冨安健洋「ユベントス入りは夢」 カテナチオの国で磨く「日本人らしさ」で世界に挑む
ベルギー1部のシント=トロイデンからセリエA・ボローニャに移籍し、1年目のシーズンに挑戦している若きディフェンダー、冨安健洋。いよいよ今年開催となる、東京五輪で日本代表選手としての活躍が期待される中、ボローニャでもチームの主軸を担っている。地元イタリアのメディアでも「ボローニャをけん引する右サイドの矢」として特集が組まれるなど、注目を集める冨安が感じる“カテナチオの国”イタリアのサッカーと日本の違いとは――?
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=高橋在)
“カテナチオの国”イタリアでの新たな挑戦
冨安選手が現在所属しているボローニャFCには、どのような印象を持っていましたか?
冨安:ほぼ全く知らないに等しかったですね。
クラブからは、どういう説明を受けていたんですか?
冨安:(シニシャ・ミハイロヴィチ)監督と移籍前にビデオ通話で話して、スタッフからの評価や、どのポジションで使おうとしているとか、けっこう具体的に説明してくれました。
事前に丁寧に話があったから、やるサッカーもイメージできた状態で行くことができたんですね。セリエAには、どんな印象がありました?
冨安:ざっくりですけど、やっぱり「守備の国」というイメージでした。
実際は?
冨安:やっぱり細かいし、戦術的だし、イメージどおりではありました。
その前にプレーされていたベルギーと比べても、戦術的な部分は細かいですか?
冨安:そうですね。ベルギーでは、守備の時はマンツーマンでやったり、チーム全体の戦術という感じではなかったので。イタリアでは練習の段階から、その週の対戦相手をイメージして準備するので、そういうところはベルギーとは違うなと感じています。
対戦相手に合わせたサッカーをするというのも、イタリアの場合はやりますよね。世界でも一番やると言ってもいいかもしれない。僕も20年くらいセリエAの解説をやってきましたが、サッカーについての考え方が別物っていうくらい日本とは違いますよね。考え方から違う。
冨安:そうですね。それは、サッカーに限らず違うなと感じています。
サッカー以外だと?
冨安:ベルギーの時も感じてはいましたけど、日本人が思っている当たり前と、ヨーロッパの人の当たり前って違うじゃないですか。ベルギーの時以上に、今のイタリアのほうが感じます。日本人ってやっぱりお互いに気を遣い合って、何も言わなくてもわかるというか。でもイタリアでは、全くそういうのがないし、そこにストレスを感じることも正直ありますね(苦笑)。
「言いたいことがあるなら、言わなきゃわからないだろう」という感じですか。
冨安:そうですね。しかも、相手はこっちが気を遣っていることにも気づいてないじゃないですか。そういう価値観の違いに慣れていく必要はあるかな、というのはあります。
でも、そういう日本人ならではの思考回路も、セリエAみたいなところだと生きると思います。長友(佑都)選手もそうでしたけど、試合を見ていても、首を振っている回数がチームメートの中でも冨安選手が一番多いなと思いました。
冨安:僕もボローニャでは主にサイドバックをやっていますが、逆サイドにボールがある時に日本人のセンターバックは後ろも気にするじゃないですか。それがこっちの選手にはなくて。ずっと「見ろ」と言っているので、今はちらっと気にしてくれるようになりましたけど、最初は全然見てくれなかったですね。
そういう意味では、日本のサッカーで育ってきた中での、特徴的な部分での優位性はありますよね。
冨安:そうですね。でも、日本のサッカーのほうがレベルが高いとは思わないし、むしろ成長するためには海外に出て挑戦しないといけないと感じているので。日本で学んだことも生かしながら、チャレンジャーとしてここに来ているので、いろんなことを学びながら成長していかないといけないと思っています。
冨安が感じた、日本とヨーロッパサッカーの違い
最初に日本からベルギーのシント=トロイデンVVに移籍した時は、何に一番違いを感じましたか?
冨安:やっぱり、より「個」でサッカーをするなという印象は受けました。行く前にも「カバーがない守備をする」という話は聞いていたんですけど、(実際にプレーしてみると)予想以上でしたし、自分のミスでも人のせいにしたりとか、そういうのは日本人にはない感覚じゃないですか。
日本でそうすると、空気が悪くなる。
冨安:はい。でも、ベルギーでは平気で人のせいにする。それが、ベルギーよりもイタリアのほうがよりすごいです。難しいところですけど、それに慣れて、自分も人のせいにしていたら成長は止まると思うし、かといって言われているだけでは、どんどんネガティブになってうまくいかないし。だから、その場では言い返すけれど、後から見て自分自身のミスだとわかったら反省して、自分のミスだったよって言えばいいので。
Jリーグとのフィジカル面の違いは?
