
前田健太ツインズに導入「スマートピッチングマウンド」って何? 超進化続ける最先端トレを知れ!
今シーズン、メジャーリーグ契約を交わしている日本人選手は9人を数え、ますます注目が集まるMLB(メジャーリーグベースボール)。3月26日の開幕に向け、各チームはキャンプやオープン戦で調整を続けている。そんなMLBのキャンプで近年見られる傾向が、最先端テクノロジーを活用したトレーニングだ。前田健太が移籍したミネソタ・ツインズでも今年導入された最新鋭のピッチングが注目されている。日本が後れを取っているといわれるこの分野。アメリカでさらなる進化を続けているテクノロジーを紹介しよう。
(文=川内イオ、写真=Getty Images)
ツインズに導入された最新鋭「スマートピッチングマウンド」
球春到来。日米ともにプロ野球のシーズン開幕を前に、各地でキャンプやオープン戦が始まった。近年、アメリカのキャンプはテクノロジーの見本市のようになっている。各チームがさまざまなマシンを駆使して、トレーニングに生かそうとしているのだ。
今年のキャンプで注目を集めているのは、ミネソタ・ツインズ。昨年、9年ぶりに中地区で優勝し、オフシーズンに前田健太投手を獲得した同チームのキャンプでは、「スマートピッチングマウンド」が登場した。
一言で表せば、このマシンは投手の投球動作を詳細に解析するためのものである。開発したのはNewtforceというベンチャーで、モーションキャプチャカメラと投手の身体に取り付けられたバイオセンサー、任天堂のバランスWiiボードを進化させたような機能を持つセンサー内蔵の「フォースプレート」を同期させる。
このプレート上で投球することで、動き出しから投げ終わるまでの投球動作と力のバランスをリアルタイムで数値化できる。同時に、球の回転数などを計測することで、その投手にとって最適な投球フォームを提示するのだ。
アメリカの複数メディアによると、スマートピッチングマウンドは今年1月、コネチカットこども医療センターの運動解析センター内でセントラルコネチカット州立大学の投手の協力を得て、お披露目された。
このマシンで得られる投球動作のメカニズムを解析するのはデータサイエンティストで、コーチと意見をすり合わせて、ピッチングを改良するためのアドバイスを行う。例えば、球を投げる際の腕の角度や踏み込んだ足の向きなどを微調整すると、ボールの回転数が伸びる(切れが増す)などの効果があるそうだ。また、継続的にデータを集積し、比較することで、投手のけがのリスクを高める可能性がある要因を突き止め、それを改善するための助言もできるようになるという。
スマートピッチングマウンドはリース制で、リース期間とリースの種類に応じて、年間3万ドルから5万ドルの費用がかかる。Newtforceの開発者は、「5年以内に主要な大学とメジャーリーグのチームがこのマウンドを導入するだろう」と強気だ。
ツインズは、「フォースプレート」をバッティング練習にも活用している。バッターボックスに「フォースプレート」を敷き、その上でバッティング練習をすることで、投手と同じようにバッターの身体の動きを詳細にデータ化して、バッティングの向上やけがの防止に役立てようとしているのだ。
メッツにはハイテク化やデータ活用を推進する専門の役職も
ニューヨーク・メッツは、今年のキャンプから3つの新しいテクノロジーを導入した。その一つは、ドローンだ。メッツでは、ベースランニングや、外野手がフライを追うトレーニングをしているときに、上空から選手の動作をドローンで記録している。例えば、ランナーが一塁から二塁を経て三塁に進むとき、あるいは外野手がフライを追うときに無駄な動きをしていないか、効率的なコースを選んでいるかなどを解析するという。
2つ目は、「トラックマン」。これは、投げたボールの速度、軌道、リリースポイントや回転数、打球の速度、角度、飛距離などを正確に測定する3Dレーダーシステムだ。これは、デンマークのトラックマン社が開発した弾道測定機器で、迎撃ミサイル「パトリオット」の開発で生まれた技術を転用しており、ゴルフでもクラブとボールの動きを同時に計測できるシステムとして使用されている。近年、メジャーリーグの大半の球場に設置されていて、シーズン中に利用されているのだが、メッツは今年初めて、キャンプにもトラックマンを持参。得られるデータをピッチング練習に活用しているという。
3つ目は、ブルペンで使う高性能カメラ。投球動作を複数の角度から超高速カメラで撮影することで、投手の動作を超スローモーションで再生、解析することができる。さらに、ボールを受けるキャッチャーの背後にはポータブルのトラックマンを設置しており、あらゆる角度から投手の動き、ボールの動きを追尾するためのシステムだ。
ちなみに、メッツのハイテク化やデータの活用を推進しているのは、「クオリティコントロールコーチ」。日本では聞き慣れない役職だが、チームの戦略、分析などを担当する。
モニターで確認するのはもう古い? ARグラスで動作をチェック
タンパベイ・レイズやボストン・レッドソックスなど4チームが導入しているのは、「KinaTrax」。8台から16台の高速カメラを同期させて投手と打者のあらゆる動きをキャプチャするシステムで、人工知能と機械学習によって、体の各関節の回転を3D化する。
昨年まで、各チームはこの3Dデータをモニター上で確認するしかなかったが、今春から投入された「KinaTraxAR」は、ARグラスのMagic Leap Oneや最近リリースされたMicrosoft HoloLens 2を使用することで、選手やコーチが立体的に、あらゆる角度からフォームの分析をできるようになった。このシステムによって、パフォーマンスを妨げたり、負傷につながる可能性のある微妙な変化を特定することが可能になる。
データを統計学的に分析するセイバーメトリクスが当たり前になったメジャーリーグは今、個々の選手の動作をデータ化し、パフォーマンスを向上する方向に動いている。人間の動きがテクノロジーによって最適化されることで、チームや個人の成績にどのような変化が表れるか。それすらもデータで瞬時に表示される未来は近い。
<了>
[プロ野球12球団格付けランキング]最も成功しているのはどの球団?
