Jリーグ秋春制移行で「育成年代」はどう変わる? 影山雅永が語る現場のリアル、思い描く“日本サッカーの最適解”
来季、日本サッカー界は大きな転換点を迎える。例年2月初旬にスタートしていたJリーグが2026年シーズンより秋開幕に変更となるからだ。来季は移行期となるため、2月から5月にかけてハーフシーズンのリーグ戦を行う。その後、欧州のサッカーシーンと同じスケジュールになるため、移籍などが今まで以上に活発になる可能性が高い。また、酷暑のゲームが減少するため、選手の負担も今まで以上に軽減されるだろう。もちろん、雪国のチームからすれば、降雪期にどうやって活動をするかという問題はまだ横たわっているが、日本サッカー界にとって一石を投じる改革となる。そうした状況下で育成年代もシーズン移行に関して検討が進められており、予算や日程に加え、気候などを踏まえた上でポジティブな議論がなされている段階だ。しかし、現状ではまだ何も決まっていない。では、どのような案が出され、どういう形に落ち着くのか。ユースダイレクターの城和憲氏を中心に議論を重ねてきたなかで、現時点での見通しをJFAで技術委員長を務める影山雅永氏に話を聞いた。
(インタビュー・文・写真=松尾祐希)
「学校の問題」を抱える育成年代の“秋春制”
日本サッカー界は新たなフェーズに入る。来季からJリーグは秋に開幕し、翌年春にシーズンを終える“秋春制”に移行するからだ。
それに合わせ、育成年代も長い時間をかけて検討を重ねてきた。2年前に影山雅永氏は「いろんな案がある」と話していたように、いくつかの案をテーブルに乗せた上で慎重に意見交換を行ってきた経緯もある。しかし、現時点ではまだ何も答えが出ていないという。
「(2022年に)技術委員長を任される前から育成部会長を自分は務めていて、その時からカレンダーの問題をどうするかという話はしてきました。これにはいろんな障壁が絡んでくるんです。学校の問題を踏まえた上で選手登録の問題をどうするのか。選手は基本的にJFAに登録をされている一方で、高体連のチームは高体連側でも登録があるので、そこの兼ね合いもあります」
影山氏が話したように、選手たちはJFAだけに登録をしているわけではない。部活動の枠組みで活動している選手がおり、3種年代(ジュニアユース年代)は中体連、2種年代(ユース年代)は高体連に籍を置き、全国中学校サッカー大会や全国高校サッカー選手権、インターハイを目指す。Jクラブや街クラブに所属している選手はクラブユース連盟にも登録されており、クラブユース選手権などの大会を戦っている。そうした登録の枠組みも踏まえて議論をしなければならず、JFAだけで決断は下せない。
(注※)選手登録には3種年代(ジュニアユース年代)なら「中体連」「クラブユース連盟」「その他」、2種年代(ユース年代)は「高体連」「クラブユース連盟」「その他」に区分けされた登録枠を選択して、はじめて選手登録ができる仕組みとなっている。
「理想は9月始まり、6月終わり」。しかし…
もちろん、育成年代も理想は秋に開幕して春に閉幕することだ。特に近年は真夏の暑さが尋常ではなく、プレーヤーズファーストの観点で言えば、安全にパフォーマンスを発揮できる状況ではない。JFAも暑熱対策に力を入れ、今シーズンからJFAが主催する大会に関しては7月と8月のゲームを原則として行わない方針を取った。
Jクラブ側としても「将来的なことを考えても秋開幕に変えてください」という声が多く、47都道府県の技術委員長たちも「理想は9月始まり、6月終わり」だと考えているという。しかし、現実的には4月に新学期がスタートする学校生活と切り離せない。影山氏も「北海道や沖縄といった気候が本州とはまた違う場所もある。それをやるための障害があるのは事実」と述べる。そうしたいくつもの障壁を取り除きながら、いかにして最適なカレンダーを作っていくか。その調整弁的な役割を担う影山氏にかかる期待は大きい。
「U-15年代では約6割が部活動でプレーしている。U-18年代では約9割が高体連。なので、シーズン移行はしっかり考えないといけません。学校のことも大事だからです。日本サッカー協会としてはどっちかを取って、片方に諦めてもらうような考えは持っていない。何を決断するのが日本サッカーにとって一番望ましいのか。僕というよりも日本サッカー界のベストを探らないといけません。なので、シーズン移行は今の段階では検討段階で、さまざまなところで調整をしなければいけないと思います」
