技術は教えるものではない。エコロジカル・アプローチが示す「試合で使えるスキル」の育て方

Training
2026.02.09

いま欧州サッカーの指導現場でも大きな注目を集めている「エコロジカル・アプローチ」。指導者がルールやスペース、人数といった制約を設定し、選手が自然と自分に最適な動きを発見するように導くトレーニング理論だ。巷にドリブルスクールが増え続ける“スキル指導全盛の時代”だからこそ、この理論は指導現場に大きな相乗効果を生む可能性がある。エコロジカル・アプローチを用いた指導を行うFCガレオ玉島U-15監督・古賀康彦氏が語る、実戦で使える“技術の本質”とは。

(インタビュー・文=鈴木智之、写真=ロイター/アフロ)

スキルコーチ全盛の時代に問われる「育成の価値」

SNSを開けば、鮮やかなボールタッチや足技の動画が目に飛び込んでくる。

いわゆる「スキルコーチ」による指導は、そのわかりやすさと成長の実感しやすさで、多くの選手や保護者から支持を集めている。

「実際、彼らの指導を受けた選手はうまい。ボール扱いも見事です」

そう語るのは『エコロジカル・アプローチ』で指導を行う指導者、古賀康彦氏だ。スペインやオーストラリア、FC今治、ヴィッセル神戸、東京ヴェルディ、鹿児島ユナイテッドで育成年代を指導し、現在は岡山県倉敷市を拠点に、FCガレオ玉島U-15で監督を務めている。

古賀氏はスキルコーチのメリットを認めつつ、その技術を「試合で使える武器」へと昇華させるためには、ある重要な視点が不可欠だと説く。

個人のスキルに特化したトレーニング形態は、世界中に存在する。一般的に「スキルコーチ」と呼ばれるもので、個人にフォーカスする指導のわかりやすさから、サッカー以外のスポーツにも取り入れられている。

古賀氏自身、「スキルコーチの指導を否定する気はまったくない」と断言する。

「実際、スキル系のチームの選手はうまいんです。あのトレーニングで培ったコーディネーション能力が、選手の動きやボールタッチの質を変えることは十分にあり得ます」

では、何が議論の的になっているのか。それは「サッカーの文脈」との乖離だ。

「みんなが懸念しているのは、サッカーの文脈とかけ離れたこと、つまりエコロジカル・アプローチでいう『代表性』がないことなんです」

技術は教えるものではなく、見つけるもの

エコロジカル・アプローチと代表性。聞き慣れない言葉である。

エコロジカル・アプローチをわかりやすく説明すると、「人間は環境との相互作用の中で、自ら行動を調整し、スキルを獲得していく」という考え方に基づいた運動学習の理論だ。

従来の指導が、理想的なフォームや動きの型を指導者が「教え込む(インストールする)」ものだとすれば、エコロジカル・アプローチは異なる。

指導者はルールやスペース、人数といった「環境(制約)」をデザインし、選手はその状況に適応しようともがく中で、自然と自分に最適な動きを「発見(自己組織化)」していく。

サッカーに置き換えると、特定の型を反復することよりも、二度と同じ状況が訪れないピッチ上で、瞬時に適応する能力が重視される。

古賀氏はエコロジカル・アプローチこそが、長年サッカー界で語られてきた「ストリートサッカー最強説」や「自然の中での遊びの重要性」を裏付けるものだと語る。

「大人は感覚的に『バラエティに富んだ経験をさせたほうがうまくなる』と知っているはずなのに、指導となるとつい反復系のドリルに走ってしまうんです。かつての子どもたちは、デコボコの地面や不規則な人数でのゲームの中で、誰に教わるでもなく、自分に合った体の動かし方を“見つけて”いましたよね」

