
東莉央・晟良、姉妹で目指す東京五輪 性格は正反対の2人が明かすフェンシングの想い
いよいよオリンピック選考レースがスタートしたフェンシング界の若手有望選手、東莉央、東晟良に話を聞いた。
(インタビュー・構成=大塚一樹[REAL SPORTS編集部]、撮影=UZA)
「フェンシング」という言葉を知っていただけ 姉妹がフェンシングを始めた理由
2016年、一人の女子高生が全日本選手権、個人フルーレで準優勝を果たす。東莉央の活躍は、フルーレ、エペ、サーブルの3種目があるフェンシング競技において、「10代の台頭」「育成強化の成果」の一環として他の若手選手の躍進とともに語られた。
翌2017年、今度は莉央の1歳下の妹・晟良が高校3年生にして全日本優勝という快挙を成し遂げる。昨年末、東京グローブ座で行われた全日本選手権で晟良が連覇を果たすと、さらに大きな注目を集めることになった。
フェンシングは、みんなテレビで一度は見たことはあるけれど、細かいルールはよく知らない、どう見たらいいかわからない、という競技でもあります。自分のプレーでここを見てほしいというポイントはありますか?
莉央:やっぱりアタック、攻撃をするところですよね。私は攻撃的に攻めていくタイプなんですけど、攻めているときも相手の剣を“抜いて”いく、相手の攻撃をかわしながら攻めているところを見てほしいなと思います。
晟良:自分も攻撃が持ち味なのですが、フットワークを見てほしいです。外国人選手に比べたら背が小さいんですけど、足を使って動いて大きな選手に攻撃していくところは見ていても面白いんじゃないかと思います。
フェンシングは、今の日本では出会う機会というか、男の子でも女の子でも子どものころに「やってみよう」と思うきっかけがなかなかない競技ですよね。どういう経緯でフェンシングをするようになったんですか?
莉央:フェンシングのメダルとかトロフィーが家にあって、「これ何?」みたいな感じで聞いたのが最初だと思います。母が昔フェンシングをやっていて、その時もらったメダルとかトロフィーを飾っていたんです。それでとりあえず“フェンシング”という言葉は知っていた、っていう感じですね。フェンシングがどんなものかも知らなかったし、試合も見たことはありませんでしたね。
晟良:私も同じで、メダルとかがいっぱいあって「すごいな」とは思ってたんですけど、フェンシング自体に興味がなかったというか、興味を示す感じもなくて、フェンシグがどんなことをするスポーツなのかまったく知らなかったですね。
フェンシングという言葉だけを知っていた感じですかね。
莉央:トロフィーの先に、像がついてるじゃないですか。あれでフェンシングの剣を持って突いているようなのがあって、こういう感じかなっていうのが頭にあっただけですね。
そんな二人がフェンシングを始めたきっかけは?
莉央:小学校5年生のとき、車に乗っていたらお母さんがいきなり「久しぶりに恩師の人に会いに行こうかなぁ」って言いだしたんですよ。
晟良:めっちゃ覚えてる。
莉央:お母さんの恩師が当時高校の教員でフェンシング部の指導をしていて、あいさつがてら見学しに行くという話になったっていう記憶があります。
晟良:その会話の中身は覚えてないけど(笑)、行ったときのことはよく覚えています。
そこで二人ともフェンシングをやってみたいとなったんですか?晟良:すぐ「やってみたい!」ってなったんですけど、いま考えると、(地元の)和歌山のフェンシングの競技人口ってたぶんすごく少ないじゃないですか。先生も一回入ってきたら簡単にはやめさせたくないみたいなのがあったと思うんですよ。見学に行って興味を示したらそのままやらされてたっていう(笑)。
お母さんはフェンシングをやってほしいと思ってたんですかね?莉央:それは聞いたことないです。
その前に何かスポーツをやっていたことは?莉央:空手をやってました。お話できるほどやっていたわけではないんですけど、友達がやってたから自分たちもやってみたいと二人で始めました。
それはどれくらい続けていたんですか?莉央:フェンシングを始める前にはもうやめてましたね。2年くらいで。
和歌山から東京に出てきて変わったこと
フェンシングを始めた当初はどんな感じでやっていたんですか?
