
「指導者は性に合わない。経営者、ゆくゆくは…」 播戸竜二が挑戦する道筋とは?
今年9月に現役引退を発表し、新たな道を歩む現在を「今はまた1998年のプロ1年目の練習生みたいな感じ」と語る播戸竜二。
引退セレモニーの時に、指導者ではなく経営者、ゆくゆくはJリーグのチェアマン、JFA(日本サッカー協会)の会長に……と話したその真意、そして彼が考えているJリーグや日本サッカーが進むべき道、自身が選ぶ未来とは?
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=浦正弘)
優秀な監督や選手だけが集まってもダメなんだなと感じてきた
今年9月に現役を引退され、最近の播戸さんのSNSを見ていると、現役時代よりも肩の力が抜けたように感じます。これまでは、自分から他の人へのアプローチってそんなにしていなかった印象でしたが、今は躊躇なくコミュニケーションを取っていますよね。
播戸:もともと好奇心もあるし、自分自身はいろいろな人と交流してみたいと思っていたけど、相手にとってはJリーガー、プロアスリートとして見られているので、こっちもそう振舞わなくてはというのがしんどかったこともありました。今はそれがなくなって楽になりました。
現在は解説者としても活躍されています。
播戸:現役サッカー選手を辞めて、新しいことをちょっとずつやり始めた段階なので、今はまた1998年のプロ1年目の練習生みたいな感じ。解説は難しいですね。
戸田(和幸)さんや岩政(大樹)さんのような分析的な解説よりも、播戸さんしか話せないことを、播戸さんらしくストライカー目線で話してもらえたらよいのではと思います。
播戸:そうですね。でも世間の流れとしては、分析を求めているところもあるじゃないですか。選手目線で話しつつ、そういう人たちに対しても、「(分析面でも)ちゃんとわかっているんだな」と感じてもらえるようにやりたいですね。欲張りかもしれないけど。
解説の仕事でも、俺はどちらかというと準備して臨むよりも、目の前で起きていることをしゃべりたいっていう思いがあるから。もちろん、準備したいという自分もいます。でも見ている人たちはデータも含めたいろいろな視点で(試合を)知りたいというところもあるんじゃないかと思いながら、勉強やなと思いながらやっています。話すのは簡単だけど、解説は簡単じゃない。
今後について、播戸さんは引退セレモニーの時に、指導者ではなく経営者、ゆくゆくはJリーグのチェアマン、JFA(日本サッカー協会)の会長に……と話していましたが、引退の場でそのようなことを言った方は初めてだったと思います。その意図はどこにあったのですか?
播戸:指導者にまったく興味がないわけではないけれど、現時点ではどちらかといえばマネジメントの仕事に対する興味が強いです。監督やコーチって、自分ではどうにもできない部分がすごく作用するから、自分としてはあまり性に合わないなと思って。絶対喧嘩して文句言うようになりそうだなと思うと、指導者の道で良い未来が思い描けなかったんです。
中田英寿さんも、似たようなことを言っていました。指導者になっても選手たちは絶対言うこと聞かないから、それでイライラして揉めるだろうから絶対やらないって。
播戸:そうなるのが目に見えているし……。あとは、クラブをつくろうという話になったら、いろいろなクラブへ行って経験して、ちゃんと一歩一歩成長させていかないと継続的な結果は出ないと思いました。
みんながこの人にやってほしいと思える人材になるために
播戸さんはかなり前から、世界のサッカーを見ていますよね。
播戸:世界のサッカーだと、昔からイタリアが好きで。さまざまなチームをずっと見てきて、優秀な監督や選手だけが集まっていてもダメなんだなと感じた時に、その理由を考えると、やっぱりクラブ、経営層がちゃんとしないといけないんだという感覚を覚えました。それを日本のチームに当てはめると、やっぱりなっていう自分の中の方程式みたいなのがあるので、それの答え合わせをしてみたいなと思う自分がいて。自信もある一方、難しさもあってほしいなと。クラブ経営をやるならしっかりと結果を出して、日本サッカー界をもっと良くしたいから、そのためにはもっとこうしたらいいんじゃないかとか、いろいろ言っていきたい。案外、誰もやらないから。
