SVリーグ初年度は成功だった? 「対戦数不均衡」などに疑問の声があがるも、満員の会場に感じる大きな変化

Opinion
2025.06.02

興行面で見ると「成功した」といえるバレーボール「SVリーグ」初年度。一方で、試合数増加によるハードスケジュール、対戦数の不均衡などについて選手や監督、ファンから不満の声があがるなど、さまざまな課題も見え隠れするシーズンだった。そうした課題は来季以降解消できるものなのか? 大河正明チェアマン、選手、監督、クラブ関係者のコメントとともに改めて今季を振り返る。

(文=米虫紀子、写真=西村尚己/アフロスポーツ)

観客数増加、レベルアップに成功した「SVリーグ」元年

昨年10月11日に開幕し、約7カ月にわたって行われたバレーボールの国内リーグ「SVリーグ」は、男子・サントリーサンバーズ大阪、女子・大阪マーヴェラスの優勝で幕を閉じた。

昨季までの「Vリーグ」が「SVリーグ」として生まれ変わった今季(2024-25シーズン)はひとまず盛況、成功だったといえるだろう。レギュラーシーズンの総入場者数103万4667名(前シーズン比204%)という数字が何よりそれを物語っている。もちろん試合数が大幅に増えたことが要因の一つであり、女子は苦戦したという現実もあるが、男子については1試合あたりの平均入場者数が3021名で、前シーズン比143%と確実に増加した。

11月3日に有明アリーナで開催されたサントリー対東京グレートベアーズ戦では、過去最多の入場者数1万1599人を記録。サントリー、東京GBはホームゲーム来場者数が10万人を突破し、大阪ブルテオンはホームゲームの全試合でチケットが完売した。

Vリーグ時代から取材してきた中で、忘れられない言葉がある。ウルフドッグス名古屋の横井俊広社長の言葉だ。

企業スポーツとして発展したバレーボール界は、これまで幾度もプロ化に挑んでは挫折してきた。2018年にも、Vリーグ機構が将来的なプロ化を目指し、チームの事業化を促したが、ほとんどのチームの動きは鈍かった。そんな中で先陣を切ったのが当時の「豊田合成トレフェルサ」だった。チームを運営する会社を立ち上げ、チーム名も「ウルフドッグス名古屋」と一新して再スタート。自前のアリーナ「エントリオ」も建設した。当時、横井社長はこう語っていた。

「バレーボールを育んできた学校体育の美しい世界を守り続けるという考え方もあるのかもしれませんが、他競技も含めこれだけエンターテインメントが多様化している中で、その路線だけでずっとやっていくのはもう無理だと思うんです。プロなんて一切目指さずに、企業と学校体育の中だけで、閉ざされた世界でやっていくというのならそれでいいのかもしれませんが、その代わりお客さんも増えないし、競技人口も増えないかもしれない。本当にそうなりたいんですか?と言ったら、それは違うと思う。やっぱり、たくさんの人に楽しんでもらって、見てもらって初めて、選手も喜びがあるし、価値があると思いますから。それ以外に目指すところはないはずです」

“たくさんの人に見てもらって初めて、選手も喜びがある”。

今シーズン、満員の会場で繰り広げられる熱戦の数々を目の当たりにして、この言葉を何度も思い出した。

試合後のコートインタビューで選手が発する「皆さんの声援が後押しになりました!」という声が、これまで以上に実感を帯びていた。

「対戦数の不均衡」など課題も浮き彫りに

昨夏のパリ五輪で日本代表への注目度が非常に高まっていたことや、海外リーグでプレーしていた髙橋藍がサントリー、宮浦健人がジェイテクトSTINGS愛知に加入し、人気選手がSVリーグに参戦したことも大きかったが、各チームのホームゲームへの本気度も以前とは違った。

また、試合内容も観客を惹きつけるハイレベルなものだった。今季から外国籍選手枠が1人から2人に増えた効果が大きい。サントリーのミドルブロッカー小野寺太志はこう話していた。

「外国人選手が増えて、リーグのレベルは格段に上がった。1試合1試合のストレスや負荷はすごく強くなったし、お客さんもとてもレベルの高いバレーを見ることができていると思うので、僕ら選手にとっても、お客さんにとっても、プラスなことは多かったのかなと思います」