莉央:週1回の体験みたいな感じで、基礎的なことをやっていたんですけど、だんだん週1だと物足りなくなって、妹と「もうちょっとやりたくない?」という話をして、行く回数を増やしました。お母さんに送ってもらうという都合があって週1回しか行けなかったんですけど、お母さんに「もっと行きたい」と言ったら、「じゃあ自転車で行ったら?」となって、妹と20分か25分くらいかけて自分たちで自転車をこいで通うことになりました。
空手は続かなかったけど、フェンシングはそうまでして通いたいほど楽しかったってことなんですかね?
莉央:週1回だけだとやってる感じがしなかったんですけど、行く回数を増やしてみたら思ってたのと違ったみたいな(笑)。毎日行ったらしんどいし。小学生のころって遊びたいじゃないですか。近所の子が家の外で遊んでいるのに自分たちだけ自転車に乗ってフェンシングに行かなきゃいけないのがつらいときはありましたね。
晟良:だから、「雨の日は行かなくていい」っていうルールを自分たちで勝手につくって、雨の日は別のことをしていましたね(笑)。
これまでにフェンシングをやめたいと思ったことは?
莉央:私はありました。中学に上がるときと高校に上がるとき。それと大学に行くときも。
晟良:毎回やん(笑)。
莉央:節目、節目というか、進学のたびに迷って。ほかのスポーツをやろうと考えたこともありました。小学校のときは、走るのが好きだったから陸上部に入ろうと思ったこともありましたね。今は走るのは嫌いなんですけど(笑)。
晟良:自分はフェンシングをやめたいと思ったことはないですね。ちょっと休みたいなと思って休んだとき、先生にめっちゃ激怒されたことはありましたけど。
心が折れたりすることもなかった?晟良:それは常に折れてます(笑)。シニアデビューしてしばらく勝てなかったときも心は折れてました。でも、すぐ戻るんで大丈夫です。
高校生の時に全日本選手権で活躍して注目を集めたお二人も大学生になりました。昨春には晟良さんも莉央さんと同じ日本体育大学に進学して東京での生活になりましたね。和歌山から東京に出てきて環境も変わったと思います。
莉央:電車移動が増えてすごくきついです。和歌山だったら自転車移動で済むので、自分の時間を確保できるんですよ。ちょっと寝たかったり、ちょっと寝坊したとしても自分の自転車をこぐ速さで巻き返せるじゃないですか。でも自転車と違って電車は、その時間にしか動かなくて、しかも遅延もあるので。あと満員電車は苦手ですね。それと、東京の人はすれ違うときによけない人が多い気がするんですよね。私のような田舎者は絶対よけます。東京と違って和歌山は空気も穏やかです(笑)。
都会への憧れはなかった?莉央:小学生のときから全国大会なんかで東京に来る機会はよくあったので、「渋谷に行ってみたい」とかそういうのはなかったですね。
晟良:東京に出てきてあらためて、和歌山の温かみを感じました。
性格は正反対? でもフェンシングは二人とも負けず嫌いで超攻撃的
お二人は一緒に暮らしているんですよね? 共同生活はどうですか?
莉央:ストレスしかないですね(笑)。これを言い出したらキリないです。人と生活するのは大変です。
晟良:(もともと家族と生活)してたじゃん! 他人じゃないし!
莉央:家族と二人は全然違いますよ。実家ではお母さんがやってくれましたしね。晟良と一緒に暮らしたら絶対(ストレスに)思いますよ。部屋の電気つけっぱなしとか。
晟良:莉央は細かいんです。洗面所で歯を磨いてて、磨きながら移動したら「ちょっと電気消して」って。
莉央:普通、消しません? 一緒に住んだらみんなにわかってもらえると思います。
オフの日はどんなことしてますか? 二人で出かけたりとかは?
莉央:目覚まし時計に起こされたくないんで、目覚まし時計をセットせずに寝ています。晟良と二人で遊びに行ったことはないですね。二人で何か食べに行くこともないです。
晟良:ずっと一緒におるもんな。
莉央:東京は人が多いじゃないですか。必要なものを買いに出かけるときは仕方ないんですけど、なるべく出かけないようにしているかもしれません。東京に出てきて3年目で気づいたことは、家で過ごすのが一番いいってことです(笑)。
晟良さんは自分でネイルをしているそうですが、おしゃれにも興味がある年齢だと思います。
晟良:高校生の時は、校則が厳しかったので、いろいろやってみたいという意欲はあります。ネイルは最近目覚めました(笑)。キットを買って自分でやっています。
紫外線で固めるジェルネイルのキット?
