NBA下部リーグがなぜ爆発的人気? ゲーム要素満載の試合中継「Twitch」の壮大な実験

Technology
2020.04.02

NBAのマイナーリーグ「NBAゲータレード・リーグ(NBA Gリーグ)」の試合中継が今、若者を中心に爆発的な人気を獲得している。その大きな要因に、「Twitch」との提携がある。もともとゲーム動画配信をなりわいとする「Twitch」は、いったいスポーツ放映に何を持ち込んだのか? NBA がルールやフォーマットの変更などさまざまな実験を行うラボとしての機能も有するGリーグの姿は、NBAの、そして世界のスポーツ界における近い未来の常識になっているかもしれない――。

(文=川内イオ、写真=Twitch上におけるNBA Gリーグ中継画面のスクリーンショット)

NBAが新型コロナで中断も、ゲーム対戦を始めたフェニックス・サンズ

新型コロナウイルスの影響により、試合の延期や無観客試合が広がるスポーツ界で、ユニークな動きが出てきている。

NBAは、3月11日から2019-20シーズンの日程を無期限で停止すると発表した。そこで、NBAに所属するフェニックス・サンズは、NBAのゲーム「NBA 2K20」を使って、ゲーム上でスケジュール通りに試合を行い、ゲーム動画配信のプラットフォーム「Twitch(ツイッチ)」で配信すると発表したのだ。

NBAは、若年層のファンを開拓するためにeスポーツに力を入れており、NBA公式eスポーツリーグとして「NBA 2Kリーグ」を開催している。NBAの多くのチームが出資してeスポーツチームを所有し、このリーグに参加しているが、サンズはNBA 2Kリーグに参加しておらず、今回の取り組みも別物だ。

サンズはダラス・マーベリックスの合意を得て、延期発表から2日後の3月13日夜、「NBA 2K20」でマーベリックスと対戦した。サンズはメンフィス・グリズリーズが出資するNBA 2Kリーグのチーム、Grizz Gamingの元メンバーで、フェニックス出身の選手を起用し、マーベリックスは、マーベリックスが出資するMavs Gamingのブランドアンバサダーを務める選手がコントローラーを握った。

この試合は1万2600人以上の視聴者を集め、Twitchのライブチャンネルのトップ10入りした。サンズはその後もNBAのスケジュールに従ってTwitchでのゲーム配信を続けており、3月27日のフィラデルフィア76ersとの試合でも、約1万2000人が視聴した。この取り組みは、サンズにとってファン層を拡大する大きなチャンスかもしれない。

数百万人のフォロワーを持つ人気ユーザーがNBA Gリーグを実況放映

Amazonが2014年に9億7000万ドル(約1000億円)で買収したTwitchは今、ゲーム配信だけでなく、スポーツの動画配信でも注目を集める存在だ。

TwitchがAmazonに買収された2014年当時、1カ月のユニークビューワー数は6000万人だった。それから6年たった現在、毎日50万人のユーザーがライブストリーミングを行い、1日に1500万人のユニークビューワーが集まる規模にまで成長した。しかも、視聴者の半数以上(55%)が18歳から34歳と若く、スポーツ業界が新たなファンとして開拓しようと試行錯誤している世代と合致する。

そのポテンシャルにいち早く気づいたのがNBAで、2017年12月にTwitchと提携し、NBAの育成リーグに当たるNBAゲータレード・リーグ(NBA Gリーグ)の配信が始まった。この当時、アメリカのメジャースポーツが動画配信サービスと組むのは初めてのことだったが、画期的だったのはそれだけではない。

Twitchによる配信の大きな特徴の一つは、NBAとの合意により、Twitchのユーザーが自分のコミュニティを通してGリーグの試合を配信できることだ。Twitchの人気配信者のなかにはチャンネルのフォロワー数が数百万人、Twitchでの収入が数千万円に達するほど影響力の大きな配信者もいる(ユーチューバーと同じような収益構造になっている)。

