中国の牙城を崩すまであと一歩。松島輝空、世界一・王楚欽の壁を超えるために必要なものとは
中国・北京で開催された卓球のチャイナスマッシュ男子シングルスで松島輝空が大きな輝きを放った。世界ランク6位(試合時点)の梁靖崑を打ち破り中国メディアを騒然とさせたが、準々決勝では世界ランク1位の王楚欽に1―4で敗れた。大会後の10月7日に発表された世界ランクでは8人抜きの16位に浮上した松島。世界の頂まで“あと少し”に迫った18歳が、壁を越えるために必要なものとは――。
(文=本島修司、写真=新華社/アフロ)
中国選手に2勝1敗。松島輝空の現在地
チャイナスマッシュの男子シングルス。日本の松島輝空が快進撃を見せた。1回戦で中国の薛飛、2回戦でドイツの強豪パトリック・フランツィスカを楽々と撃破して勝ち上がると、ベスト16では世界ランク6位で中国トップ3の一角である梁靖崑と対戦。ここをフルゲームの死闘の末に、打ち合いで制する大躍進を見せた。中国のトップ選手が日本の若手筆頭株に敗れたこの試合を、中国メディアは「屈辱的」と報じた。
しかし、迎えた準々決勝では、今度は中国の世界ランキング1位・王楚欽と対戦となり、ここでは1-4と完敗を喫してしまう。
松島は強敵を次々と倒し、まさに今の世界のトップといえる中国のエースとの対戦まで順調に漕ぎつけることができるようになった。一方で、この一戦だけは、日本のエース張本智和が見せる、相手がたとえ世界ランク1位の中国選手であっても「勝てるかもしれない」と感じさせる場面を作ることができなかった印象もある。
では松島はこの分厚い壁をどうしたら乗り越えられるのか。世界の頂に手がかかり始めた今の松島に「必要なもの」を探る。
ラリーで見せつけられた世界一との差
王との第1ゲーム。松島は得意のチキータを主体に先手を取ろうとする。ただ、王はそのチキータを待っているかのような姿を見せた。
1-1から開始し、松島のチキータを王が先にフォアドライブをたたき込んでラリーを開始。「王が先に」というラリーの多さが、この試合を象徴するシーンと言える。
5-5からは松島がツッツキに変えてレシーブ。しかし、これも読まれていたような形となり、回り込みドライブ一発で決められてしまう。5-6に。先に打ち込まれる展開が続き、7-11でこのゲームを落とす。
第2ゲーム。1-2からはストップ合戦。このストップが長くなってしまい、台から出たところを王が見逃さずにフォアクロスへドライブ。少しでも「つなぎ」の球が甘いと、中国のトップは見逃してくれない。
5-4とリードを奪うと、松島のチキータがバックフリック気味のレシーブになり、王のバックの深い所へ食い込むようにして決まる。王がのけぞりながら打って失点。6-4とする。このあたりは松島が主導権を握っている。
しかし、8-10と逆転されると、王がバックハンドドライブで先に仕掛けて得点。8-10で取り切る。王はとにかく「先に打って出るパターンを無数に持っている」印象だ。
追い込まれても気持ちが切れない強さを身につけてきた松島
第3ゲーム。序盤から攻め込まれ、2―7と王の大量リードで開始。この場面でもストップ合戦があったが、松島のストップが少しでも長くなった瞬間を王が見逃そうとしない。無理矢理にでも台の中まで飛び込んでフォアドライブで決めにくる。この場面ではあまりにも無理矢理に打ちにきたぶん、勢い余ってネットミスで失点。それでも王の勢いと「絶対に先に打ち込んでいく」という強い意志が見える。11-4で王が圧勝。
第4ゲーム。1-1から松島のチキータを王が完全に狙い撃ち。1ゲーム目と同じような場面から開始となり1-2。
1-2からはバックハンドの打ち合いの攻防。ここで松島がバックミートをミドルに打ち込む。王がどのコースにくるか一瞬迷いが生じたような形に。これが効いて、そのままバック側に打つとスムーズに抜けた。コースを替えることで打開策が見られた瞬間だ。
6-8と逆転されるも、またバックミートの打ち合いで松島がミドルへ一発。これが一発入ると王の体勢が崩れ、松島が得点する。ここは11-9で松島が取り切る。
第5ゲーム。序盤から再び王にエンジンがかかる。1-3からはフォアとバックを切り返し合いながらのラリー。最後は松島の肘が上がってしまい、打ち負けて1-4。主導権を握られてのラリーではどうしても王に分がある。
