146センチ・45キロの最小プロファイター“ちびさいKYOKA”。運動経験ゼロの少女が切り拓いた総合格闘家の道
運動経験ゼロの少女が、叔父の影響で始めた格闘技。高校入学前にフィットネス感覚で道場に通い始めた“ちびさいKYOKA”は、小柄な体でプロの世界に飛び込み、女子総合格闘技「DEEP JEWELS」のミクロ級で奮闘を続けている。決してエリートではなかった彼女が、実力でつかみ取ったプロの舞台。格闘技に魅せられ、勝てない時期も自分を信じて歩んできた小さな挑戦者に、いま胸にある思いを聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真提供=DEEP、本文写真提供=Things、DEEP)
内気でおとなしかった幼少期。趣味は裁縫
――試合映像を拝見すると、小柄ながらとてもエネルギッシュで、前に出る気持ちの強さやパワーが伝わってきました。幼少期はどんな子どもだったんですか?
KYOKA:小さい頃は自分を表現するのが苦手で、おとなしい性格でした。ちょっとしたことを気にして引きずってしまうような内気な子だったと思います。スポーツが好きなわけでも、負けず嫌いでもなかったんですが、格闘技を始めてから少しずつ気持ちが強くなっていきました。
――小さい頃から、周囲と比べても小柄だったのですか?
KYOKA:はい。遺伝もあると思いますが、小さい頃から少食で、あまりたくさん食べられるほうではなかったんです。
――中学生時代は家庭科部、高校では生活文化科。裁縫が趣味だそうですね。手先が器用だったんですか?
KYOKA:そうですね。小さい頃から細かい作業が好きで、いろんなものを作っていました。小学校低学年の頃はまだ意識していませんでしたが、高学年になると「完成させる喜び」や「達成感」を感じるようになって、どんどん夢中になっていきました。高校もその力を活かせる学校を選びながら、並行してジムにも通っていました。今は格闘技に集中していて、裁縫はあまりできていませんが。
――内気だった少女が格闘技を始めたのは意外でした。
KYOKA:私は中学卒業まで運動経験はなかったんですが、ブラジリアン柔術をやっていた叔父の影響で、よく一緒に道場について行っていました。それがきっかけで興味がわき、総合格闘技の道場を見学に行ったんです。キックボクシングをイメージして行ったのですが、ミットやサンドバッグを打つのがすごく楽しくて。高校入学前に、フィットネス感覚で今のSAI-GYM(サイジム)に通うようになったのが始まりです。
浅倉カンナ選手に憧れて
――パンチを受けながらも諦めずに立ち上がる姿が印象的です。格闘技のどんなところに魅力を感じていますか?
KYOKA:練習で教わった動きや、自分のやりたい動きができた時が一番うれしいですね。練習を積み重ねることでできることが増えていくことが楽しくて続けています。対人スポーツなので、相手をコントロールできた瞬間にも喜びを感じます。
――フィットネス感覚だった格闘技に、本格的にのめり込んでいったきっかけは?
KYOKA:フィットネス感覚で通っていると、実際の対人練習はあまりやらないんですよ。だから最初はミットやサンドバッグばかりでしたが、他のクラスで対人練習を見るようになり、「こんなに迫力があってかっこいいんだ!」と衝撃を受けて、どんどん魅了されていきました。
――その中で、プロ選手を目指そうと思ったきっかけはどんなことだったのでしょうか。
KYOKA:最初は週1回の練習でしたが、徐々に週2〜3回通うようになって、他のクラスで選手がスパーリングしているのを見て「かっこいい!」と感じたんです。当時、女子選手はサイジムにいなかったんですが、「DEEP JEWELS(ディープ・ジュエルス)」の試合を観戦して、同じ女性でもこんなに輝いている人がいるんだと感動して。「私もこの舞台に立ちたい」と思うようになりました。
――影響を受けた選手はいますか?
KYOKA:昨年引退しましたが、総合格闘家の朝倉カンナ選手です。RIZINの舞台でも活躍していて、お話した時に同い年と知って、すごいなと。彼女が輝く姿に背中を押されて、格闘技への思いが変化していきました。
――試合では流血することもあります。痛みや恐怖への抵抗感はどのように克服したんですか?
