なぜ東芝ブレイブルーパス東京は、試合を地方で開催するのか? ラグビー王者が興行権を販売する新たな試み

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2025.03.12

3月1日に開催されたジャパンラグビー リーグワン第10節・東芝ブレイブルーパス東京×クボタスピアーズ船橋・東京ベイの試合は、ブレイブルーパスが31-27で接戦を制した。関東を拠点とするチーム同士の対戦だが、この試合は鹿児島県の白波スタジアムで行われ、6056人の観客を集めて大きな盛り上がりを見せた。ブレイブルーパスは3月30日開催の第13節は北海道の大和ハウス プレミストドームでホストゲームを開催する。その背景を探ると都市圏のラグビーチームと地方のラグビー協会が共に取り組む「お金を集めて人も育てる」新たな仕組みが見えてきた。

(文=向風見也、写真提供=JRLO)

強いチームを持続するべく新たな取り組みを

活気づいている。

ジャパンラグビー リーグワンに加盟する東芝ブレイブルーパス東京は、昨年5月に行われた前年度のプレーオフで14季ぶりの日本一に輝いた。旧トップリーグ時代には責任企業の傾きが報じられるとともに一時低迷も、段階的な再建策が奏功して頂点に立った。

運営面にも注目が集まっている。レギュラーシーズンの公式戦をそれぞれのホストチームが運用する現リーグワンが発足されたのは、2021年のことだった。それと同時期に、ブレイブルーパスは親会社の傘下から離れて分社化。自分たちの活動費を自分たちで稼ぐ必要が高まったことで背中を押されてか、挑戦的な施策を次々と打ち出す。

練習試合は有料としながら、近隣のラグビースクールを集めた独自の「ルーパスカップ」という大会に出た子どもは無料で招待した。グッズも拡充し、各会場のブースで1回5000円以上の購入をしたファンは選手の即席サイン会に参加できる日も作った。

本拠地での公式戦では、東芝グループ黄金期きっての営業マンと呼ばれた荒岡義和社長がキックオフ前に挨拶。マッチデースポンサーとなった企業のサービスを宣伝し、どこか景気のよさをにじませる。ノーサイド後は、出場選手が来場客の帰りをハイタッチで見送る「ファミリーロード」を実施。ふれあいの機会を作った。

顧客満足度アップとチーム成績がマッチしてか、昨季の平均観客数はその前年度の約1.7倍となる約1万人超に、親会社以外からの収入は前年度比で1.7倍増の約5億7000万円に伸ばした。

強いチームを持続可能なものとすべく、いま進行中のシーズンへも新たな取り組みを始めた。興行のスキーム作りだ。

第10、13節の興行権を2つのラグビー協会へ販売

リーグワンのクラブにとっての問題に、ホストゲームでのスタジアム確保と収支計算がある。

1部加盟12チームのうち過半数が関東近郊で練習するが、都市圏で新たなフットボールの会場を設けるのは至難の業だ。既存の大型会場の多くは、サッカーJリーグとの兼ね合いから定期的に使えるわけではない。さらに今季に至っては、ワールドカップから1年以上が経過していることもあり大入りも期待しづらい。公式戦を事業として成り立たせるのに、いくつものハードルが課されていた。

この難局を打破すべく、いくつかのチームは地方開催の可能性を模索。ブレイブルーパスもその一つだが、その運用の仕方と展望によって興味を引く。

今シーズンは第10、13節の興行権を、それぞれ鹿児島、北海道のラグビー協会へ販売した。一般的なプロスポーツに準じた金額で譲渡し、それぞれの地域の関係者にチケットの販促、支援企業の募集を委ね、作った儲けを各団体の資金にしてもらうよう促した。 最初にこの流れに乗ったのは、第10節の鹿児島である。旧トップリーグ時代からチームのキャンプを実施し、県出身の桑山聖生、淳生の兄弟も同部へ所属と縁が深い。

当初は「今年度の実施は難しい」と考えたが…

鹿児島市役所の観光交流局スポーツ課に務める東上床隆は、昨夏、チームからこのオファーを受けた。「地域活性化につながる。中高生に一流のプレーを生で見る機会も与えられる」と実現できるかを探った。かねて知己のあった、鹿児島放送の今田和也へ相談した。