彼らが、ゲーム実況と同じように、自分のチャネルのなかでGリーグの試合を流し、実況できるようにしているのだ。この仕組みによって、Gリーグのファンは好きな配信者を選んで視聴できるようになるだけでなく、もともとGリーグに関心がなかった層にも、人気配信者による実況を通してGリーグの試合を届けることができるようになった。

もちろん、Twitchのメイン機能であるチャットも活用できるので、ユーザーは普段ゲームを視聴しているのと同じ感覚で選手のプレーにコメントをしたり、他のユーザーとのやり取りを楽しむことができる。

Twitch内で使用できるポイントを獲得できる仕掛けもある。試合で活躍すると思うプレーヤーを「ブースト」すると、プレーに応じてポイントが得られたり、1試合に4回あるクオーターごとに、得点の多いチームやブロック数の多いチームを予想して当たればポイントを獲得できるのだ。また、試合中にMVPの投票が行われ、一番多く得票した選手は試合終了後に「Twitch MVP」としてインタビューを受ける。

最近ではYouTubeやFacebookもスポーツのライブ配信に積極的で、ほかにもさまざまなストリーミングサービスが乱立しているが、配信者が自由に実況でき、ゲーム的な双方向機能を持つのはTwitchだけだ。

着々と提携先を増やすTwitchは、スポーツ視聴の未来を変える?

スポーツ界においてコンテンツの配信は非常に高額で複雑な権利が絡むため、Facebook、YouTube、Amazonプライム、DAZNなど資金力があるプラットフォーマーが勢力を拡大しており、まだTwitchの存在感は薄い。しかし、膨大な若年ユーザーを抱えるプラットフォームとしての魅力を感じて、Twitchと提携するところも増えてきている。

メジャーリーグサッカー(MLS)は昨年、主催するeMLSカップ(ゲームの大会)とU-17の国際サッカー大会の配信に関して、Twitchと提携した。MLSのメディア担当シニアバイスプレジデントは、「サッカーをTwitchでライブ配信することは、ファンに質の高いコンテンツを提供する新しくて革新的な方法です」とコメントしている。

ナショナルウーマンズホッケーリーグ(NWHL)は、昨年9月に3年間の配信契約を締結。10月5日から27日の間にTwitchでストリーミングされた14試合では、1試合平均6万7790人の視聴者を獲得し、最も視聴者が多かった試合は、14万5172人に達した。

オーストラリアのナショナルバスケットボールリーグ(NBL)は、昨年10月に2年間の配信契約を結び、最初に配信された試合では18万4000人が視聴した。NBLコミッショナーは「NBLを世界のまったく新しい視聴者に提供するだけでなく、Twitchコミュニティのメンバーが共同ストリーミングできるようにすることで、より魅力的な新しい方法でゲームを配信します。これまでにNBLについて聞いたことがない人も、お気に入りのストリーマーが私たちのコンテンツを表示することNBLの試合を観戦できます。それは非常にエキサイティングな発展です」と話している。

同月には、F1がTwitchとワンレース契約を結び、ドイツ、ルクセンブルク、スイス、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンでメキシコグランプリを限定配信。膨大なフォロワーを持つ人気配信者を複数起用して同時ストリーミングを行ったほか、視聴者が個々のドライバーのパフォーマンスを予想するゲーム的な要素も加えられた。

この契約がきっかけとなったのだろう。F1は、新型コロナウイルスの影響で今年5月までのレースをすべて延期、中止しており、その代わりにPC版ゲーム『F1 2019』を使用した「F1 eスポーツバーチャルグランプリ」を開催しているが、レースはTwitchで配信されている。

さらに今月、ナショナルウーマンズサッカーリーグ(NWSL)とも3年契約を結んだほか、スペインの人気サッカークラブ、レアル・マドリードが公式チャンネルを開設した。

Twitchの戦略的パートナーシップマネージャーのファルハン・アフメド氏は、Webメディア『SportsPro』の取材に対して、スポーツの配信は「まだ実験段階」としながら、さらに拡大する意向を示している。

将来、Twitchがメジャースポーツを配信するようになった時、ゲーム的な要素を持つスポーツ視聴の新しい形が定着するのかもしれない。

<了>

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