「日本の格闘技団体は敵ではない」 既成概念を破る“ONE”流のスポーツ界の改革法とは?

Opinion
2019.10.16

まだまだ日本では名を知られ始めたばかりの存在であるものの、世界的にはすでに現在1000億円以上の価値があると評価されるONE Championship。

ONE Championship株式会社の秦“アンディ”英之代表取締役社長は、ONEの日本市場での展開を抜かりなく牽引する一方、東京五輪後の日本のスポーツ界が抱える問題を冷静に見つめ、「覚悟しなければならない」と語る。

ユニコーンとしてのONEに見る、日本の格闘技界、スポーツ界が活路を見出すべきヒントとは?

(インタビュー・構成=布施鋼治、撮影=松川智一)

コンプライアンスと少子化

 1990年後半から2000年前半にかけ、日本には格闘技ブームと呼ばれた時代がありました。あの時代をどう捉えていますか?

アンディ:表面上はコンプライアンス(法令順守)という理由でなくなってしまうんだと俯瞰して見ていました。コンプライアンスは時代が進むにつれ、変化していく。それぞれ独自のルールの中でやっていく中で、行き過ぎた部分があったんだと思います。

昨年は日本のアマチュアスポーツ界に、コンプライアンスの風が吹き荒れました。

アンディ:大学スポーツという世界は一つのワールドの中に序列や伝統があり、その中にコンプライアンスも独自に息づいていた。ただ、それが一般社会にはなかなか受け入れがたい時代になってきたと分析しています。時代とともに価値観は変わっていく。別に大学スポーツを守るわけではないけど、その時代だったからこそ成り立ってきたコンプライアンスもある。これは格闘技にもいえることですが、変化に追いついていけない団体から崩れ出していくんじゃないですか。

ドキッとする発言ですが、確かに時代の変化を無視することはできない。

アンディ:自給自足という時代にコンプライアンスという要素が入ってきて、商業主義の中に透明性のある運営が求められるようになってきた。そういう問題に直面したら、自ら変化を起こそうとしないといけない。長年守られてきたものを変化させることには勇気やエネルギーが必要。そこに気づく団体であればあるほど進化するし、保守的に既得権益にすがる団体は将来が難しくなる。私は今後の日本のスポーツ界に大きなインパクトを与えるキーワードとして、いま話をしたコンプライアンスと少子化の2つを挙げたい。

少子化を挙げる真意は?

アンディ:次世代の育成は少子化の中で進めていかなければならない。ここ20年くらいですか、学校体育の中では「廃部」という言葉が流行っているけど、いよいよ廃スポーツすら考えなければいけない時代が目の前に迫っている。人口統計的にその危険は避けては通れない。

おっしゃる通り、子どもの人口は現象の一途を辿っています。当然「廃」格闘技のリスクも考えなければいけない時代にきている、と。

アンディ:そうですね。だからこそ格闘技も「ただやればいい」「伝えればいい」というだけではなく、戦略を持って事業化していかないといけない。若年層からトップまでのルートをしっかりと作っていかないといけない。

格闘技のイベントを成功させるためには、ヒーローを誕生させるとともに綿密な戦略が必要になってきますね?

アンディ:今までプロ化されたスポーツほど底辺の戦略は漠然と作られている。

コンプライアスはいまやスポーツ界の大問題になっているけど、じわじわと押し寄せてくる少子化はさほど問題になっていないような気もします。

アンディ:今年はラクビーのワールドカップが開催され、来年はいよいよ東京五輪が開幕する。いわゆるスポーツバブルという現象が起きているけど、その言葉が直面すべき問題を麻痺させていると思います。過去の歴史を振り返ってみても、オリンピック・アフターショックは必ず訪れる。

1964年の東京五輪直後にも、未曾有の不景気が押し寄せました。

アンディ:それは覚悟しなければならないと思います。

ONEはどういう戦略で未来に向かっていくのか

そうした中、ONE Championshipはアジアに降臨しました。これからの戦略は?

アンディ:ONEがどういう仕組みで、どういう戦略で未来に向かっていくのか。そのヒントとなるべき要素を伝えていきたい。

現在ONEは140カ国以上の国・地域で放送され、資産価値として1000億円以上の価値があると評価されています。

アンディ:そこに日本の格闘技が復興する多大なるヒントがある。ONEの出資側にはセコイア・キャピタルというアップルやグーグルに出資している巨大な資本が入っています。さらにシンガポールの政府系のGICやテマセク・ホールディングスといった大企業も投資してくれている。なぜシンガポール政府がONEのような格闘技団体を応援してくれているのか?  それはONEが格闘技というより、ユニコーン(評価額が10億ドルを超えるスタートアップのこと)としての要素を秘めているからです。

ONEが掲げる格闘家のあり方は従来のそれとは趣を異にします。試合前、対戦する者同士が胸ぐらをつかみ合ったり、激しい挑発をすることもない。選手はファイターではなくアスリートと呼ばれる。そして師や対戦相手を敬うマーシャルアーツや武道の精神を重んじる。欧米の格闘技プロモーションと比べると、ONEのあり方は似て非なるものに映ります。

アンディ:そうですね。UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ、アメリカの総合格闘技団体)とも差別化するにあたり、そうしたベースメントを大前提として出場するアスリートやスタッフにはしっかりと理解してもらう。表面上のヒーローではなく、マーシャルアーツの精神(誠実・謙虚・名誉・敬意・勇気・規律・慈悲)を貫いてほしい。それを一つの要素として、ONEはビジネススポーツという領域で新たなムーブメントを起こしている。

我々は敵ではない。自分たちの思いを伝えたいだけ

ちなみに現在ライバル視する、国内の格闘技プロモーションはありますか?