テクニックを「身につける」ではなく「見つける」。これが技術習得、ならびに試合での技術発揮のポイントだという。

練習環境を実際の試合に近づける

環境という制約によって「見つけた」技術を試合で発揮するためには、練習環境が試合に近いほうがいい。

エコロジカル・アプローチにおける「代表性」とは、練習環境が試合の状況(情報や文脈)をどれだけ含んでいるか、という概念だ。

実際の試合には、奪いにくる相手がいて、目指すべきゴールがあり、味方の位置やスペースといった変数が常に存在する。

そうした情報が含まれていない練習環境では、試合で起こる現象を正しく「代表」できず、プレーに必要な知覚や判断のプロセスが抜け落ちてしまう。

試合状況や相手のプレッシャーがない中で、特定のフェイントだけを反復する。これは単なる「同じ動作の反復」になりかねない。

「動作自体はうまくなります。でも、それがそのまま試合で使えるかというと、難しい場面もあります。同時に、間違った動きを繰り返すと、間違った回路を強化してしまうリスクもあることを理解しておく必要があります」

さらに、と古賀氏は付け加える。

「例えば、『ボールを足の裏で引いてまたいで、逆足のアウトで触って前に出る』というスキルがあったとします。でも選手一人ひとり、身長も体重も、骨格も育ってきた環境も違いますよね」

身体的な特徴(個人制約)が異なれば、万人に共通する「正解の型」など存在しない。

例えばリオネル・メッシのドリブルとキリアン・エンバペのドリブルはまったく違う。ある選手にとって最高のフェイントが、別の選手には窮屈な動きになることもある。

それなのに、全員に同じフォームを「教え込もう」とすれば、その選手の個性を消してしまうことになる。

「だから僕は、あくまで設定だけを用意します。選手があらゆる動きを試す中で、自分の中でしっくりくる動き、最適なスキルを『発見』していく。エコロジカル・アプローチのトレーニングは、その発見のためのきっかけにすぎないんです」

「ストリートサッカー」を練習に落とし込む

では、どうすれば、磨いたスキルをピッチ上で発揮することができるのか。

古賀氏が指導するFCガレオ玉島では、サッカー以外の活動をする日を週に1回設け、ボルダリングやバスケットボール、ハンドボールなど、さまざまな運動経験を積ませている。

サッカーのトレーニング自体も、ルールやグリッドサイズ、タッチ数、動き方、ゴールの数や位置といった環境を操作することで、制約のもとに判断し、自分の技術を見つけるようなアプローチを実施。

その観点から「スキルコーチ」のトレーニングを見ると、より良いアプローチが見えてくる。

「例えばAというスキルのトレーニングをしたら、次はすぐにB、Cと変化を加えるなどして、単なる反復ではなく、動作の中で『自分にあった動きを見つける』という観点でトライするのであれば、十分に意味あるものになります」

ほかに「ボールの大きさを変えたり、不規則なバウンドをするボールを使ったり、右手は必ず体につける、両手を頭につけたままドリブルするといった制約を設ける」こともしながら、「試合に近い3対3など複数の選手が関わるものや、サーバーやターゲットなどの制約を用いて、獲得するスキルを導いていく」という。

それが環境という制約によって、選手が自然とスキルや認知・判断力を磨いていく、エコロジカル・アプローチである。

スキルコーチが指導する、テクニックアクションのトレーニングが悪いわけではない。ただし、その「使い方」と「設定」に、もうひと工夫加えることで、その効果は何倍にも膨らむのだ。

古賀氏が指導するFCガレオ玉島では、中学生から本格的にサッカーを始めた子が、Jクラブのユースへ加入が決まるなど、着実な成果をあげつつある。

「結局、突き詰めていくとエコロジカル・アプローチにたどり着くんです。みんなが感覚的に『良い』とわかっていたことに、やっと理論がついた。だから難しく考える必要はないですし、僕自身、自由な発想のもとにトレーニングを組み立てていくことを意識しています」

スキルを「教える」のではなく「見つけさせる」。その違いは小さく見えて、育成年代の成長曲線を大きく左右する。この視点に基づいたトレーニングが広まったなら、日本の育成は新たなフェーズへと進むのかもしれない。

<了>

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