欧州での日本人選手の評価とは? 「海外で活躍する監督を」藤田俊哉が見据える日本サッカーの進化

Career
2020.04.02

JFA(日本サッカー協会)が今後ヨーロッパでも積極的に活動する拠点としてヨーロッパオフィスを構えることをご存知だろうか? その活動の中心的な役割を担うのが藤田俊哉だ。現役引退後、2014年よりオランダ・VVVフェンロでコーチ、2017年からイングランド・リーズの強化部で貴重な経験を積んだ藤田は、2018年9月にJFAの欧州駐在強化部員に就任。彼はヨーロッパで活躍する日本人選手たちにどのようなアドバイスを送り、自身は今後どのような将来プランを描いているのか?

(※本インタビューは、2020年3月15日に行われました)

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介)

JFAが今後ヨーロッパでも積極的に活動するための拠点作り

――(名刺の)欧州駐在強化部員という肩書きを初めて見ました。藤田さん以外もおられるのですか?

藤田:同じタイトルで活動している方はいません。

――藤田さんのための役職?

藤田:役職というか、僕から始まった仕事内容がそれに当たります。これからJFA(日本サッカー協会)のヨーロッパオフィスができるので、より組織的にヨーロッパでの活動が可能になります。僕は2014年からヨーロッパに行って、コーチをやって、監督を目指してきました。海外でのプレー経験もあるので、現役選手に起こる不具合を考えたときに、きっとこのようなことだろうとの予測がつきます。今後もさらなる日本サッカーのレベルアップを目指し進むなか、ヨーロッパに拠点を持って僕と同じような目線で活動し、欧州のコネクションを作る人間が必要です。そのスタートラインとして、その拠点となるオフィスを作ることになりました。

――ヨーロッパでの藤田さんの1週間の動きは?

藤田:基本的に練習や試合を見ます。もちろん監督やコーチングスタッフ、クラブ関係者ともミーティングします。タイミングが合えば選手と食事をしたりもします。休みを入れるとすると月曜日ですかね。サッカーがあまりない日なので。ただ月曜日って下部組織の試合があったりするので。だから月曜日も試合を見ようと思ったら見られるので、あとは自分で休みをどこで入れようかなという感じです。欧州全体を回ります、オランダ、ドイツ、ベルギー、フランス、イングランド、スペイン……。

――イタリアもですか?

藤田:イタリアは冨安(健洋)がプレーするボローニャが中心となります。今後はジェノヴァにもいく予定です。(吉田)麻也がサンプドリアに移籍したので。ポルトガルには、僕はまだ行けていませんが。スペインにはラテン系の言葉が堪能な高司裕也という育成部を中心に活動しているスタッフがいるので、彼と連絡を取りながらスケジュールしています。

――英語は話せるのですか?

藤田:僕は英語とオランダ語を使い仕事をしています。しかし7年オランダに住んでいるけど、オランダ語はまだまだ恥ずかしい限りです。それでもコミュニケーションは取れますが、オランダ語でプレゼンしたりはできません。

――英語でのプレゼンは完璧にできるのですか?

藤田:英語では行っています。完璧かといわれると辛いですが、日本語でのプレゼンも完璧というのは難しいですから。それらが一番鍛えられたのはイングランドでした。北部のリーズに行ったら、ヨークシャーのなまりの英語が全然わからなくて苦労しました。マンチェスターやリヴァプールの英語も難しかったです。ロンドンではよかったですが、全体的にはきつかったです、特にリーズでの最初の3カ月は……。

――日本にいた頃から英語の勉強はされていたのですか?

藤田:現役を引退して、近所の英会話に通い、2年間勉強してオランダに渡りました。もちろん現地に行ってからも勉強は続けました。ただやっぱり必要に迫られたことを必死にやっているとできるようになる。例えばサッカーのことはある程度できるけれど、ビジネスの話を英語でしましょうとなると語彙力が足りないから今でも苦労しています。鍛えられているのは、オランダのVVVフェンロのハイ・ベルデン前会長との仕事です。彼はシーコン・ロジスティクスという物流会社の会長として日本とのビジネスを大切にしています。日本とのビジネスをサポートしてほしいとの依頼を受けていて、その際にはビジネス英語がすごく鍛えられます。

選手が選ぶ食事のメニューで食事への取り組み方がわかる

――現在は選手の状態をヒアリングして、それをまとめているわけですか?

