なぜ本田圭佑は「育成年代のデータ活用」に挑むのか?『Knows』で進化する2つのスキル

Technology
2020.02.20

今やトップカテゴリーでは常識となりつつあるデータ活用。だが導入コストの高さが障壁となり育成年代に普及されていない現状を問題視した本田圭佑は、ウェアラブルデバイス『Knows』を開発した。
なぜ本田圭佑は「育成年代のデータ活用」にこだわるのか? そこには、サッカーだけではない、人間教育・育成にも寄与したいという思いがある。『Knows』のゼネラルマネジャーを務める本田洋史氏に話を聞いた。

(インタビュー・文=鈴木智之、インタビュー撮影=REAL SPORTS編集部、写真提供=SOLTILO Knows株式会社)

「自分を知ること」から全てが始まる

「育成年代こそ、データに基づいたトレーニングが必要」。ACミラン時代、本田圭佑選手はトップチームの選手たちがさまざまなデバイスを使い、データを採取してトレーニングをしていたことから、そう思ったという。その経緯をもとに開発されたのが『Knows』だ。これはウェアの中に小型センサーを装着することで、走行距離や心拍数、スプリント回数、さらには根性といった独自の数値までを測ることができるサービスだ。

『Knows』の責任者を務めるのが、本田洋史氏。本田圭佑選手のいとこにあたり、以前はSVホルンの責任者としてオーストリアでクラブ運営を経験。帰国後、『Knows』プロジェクトを担当することになった。

「自分を知ることが大事」という本田圭佑選手の考えから、『Knows』と名付けられたこのサービス。徹底した『現場目線』で、収集する項目が決められている。本田洋史氏は言う。

「ユーザーインターフェイスに関しては、3、4回変えていて、いまも改良を続けています。実際に使う監督や選手、フィジカルコーチの方など現場の声を聞きながら、何が必要なのかを取捨選択しています」

本田圭佑選手は個人トレーニングのときに『Knows』を使用しており、モニタリングするとともに、必要なデータなどのフィードバックをしているという。本田圭佑選手からの「根性を数値化してくれ」という要望など(※前編参照)、常に選手目線に立ち、単なるデータの収集だけでなく、そのデータをどうやって選手、チームの向上につなげていくかまでを考えている。

例えば「ステップ」という項目がある。サッカーのプレーにおいて、細かく体の向きを変えるためには、ステップを踏み続けることが重要だ。ボランチの選手は、周囲の味方からパスを引き出すために、数歩下がったり、ステップを踏んで体の向きを変えることが求められる。

センターバックの選手も、最終ラインを上げ下げする動きや、ボールの位置に応じて体の向きを変えるために、常にステップを踏み続けなければいけない。『Knows』のデータからは、その選手が試合中、どれだけステップを踏んでいたかがわかる。

運動量が落ちると「足が止まった」という表現をされるが、強度の高いスプリントだけが、サッカーに必要な走る動作ではない。FCバルセロナのセルヒオ・ブスケツのようなアンカーの選手やセンターバックの選手は、スプリントだけでなく、どれだけステップを踏み続けたのかといったことも大事になる。

ほかにも、「リカバリー回数」という項目からは、スプリントなど強度の高いプレーをした後、どのぐらいの時間で心拍数が平常になったか。また、高い心拍数から通常の心拍数まで、1試合に何回戻ったかというデータがわかる。運動量があり、強度の高いプレーが連続してできる選手は、リカバリー数が多くなり、高い心拍数から通常に戻るまでの時間が短くなる。つまり、短時間で回復できる選手ということが、データから見てとれるのだ。

「本田圭佑からは、リカバリー項目についてもリクエストがありました。『Knows』では、心拍数が90%台から70%台まで下がった回数と、それにかかる時間が表示されます。一度、上がった心拍数が70%台まで下がっていれば、すぐに次のプレーにつなげることができます。リカバリー回数は多い方がよく、平均リカバリータイムは短い方がいいわけです」

サッカーだけではない、どこの世界でも役立つスキルとは?

今後、『Knows』が見据えるのは、データを立体的に見せること。例えば、試合時間を15分で区切り、どの時間帯が最も運動量が多かったのか、あるいは少なかったのか。「立ち上がりから相手にプレスをかける」という作戦で臨んだ試合では、何分までプレスをかけることができたのか。終盤に足が止まった場合、具体的に何分から止まり出したのかといったことを、グラフやアニメーションで表すことを考えているという。

「試合中、どのタイミングで疲れてきたのかは、監督としては知りたい部分だと思います。選手の立場としても、具体的に何分から運動量がガクッと落ちたと言われれば、意識的にトレーニングするようになりますよね。トレーニングの目標や選手交代の目安にもなるので、発展させていきたいです」

スポーツに限らず、データを扱う業種全般にいえることだが、「収集したデータをどうやって役立てるか」というアナリスト的な仕事の重要性が叫ばれている。データを採取して、見て終わりではなく、そのデータをどう読み解くのか。あるいは、チームが目指すサッカースタイルと、それに求められる選手の資質をデータからマッチングさせる部分は、日々、すさまじいスピードで進化を続ける現代サッカーにおいて必要な能力だろう。

「いまは、データを元に分析できるソフトを作ることと、データを適切に扱えるアナリストを育てることを考えています。専門学校と連携してアナリストを育てたり、大学で統計学に携わっている人とも話をしていきたいと思っています」

『Knows』の金額は驚くほどに安い。買い切りの場合は6万9800円、レンタルでは3~4万円程度と破格の値段だ。安価かつユーザーのツボを抑えたサービスをつくることで、育成年代を中心に普及し、データを使って理論的、効率的なトレーニングの実現に寄与するのが、彼らの狙いである。

さらには『Knows』を入り口に、サッカーのクオリティ向上、選手育成、ひいては人材の輩出までを見据えている。

「本田圭佑と話をすると、最終的には『データに対してどう考えて、どう動けるかという人間を形成したいよね』という結論になります。本田圭佑自身、サッカー界に限らず、人を育てたいという気持ちが強くあります。データを入り口に、選手に“考える”材料を与えて、それをもとにどう改善していくかという“行動”に落とし込む。これは選手たちがプロになっても、サッカーをやめた後の人生にも役立つスキルです。『Knows』を活用することで、そうしたスキルを身につけてほしいなと考えています」

実際に『Knows』を導入しているチームの中には、選手が自分たちでデータを管理・活用するチームも出始めているという。選手たちが自発的に強化や育成プランをつくり上げるチームが増えれば、サッカーの育成だけでなく、教育、人材育成の面においても大きな変化をもたらすかもしれない。徹底した現場目線で作られた『Knows』の、今後が楽しみだ。

<了>

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PROLILE
本田洋史(ほんだ・ようじ)
大阪府生まれ。SOLTILO Knows株式会社ゼネラルマネジャー。2015年より本田圭佑のマネジメント事務所が経営参入したオーストリアのプロサッカークラブ「SVホルン」の会長に就任。就任1年目でチームを2部リーグに昇格させる。トッププロアスリートの獲得や欧州の育成現場での経験を踏まえ、数字によって育成強化につなげるべく2018年よりSOLTILO Knows株式会社のゼネラルマネジャーに就任。

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