晟良:そうです、そうです。最近ネットで買ったんです。
莉央:美容は妹に任せてます。全部妹が買うんで。このネイルも妹にやってもらいました。もうだいぶ剥げてきていますけど。
莉央さんはどんなことに興味があるんですか?
莉央:あんまり趣味とかないんですよね。マンガを読むのとYouTuberの動画を見るくらいです。マンガは結構ホラーを読みますね。YouTuberはフィッシャーズとか東海オンエアさんの動画をいつも見てます。実はさっきも見てました(笑)。
晟良さんは? 情報によるとネイマールが好きとか。同じアスリートとして好きとか?
晟良:ネイマールはずっと好きです。そんなに熱心にサッカーの試合を見ているわけじゃないんですけど、パリに行ったときに生で見たことがあるんですよ。めちゃかっこよかったです。めっちゃ速いんですよ。
知ってます(笑)。
晟良:プレーも体型も顔も好きですね。一番好きなのは笑ってる顔です。
莉央:絶対顔やろ(笑)。
音楽とかどうですか? 試合前に音楽を聴いたりするアスリートも多くいますが。莉央:試合前とかは全然聴かないですね。普通に人に話しかけたり、誰かと話している方が落ち着くし、めっちゃ緊張しますけど、音楽を聴く必要ないかなと。
晟良:私は聴きます。洋楽とか気分が盛り上がるような曲を聴いていますね。
性格は対照的な印象を受けるんですけど、フェンシングのプレースタイルに性格が影響したりするものなんですか?
莉央:あるかもしれませんね。私はすぐイラッとしてしまうんですけど、試合でもそこは落ち着いていった方がいいという場面でも、バンバン攻撃してポイントが入らなかったりとか。
晟良:そこは結構似ていて、私も団体戦のときに残り5秒で勝っていても、ポイントが欲しいから攻めに出てしまって、カウンターで危なくなることがあります。コーチにも言われたんですけど、団体戦は一人で戦っているわけじゃないので、点数によっては我慢する必要もあります。最後の最後までリスクを負って攻めちゃうのは負けず嫌いだからかもしれません。
姉妹そろっての出場を目指す東京オリンピックはもう目前。2人は出場権を懸けたポイントレースの真っ最中だ。2019年5月27日現在のランキングでは、晟良が1位、莉央が6位。女子フルーレは世界レベルの選手も多く、団体メンバーの4人に入るのも簡単ではない。
莉央は、「オリンピック出場を考える位置にまだいないと思うので、まずは国際大会で結果を残さないと」と決意を新たにし、ポイントレースをリードする晟良も「どの選手も強くなってきているので、団体メンバー入りは確実でありません。まずは今年のワールドカップでメダルを取れるようにがんばりたい」と、自国開催のオリンピック出場という夢を実現させるべく、気を引き締めている。
<了>
東莉央・晟良、「姉妹」ならではの葛藤とは? 家族、ライバル、そして東京五輪
PROFILE
東莉央(あずま・りお)
1998年生まれ、和歌山県出身。日本体育大学体育学部。小学校5年のころからフェンシングを始め、1年半で国際ケーニヒ杯・小学生の部で準優勝。2012年、第25回全国少年フェンシング大会・中学生の部で優勝。2016年、インターハイで優勝、全日本選手権で準優勝。2018年、アジアジュニア選手権で銅メダルを獲得した。
PROFILE
東晟良(あずま・せら)
1999生まれ、和歌山県出身。日本体育大学体育学部。小学校4年のころからフェンシングを始め、1年半で国際ケーニヒ杯・小学生の部で優勝。2012年、第25回全国少年フェンシング大会・中学生の部で準優勝。2016年、インターハイで準優勝、アジアジュニア・カデ選手権で金メダル獲得。2017年、18年、全日本選手権を連覇。2018年、アジア大会で女子フルーレ団体初の金メダル獲得、ワールドカップで銀メダル獲得。
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