
鳥谷敬は再び輝きを取り戻す。元阪神ドラ1が証言する「ルーキーとは思えぬ異質な凄さ」
昨季限りでタテジマのユニフォームと別れた虎のレジェンドが、ロッテへの電撃入団を決めた。今年で39歳、いわゆるベテランと呼ばれる領域に入った男には、若手にその背中を見せて引っ張ることが期待されているのかもしれない。だが、それでも見たいと願ってやまない。鳥谷敬が、若手とバチバチにやり合い、再び輝きを取り戻す姿を――。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
ロッテは若返りの真っただ中、厳しいレギュラー争い
阪神タイガースのレジェンドの新天地が、ようやく決まった――。
3月10日、千葉ロッテマリーンズは前阪神の鳥谷敬の入団を発表した。正直、思ったよりも時間がかかったというのが、移籍決定時の率直な心境だ。
阪神退団後、あくまでもNPBでの現役続行を希望した鳥谷に対して、ロッテは移籍先の最有力候補だった。監督の井口資仁とは過去に自主トレを共に行った師弟関係でもあり、筆者の耳にも「鳥谷はロッテに入団するだろう」という情報がかなり早い段階から入っていた。
ところが、年が明け、春季キャンプが始まっても鳥谷の去就に対するニュースは一向に報じられない。
「もしかしたら、このまま移籍先が決まらずに現役引退なんてことも……」
そんな不穏な空気を感じ始めた矢先の、入団発表だった。
新天地での背番号は「00」。
阪神時代の背番号「1」は清田育宏が着けていることもあり、球団は「0からのスタートという意味」と説明しているが、まさに今季の鳥谷は1からではなく0からのスタートを新天地で切ることになる。
通算2085安打、最高出塁率1回、ベストナイン6回、ゴールデングラブ賞5回と、数々のタイトルを獲得してきた鳥谷だが、今季で39歳を迎える。阪神でプロ2年目から継続してきた連続試合出場記録は2018年に途切れ、数字の上でも衰えが顕著なのは間違いない。
昨季は主に代打要員として74試合に出場。打率.207、4打点。本塁打はプロ入り初めて一本も打てなかった。
年齢的にも数字を見ても、厳しい状況なのは間違いない。ましてやロッテは、目下チーム若返りの真っただ中。鳥谷のメインポジションである二遊間、三塁には藤岡裕大、中村奨吾、レアードといったレギュラーがおり、平沢大河、安田尚憲といった期待の若手も控えている。
そもそも「勝負したい、試合に出たい」という強い気持ちから阪神を退団した鳥谷だが、ロッテでレギュラーポジションが与えられるかというと、阪神以上に厳しいかもしれない。
鳥谷が再び輝きを取り戻すためには、ポジションを与えられるのではなく、奪いにいく必要がある。
同じような実力、同じような成績なら、当然チームは若い選手を起用するだろう。レギュラー奪取には、周囲を完全に納得させるだけのパフォーマンス、そして結果が必要になる。
その一方、ロッテが鳥谷に期待するのは、単に「戦力」としてだけではない。入団発表時に松本尚樹球団本部長は獲得の理由に「内野の厚みを増したい」「あれだけの選手なので、うちの若手にその姿を見せて引っ張ってほしい」と語っており、経験あるベテランがチームにもたらす無形の力も期待しているのだ。
元阪神ドラ1・的場寛一が見た、鳥谷の「プロの資質」
鳥谷の野球に対する真摯な姿勢は、阪神のみならず球界全体に知れ渡っている。レギュラー獲得後も、誰よりも練習し、自らを律し続けた。その姿は阪神の若手野手に間違いなく大きな影響を与えたはずだ。
鳥谷については筆者も印象深いエピソードがある。元阪神の的場寛一さんを取材した時のことだ。的場さんは九州共立大学から1999年ドラフト1位で阪神に入団。強打の遊撃手として期待されながらプロの舞台では思うような結果を残せずに2005年限りで退団し、その後トヨタ自動車で2012年まで現役を続けた。
的場さんにとって、鳥谷は4歳下の後輩でもあり、同じポジションのライバルでもあった。そんな年下のライバルを、的場さんはこう語ってくれた。
「同じ大卒でドラフト1位(編集部注:鳥谷は2003年ドラフト自由獲得枠で入団)、ポジションも同じだったので、食事をしながら話をしたこともありました。特にプロ1年目は彼もなかなか結果が出なくて、僕自身も同じような経験をしたので。ただ、彼のすごいところは、プロ1年目からグラウンドでどれだけしごかれても、終わった後に一人で黙々とトレーニングするところ。普通、1年目は『やらされる練習』をこなすだけで精いっぱいなんです。でも彼は違った。誰よりも最後まで球場に残って練習している。そんな姿を見たときに『こういう選手が、プロで一流になるのかな』と思いました」
奇しくも的場さんは、鳥谷が完全にレギュラーに定着した2005年に阪神を退団している。結果的に自らを追い出すことになった後輩にもかかわらず、「彼はすごい」と語らせてしまうところに、鳥谷のプロ野球選手としての資質の高さを感じたのだ。
入団すぐの躍動は、どんな状況でも準備してきた証し
ロッテに入団後、鳥谷はすぐさま実戦に出場。キャンプに参加していないにもかかわらず、いきなり動ける姿を首脳陣にアピールしてみせた。この数カ月間、常に体を動かし続け、いつ入団が決まっても大丈夫なように準備をしていた証しだろう。
これからのチームを担う若手に、その背中を見せる。鳥谷にかかる期待は高い。
ただ、やはり見たいのはそんな「ベテランの存在感」を示す姿ではなく、プレーヤーとして若手とバチバチにやり合う鳥谷の姿だ。
数字が落ちてきているとはいえ、3年前の2017年には打率.293を記録し、三塁手としてゴールデングラブ賞も獲得している。
年齢的には確かに大ベテランだが、本人もまだまだやれるという自負があるからこそ、新天地での挑戦を選択したはずだ。
プロ野球界は今、いつ開幕されるかもわからない不透明な状況が続いている。
しかし鳥谷は、開幕どころか今季プレーできるかもわからない状況の中で、練習を続け、技術を磨き続けてきた。その精神力と技術があれば、若手を押しのけて再び輝きを取り戻すことも決して不可能ではない。
背番号00での再出発。
鳥谷に、「ベテラン」の称号はまだ似合わない。
<了>
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