一方で課題もあった。特にシーズン終盤、選手や監督、ファンからも試合数の多さや対戦数の不均衡などについて、SNSや記者会見の場等で疑問の声があがった。

今季はレギュラーシーズンが44試合で、昨季の男子36試合、女子22試合より大幅に増加。特に女子は倍に増えており、Astemoリヴァーレ茨城の中谷宏大監督(24-25シーズン限りで退任)は、クオーターファイナルを終えた後、ケガ人が多く出たシーズンを振り返り、こう問題提起した。

「想定していたよりもいろいろなことが起きました。レギュラーシーズンの試合数や、対戦数が不均衡なところなど、見直さなければいけないところがある思う。選手にとって何が一番いいのかというところはもう少し考えてほしい。もしファイナルまで行ったとしたら、そのあとすぐに代表シーズンが始まり、日の丸をつける選手は体も心も休まる暇がない。レギュレーションとしてどうなのか、1年やったからこそ、いろいろとまた考えなければいけないのかなと感じます」

アメリカ代表で、ブルテオンに所属したアウトサイドヒッター、トーマス・ジェスキーは、「リーグは選手の体調面もしっかり見てほしい。ビジネスだということはわかりますが、選手の健康や体調より、お金を儲けることを考えていると感じる。レギュラーシーズンの対戦数も不均衡で、例えばブルテオンはサントリーよりも強いチームとの対戦数が多かったと思う。日本の組織やバレーの環境は素晴らしいと感じるからこそ、そういった点を変えればベストなリーグになれると本当に思っています」と、日本を離れる前に率直な思いを語った。

特に対戦数の不均衡には疑問の声が相次いだ。男子は6回対戦するチーム(4チーム)と4回対戦するチーム(5チーム)があり、女子は4回対戦するチーム(9チーム)と2回しか対戦しないチーム(4チーム)がある。当然、強い相手と数多く当たるチームは順位争いの上で不利になる。

レギュラーシーズン2位だったサントリーの小野寺もこう話していた。

「改善してほしい点としては、6試合と4試合があるのはなんなんだろうか?と思うところはある。例えばブルテオンは結構上位のチームと当たることが多かったので、フェアじゃないのかもな、と。でもその中で勝ち抜いて、ブルテオンがレギュラーシーズンで優勝した価値はすごく高いと思っています。そこはリーグの説明を聞かなきゃいけないし、どういう意図があるのかを理解しなきゃいけないかなと。やりながら言っても変わらないので、シーズンが終わったタイミングで、意見がまとまればいいのかなとは思いますね」

大河正明が目指す世界「バレーは選手が恵まれてなさすぎる」

リーグの全試合終了後、取材に応じたSVリーグの大河正明チェアマンは、「2年前の4月に、44試合でやることや、平等な対戦数でない可能性があることなどはご説明していましたが、それがクラブから選手にどんな形で降りているのかは、つかみきれていなかった。選手からすると、そんな話聞いてなかったよ、というふうなことがあったのかもしれない」と話し、改めて今季の形式になった経緯を説明した。

バレーボール界では、国際バレーボール連盟(FIVB)によって、代表シーズンとクラブシーズンが明確に決められている。そのクラブシーズンの中で、各国がリーグ戦やカップ戦を行う。

「そのクラブシーズンをフルに使いましょうというのが最初の議論でした。その中でチャンピオンシップ(プレーオフ)や天皇杯・皇后杯に使う週があり、レスト週を3週ほど設けた場合、何週末をレギュラーシーズンに使えるのかをチームとかなり議論し、その中で22週末、44試合と決まりました。

 チーム数は最大16ぐらいまで増やそうと考えている中で、今男子は10、女子は14チーム。その中で平等な対戦数だけを考えていると、今後チーム数が12、14、16と増えた場合、そのたびに試合数が変わる。それはプロチームにとっては死活問題です。安定した試合数が求められるため、公平ではない対戦数が起きることを許容してやっていこうということになりました」

その中で、男子でいえば6試合当たるチームと4試合当たるチームの振り分けについては、当初、前シーズンの成績によって1位と2位は分かれる、3位と4位も分かれる、という形でできるだけ均等に振り分けるつもりだったが、ここでアリーナ問題が立ちはだかった。例えばイタリア・セリエAのように、優先的に使用できるホームアリーナがあれば可能だが、日本はまだ程遠い状況。自前のアリーナを持つWD名古屋やブルテオンなどを除けば、アリーナの確保に四苦八苦しており、なかには11週ギリギリしか抑えられなかったチームもあって思い通りに対戦カードを組むことができなかったという。