藤田:あとは選手がどのようにチーム内で活動しているのか。練習中や練習の前後を注意深く見たり、監督やコーチが選手のことをどのように見ているかを聞いたり。選手が今どういう精神状態にあるかなどは、直接会って食事したりしながら話をすれば感じることができます。選手たちの感覚と自分の感覚を合わせながらレポートします。

――選手の抱えている悩みの相談に乗ったりもするのですか?

藤田:はい。基本的にはケガや生活周りです。その他のことは、それぞれのエージェントがしっかりサポートしているので細かいサポートは必要ないのですが。ケガや、コンディションの相談が一番多いです。大きな契約を持つ選手たちは個人レベルであらゆるスタッフを揃えることができますが、そうでないケース、特に若手選手たちにはサポートが必要になります。

――万全の体制ではない場合もある。

藤田:それはさまざまです。基本的にヨーロッパの選手たちはタフですし、メンテナンスに関しても大味といえます。もちろんすべての選手ではありませんが……。 しかし、繊細か繊細ではないかといえば後者にあたると僕は感じています。食事も日本人選手ほど気にしていないですし。まあヨーロッパの選手たちが、これまで以上に食事面を改善しコンディショニングすることになったら日本人としては怖いですが……。

――若手選手に食事のアドバイスをされたりもするのですか?

藤田:食事に関しては、例えば「今日何食べよう?」と選手に決めてもらって食事に行ったりします。その際に食事に対してのスタンスがわかります。例えばですが、「ハンバーガー」と言われたら、「他のものを食べたほうがいいんじゃないか?」、「お肉だけでいいです」と言われれば、「お肉だけじゃなくて野菜も食べよう」となります。そんなに特別なことではありませんが、日常から気がつくことはたくさんあります。

――藤田さん自身は若い頃から食事に気をつけていたのですか?

藤田:僕は食事バランスには気をつけていました。しかし量が食べなれかったので苦労しました。何より親が一番苦労したと思います。

――選手からは藤田さんの現役時代についてもいろいろと聞かれたりもするのですか?

藤田:ほとんどないです。まあ時代が違いますよ。僕がどういう選手だったか、若い選手たちは知らないと思いますよ(笑)。

――今の藤田さんの働き方について気になっている選手たちはいるのではないですか?

藤田:今の役割を……どうでしょうかね。長谷部(誠)や川島(永嗣)がやってくれたらベストだと僕は考えています。彼らの引退後の数年間に、この仕事をやりながら指導者ライセンスを取る時間に充てるのもアイデアとしてあります。次のステップに進む間の時間に充てるという考え方もできます。

問題はライセンスに互換性がないということ

――藤田さんに対して指導者、監督として期待している人も多いと思います。そちらはもう考えていないのですか?

藤田:もちろん考えています。まずヨーロッパでコーチをやって、次に監督のオファーもらった時に、アジアのライセンスにはヨーロッパとの互換性がまったくないことがわかりました。コーチをやっている時は、「監督のオファーがあればチャンスがあるよ」という言われ方をしていたのですが、実際にオファーが届くと、このライセンスでは駄目だとなりました。これまでいろいろと協議してきましたが、結局こうなってしまいます。アジア人はヨーロッパでUEFA Proライセンスを取らない限り監督はできないのが現状です。

――互換性がないわけですね。

藤田:互換性があると言われて進んできましたが、そこはもうはっきりするべきだと思います。現状において互換性がないのであれば、最初からそれに向けてアプローチをすればいいだけですから。日本で約10年をかけてS級ライセンスを取得しヨーロッパに出て、「互換性がない」と言われるのはすごくもったいない時間となりますので、今後それはなくしたいです。

――今後、変えていかないといけないところですね。

藤田:選手のレベルは海外でも評価されるほど上がりました。指導者のレベルも、海外でも通用するレベルにもっていかないといけない。日本の指導者たちが海外に行って評価されて、さらにレベルが上がっていけば、そのバランスが取れてくると考えています。

――日本の監督・コーチがこの先さらにレベルアップしていくことは日本サッカーにとって必要なことだと思います。

藤田:指導者も選手も、考え方は変わらないと思っています。選手は今いるレベルにある程度満足したら、次はステップアップしたいと考えて上へ上へと目指します。それと同じで、指導者も例えば森保(一)さんや長谷川健太さんは、日本人で国内タイトルを数多く取っている2人ですから、いずれかのタイミングで海外挑戦を視野に入れてもらいたいです。

――なるほど。

藤田:そういった監督たちが中東や中国、またはヨーロッパ。年俸1億円の監督たちが5億になって、5億の監督がヨーロッパに渡って10億になって、20億になる時代を迎えたいです。金額のことを言っているわけではなくて、将来、優秀な指導者がステージを上げていきたくなるのは容易に想像がつきます。そのために、そういう道を作るべきです。

ヨーロッパから見た日本人選手の特徴とは?

