町野修斗「起用されない時期」経験も、ブンデスリーガ二桁得点。キール分析官が語る“忍者”躍動の裏側
6月10日に行われたFIFAワールドカップ・アジア最終予選、インドネシアを相手に1ゴール2アシストの活躍を見せた町野修斗。2024-25シーズンのドイツ・ブンデスリーガでリーグ戦11得点をあげた勢いそのままに日本代表でも結果を出した。とはいえ町野にとっての欧州2年目は決して順風満帆だったわけではない。今季初めて1部に昇格したキールでシーズン開幕から5試合で4ゴールという結果を出したにもかかわらず、続く第6節レバークーゼン戦でハーフタイムでの交代を告げられると、以降数試合ベンチスタートが続いた。チームの得点源はなぜ起用されない時期を経験し、どのようにしてそれを乗り越え、二桁得点という結果を残せたのか? キールでアナリストを務める佐藤孝大の分析をもとに町野修斗の紆余曲折の1年を振り返る。
(文=中野吉之伴、写真=picture alliance/アフロ)
なぜ町野修斗は試合に起用されない時期を経験したのか?
欧州だとFWや攻撃的な選手はゴールやアシストという結果を出さなければ試合に出られないと言われがちだ。逆に数字さえ出していれば試合には出してもらえると書くメディアも少なくはない。そうした側面ももちろんあるが、点さえ取っていれば問題ないわけではない。
ホルシュタイン・キールで今季2桁得点となる11得点をマークした日本代表FW町野修斗はチームトップの得点数を誇りながら、試合に起用されない時期があった。日本メディアから届く結果中心の情報だけだと、「何で町野は出れないんだ?」となるかもしれない。ただ当たり前だが、そこにはちゃんと理由と原因があるのだ。
キールでアナリストとして活躍する佐藤孝大もそこに同意する。
「ラップ監督の場合、本当にたくさんのプレー原則があるんです。試合によって、状況によって違った動きがいろいろと求められる。当然頭への負荷もやっぱり相当高い。そうやっていろんなタスクがあるなかで、FWだから最終的にはボックスに入ってこいって話はずっとされてはいた。本人もわかってるとは思うんですけど、でもやることが多いから、なかなか入っていけない時期が続いていました」
2023年夏にキールに移籍した町野は2部で1年プレーをしてキールとともに昇格。今季はシーズン終盤になってやっと1部のサッカーにも、チームとしてのタスクワークにもフィットし、得点機だけではなく、さまざまなシーンに効果的に絡むようになってきた。ここまでたどり着くまでにたくさんの問題に直面し、多くの苦労を乗り越えてきたプロセスがあったのだ。
「ずっと言われ続けて、言われ続けて、言われ続けてきた」
町野がブンデスリーガでぶつかった壁について佐藤が続ける。
「インテンシティの高いプレーを連続でやり続けるところがずっと抱えていた課題でした。一つのプレーをして終わりじゃなくて、すぐ次のタスクのために戻らなきゃいけないポジションがあるのですが、そこに戻れない瞬間がどうしても出てきてしまう。
でもこれってすごく難しいことなんです。スプリントを何本もして、フィジカル的負荷が高いなかで同時に頭を使おうとしても脳内キャパシティが追いつかなくて、気づくべきところに気づけないなんてことが起きます。負荷の高いプレーが続くなかでも頭の回転を落とさずに、判断クオリティを高みで安定させるのは本当に大変なんです。あとはシンプルにスプリング能力や体の厚みがまだ足りないところにも取り組んでいました。ブンデスリーガとは80〜90キロある相手選手が時速34、35キロでぶつかってくる世界ですから。
彼としては『俺やってるよ!』という部分もあったとは思うんですけど、それでもやっぱり映像やデータで客観的に見ると、不足部分があらわになる。とにかくトレーニングからラップ監督やコーチ陣にずっと言われ続けて、言われ続けて、言われ続けてきたんです」
多くのワンタッチゴールが生まれた理由
戦力で劣るキールはチーム全体で連動した動きで守る必要がある。その分守備に枚数をかけるので、ボールを奪取してもすぐに攻撃へと移行しづらい。だからこそボールを奪った後に前線で時間を作ってくれる選手がいないとずっと相手の攻撃を受け続ける悪循環から抜け出せなくなってしまう。