冨安:ヨーロッパでは、サイドアタッカーはシンプルに仕掛けてきますが、日本人選手はマンツーマンの状況ではあまり仕掛けてこないので、そこの違いは感じました。マンツーマンの守備は、ベルギーに行って成長できたと思います。
ベルギーとイタリアの違いは?
冨安:ベルギーが特殊だったと思います。ベルギーと比べてイタリアのほうが、まだ日本と近いものはあると思います。
ベルギーは「個」でサッカーをするということでしたが、そういう状況だと、より自分を売り込まないといけないというのがあるからですか?
冨安:やっぱり、(ベルギーリーグは)ステップアップリーグだから、ということはあると思います。
プレー中に考えるのは、敵のことよりチームメートとの関係性
ボローニャでの1シーズン目は、ケガはありましたが、開幕からレギュラーでやれていますし、先日のナポリとの試合(2019年12月1日/セリエA 第14節ナポリvsボローニャ)は興奮しました。劇的な終わり方でしたし。
冨安:僕の中では、最後はオフサイドだなと確信していたんですが。でも、最後のほうはずっとドキドキしていましたけどね。早く終われと思っていました(笑)。
実際にセリエAでやってみて、手応えはどうですか?
冨安:攻撃面では手応えを感じていますけど、守備面のほうは、まだまだだなと感じますね。
攻撃面で、Jリーグや日本代表のチームでは、冨安選手がボールを運ぶ速さや、うまさを見せるプレーをする機会があまりないので、ボローニャでのプレーを見て、素直に「すごい!」と思いました。
冨安:そうですね。日本ではそういうプレーをする必要もなかったですし。
そもそも、センターバックやサイドバックにそういうプレーを望むサッカーじゃないですしね。
冨安:でも、今シーズン開幕したばかりの時とかは何も考えず、がむしゃらにやっていましたね。とにかく走って、高い位置でボール持って、迷わず仕掛けて。
今のほうが考えてプレーしている?
冨安:今のほうが全然考えてますし、その分、難しくなっているなと感じますね。特に味方との関係性とか。チームメートが、僕の思っているプレーと違うプレーをしてきた時に、僕がどうリアクションできるかっていうところは一つの課題だと感じています。
敵チームよりも、味方のチームメートとの関係性のほうをより考えていると?
冨安:そうですね。ポジショニングであったり、今は左サイドバックの選手がケガをしているので、僕が高い位置でプレーすることも多いんですが、それもまた難しいなと感じているし。今が一番難しい時期ではありますね。
サッカー文化が根づくイタリアだからこそ、討論ができる
難しさでいえば、こないだのミラン戦(2019年12月8日/セリエA 第15節ボローニャvsミラン)で、初めて冨安選手がメディアに叩かれましたよね。
冨安:そうですね(苦笑)。それまでも良くない試合はありましたけど、明確に失点に絡んだり、負けに繋がった試合は初めてだったので。
そういう時、翌日の新聞は見るんですか?
冨安:いや、新聞とかは見ないです。でも、スマホのニュースでは出てくるので、どうしても目に入ってきてしまいますね。
正直なところ、日本の新聞のほうが大げさに取り上げていて、「2失点に絡んだ」と書いてあったりしましたが、そこまでダイレクトに失点に繋がるプレーでもなかったと思うんですよね。そのあたりはどう思いますか?
冨安:監督もチーム全体に「失点が簡単すぎる」と言っていました。ただ、僕の感覚では、2失点目は僕の責任だし、3失点目も。
特に3失点目、あのような状態でしっかりクリアするのって簡単じゃないですよね。
冨安:後ろのマークの距離がもっと近いと思っていたから、早くボールに触らなきゃと思って足を伸ばした感じなんですけど……。1秒でも2秒でも早く下がって、良い向きのポジションを取っていたら、たぶん相手との距離を知れたと思うし、映像を見たらトラップして味方に繋ぐ余裕もあったので。全然やれることはあったと思うし、やれることを探さないと。実際に失点しているわけだし。いろんな要素があるにせよ、僕ができることはまだまだあったなと。
イタリアのメディアは、世界でも一番厳しいメディアといわれていますけど、日本のメディアとの違いは感じますか?
冨安:メディアもそうですけど、そもそもイタリアはサッカーが文化で、日本ではまだ文化ではないじゃないですか。プロ野球や、他にもたくさん娯楽があって。でもイタリアの人たちは小さい頃からスタジアムに行って、試合を見るというのが生活の一部として生きてきたからこそ、大人になってメディアの仕事に就いた時に、討論ができるんじゃないかなと思います。
僕も、カルチョ(イタリア語で「サッカー」という意味)への愛がすごいから、セリエAにハマりました。1年目からこうして活躍していたら、サポーターからの愛もたくさん受けるでしょう?
