武井壮が明かす「特性を伸ばす」トレーニング理論 日本人選手の持つ「伸びしろ」とは?

Training
2020.04.03

「百獣の王」として、タレント活動の枠を超えて、独自のスポーツ理論でさまざまなスポーツへのチャレンジを続けている、武井壮。陸上・十種競技において競技歴わずか2年半で日本チャンピオンとなるほどの経歴を持つ男が、本田圭佑選手が設立したサッカークラブ「ONE TOKYO」の初代監督に就任し、指導者としての新たな挑戦がスタートした。どのようなトレーニング理論をもって、今後チームをつくっていくのか。武井の鋭い視線に映る、日本のスポーツチームに足りないこととは――?

(※本インタビューは、2020年2月26 日に行われました)

(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介)

フィジカルの弱さが「伸びしろ」

武井壮には小学生の頃にすでに自身の中で確立した独自の「トレーニング理論」があったという。頭の中で考えたイメージを、そのまま体現する「パーフェクトボディコントロール」。その理論の正しさを証明するべく彼はトップアスリートとして成功を収めた。ただし、その理論の恩恵を受けているのは彼だけではない。実は武井は過去に、日々独自の理論をブラッシュアップし、多くのトップアスリートの指導を経験し、トレーニングメニューを管理し、選手を高みに導いてきた指導者としての実績も持っている。フィジカル面に関してトップオブトップである彼の目に「日本のアスリート」はどう映っているのだろうか。

――武井さんはサッカークラブ「ONE TOKYO」の初代監督に就任されましたが、初年度に参戦される東京都(社会人サッカーリーグ)4部の試合の過去映像などは見ましたか?

武井:いくつか見ました。

――どのような感想を抱きましたか?

武井:言いづらいですが……。アスリートとして一人ひとり、どれくらいの能力があるのか観察してみて、フィジカルのレベルは非常に低いなと感じました。3カ月でも一緒にトレーニングしたら、全然別人になるだろうなっていう選手たちばかりでした。正直なところ、その伸びしろは十分湧き出ているのに、まだ鍛えられていない選手がたくさんいたので。それは、ONE TOKYOの選手たちを見てもそうです。

例えば、柴崎(岳)くんや、大迫(勇也)くんみたいに「おお!」ってなるような、とてつもない技術を持っているわけではないのだけど、「あぁ、これくらいサッカーができるんだ」とは、初めて見た時に思ったんですよ。ただその中でも、技術の足りなさやフィジカルの弱さによるミスが、ど素人の僕が見てもわかるものがたくさんあったので、それはすごく収穫でした。

――J2やJ3を見ても、おそらく同じように感じると思います。Jリーグクラブからコーチの要請があってもおかしくないですよね(笑)。

武井:どの競技を見ても、そう感じることはあります。

――フィジカル面に関しては、当たり前ですけれど、武井さんは語れますし、見る目があるじゃないですか。

武井:それが僕の専門分野なので。

武井壮が見る、日本のアスリートに足りない部分

――例えば、日本代表クラスを見ても「もう少しどうにかならないかな」と感じることはありますか?

武井:けっこうありますね。特にスピードに関しては、やっぱり(2018 FIFA)ワールドカップのベルギー戦とかを見て(2-3で日本代表は敗戦)、後半、「ここでみんなもうちょっとスピードがあったら……」と思ったこともあったし。日本代表にも、速く走れる選手やスタミナがある選手はいるけど、例えばアフリカやヨーロッパのチームは、やっぱりフィジカルのレベルが日本より高いことが多い。

でも、日本とヨーロッパの選手って、例えば陸上競技のようにフィジカルだけを競い合う競技になると、ほとんど差はないんですよ。ただ、投てき種目はヨーロッパの選手のほうが強い。だから、パワーはヨーロッパ選手のほうが強いけど、スピードや技術に関しては、日本の選手のほうが速かったりします。それを考えると、日本の選手は、ヨーロッパの選手に走り負けてはいけないんですよ。長距離ランナーも、ヨーロッパの選手より日本の選手のほうが速いですよね。それを考えると、サッカーの90分間を動き続けて、さらに間にスプリントが挟まっているという中でヨーロッパの選手に負けるというのは、知識やトレーニングなのか、もしくは正しい技術が足りないだけだと僕は思っています。