「試合日程を組む上で最大のウィークポイント」とチェアマンが言うアリーナ問題は、選手にとって負担の大きい土日の連戦や、プレーオフの試合数をなかなか増やせないことにも影響している。

大河チェアマンは、「これだけはわかってほしいのですが」と前置きしてこう語った。

「僕は何事も、独断で決めることはありません。僕はガバナンスの人間ですから。もちろん『こっちに行こうよ』とリーダーシップを発揮することはしますけど、(クラブの代表者が集まる)実行委員会や、理事会、社員総会などで意見を聞いた上で決めています。

 もう一つは、僕はこの仕事を引き受けるに当たって、ファンはもちろん、選手や指導者、スタッフ、審判などバレーに関わる人が幸せになるようなリーグにしたいと思った。僕がこれまでJリーグやBリーグに関わってきた知見を生かせば、バレーがいい方向に変わるんじゃないかと。じゃあ何が幸せかというと、人によって違うとは思いますが、選手も指導者も、多くのお客さんに囲まれた中で試合ができて、報酬も増える、そういう世界を作っていくことなのかなと。

 バスケットでは、僕は給料を上げてくれた人だと思われていて、だから今でも選手に受けがいいんです。でもバレーボールでは全然受けがよくない(苦笑)。だけど僕はバレーボールには可能性があると信じているし、1億円プレーヤーもいっぱい出したい。バレーは昔から人気があって、代表の世界ランキングも上のほうなのに、選手が恵まれてなさすぎると思うので」

西田有志の前向きな言葉「お互いに協力し合うことが第一」

2025-26シーズンについては、形式を変えるか変えないかも含めて議論の最中だという。女子についてはリニューアル予定だが、やはりリーグとしては、長い目で見てクラブの経営を安定させるために、シーズンによって試合数が増減することはできるだけ避けたい意向があるようだ。

一方で、選手は「1年1年」が勝負。ブルテオンのミドルブロッカー山内晶大はこう話す。

「1試合、1点で結果や順位が変わることもあるじゃないですか。今シーズン結果が出ないとクビになる選手もいる。引退がかかっているから、今季は何がなんでも結果を残したい、優勝したいという中で、よくわからない方式だったら……。最初に説明してくれればまだ納得できるかもしれないですけど。選手は現役でできる期間に限りがあるので、1年1年、1試合1試合、1点、1球ごとに寿命が縮まっている。その大事さもわかってほしい」

5月19日に行われたブルテオンのクラブ感謝デーでは、久保田剛代表がファンの前で謝罪した。

「今シーズンのチャンピオンシップの頃に、何人かの選手から、リーグの制度設計、試合の組み合わせなどに対して問題提起がありました。その後、リーグのほうからは大河チェアマンが取材に答える形で説明をしてくださったりしていますけども、クラブの中でも、選手たちにちゃんと説明ができていなかった部分があったと思います。コミュニケーションが足りなかったこと、ファンの皆さんにもしっかり説明ができていなかったことに関しては本当にお詫びをしたいと思います。申し訳ありませんでした」

ブルテオンの選手は説明を受けたが、その上で、「ファンの人たちは知らなくていいんですか? リーグが、クラブを通してとかじゃなく直接SNSやホームページで説明すればよかったのでは?」という声もある。

ブルテオンのオポジット西田有志は、改めて今後リーグ側と意思疎通を図っていくと語った。

「こういう理由だったよというのはお話をしていただいたので、来シーズンはそこは明確にできるんじゃないかなと思いますし、自分たちだけじゃなく、見にきてくださる方々にもそういう話をしたほうが、たぶんよくなる。どうしても不満というのは生まれるにしても、今以上に増えることはないと思うので。

 今後もSVリーグの事務局とお話をさせていただく機会をいただいていますし、選手会(の立ち上げ)に関してもやっと動き出せます。長い時間はかかるとは思いますけど、SVリーグがよりいいものになるよう、お互いに協力し合うことが第一なので。まず(今季は)これがこうでしたよと、話をしっかりすり合わせることが非常に重要だと思います」

より多くの選手、関係者、ファンが納得して、さらに楽しめるリーグに。西田の前向きな言葉を明るい材料と捉えたい。

<了>

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