千賀滉大「WBCは足を引っ張った」 東京五輪、ソフトバンクリーグ優勝へ「ブレない」決意
2017年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、千賀滉大は目覚ましい活躍を見せ、日本人唯一のベストナインに選ばれた。だがそんな周囲の評価とは裏腹に、本人は「足を引っ張ってしまった」と口にする。その理由とは――?
2020年、エースの期待がかかる千賀に、侍ジャパン、そして東京五輪への想いを聞いた。
(インタビュー・構成=花田雪、撮影=繁昌良司)
前回WBCでは「足を引っ張った」 千賀が抱く複雑な思い
2020年、東京で56年ぶりに夏季五輪が開催される。
中でも注目を集めているのが、北京大会以来、3大会ぶりに復活する「野球」だ。
日本プロ野球界は例年より開幕時期を早め、五輪開催中はレギュラーシーズンを中断するなど、侍ジャパンを全面的にバックアップ。悲願の金メダル獲得は、至上命題ともいえる。
そんな侍ジャパンにおいて「エース」の働きが期待されているのが福岡ソフトバンクホークスの背番号41・千賀滉大だ。
2017年に行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)も経験し、昨季まで4年連続でシーズン2桁勝利を達成。1月30日に27歳となり、投手として最も脂の乗った時期でもある。実績と実力を兼ね備えた「侍ジャパンのエース候補」は、東京五輪、そして2020年をどう見据えているのか――。
「まず大前提として、東京五輪に出る、出ないというのは自分が決められることではありません。ただ、もちろん選ばれたいという気持ちはあるので、そのための準備はもちろん、ファンの方、12球団の関係者に『千賀だったら』と思ってもらえるような結果を残さなければいけないと思っています」
千賀自身、「侍ジャパン」を強く意識するようになったのは自身も参加した2017年のWBC。この大会では4試合、11イニングを投げて16奪三振、自責点1の防御率0.82と抜群の成績を残し、侍ジャパンでは唯一、大会ベストナインにも選出されている。
「大会中はもちろんですが、大会後の方が影響は大きかったです。あの大会をきっかけにいろいろなところで名前を挙げてもらうようになったし、注目される機会も増えた。周囲の環境も変わってきて『ちゃんとやらないと』という意識は間違いなく強くなりました」
WBCで「日本のみならず世界に名前を売った」形となった千賀だが、残した成績とは裏腹に、複雑な感情もあったという。
「自信になった部分は確かにありますけど、正直にいうと半々です。あの大会、負けがついたのは僕だけ。そういう意味で足を引っ張ってしまったという思いもあります。手応えを感じた部分ももちろんありますけど……」
確かに前回のWBC、侍ジャパンは1次ラウンド、2次ラウンドを6戦全勝で突破。迎えた準決勝・アメリカ戦で敗れることになるのだが、この試合の敗戦投手が千賀だった。とはいえ、同点の7回から救援登板してアメリカ打線をいきなりの三者三振。続く8回に決勝点を奪われたものの「足を引っ張った」という印象はまったくない。
「短期決戦、特に国際大会は『結果が全て』です。例えばシーズンは1年間通して安定した成績を残すことが大切ですし、負けても次につながればいい。クライマックスシリーズや日本シリーズも同じ短期決戦ですが、同じチームと何試合か対戦するじゃないですか。場合によっては『負けても次の試合につながる投球』だったり、何かしら相手に傷跡を残す投球ができればよしとされることもある。でも、国際大会は毎試合、相手が違いますし、トーナメントの場合は特に目の前の試合をいかに勝つかだけが重要になってくる。『意味のある敗戦』なんてないんです」
抜群の結果を残したとはいえ、たった一度の失点が日本代表の敗戦につながってしまった。だからこそ「足を引っ張った」という言葉が口に出る。国際大会という舞台は、それほどの緊張感と緊迫感を選手にも与える。
「メンタル面も含めて、レギュラーシーズンとは別物です。もちろん運も左右する。どう転ぶか分からない中で、それでも勝たないといけないので」
フォークの不調に苦しんだ昨シーズンに手にした、ブレない姿勢