KYOKA:最初は怖かったですし、そもそも人を殴ること自体に抵抗がありました。でも、練習を重ねるうちに慣れていって、今ではパンチをもらっても当てても喜べるくらいです(笑)。

12年目でつかんだプロ初勝利。得意技はバックチョーク
――プロになるために意識的に変えたことは?
KYOKA:プロを目指すと決めてからは、週5〜6回ジムに通って筋トレも強化しました。体つきも以前より筋肉質になって、「変わったな」と見た目でも分かるくらいです。それでも“ちょっとふっくらしたかわいい体型”って感じだと思いますが(笑)。
――練習と試合を重ねる中で、特に磨かれてきたと感じるのはどんなスキルですか?
KYOKA:相手の動きを少しずつ読めるようになってきました。このポジションからは何が起こるか、次にどんな展開があるかといった選択肢が見えてくるようになって、相手をコントロールしやすくなってきたと思います。スピードにもだいぶ目が慣れてきました。
――一番の得意技を教えてください。
KYOKA:バックチョーク(相手の背後から片腕を首に巻きつけて締める技)です。自分の形に持ち込んで、相手をコントロールしながら得意技につなげられた時は本当にうれしいですね。
――サイジムに入門して12年目になるそうですね。これまでで一番うれしかった瞬間は?
KYOKA:デビューから3連敗していたので、4試合目で初勝利できた時は本当にうれしかったです。試合前は不安で「また負けるのかな」とネガティブになっていたんですが、判定勝ちが決まった時に「毎日トレーニングを続けてきてよかった」と心から思えました。
――2022年9月の公式戦での初勝利ですね。翌年2月にはリアネイキッドチョーク(背後からの裸絞め)で一本勝ち、2連勝を収めました。接近戦ではどんな駆け引きを?
KYOKA:相手をどう誘い込んでパンチを当てるか、懐に入って組みにいくか、といった駆け引きを考えながら、自分のペースに持ち込むことを意識しています。そのためのイメージトレーニングもよくしています。

増量と勝負飯で試合に臨む
――プロになってからは、フィジカルトレーニングも力を入れているのですか?
KYOKA:はい。身長は伸びていませんが、体重は増量して少しずつ増やしています。
――試合に向けた体重管理では、どんな工夫をしているんですか?
KYOKA:周りの選手は試合前に減量で体を絞りますが、私は増量が必要なので、お肉をしっかり食べたり、満腹でもさらに詰め込んだりしています。筋肉をつけながらの増量を目指しています。
――試合前に必ず食べる「勝負飯」は?
KYOKA:私はお寿司が大好きで、必ず食べています。生ものは良くないかもしれませんが、試合前に東京で計量した後に食べています。一番好きなのはマグロ。お寿司なら量もたくさん食べられるんですよ。
――試合では毎回編み込みヘアですね。髪型を変えるのは勝つためのルーティンですか?
KYOKA:ルーティンは特になく、試合前はいつも通りに過ごしているんですが、髪型は行きつけの美容室で、毎回「コーンロウ」という細かい編み込にしてもらっています。気合いを入れる意味もありますし、女子選手は髪が長い人が多く、試合中に組み合うとボサボサになって集中できなくなるので。集中する意味でも編み込んでいます。髪型へのこだわりは、他の選手を見ていても強く感じますね。
【連載後編】「夢はRIZIN出場」総合格闘技界で最小最軽量のプロファイター・ちびさいKYOKAが描く未来
<了>
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[PROFILE]
ちびさいKYOKA(ちびさい・きょうか)
本名は皆川杏佳(みながわ・きょうか)。1997年7月1日生まれ、新潟県出身。総合格闘家。身長146cm、体重45kg。女子総合格闘技「DEEP JEWELS」ミクロ級(44kg以下)を主戦場に活躍。中学時代まで運動経験はなかったが、おじの影響で高校入学前に「SAI-GYM」に入門。2020年アマチュア大会で優勝、翌2021年に“SAI-GYMのチビ”を意味する「ちびさいKYOKA」というリングネームでプロデビュー。通算成績は2勝6敗1無効試合。将来の目標は、総合格闘技イベント「RIZIN」への出場。
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