根性を数値化する? 本田圭佑が挑む「データ革命」選手権18チーム使用『Knows』の真価

Technology
2020.02.17

静岡学園の劇的な逆転勝利で幕を閉じた、高校サッカー選手権。例年にも増して熱戦が繰り広げられたこの大会には、知られざる一つのトレンドがあった。トップカテゴリーでは常識となりつつあるデータ活用。だが育成年代にまでは浸透していないことに疑問を抱いた本田圭佑が中心となって開発されたウェアラブルデバイス『Knows』が、今大会出場チーム中18チームで使用されていたのだ。
なぜ本田圭佑は「育成年代のデータ活用」にこだわるのか? 『Knows』のゼネラルマネジャーを務める本田洋史氏に話を聞いた。

(インタビュー・文=鈴木智之、インタビュー撮影=REAL SPORTS編集部、写真提供=SOLTILO Knows株式会社)

「根性」というアナログな指標をデジタルに、無理難題な本田の要望

近年、スポーツの世界にデータの波が押し寄せてきている。サッカー界も例外ではなく、選手の走行距離、スプリント回数、位置情報などはリアルタイムで数値化され、それを元に戦略を立てたり、トレーニングに落とし込むことは“常識”になりつつある。

選手のプレーを数値化するためのデバイス、アプリなどは無数にあるが、現役のサッカー選手、それも日本代表クラスの選手が開発に携わり、徹底した現場目線で作られたツールは珍しい。それが、本田圭佑選手が中心となって制作された『Knows』だ。

「成長過程にある育成年代の選手にこそ、データを元にしたトレーニングが必要」という本田圭佑選手の考えをもとに制作された『Knows』は、走行距離、スプリント回数、スピード、心拍数などのデータに加えて「根性」という目に見えないものを数値化することにチャレンジしている。『Knows』のゼネラルマネジャーを務める本田洋史氏は言う。

「本田圭佑は高体連(※星稜高)出身で、努力や根性の大切さを理解しています。『サッカーには客観的な数字だけでなく、メンタルや頑張りといった、目に見えない部分も必要なんや。何とかして、根性をデータで測りたい』という、彼の考えからスタートしました」

根性を数値化する――。本田圭佑からのリクエストに、開発陣は頭を悩ませた。試行錯誤するうちにひらめいたのが、「苦しいときにどれだけ頑張ることができるか」を表す数値だった。

「Knowsでは心拍数を測ることができます。心拍数が高い状態、通常、低い状態と分けて、高い状態、つまり苦しい状態で、どれだけスプリントしたかを数値化することで、根性を表せるのではないかと思ったんです」

心拍数が上がり、苦しい状況でも、サイドバックであればオーバーラップしなければいけないときがある。FWであれば、スルーパスに反応して長い距離をスプリントしなくてはならない状況もある。呼吸が整っていないから、疲れているからと言い訳している暇はない。

「根性の数値が大きい選手は、疲れているときでも頑張っていることがわかります。最初、本田圭佑から『根性を数値化してくれ』と言われたときは、どうやって数字にするんだと悩みましたが、なんとか実用的なものになったと思います」

『Knows』を導入しているチームの選手たちに、根性を数値化する取り組みは評判が良く、「おまえ、根性ないなぁ」などと言いながら、データを見比べているという。

トレーニングにデータを活用するメリットは多い。その一つが、選手の疲労度を数値化できることだ。近年、「プレーインテンシティ(強度)」という言葉が一般的になり、トレーニングに高い強度が求められるようになってきている。しかし、疲労度の高い状態で強度の高いトレーニングをすると、けがにつながりやすい。

「成長期の大事な時期に、根性論や精神論を全面に押し出すような指導を受けた結果、けがをしたり、選手生命が絶たれてしまった選手もいるはずです。『Knows』のデータを見ることで、『負荷の高いトレーニングが続いている』とわかりますし、指導者が『結構、キツいメニューだろう』と思ってやらせたところ、データを見ると、そうでもなかったというミスマッチが実際にありました。トレーニングの負荷や選手の状態を客観的に見ることで、適切なトレーニング量がわかりますし、効果的なトレーニングができると考えています」