と考えれば、遅かれ早かれカレンダーの問題と向き合わなければならない。テコ入れが喫緊の課題であるのは事実である一方で、物事を動かすにはいくつもの障壁がある。中体連、高体連、Jクラブや街クラブが所属するクラブユース連盟、大学サッカー連盟などと調整をするのはもちろん、Jリーグ側の意見も取り入れなければならない。さらに学校生活の考慮も必須。現状では新学期がスタートする4月前後に開幕するため、学業に支障をきたすカレンダーではないが、秋春制を導入するとなれば、進級のタイミングとズレが生じてしまう。「全体像として最適化するのは難しい」と影山氏がこぼしたように一筋縄ではいかず、絡み合った糸を一つずつ解いていくような地道な取り組みが求められる。
中体連・高体連とどう向き合う? カレンダー改革の最前線
では、スムーズに事を動かすためにはどうすべきなのか。影山氏は言う。
「高体連主催の大会である全国高校総体(インターハイ)は各都道府県や各地域での持ち回り開催だったんです。そこで暑さ対策の一環で、男子サッカー競技に関しては福島県のJヴィレッジ、女子サッカー競技に関しては北海道で行うように去年からなりました。他の競技は持ち回りでやっている中で枠組みから外れるのは簡単ではなく、前例がない動きでした。(お金や人の問題も解消しなければならないし、場所のこともある。関係各所の考えを尊重した上で道筋と順序を立てなければ)中体連でも同じような動きはできません。
ただ、ハンドボールも今年から全中を外れて独自の大会をするようになった点は非常に参考になります。ハンドボール協会の人から聞いた話として、ちゃんと戦略を立てた上でハンドボール協会主催の大会をやるらしいんです。1回戦で負けても交流戦を行うので、みんなが公式戦に出られて試合数もちゃんと担保されている。本当に良い大会だと思うので、競技団体が考えてカレンダーを作り、(高体連や中体連と相談した上で)選手ファーストで考えていく施策は参考になります」
カレンダーを動かすにはもう一つ大きな問題がある。“概念”を変える必要性だ。影山氏は言う。
「去年、自分の息子は中学3年生。部活動でサッカーをやっていて、県大会でベスト16まで勝ち上がったので見に行ったんです。でも、その試合で負けてしまった時にいろんなことを感じた。親御さんたちは『子どもたちはもう引退だね』という言葉を使って話をしていたんです。もちろんそうかもしれないけど、“引退”というワードはまた違うと僕は思っている。サッカー人生はまだ続くわけであって。
戦後、日本のスポーツ界は大きく発展した一方で、思い描いたものとは異なる美徳感や文化が根付いたところもある。もし、シーズン移行をすると、(トップレベルの選手を除いては)夏にすべての公式戦が終わって中学2年生の子たちは秋から新しいリーグ戦がスタートする。でも、多くの3年生は(現在のカレンダーと同じく)活動する場がない。高校入学まで半年もあるけど、プレーはできません。もちろん、受験勉強は頑張らないといけないけど、その合間に週2回ボールを蹴りたい子もいると思うんです」
秋開幕になることで、そうした狭間に立たされる選手たちが活動できる場がより狭まる可能性が高い。そうした問題との折り合いをつけ、ボールを蹴る場所の提供も課題の一つだろう。
改革は道半ば。現時点でできることは限られているが…
来季からはJリーグ主催でU-21リーグも立ち上がるため、2種年代は高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグとの兼ね合いも考慮しなければならない。現時点でできることは限られているなかで、誰もが安心して競技に取り組み、更なる技術向上を目指しながら生涯スポーツとして取り組める環境をどのように作っていくのか。
「サッカーを安心安全にでき、しかもパフォーマンスの向上を求められる環境を確保しないといけない」(影山氏)
改革は道半ば。日本サッカー協会だけで動かせる問題ではなく、さまざまな連盟や他競技と連携をしながら進めていくことが求められる。積み上げてきた歴史を重んじながら、選手や子どもたちにとっての最適解を探ることが今の日本サッカー協会にとって最大の使命だ。現状では検討段階で幅広く意見を聞きつつ、ゲーム環境を整えながら育成年代のカレンダー改革を進めていく。
<了>
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