[世界のチーム観客数ランキング]日本は6チームがランクイン! 1位は独ドルトムントを上回って…
[世界のリーグ売上ランキング]1兆円超え達成の2リーグはどこ? 日本と桁違いの売上額
[高校別 プロ野球選手輩出ランキング]トップは10年で17人輩出の大阪桐蔭、甲子園未出場校も…
この記事をシェア
KEYWORD
#COLUMNRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
史上稀に見るJリーグの大混戦――勝ち点2差に6チーム。台頭する町田と京都の“共通点”
2025.08.29Opinion -
「カズシは鳥じゃ」木村和司が振り返る、1983年の革新と歓喜。日産自動車初タイトルの舞台裏
2025.08.29Career -
Wリーグ連覇達成した“勝ち癖”の正体とは? 富士通支える主将・宮澤夕貴のリーダー像
2025.08.29Opinion -
若手に涙で伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
2025.08.22Career -
読売・ラモス瑠偉のラブコールを断った意外な理由。木村和司が“プロの夢”を捨て“王道”選んだ決意
2025.08.22Career -
堂安律、フランクフルトでCL初挑戦へ。欧州9年目「急がば回れ」を貫いたキャリア哲学
2025.08.22Career -
若手台頭著しい埼玉西武ライオンズ。“考える選手”が飛躍する「獅考トレ×三軍実戦」の環境づくり
2025.08.22Training -
吉田麻也も菅原由勢も厚い信頼。欧州で唯一の“足技”トレーナー木谷将志の挑戦
2025.08.18Career -
「ずば抜けてベストな主将」不在の夏、誰が船頭役に? ラグビー日本代表が求める“次の主将像”
2025.08.18Opinion -
張本智和、「心技体」充実の時。圧巻の優勝劇で見せた精神的余裕、サプライズ戦法…日本卓球の新境地
2025.08.15Career -
「我がままに生きろ」恩師の言葉が築いた、“永遠のサッカー小僧”木村和司のサッカー哲学
2025.08.15Career -
全国大会経験ゼロ、代理人なしで世界6大陸へ。“非サッカーエリート”の越境キャリアを支えた交渉術
2025.08.08Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
港に浮かぶアリーナが創造する未来都市。ジーライオンアリーナ神戸が描く「まちづくり」の新潮流
2025.08.04Technology -
福岡ソフトバンクホークスがNPB初の挑戦。ジュニアチームのデータ計測から見えた日本野球発展のさらなる可能性
2025.07.09Technology -
いわきFCの新スタジアムは「ラボ」? スポーツで地域の価値創造を促す新たな仕組み
2025.04.03Technology -
なぜザルツブルクから特別な若手選手が世界へ羽ばたくのか? ハーランドとのプレー比較が可能な育成環境とは
2024.11.26Technology -
驚きの共有空間「ピーススタジアム」を通して専門家が読み解く、長崎スタジアムシティの全貌
2024.11.26Technology -
パリに平和をもたらした『イマジン』、日本を熱くした『飛行艇』と『第ゼロ感』。スポーツを音で演出するスポーツDJ
2024.10.24Technology -
築地市場跡地の再開発、専門家はどう見た? 総事業費9000億円。「マルチスタジアム」で問われるスポーツの価値
2024.05.08Technology -
沖縄、金沢、広島…魅力的なスタジアム・アリーナが続々完成。新展開に専門家も目を見張る「民間活力導入」とは?
2024.04.26Technology -
DAZN元年にサポーターを激怒させたクルクル問題。開幕節の配信事故を乗り越え、JリーグとDAZNが築いた信頼関係
2024.03.15Technology -
「エディオンピースウィング広島」専門家はどう見た? 期待される平和都市の新たな“エンジン”としての役割
2024.02.14Technology -
意外に超アナログな現状。スポーツ×IT技術の理想的な活用方法とは? パデルとIT企業の素敵な関係
2023.10.20Technology -
スポーツ庁の想定するスタジアム像を超える? いわきFCが挑戦する、人づくりから始まるスタジアム構想
2023.08.07Technology