――長くヨーロッパにおられて他にも日本サッカーに対して求めたいことはありますか?

藤田:日本の選手たちが世界で評価される活躍を続けることに尽きます。もちろん Jリーグのクラブでという考え方もありますが、現状は(FIFA)クラブワールドカップで優勝するぐらいしか、その場所はありません。僕たちは常にヨーロッパのことを見ていますけど、ヨーロッパの人がアジアを見ているかといえば……。こちらからいえば10キロに感じている距離が、向こうからは100キロぐらいのイメージなのだと僕はすごく感じています。

――ヨーロッパにいる7年間で痛感しているわけですね。

藤田:鹿島アントラーズが2016年のクラブワールドカップでアジア初の決勝進出を果たした時は、ヨーロッパでも話題になりました。それはやっぱりうれしかったですね。そのあと名前が出てきたのは、(アンドレス・)イニエスタが移籍したヴィッセル神戸、あとは(フェルナンド・)トーレスが移籍したサガン鳥栖くらいでしょうか。だけど一方で、若い選手の状況は、ものすごく欲しがるという現状もあります。

――結局、ヨーロッパのクラブは日本の若い選手にしか注目していないという……。

藤田:そうですね。若い優秀なタレントが多いという見られ方をしているのは、日本サッカー界にとってすごくポジティブな面だと思います。世界が日本に注目しているポイントです。

――ヨーロッパから見た日本人選手の特徴は?

藤田:基本的に中盤の攻撃的な選手、あとは4-3-3であればサイドアタッカー。要するに、サイドになってしまいますね。中盤の攻撃的なアタッカーはたくさん出てきていて、世界的にも評価されています。オリンピック代表の選出も本当に難しいと思います。うれしい悲鳴ですが。なので、次はポジションでいえばセンター、骨幹を担える選手がどのぐらいヨーロッパでポジションを取っていくかというのが重要です。

――確かにセンターのところでの世界レベル、長谷部誠選手、吉田麻也選手に続く選手がどんどん出てこないと、もう1段階上にはいかない感がしますね。

藤田:川島(永嗣)にしてもそうですし。サッカーの実力はもちろん、コミュニティに入って言葉を覚えて、日本と変わらない振る舞いを向こうでもできることが大事です。さらにヨーロッパでのプレーとなれば、助っ人選手として現地の選手以上の活躍とリーダーシップが求められます。とても大変なことですが、そこを目指すことが成長にもつながるので、チャレンジしてほしいです。

海外に一度出ると、生まれた場所のクラブが好きになる

――ヨーロッパで成功する鍵は、ピッチ以外の面にもあるわけですね。

藤田:向こうの文化に慣れるということと、パーソナリティのところは重要です。サッカーだけで他を寄せつけない評価を得るのは難しいです。「点を決めてくるから俺にボールをくれ!」と言い切れるほどの選手はなかなかいないですし。

――サッカーが変わったこともありますよね。

藤田:(リオネル・)メッシとかクリスティアーノ(・ロナウド)もその点はきっちりやっている。彼らほどの選手でもインタビューでは常々「チームの勝利のために自分はプレーする」と言っています。

――藤田さんが、今のこの時代で高校生だったら、どういう将来に向けての準備をしますか?

藤田:現実的には高校を卒業する前に海外にチャレンジできるかどうかは、家庭環境や生まれた場所にもよります。ですから、それまでは与えられた環境でベストを尽くすしかないと思います。だけど、18歳になりチャンスがあれば、一度は世界に出るべきだと僕は考えます。その理由は2つあります。1つ目は、現状では海外のほうがレベルも高く、そのマーケットも大きいということ。2つ目は、早く海外に出れば、そのぶん日本がものすごく良い国であることに気がつくということ。僕がいつも若い選手や子どもたちに「1回外に出るべき」とアドバイスするのは、国内にいたら外を見ようとしすぎるけれど、僕たちの国は非常に清潔で、便利な部分も多く、素晴らしい国であるということを体感するからです。

――客観的に日本という国を見られるからということですね。すごくよくわかります。

藤田:ずっと日本にいたら、日本の素晴らしさが当たり前になりすぎてしまって案外わからない。あとは語学力です。日本語だけでない語学力を持つことに損などは何もない。そういう観点でもできるだけ勉強してほしいですし、一度は海外に出てほしいです。