自国開催、久々の「五輪での野球復活」、さらにいえば次回大会から再び野球が競技から外されることが決定されている今、選手たちにかかるプレッシャーは想像を絶する。なにしろ「最初で最後の、金メダル獲得のチャンス」になるかもしれないのだ。
「とはいえ、もちろん東京五輪があるから何かを変えるとか、そういうことは考えていません。今年は開幕も早くなりますが、調整ペースはむしろいつもより遅いくらい。それは、以前から決めていました。1~2週間、開幕が早まったところで、僕自身はそこまで大きな影響はないと思っています。毎年、オープン戦の時期はほぼ全開で投げられていますし。試合勘の問題は少しあるかもしれませんけど、そこはブレずにやっていきたいですね」
ブレずにやりたい――。
そう思うことができるのは、昨季過ごした1年間が大きかったという。
「それまではとにかく目の前の試合、目の前の打者を抑えることを最優先に考えていたのですが、昨季はシーズン通して初めて『目標設定』をしました。数字ではなく感覚的なことなので言葉では表現しにくいのですが、それは1年間通して貫くことができた。自信にもなりましたね。調子が悪かったりすると、どうしてもあれこれ考えて何かを変えようと思いがちなんですが、去年はそこでぐっと我慢して、ブレずにやることができたので」
13勝8敗、防御率2.79、227奪三振でタイトルを獲得するなど見事な成績を残した昨季の千賀だったが、実はシーズン通して代名詞でもある「フォーク」の不調に苦しんでいた。
「何がだめって、全部だめでした。去年のフォークは『落とそうとして落としたフォーク』。良いときは『勝手に落ちるフォーク』。その違いですね」
打者の手前で急激な落差を見せる「お化けフォーク」は、千賀の持つ最大の武器でもある。それが昨季は、最後まで思うように操れなかった。ただ、ここで千賀のテーマでもあった「ブレない」ことが功を奏すことになる。本来持っていたカットボールに少し変化を加えることで、新たな武器としたのだ。
「フォークの不調はもちろん今季の課題ですけど、この後自分がどう変化していくのか楽しみでもあります。カットボールについては手応えをつかめましたし、そこはプラスに作用できれば。変化が必要なところはもちろん挑戦していきますが、そうじゃないところは今年も『ブレずに』やっていきたいです」
2019年を経て、新たなフェーズに突入した感もある千賀滉大。東京五輪も控えた今季は、どんな心で臨むのだろう。
「代表については選ばれないと話はできませんけど、例えば前回のWBCを経験したり、オールスターにも出場させてもらったことで、代表メンバーとはある程度の関係性が出来上がっていると思います。プレーヤーとしてはどんな役割を任されるかは分かりませんけど、もし選ばれたらコミュニケーションの部分だったり、そういう面でもチームに貢献したいですね。あとは、五輪ではないですけどレギュラーシーズンの優勝。日本シリーズは3連覇できましたけど、シーズンは2年続けて負けている。やはり143試合の積み重ねと十数試合の結果は重みが違います。この2年は悔しい気持ちしかないと言ってもいいくらいなので、今年こそ優勝したいですね」
「ブレない」心でシーズンへの決意を語ってくれた千賀滉大。シーズン、そして東京五輪。2つの頂点へを目指す戦いが、もうすぐ始まる――。
<了>
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千賀滉大(せんが・こうだい)
1993年1月30日生まれ、愛知県蒲郡市出身。2010年ドラフト育成4位で福岡ソフトバンクホークスに入団。2016年から1軍先発投手として定着し、2017年から日本シリーズ3連覇に貢献。落差の大きなフォークを武器に、日本球界を代表する投手へと成長を果たした。最高勝率(17年)、最多奪三振(19年)、ゴールデングラブ賞(19年)などの個人タイトル受賞。2017年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ベストナインに選出。2019シーズンよりオレンジリボン活動支援を始め、1奪三振につき1万円を寄付している。2020年東京五輪での活躍が期待されている。
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