今田は、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスが鹿児島で試合をする催しにも携わっていた。自治体からの情熱的な依頼を受け、試算を練った。

当初は「今年度の実施は難しい」と考えたが、開幕の近づいていた11月に潮目が変わった。鹿児島県協会と連携を図る東上床のもとに、大口の支援企業が現れたというしらせが入ったのだ。これで収支の安定が見えた。

状況の好転を知った今田は、局の幹部に「自治体からの依頼で、それが県民のラグビーファンの悲願であるならばやるべきではないか」と上申した。損益に関するバックアップを取りつけたうえ、「10~15社」の新規スポンサーも獲得できた。今田は補足する。

「もともとブレイブルーパスさんや県のラグビーを応援している企業さんに協賛を申し出ていただきました。ブレイブルーパスさんにも(各企業に)『これから担当者が出向くから話を聞いてほしい』と言っていただくなど、ご協力いただきました」

2人はラグビー経験者ではなく、今田は「つい最近、『ONE TEAM(2019年のラグビー日本代表が用いた流行語)』という言葉を知りました」。本番が近づくにつれ、それまで触れてこなかったラグビー界の潜在能力に敬服してゆく。 「応援してくださる企業の方々、県協会の方々がポスターを送ってくれとよくおっしゃってきました。『もっと知り合いにチケットを紹介したいから』『行きつけの飲食店に貼りたいから』と。その方々に何か利益があるわけではないのに、『KKB(鹿児島放送)が頑張っているから』と……。この仕事をやっていてよかったと心から思える瞬間になりました」

リーチ マイケルの凱旋控えた北海道「ラグビーの日」

3月1日、白波スタジアム。クボタスピアーズ船橋・東京ベイとの一戦には、当初の見込みよりも2000人多い6000人が集まった。事業の黒字化は確実だ。ファンが集うスタンドを見た東上床は、感無量だった。

「朝を迎えた時にすごくいい天気で、気温も高くて……。感動しました」

このほど、興行のアウトソース化を加速させたのは星野明宏。電通、静岡聖光学院中・高の校長などを歴任し、事業会社となったブレイブルーパスでプロデューサーを務める。

今度の枠組みは、地方のラグビー業界に活力をもたらすと確信している。

クラブが赤字を背負うリスクを減らしながら、馴染みの深い地域の競技団体に試合運営のノウハウを蓄積させられる形だからだ。興行で収益を作れる競技団体があれば、その地域における選手育成、競技人口にもよい影響があると見る。

鹿児島側もその意を汲む。かつ、第13節を担う北海道協会も同調する。同協会は、かねて「北海道ラグビーの日」を定期開催している。

ここには大学やリーグワンの試合を招致。丹羽政彦・北海道ラグビーフットボール協会理事曰く「中小企業や個人オーナーの会社にラグビーが好きな方はいっぱいいる。仲間になっていただく」とのスタンスで、対象企業の大小を問わず「ラグビーの日」のためのサポーターを募る。

試合会場となる大和ハウス プレミストドーム(旧札幌ドーム)には、北海道の食を楽しむ「グルメガーデン」を展開する。さまざまに得られた収益を競技の普及、若年層の強化、ひいては地元出身のトッププレーヤーが指導者として戻るための場作りに活かしたいとする。その流れで、高校年代の人口減少にストップをかけたい。

丹羽はこの「ラグビーの日」を、「地方でラグビーを招致するためのモデル(ケース)」にできればと願う。

今年3月の「ラグビーの日」は、興行権を引き受けたブレイブルーパスのリーグワン第13節に充てる。

前述の星野は、昨冬から興行の大規模化について丹羽と会談。前年度の「ラグビーの日」で、スピアーズがホストゲームをした際にも現地入りして口説いた。

15歳で来日して札幌山の手高で研鑽を積んだリーチ マイケルは、日本代表のレジェンドでありブレイブルーパスの現主将だ。凱旋を3月30日に控え、1月には本人が現地でプロモーション活動を展開。名物選手が深く関わることで、「ラグビーの日」の支援規模を拡大させられればと星野は考える。

関わる者のすべてに金銭的なメリットがありながら、かつロマンのある仕組み。今後これがどう展開するかも注目される。

<了>

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