導入コストの高さが、育成年代への導入の障壁になっていた

『Knows』を直訳すると「知る」という意味がある。これは文字通り、「サッカーの上達のために、自分の身体の状態やパフォーマンスを知ることが大切」という本田圭佑選手の信念から、名付けられたものだ。

「もともとは本田がACミランでプレーしていたときに、さまざまなデバイスを使ってパーソナルデータやプレーのデータを採取していたことから、『これは素晴らしい!』と感じました。彼の中では、『なんでトップチームの選手だけが使用して、ユースの選手は使ってないねん』と疑問に思ったようです」

本田圭佑選手は「良い選手を育てるために必要なことなのに、なぜデータを使わないのか。自分で数値を見て、分析して、プレーをどう改善していくかを繰り返すことで、ノウハウも身につけられるし、アナリストの視点も持つことができる」と話しているという。

これまで、デバイスを使ったデータ採取というと、トップチーム向けのイメージが強く、育成年代には手が届かないものだった。原因の一つがコストだ。海外のビッグクラブのアカデミーならまだしも、日本の育成年代のチームにとって、導入するための予算捻出に大きなハードルがあった。

そこで、『Knows』は思い切って価格を抑えた。育成年代に導入し、選手の成長の手助けをする。そのために開発されたものであり、価格が高いから導入できないのは本末転倒という想いからだった。

「デバイスの買い切りとレンタルの2パターンがあり、買い切りは6万9800円です。その後の月額使用料などは一切かかりません。レンタルは1デバイスが2980円です。ミニマムで1チームあたり、10~15個契約していただくので、3万円から4万5000円ほどになります」

驚くべき低価格である。6万9800円であれば、監督やフィジカルコーチのポケットマネーでも購入が可能だ。

本田洋史氏は「データの重要性を育成年代から知ってほしいし、ハードルを設けずにみんなに使ってもらいたいから、この値段設定にしています」と、胸を張る。

2020年初頭時点で導入チームは60ほど。Jクラブのトップチームから高体連の強豪、ジュニアのスクールとさまざまなカテゴリーで使われている。

「今年度の高校サッカー選手権大会では、出場48チームのうち、18チームに『Knows』を使っていただいていました。導入チーム同士の対戦もあり、複雑な気持ちで見守っていました(笑)」

市立船橋や富山第一、神村学園、米子北などの強豪が『Knows』を使い、チーム強化に役立てているという。

「今までは感覚でやっていたものが、数値化されて見えるので、指導者はもちろんのこと選手のモチベーションが上がるんです。『今日はこの数字だったので、明日はこうしよう』という明確な目標になります。抽象的に『頑張れ、もっと走れ』ではなく、現状の数値を見せて、どのぐらい走ればいいかがわかるので、選手もイメージしやすいですよね」

プロも高校生も、頭ごなしにこうしろと言われても、そのとおりにやろうとは思わないもの。この記事を読んでいるあなたもそうだろう。だが、数字という客観的なものを提示されれば、納得感が増す。数字が改善されれば、努力の成果が出たということ。モチベーションにもなる。

けがの予防と効率的なトレーニングを両立させる上で、『Knows』のようなサービスは欠かせないものだ。フィジカル向上に際し、論理的なアプローチが当たり前の世界になれば、日本サッカーも1つ上のレベルに進むことができるのではないだろうか。

<後編へ続く>

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PROLILE
本田洋史(ほんだ・ようじ)
大阪府生まれ。SOLTILO Knows株式会社ゼネラルマネジャー。2015年より本田圭佑のマネジメント事務所が経営参入したオーストリアのプロサッカークラブ「SVホルン」の会長に就任。就任1年目でチームを2部リーグに昇格させる。トッププロアスリートの獲得や欧州の育成現場での経験を踏まえ、数字によって育成強化につなげるべく2018年よりSOLTILO Knows株式会社のゼネラルマネジャーに就任。

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