海外の引退した選手たちはビジネス側をやる人も多いですが、日本ではあまりやらないですよね。
播戸:今後の日本サッカーのためには、このままではダメ。変えていかないといけないと思います。これまで、選手がそういう中にどんどん入っていく動きがあまりなかったから、自分自身がそれをできたら、もしかしたらもっと良い成長曲線を描けるんじゃないかと思って、挑戦してみたい自分もいます。
そういう想いもあったから、村井満Jリーグチェアマンや川淵三郎さんともお会いされたんですね。
播戸:そうです。やっぱり川淵さんは選手も日本代表監督とかも経験されていて、一方で村井さんはビジネスのほうでの経験が豊富。いろんなアプローチや考え方があるから、もし自分が何かをやることになった時にはどういう考えや行動をしていったらいいかというのを、人の話を聞きながら日々考えていた中で引退セレモニーの場を与えてもらって。だから、ある程度今後の自分の道について考えていることを言わないといけないなと思ったのと、言うことによってその後何が起こるのだろうっていう期待もありました。日本サッカー界を発展させるためには、Jリーグではチェアマンやその近くで発言権を持てるような場所にいられる存在になりたいですね。
マネジメントサイドとして、そういうところに貢献したいという気持ちなんですね。
播戸:はい。Jリーグチェアマンはなれるならやってみたいですが、自分自身はもしかしたら、その下でいろんなことを動かしていく役割が合ってるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、そういう位置にいくには、みんながこの人にやってほしいっていうような人材になるように、自分自身これから歩んでいこうと思います。
人に会って発見していく現場主義
クラブの社長をやるという可能性はあるのですか?
播戸:やりたいですね。でも、いきなりクラブの社長をやるというより、最初はGMとかからやって、強化のことなど含めて全部できるようになったほうがいいのかもしれないし、経営的なことにはあまり関われないのなら意味がないのかもしれない。こればっかりは、自分がやりたいというより、自分に対してそういうポジションを与えてくれる場があるかどうか。そうなるために今、自分自身に何が必要かといったら、サッカーの知識はもちろん、選手としての知識はある。一方で強化やチームをつくることというのはやっていないから、選ぶ側にとってはあまりイメージがないかもしれない。でも、俺はやれると自分の中で勝手に思っているし、今までこれだけ現場を見てきたという自負もあるから、さらにもっと全体のことを見てみたいなと思っています。
クラブの社長になることも考えているのなら、たくさん経験者の方々に会いながら、ビジネス面のところも磨いていったほうがいいですよね。
播戸:そういう面が、今の自分には足りないと思っています。例えば解説もそうですけど、誰かに何かを伝えるという時に、やっぱりどうしても感覚で話したり、自分の考えを思ったまま言いがちだけど、ちゃんと聞く人がイメージできるように伝えようとか、そういうことも考えながら少しずつやるようになりました。経営をやるとなったら数字面の知識も絶対必要になってくるから、勉強しなくてはならないし、そういう意味で、たくさんの経営者に会って、それぞれの考え方や、下の人たちがどのように付いていっているのかなどを学ぶようになりました。強みや魅力も、本当に千差万別なので。
そうですよね。本も読んだりしますか?
播戸:現役時代の引退前あたりは本を読んでいたけど、今は直接人に会って、実際に自分がどう感じるかということを大事にしています。
現役時代には、監督や選手の本をよく読んでいましたよね。
播戸:そうそう。最後はビジネス側の人の本ばかり読んでいたんですけど、知識はわかってきたので、実際にそういう人たちと話してみたらどうなのかなって考えるようになって。
そこは大事ですよね。さすが現場主義。
播戸:ビジネスの場でなくても、例えば一緒に食事している時の店員さんへの対応とか、お店の人との関係性なども全然違います。お金の払い方とか、どういう食事を選んで相手をもてなすのかっていうホスピタリティとかを見たり、いろいろな人に会って発見していくのが今は楽しいです。
いいですね。その人たちと会う中で、サッカー界にとってヒントになることはありましたか?