プレスの先鋒として走り、パスコースを消し、スペースを埋める守備的タスクに加え、味方がボールを持ったら前線で相手DFを背負った状態でもどっしりと構え、届けられたボールを懐に収める。状況に応じてサイドに流れることで相手センターバックのマークから離れ、そこで起点を作る。ラップ監督はずっと町野にその役割を託そうとしていた。そしてハイレベルなタスクを任されても文句も言わずに全力で取り組み続けた町野がいた。
「何を言われてもポジティブに受け入れられるという性格なのも大きいですね。コミュニケーションも一人で全部やります。何かあったら他の選手に聞くし、そういうコミュニケーション能力もかなり身についているのではと思います。1年半かけて、どんどんどんヨーロッパサッカーにアジャストしてきていますね」
フィジカルで負けなくなり、タスクの連続にもついていけるようになった町野への監督やチームメートからの信頼は日増しに高まっていく。だがそこからがまた大変だ。タスクワークに本気で取り組みながら、なおかつゴール前でクオリティを出せるところまで自身のプレーを高めなければ、チームを勝利に導くまでの存在にはなれないのだから。
「そうなんですよね。ラップ監督も映像を何度も見せたり、話をしたりして、プレーをどんどん改善していくことを求め続けていました。実際に今年あげたゴールのほとんどがワンタッチゴールだったと思うんです。ボックス(ペナルティエリア)にタイミングよく入ってきてないと、ゴールできないシーンばかりだったんです。ああいうゴールが生まれるようになってきたのは、彼の成長した証です」
「常に代表を意識して」町野修斗がたどり着いたステージ
第31節ボルシアMG戦では決勝点を含む2ゴールでファンからの拍手喝采を受けたが、さらに第30節RBライプツィヒ戦でのゴールは衝撃的なものでもあった。
右サイドにロングボールが送られた瞬間、左サイドのハーフウェーライン付近にいた町野が猛ダッシュをスタートさせる。そのタイミング、コース取りで、もう良きボールさえ共有されればゴールが確約されたかのような抜群の動き出し。一方で、味方がまだ突破しきったわけでもなく、そこからゴール前に好クロスが送られる可能性も高くはない状況だっただけに、走ってもすぐまた守備に戻らなければならないリスクだってあった。それでも何一つ躊躇せずにスタートを切ったところが素晴らしい。
対峙する相手より先に走り出し、インサイドのコースを取ったことで、相手DFをブロックできる状況を生み出し、60メートル近くスピードを落とさず走り切り、味方からのパスを豪快にゴールへと叩き込んだ。この決断と実践は本当に積み重ねがなければできないものがある。佐藤も同意する。
「本当におっしゃる通りだと思います。どれだけタスクがあっても、さまざまなポジションを取らなきゃいけない中でも、ストライカーとしてボックスに入っていく部分に関わらなければいけない。後日行われたミーティングでも、『あのタイミングでスプリントを開始できたのがすべてだよ』という話をラップ監督がしてましたね。あとあの腕でのブロックもよかった。
2部のころから顕著でしたが、相手の勢いに押しつぶされちゃうことがやはりあったんです。ぶつかり合いで体が安定しなくて、シュート体勢に持っていけない。だからシュートも吹かしてしまうことが多くなってしまう。今年に入ってからトレーニングのときからゴールの回数は圧倒的に増えています。トレーニングで体が強い相手と毎日戦って、ディフェンスラインに屈強で優れた選手が揃っているブンデスリーガでもロングボールをしっかり収めて次につなげられるプレーができて、相手を抑えながらでもシュートを決められるところまできました」
課題と直面したら後はやり続けるしかない。ブンデスリーガの舞台で、しかも2部降格したクラブで二桁ゴールというのは並大抵ではない。あれだけのパフォーマンスができるところにまできたというのは、彼自身が耐え続けた確かな結果だ。
「常に代表を意識していて、だから点を取らなきゃいけないっていう部分が2部の頃からあった。だから本人の視線はもっと上を見ていますね。ワールドカップで結果を残すとなったらまだまだ満足できるレベルじゃないと。もっともっと改善しなきゃいけないっていう話をしています」
みなぎる自信を胸に、町野修斗はさらに次のステージへの挑戦に足を踏み出す。
<了>
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