アンディ:知っての通り、日本の格闘技市場は縮小してしまっている。それを広げていかなければいけない時期なので、ライバルというより一緒になって盛り上げていかなければいけない。将来、我々は「NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)を超えよう」と真剣に思っています。そういった意味では競技を越えたうねりを作っていくことも大事だと思いますね。

少なくとも国内においては他団体と興行戦争を繰り広げたり、足を引っ張り合ったりする時代ではないということですね。むしろ逆に「対話」や「連帯」が必要だと。

アンディ:そうですね。ある意味、敵は日本の外にいると思います。まずは日本を活性化させることが先決。さきほども言ったように今はスポーツバブルなので気づいていない人も少なからずいるけど、本気になって日本の現場力をつけなければいけない。そうしないと、(他国に)あっという間に追い抜かれますよ。

去る9月1日、都内で行なった大会『Road to ONE:CENTURY』ではフェンシングで年間世界ランキング1位を獲得した見延和靖さんら他のスポーツやアートの世界で活躍した人をケージの中に招き入れ、スピーチしてもらっていました。あのアクションも、その一貫?

アンディ:まさにそうです。ONE Supportersの名のもと、このムーブメントをONEの活力にしてどんどん広げたい。

先日の記者会見にも、タレントの照英さんら新たなサポーターが出席していました。このムーブメントは、どんどん大きくなっていくのですか?

アンディ:そうですね。日が経つごとに広がっている実感があるので、大きな変化がどんどん起きていると思います。実はそこでこだわっているのは裏のアジェンダ(検討課題)があって、他のジャンルでいろいろな経験をされた方々をより多く集め、ONEの日本アスリートに刺激を受けてもらいたい。

なるほど。真意がよくわかりました。

アンディ:世界で活躍するためには「もっとこうすべき」とか、自分たちが思っていたり悩んでいたりすることは実はちょっと横を振り向くと違う業界にも同じ価値観を持っている人がいることを知ってほしい。

異業種交流によるメリットを考えているわけですね。

アンディ:そこには老若男女を問わず、自分の価値観をいい意味で壊して、さらなる成長のきっかけにしてほしいんです。

格闘技業界はややもすると、スモール・ソサエティになりがち。本当に小さなエリア内での価値観だけで完結してしまっている場合も多いです。

アンディ:そうですね。そもそも私も業界の人間ではなかったので、最初の頃は「わかっているつもり」「わかりたいつもり」で接していました。そうした中でいろいろな壁を感じたり、見えない問題に直面したりしました。「これは何から成り立っているんだろう」と考えた時、「それは、一つの世界の中で生きてきたプライドではないか」という仮説を立てました。ただ、現在は先程言ったように変化を求められる時代です。ただそれだけでは生きにくくなっている。

タイミングを逸すると、滅んでしまうだけですからね。

アンディ:そうなんですよ。我々は敵でもなく、差別しているわけでもなく、ましてや上から目線で接しているわけでもない。本気になって自分たちの思いを伝えたいだけなんですよ。

土曜や日曜になると、場所にこだわらずONEと提携している修斗、パンクラス、新空手のアマチュア大会にも足繁く顔を出しているじゃないですか? 大きなイベントだけではなく、地方大会にも顔を出す真摯な姿勢には頭が下がります。

アンディ:正直、最初はなかなか自分の色を出せなかった。ただ、ある時ちょっと気づかされたことがあって、もう一度「自分は何のためにONEにいて、これから何をやるべきなのか」と原点回帰しようと決意したんですよ。どの業界にも薄い壁があったり、成長を止める要素がある。ただ、そういう時には改革者が必要になってくる。本質を持っている人が手を挙げ、「このままではいけない」と改革に着手していきたい。

<了>

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PROFILE
秦“アンディ”英之(はた・あんでぃ・ひでゆき)
1972年生まれ。ONE Championship株式会社 代表取締役社長。明治大学卒業後、ソニー株式会社で働く傍ら、アメリカンフットボール選手としてアサヒビールシルバースターで日本一を経験。同社に2012年まで在籍し、FIFAとのトップパートナーシップ等、全世界を束ねるグローバル戦略の構築を担当。2010年FIFAワールドカップをはじめ、数々のFIFA主催大会を絡めた活動を推進。ワールドワイドで展開するスポーツデータリサーチ会社ニールセンスポーツの日本法人代表を経て、2019年1月、現職に就任。

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