2-6の場面では、同じような激しいラリーでも松島が必死に食らいつく姿が見られた。松島が、追い込まれても気持ちが切れない強さを身につけてきたことがわかる場面だ。世界の頂と互角になるまで、本当にあと一歩のところまできているのだ。
6-10と追い込まれたところでは、フォア前をチキータで回り込むサプライズのような一撃も決めたが、そのまま7-11で王が完勝を収めた。
王楚欽との差を埋めるために必要な技術
この試合から見えてきたことは何か。それは、「現状、ラリーの打ち合いでは明らかに分が悪い」ということだ。
例えば、張本は中国のトップ選手と互角の打ち合いを演じて勝つ試合を何度も見せている。その中身は「ラリーを制して打ち勝った」ものや「ラリーに入る前に『このワンプレー』という技術があり、張本が先に攻めてしまった」というものが多い。張本は中国のトップと互角の領域に入っているといえよう。
しかし、松島はまだその領域まであと一歩足りないという印象を受ける。まだ高校生だ。今後パワーアップと経験値の上昇により、心身ともに成長を遂げれば中国のトップ選手とラリーの打ち合いを制する可能性も十分にあるだろう。
しかし、その時を待つ前に、現時点で他の打開策も十分にあるのではないか。
求めたいのは「ラリーの前に先手を取る」展開
今の松島に求められているのは「自分からラリーに入れる力」ではないだろうか。
優位にラリーを進めること、主導権を握りながらラリーを進めること。そんな「ラリー前の仕掛け」が欲しい。
この試合でも、レシーブ時にはチキータを使い、自ら先手を奪おうとする姿勢は何度も見られた。こうした「積極性」や「攻撃的な姿勢」は松島の強みだ。
しかし、この試合ではその仕掛けたチキータ自体を狙われて、王に豪快なフォアドライブで打たれてしまった。その流れでラリーに入る展開が多かった。
2025年の張本は、WTTチャンピオンズ横浜で「チキータを封印し、最も基本的な技であるツッツキを多用」というサプライズな戦術で、王に勝ったことがある。
今回の松島対王の試合では、「サウスポーVSサウスポー」特有の難しさもあったかもしれない。それでも試合の後半でフォア前をバックハンドで回り込んでチキータしにいった一本は、王がまるで予測できなかったような形で松島の得点となった。
こういうプレーを増やし、ツッツキ以外の技でも、驚かせながら試合を運べれば先に攻められる。
例えば、張本はフォア前に出されたツーバウンドの短いサーブまで、バックハンドで回り込んでチキータをする。一昔前までは、一見トリッキーに見えるこうした動きも、現代卓球では「当たり前の動き」になってきた。
こうしたチキータ一つをとっても、台の中に入り込んだり、フォア前も、ミドルも、なんでもありで縦横無尽に動き回って仕掛けると、相手が読み切れなくなる。
張本の相手が、チキータ対策として長いサーブに切り替えてくると、今度は豪快なフォアドライブでのレシーブを“喰らわせて”しまうこともある。
もちろん、相手が中国のトップとなると、すべての試合でこういったことが完璧にできることはない。ただ、こうなるとさすがに中国のトップ選手といえど「必ずしも自分が有利に先に仕掛けるラリー」ばかりにはならない。その時、張本が殊勲の勝利を挙げることがあるということだろう。
目指すのは「世界一の座」
松島VS王。この試合の第5ゲーム。追い込まれたところで、松島が見せたフォア前へのバックで回り込んでのチキータレシーブ。このプレーに、現状を打破するヒントがありそうだ。
今大会で見せた松島の一連の試合ぶりには、無限の可能性を感じる。
今より先手を取れるようになり、さらに世界最高峰の激しいラリーの打ち合いにも慣れて、打ち勝つこともできるようになってきた時。いよいよ完成形の松島輝空が見られるのかもしれない。
かつて初対戦時には、王をフルゲームまで追い詰めたこともある。ここからは「お互いの攻略合戦」が繰り広げられるはず。だからこそもう一つ「先手を取るボール」が欲しい。
梁靖崑を見事にとらえきった今、松島が目指す場所はただ一つ。「世界一の座」だ。
<了>
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