冨安:サポーターから声かけてもらえることもあります。ボローニャは、イタリアの中でも一番おとなしいとは言われていますけど。
ボローニャはイタリアの中心に位置していて、大学もあるし、知的な街ですよね。
冨安:サッカーだけでなく、あらゆる面で自分たちの信念を貫く人たちだと感じます。例えばメディカル面で、ベルギーの時は疲労骨折をした状態で病院へ行って、本当に何もしてくれなくてただ治るのを待つだけということもありました。それと比べたら、ボローニャの練習場の隣には「イソキネティック」という医療施設があって。
ロベルト・バッジョの膝を治したところですよね。
冨安:長期のケガをした選手はみんなあそこに行きます。それでも、日本のリハビリとは違うやり方をしましたし、「これは合ってるのかな?」と思うこともありましたね。
特に医療の部分って、国ごとに全然違いますよね。
冨安:左サイドバックのミッチェル・ダイクスが、最近、ケガをして、ボローニャで治療しながらやってもなかなか回復しなくて。母国のオランダで専門医にチェックしてもらったら、2~3カ月程度かかるケガだとわかったということもありました。
特に、大きいケガの場合は、やっぱり日本に帰りたくなりますね。
冨安:それは正直そうですね(苦笑)。自分の国でリハビリするのが一番安心ですし、小さい頃からやってきていて慣れているというのもあります。
でも、「イソキネティック」はヨーロッパの中でも評価が高いですよね?
冨安:ヨーロッパ中からケガした選手たちが来るらしいです。
イタリアのトップを目指すというのも一つの選択肢
イタリア語は勉強中ですか?
冨安:勉強中です。だんだんわかるようにはなってきたし、サッカーで使う言葉は問題ないんですけど、まだまだですね。
ピッチ外でもコミュニケーションは取れたほうがいいですよね。ベルギーの時は英語?
冨安:英語です。でも全然完璧じゃないので、まだ英語も勉強しないといけないですね。
ベルギー、イタリアと経てきて、一番の夢であるプレミアリーグへの想いは?
冨安:正直言って、昔と比べてプレミアリーグに絶対行きたいという気持ち自体は薄れてきています。自分に合う、合わないもあると思いますし、最近は、イタリアのトップを目指すというのも一つの選択肢としてあります。
ユベントスのサッカーとか、ハマりそうですよね。
冨安:夢ではありますね。
やっぱりイタリアにいると、ユベントスというチームには、より特別感を感じるのでは? クラブの組織や歴史、スタジアムも含めて、やっぱり特別ですよね。冨安選手がユベントスにハマりそうな理由は、オーソドックスだから。ちゃんと走れる選手とかが、きちんと評価されるクラブだと思います。
冨安:今の自分のポジションは、僕の特徴を一番出せると感じてます。
サッカー以外の趣味や、空いている時間は何をして過ごしているのですか?
冨安:僕ら今、負けているのでオフがないんですよ(苦笑)。
イタリアってそういう風習ですよね。ナポリも、今シーズン、それで大もめしましたし。
冨安:それも文化なんでしょうね。
他の都市には行きましたか?
冨安:はい、ミラノやフィレンツェにも行きました。去年シント=トロイデンで一緒にプレーしていた木下康介くんとかと一緒に。むしろ、それしか気分転換がないです。買い物が好きなので。
正直、意外です(笑)。
冨安:いや、もともとは買い物とかは好きじゃなかったんですけど、去年シント=トロイデンで一緒だった鎌田(大地)くんや遠藤航くんとかと買い物によく行っていて、それで好きになりました。
服を買ったりするんですか?
冨安:はい。周りから、「ちゃんとしろ」と言われて(苦笑)。もともと、ファッションに全然興味がなかったので。今日もこんな格好ですけど(笑)。
なんでちゃんとおしゃれをするようになったのに、今日はこんなにカジュアルなジャージスタイルなんですか! イタリア的なファッションで着てほしかったです(笑)。
冨安:たしかに(笑)。でも、イタリアに来てジャケットも買いましたし、ちゃんとキレイめな格好に憧れるようになりました。
<了>
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PROFILE
冨安健洋(とみやす・たけひろ)
1998年11月5日生まれ、福岡県出身。ポジションはディフェンダー。セリエA・ボローニャFC所属。日本代表。2015年に高校2年生ながらアビスパ福岡に2種登録され、2016年にトップチームへ昇格。2018年にシント=トロイデンVVへ移籍し、2019年よりボローニャFCに加入。日本代表では、2018年のキリンチャレンジカップで、10代のセンターバック選手として初のA代表出場を果たした。AFCアジアカップ2019、サウジアラビア戦でA代表初ゴール。同年、コパ・アメリカ ブラジルでは全試合フル出場を果たし、2020年開催の東京五輪だけでなく、2022年FIFAワールドカップ予選・本大会での活躍に期待が寄せられている。
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