった。
「僕が今担っているのはアシストよりも、そのアシストの1個前。チームとしてはうまくフィリップを使ったり、前線にもシュートがうまい選手がいっぱいいる」
当時、フランクフルトにおける自身の役割を鎌田はそのように説明していた。選手は自分の求めるプレーだけをするわけにはいかない。チームにおけるそれぞれの役割がある。それを的確に理解し、実践し、その中でプラスアルファの力として個々の能力がチームのために生かされることが重要なのだ。
求められるタスクに徹し、自身の成長のための努力も怠らない姿勢
鎌田自身もヨーロッパでゴールを量産した経験を持つ。サガン鳥栖からフランクフルトへと移籍した初年度は試合にほとんど出られないまま終わったが、出場機会を求めて2年目にベルギーのシント=トロイデンVV(以下、STVV)へレンタル移籍すると、ここでシーズン15得点を挙げる活躍を見せた。翌シーズン、深めた自信とともにフランクフルトへ戻った鎌田は当時監督だったアディ・ヒュッターからその資質を高く評価され、スタメン出場が増えてきたのは記憶に新しい。
だが、STVVでゴールをたくさん決めたからといって、フランクフルトでも同じ役割を担うわけではない。選手の組み合わせも、チームとして求めるサッカーだって違う。当時鎌田よりもゴールを決める能力に秀でた選手がいるなら、監督としてもその選手を生かす戦い方を考えるだろう。鎌田自身も当時からそんな自分の立ち位置を正しく理解していた。
「(STVVでは)点は取れましたけど、点を取る以外何もしていないと思う。上に戻るために僕自身点がほしかっただけなので、点だけにこだわりました。点を取ればFWだったり、いろんなイメージがつくと思いますけど、それはメディアの皆さんがどう書くかで変わってくると思います」
フランクフルトでまず出場機会をつかむためにはチームに求められる役割を的確にこなして信頼を確かなものにしなければならなかった。ゴールに絡むことだけを考えたら、そもそもピッチに立つこともできなかったかもしれない。そんな取り組みをしながらも、自身のプレーをさらに成長させるためにどうしたらいいかと向き合い続けてきたことが、今の鎌田をつくり上げている。
「僕自身もっとうまくゴール前に入っていって、自分自身のチャンスも増やさないとダメだと思う。自分がうまくドリブルではがしてシュートだったりとか、まだまだもっと成長できるところはある。もっとやっていかないとダメかなと思いますね」
自己批判を正しくできる選手なのだろう。求められるタスクに徹しながらも、自身のさらなる成長のための常に努力を怠らない。だからこそ、コスティッチがクラブを去ったあと、ゴールへの可能性を持った重要な選手の一人として、鎌田のもとへボールが集まるようになっているのだ。
気がついたらドイツ代表GKマヌエル・ノイアーと1対1の場面が…
それにしても当時の鎌田には、今の自分の姿がイメージできていたのだろうか。おぼろげかもしれない。でもたぶんできていたのだと思うのだ。
今から約3年前、STVVからフランクフルトに戻り、ブンデスリーガ開幕前にあったUEFAヨーロッパリーグ・プレーオフのファドゥーツ(スイス)戦後に、こんな話をしていたことを思い出す。
「僕の感覚的には(フランクフルト移籍当初も)サッカーのプレー自体は通用していなかったとは思っていない。いろんな積み重ねでうまくいかなかった。若かったし、体も少し線が細くてまだ(フィジカル的に)弱かったり。そういうところはみんなにも言われていたし、監督にも言われていた。そこはこの2年である程度改善できたと思う。でもボールを持ったところはね、今も昔もそんなに変わらないと僕は思っている」
自分への確固たる自信があり、妥協せずに身につけてきたさまざまな力がある。そして今、鎌田は“点を取るだけの選手”ではない。攻守にゲームをオーガナイズし、チームのためにできることを的確にこなし、体を張って相手ボールを奪い取り、状況に応じてゲームの流れをコントロールする。その上でタイミングよくゴール前にも顔を出し、鮮烈に得点を重ねている。そう考えると、鎌田は日本人選手の欧州における評価をアップグレードしてくれた存在といえるかもしれない。
「鳥栖のときもそうだったし、自分が上に行ったときにやりたいポジションが自分の中にあって、そのためにはこういう強度の高いチーム(フランクフルト)でやっていくことが大事。日本人で4大リーグでプレーできる選手はなかなか出てきていない。ブンデスも日本人が少なくなった。また日本人が評価されるように頑張っていきたいと思いますね」
2019年10月、ヨーロッパリーグのスタンダール・リエージュ戦後に鎌田はそう口にしていた。あれから3年、鎌田はブンデスリーガを代表する選手へと成長した。プレー内容的にもゴールやアシストという結果的にも、だ。
鎌田は、初参戦するワールドカップでどんなプレーを見せてくれるだろうか。ドイツ代表関係者の誰もが鎌田の才能を知っている。要注意人物の一人として間違いなく、厳重なチェックを受けているはずだ。それでも、鎌田ならばそうした警戒網をするりとかわして、気がついたらドイツ代表GKマヌエル・ノイアーと1対1の場面、なんてことも十分にあり得る。そんな鎌田のプレーをワクワクして見守りたいではないか。
<了>
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