播戸:自分もサッカー界の人間なので、やっぱり会う人たちにも今のJリーグや日本代表の現状、日本サッカー自体の現状についてどう思っているのか聞きますし、そうすると「もっとこうしたらいいんじゃない?」とか、それぞれの考え方っていうのがすごくあるから勉強になるし、そういう経営者層にもっとJリーグに関わってもらいたいなと思います。
ビジネスを学び、サッカーに対して良い形をつくりたい
鹿島アントラーズの社長になった小泉文明さんとか、そういうビジネス界のトップの人たちがもっと入ってくるといいですよね。
播戸:そういった人がもっと入ってきたらどうなるのかな?というのと、他の業界の人たちがどうやったらもっと入ってくるんだろう?とか、そういうのを今いろいろ勉強していて。頭の中で組み立てながら、ようやくJリーグの理想形みたいなものが少しずつ固まってきたというか。あとは、ITテクノロジーの力が今後欠かせなくなってくると思うので、サッカーが好きな若い経営者とかが、Jリーグではなく地域クラブからでもいいから買って、どんどん面白いことをやって発展させていくみたいな流れも出てきてほしいですね。それで、既存の人たちも、そういう新しい風に負けないようにもっと努力する。そうすると全体が伸びるみたいな。さらにトップだけでなく、マーケティングやセールスも含めて、良い人材と言われるような人たちにもっとJリーグ、日本サッカー界に入ってきてほしいです。そうなるとやっぱり、収入面でもそういう人たちが入ってきやすいように、人にもっとお金をかけられるようなサッカー界になっていかないといけない。そのためにはどうしたらいいのかっていうことを、今ちょっとずついろいろ勉強している最中です。
自分自身、今は人材系の企業やベンチャー企業と、これからいろいろ一緒にやっていこうとしていて。選手を辞めてからの新しい可能性への期待も含めて、そこでビジネスを学んだり、サッカーに対して良い形を何かつくりたいっていう気持ちはすごくあります。
その企業の方たちは、サッカー界で活躍した経験を生かして、播戸さんに何かやってもらいたいという期待があるのでしょうか?
播戸:俺はビジネスマンじゃないから、今までのプロサッカー選手人生での経験や知識を生かして、アドバイザーみたいな立ち位置で一緒にやってほしいと言われています。人材系の企業というのは、転職サービス「doda」などを運営しているパーソルキャリア株式会社で、グループとして(プロ野球)パ・リーグのオフィシャルスポンサーをやっていたりとスポーツにも力を入れている会社です。同い年のdoda編集長が役員になったのだけど、その方も今後さらにスポーツでいろいろやっていきたいという考えがあって、一緒にやっていこうという話になりました。もう1つはTENTIAL(テンシャル)というインソールの会社です。社長はまだ25歳くらいで、上場を目指してやってるし、中で一緒にやりながらいろいろ勉強したいと思って。自分の経験をもとに、インソールや足のこともいろいろアドバイスできるし。パーソルキャリアとは(昨年)年末くらいから話していて、テンシャルは今年の3月頃に知り合って、俺がサッカーを続ける続けないにかかわらず、一緒にやっていこうと業務委託契約をしました。
すでにいろいろと動き出されているんですね。
播戸:日本サッカーをより良くしていくためには、サッカー選手としてだけでなく、ビジネスの経験もしなくてはいけない。そのためには、ビジネスを勉強していくことも大事だし、良い形になるなら、俺は選手やりながらでもビジネスをやってもいいと思う。それこそ(本田)圭佑や長友(佑都)とかもやっているけど、他にもやれる選手たちはいっぱいいると思うし。そういう選手たちがどんどん一緒にやっていけばいいと思うし、現役を辞めても、選択肢がすぐに持てるという状態をつくっておくという意味でも。俺はやっぱり辞めて半年、どうすんねんとか、自分に何ができんねんってすごい考えたし。自分の価値とか、今までサッカーで飯食ってきて、サッカーがなくなったら自分は今後どうやって生きていったらいいんだろうってすごく考えたり、人と会ったり動いたりをずっとしていたから。俺自身は、ある程度の目標があったから良かったと思います。漠然といろいろな人に会っていた時とは違いますね、今は。
<了>
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[PROFILE]
播戸竜二(ばんど・りゅうじ)
1979年8月2日生まれ、兵庫県出身。琴丘高校卒業後、1998年にガンバ大阪に練習生として入団、同時期にU-19/U-20日本代表としても活躍。2000シーズンにコンサドーレ札幌へ期限付き移籍し岡田武史監督のもとJ1昇格を経験。2002シーズンより期限付き移籍を経てヴィッセル神戸へ完全移籍後、2006シーズンよりガンバ大阪に復帰。2006年にはA代表初選出・初得点を果たす。セレッソ大阪、サガン鳥栖、大宮アルディージャ、FC琉球を経て、2019年9月に現役を引退。現在はメディアやビジネスの新天地など多方面で活躍している。
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