
「プロと学業の両立」は可能? 17歳でプロ契約、横浜FC斉藤光毅が切り開く道筋とは
横浜FCのアカデミーで育ち、2018年7月21日のJ2第24節FC岐阜戦にて、クラブの持つ最年少出場記録を塗り替える16歳11カ月11日でトップチームデビュー。今年5月に行われたFIFA U-20ワールドカップポーランド2019にも選出された期待の高校生Jリーガー・斉藤光毅。
昨年9月、17歳で交わしたクラブとのプロ契約直後に通っていた高校を退学。新たに香川真司や酒井宏樹も在籍して学んだ通信制高校に通い、プロ生活と学業の両立に取り組んでいる。
クラブも「今後のモデルケースにもなる」と期待をかける現役高校生・斉藤光毅の“サッカーに集中するための”日常を追った。
(文=二本木昭、写真=Getty Images)
高校生Jリーガーが取り組むプロ生活と学業の両立
13年ぶりのJ1昇格を目指して戦う横浜FCには、注目の高校生Jリーガーがいる。事実上のルーキーイヤーにして、11月16日のJ2・第41節終了時点で28試合出場・6得点という活躍を見せている斉藤光毅だ。
今年5月から6月にかけて行われたFIFA U-20ワールドカップポーランド2019での活躍などですでにその名を知っている人も少なくないだろう。斉藤はプロサッカー選手であると同時に、通信制高校で学ぶ現役高校3年生でもある。長く日本代表に名を連ねてきた香川真司や酒井宏樹なども在籍して学んだ経歴がある通信制高校。本稿では、斉藤のプロ生活と学業の両立にスポットを当てる。
斉藤が通っていた神奈川県内のいわゆる普通の全日制高校を退学したのは2018年の9月。斉藤が横浜FCとプロ契約を結んだ直後のことだった。
「夏休み明けの9月になってから、2~3回登校して辞めました。先生や仲の良い一部の友人には前からそれとなく話していたので、高校を辞めることについて周囲にすごく驚かれたということはありません。『がんばれよ』と励まされたぐらい。全日制の高校に入学した時点で、途中からプロ入りして通信制高校に切り替えると決意していたわけではないけれど、割と自然な流れで事が進んだと思います。家族とは、トップに上がれるかどうかという感じになってきた高校2年ぐらいから、ちょくちょくそういう話をしていましたし」
ここで通信制高校について説明しておこう。基本的には、学校に通わずに課題・レポートを提出し、テストに合格すれば高校卒業資格が得られる高等学校である。在宅で自習するのが難しい生徒向けに通学型のサポート校などもあるが、斉藤は在宅学習の通信制を選んだ。社会人がイメージするのであれば、仕事をしながら在宅型の資格や趣味の通信講座を受講する感覚だろうか。
「課題やレポートは、寝る前に1時間程度と時間を決めて勉強しています。具体的にはテキストを読んで穴埋めのプリントをやるといったことです。午前・午後の2部練習の日は帰りも遅くて眠くなるので、練習が1部のときに特にきちんとやるように心がけています。まあ、たまにサボってしまうこともありますけど(笑)」
サッカーに集中できる恵まれた環境
勉強のペースについては昨年の経験が役に立っているという。
「年度の初めに1年分の教材をごっそり受け取るんですけど、去年の9月に半年分の教材をもらってやりきることができたので、“まあこんな感じかな”という手ごたえはつかめました」
いわゆる“スキマ時間”をうまく利用する努力は、サッカー選手でも変わらない。
「課題やレポートはiPadの画面上で直接やれるので、アウェイの移動のバスや飛行機のなかではiPadが手放せません。また、わからないことがあったらiPadで授業の動画を視聴することができるので、一人で勉強して困ることもほとんどないです」
通信制高校の特徴の一つがスクーリング。通信制といえども、ある程度、登校して全日制高校のような集団授業を受けることが必須となっている。スクーリングの形式は通信制高校によってまちまちだが、多くは塾のような教室に平日または休日、月2日・年間20日ほど登校する形だが……。
「僕の通信制の場合は3泊4日の合宿形式です。このスクーリングはオフの1月に実施していて、日本全国にある通信制高校の拠点から大勢の生徒が集まり、人数が把握できないくらい大人数でした。集団授業のほか、通信制の教材でわからないところを質問する時間なども。体育の時間として運動テストもありましたが、それは楽しかったです」
通信制高校には数十校と種類があり、サッカー選手にとってどの学校を選ぶかも重要だ。
「それについては、クラブ主導でプロサッカー選手に実績のある学校を探してもらいました。実際、ちょうどオフに合宿形式のスクーリングをやってくれるところでなければ、プロとの両立は難しかったと思います」
率直に「プロと学業の両立は、大変ですか?」と聞いてみた。
「そんなに大変という感じではないです。今年の教材も現時点で6~7割ぐらい終わりました。それでも少し遅れ気味なんですけど。(勉強が苦手と自覚している)俺でもなんとかなっているから、勉強ができる人であればもっとスムーズなんじゃないですか」
楽しい学校生活、仲の良い友人たちとの日々を捨て去り、覚悟を決めてプロの世界に飛び込む――。そんな、取材前に少しイメージしていたような悲壮感はまったくない。そうはいっても、高校生が誰にも強制されずに学業の課題をこなしていくのは、大人が想像するより難しいのではないだろうか。
一方で、もちろんサッカーについてはより充実した生活が待っていた。昨年の7月までは、基本的には高校に通い放課後にユースの練習に参加して、タイミングが合えばたまにトップチームのトレーニングに合流するという毎日だった。しかし、昨年9月以降はトップの練習一本に打ち込んでいる。
「サッカーに集中できる恵まれた環境にあると自覚しています。だからもっとサッカーで結果を出さないと。5得点(取材時点)なんて少なすぎます」
いつの日か、斉藤に続く高校生Jリーガーが横浜FCに誕生したとき、その選手にとって斉藤の切り拓いた道すじは心強いものになるだろう。本取材をお願いするにあたり、横浜FCの内田智也広報は「今後のモデルケースにもなる、という思いもあってお受けしました」と語ってくれた。ユースからの生え抜きを高校2年の半ばからプロ選手として預かり、学業とプロ生活を両立させて育て上げたという経験は、クラブにとっても少なからぬ財産になるだろう。
<了>
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