――日本のジュニアユースなどで、そういったプログラムを行ってもいいですよね。

藤田:そうですね。子どもたちにとって何が必要かは、それが見えている大人たちが、そういう環境を作ってあげないといけないと思っています。

――それは本当にそう思います。

藤田:海外に一度出てみると、自分の生まれた場所が大事になるし、生まれた場所のクラブが好きにもなると思います。

――実際に長年ヨーロッパで暮らしている方の発言なだけに重みがあります。

藤田:クラブチームがサッカーを引っ張ったその先に、ナショナルチームがあるというのが、ヨーロッパの大前提です。自分の愛してやまないクラブの選手がいるから代表を応援するという、そういうステップ。日本には日本代表を応援する文化が根づきつつあることはとてもいいことです。クラブチームの価値がさらに高まれば、サッカーだけでなくスポーツ文化全体の社会における価値も高まると信じています。

ヨーロッパで活躍する日本人監督を!

――一藤田さんはこのあとの自分のキャリアをどう考えられているのですか?

藤田:ヨーロッパで監督をするチャンスがあれば、ライセンス制度の問題をクリアしてやりたいという考えはあります。これから指導者を目指す方のためにもライセンスの制度を構築したい。あと日本代表が強くなるためにさまざまな面に関わっていきたいです。

――日本に帰って働くという可能性もあるのですか?

藤田:今のところはその選択肢はないです。今考えているポイントから離れてしまうので。

――ヨーロッパにいながら、日本代表の強化、日本サッカーの成長を関わると。

藤田:極論をいったら、それはJFAの仕事だけではないかもしれません。ヨーロッパで活躍する日本人監督の実現も目指したいと思います。もちろんそれが自分であればベストですが、自分じゃなくても別に構いません。

――FIFAの理事などには興味はないのですか?

藤田:(ヨーロッパでの)プレーヤーキャリアが少ないから、そこに僕が立つというのは現実的に難しいかもしれません。もちろんスキル次第ですが。やっぱり長谷部とか川島、岡崎(慎司)、麻也、(本田)圭佑、長友(佑都)……。彼らぐらいのキャリアを持った人のほうが、いろんな話が通りやすいというのはあると思います。最初はヒデ(中田英寿)がやるのがベストだと思います。世界でサッカーの話ができるということは、やっぱりある程度のキャリアを持っていかないと難しい現実もあります。

――お話を聞いていると、日本のサッカー界とヨーロッパと、その距離は開いているようにも感じます。

藤田:日本もかなり歩みを進めたけれど、そのぶんヨーロッパはもっと進んでしまっているという現状はあるかもしれません。だから、新しいことを知ったら、今、向こうではこうなっていると身近な人にどんどん伝えるようにしています。例えば最近だったら、分析のシステムとか。フィジオ(セラピー)の面でいくと、欧州のビッククラブでは今こっちに切り替わっているよ、という話であったり。そういう情報を提供しています。

――ヨーロッパ中のクラブから情報が藤田さんのところに入るということですね。

藤田:そうですね。「なんでそんなに長くヨーロッパにいるの?」と聞かれたら、「1、2年じゃ僕にはわからないから」と答えています。だから僕は10年くらい滞在するつもりで行きました。長い年数いればいいという話ではないことはよくわかっています。だけど長くいるから感じられることもたくさんあります。

――日本代表経験がある方で、ずっとヨーロッパに根を張っているのは藤田さんだけですよね。

藤田:ヨーロッパのサッカー文化にどっぷり浸りたかったので。幸せなことに40歳までプロ選手としてプレーできました。それは自分の中では定年退職したような感覚でした。なので、あとの人生は自分がやってみたいことをやっていいんじゃないかなと考えました。だって10歳から40歳まで、サッカーのために時間を使ってきましたから。もちろん家族といろいろと相談をしながら、基本的にはそういう考え方で日々を過ごしています。

<了>

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PROFILE
藤田俊哉(ふじた・としや)
1971年10月4日生まれ、静岡県出身。清水商業高校、筑波大学を経てジュビロ磐田に入団。オランダのユトレヒト移籍後、磐田に復帰。以降、名古屋グランパス、ロアッソ熊本、ジェフユナイテッド千葉と渡り歩く。ミッドフィルダーとして初めてJ1通算100ゴールを記録。2012年6月、現役引退を表明。2014年からオランダのVVVフェンロのコーチに就任し、2016-17シーズンのオランダ2部リーグ優勝と1部復帰に貢献。2017年からはイングランド2部のリーズ・ユナイテッドの強化部にヘッド・オブ・デベロップメント アジアとして加入。2018年9月に日本サッカー協会の欧州駐在強化部員に就任し、日本代表チームの強化にあたる。

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