――なるほど。

武井:実際に、陸上なら世界(陸上競技)選手権(大会)でも日本は勝っていますし。だから、ヨーロッパ諸国が勝っているということは、彼らのほうがサッカーのゲームを組み立てる上でフィジカルの要素をより重要視していて、走ったり、体を使うということが上手にできている選手が多いということ。例えば、サッカーで100m走ることはほとんどないけれども、100m走ったら、彼らのほうが速く走れるフィジカルを育てられていると思うんですよ。その選手たちが同じ時間、スプリントを繰り返したとしたら、「余裕」に差が出る。この余裕の幅が大きくないと、やっぱり試合の中で使う能力は負担になっていくので。まずは幅を大きくしてあげて、選手が今までと同じサッカーを90分やっても「あれ? なんか余裕だな」って思うくらいにはしなきゃいけない。その上で、それまで以上にハードな動きを試合の中にどれだけ入れていけるか。そうしていかないと、日本のサッカーには未来はないと思うし、それを技術や戦術だけでやっているうちは、それで勝っていても、ドカンとやられてしまうことが多々ある競技だなと、見ていて感じます。

やっぱりここ最近、アフリカのチームとかがすごく強くなってきたりして、選手が各国に国籍を移して大活躍しているじゃないですか。アフリカ系の選手などは、特にそういう選手が多いんですけど、彼らの活躍が目立ったり、フィジカルで押し切ったりしているのを見ると、日本のサッカーにも可能性があるなとすごく感じます。ラグビーを見ていてもそうなんですよ。ラグビーは、やっぱり非常にフィジカルタフネスが必要な競技だから、体が大きくて、パワーのある選手がすごく多い中、確かにパワーでは劣るけれど、日本の選手のほうが本来速いはずなんですよ。特にニュージーランドやオーストラリア、フィジーあたりの陸上選手では、日本人より速い選手はほとんどいないです。ということは、ラグビーにおいては「走る」という要素以外で、彼らに負けているところがあるということ。トレーニングの質なのか、技術の質なのか、どちらもあると思うんですけど。

「その地域に生まれた特性をより伸ばす」ことが重要

――日本人選手には、伸びしろがあるということですか?

武井:めちゃめちゃ伸びしろ、ありますよね。ただどうしても、パワー重視のトレーニングをしてもパワーで日本人が勝つというのは、すごく難しいんですよ。

――それは、筋肉の質が関係しているのですか?

武井:筋肉の質というよりも、生物としての遺伝子の違いがあるので。例えば、日本にはニホンザルがいますが、ニホンザルしかいないじゃないですか。それは、その地域の特性に合った生態になっているわけですよ。細かい作業が得意で、すばしっこくて、温泉に入ったり、木の実を食べたり餌を集めるのが上手だったり、冬を越せたりと、知識の豊富な生物が日本には住んでいる。でも例えば、暑くて、もっと猛獣がいるようなところになると、体が大きくなって、ゴリラのようにパワーの強い動物がたくさんいたりするわけです。

そういった動物の分布と一緒で、人間も動物なので、地域の環境によってサイズも変われば、特性も変わる。そういう違いがあるということです。例えばゴリラとニホンザルが走ったとしたら、ニホンザルのほうが速いんですよ。だから、その地域に生まれた特性がより伸びるというのは、陸上競技などでは、顕著にその特性の差が出ています。

――確かに、陸上が一番その差が出ますね。

武井:それを試す競技なんですよ。だから、その観点から見ると足りない部分は山ほどある。ただ、パワーを鍛えてなんとかしようと期待しだすと、日本人はその特性を失いがちなんです。スピードが遅くなったり。十種競技の選手は特にそう。投てき種目が弱いからといってそのトレーニングをすると、走る種目は遅くなってしまう。

――自分たちの持ち味が損なわれてしまうと。

武井:はい。僕が十種競技を始めた時に、競技を見て「あぁ、この人たちに足りないのはスピードだな」と感じて。日本人はスピードが一番速い種族なのに、スピードを疎かにしてパワーをつけているんだから、それは点数取れないよねと。じゃあ、僕は日本で一番速い選手になって、日本一になりますって宣言しました。2年半ぐらいで、100m、400mで十種競技の日本記録を更新して、1500mも歴代2位まで上げて、その3種目では世界チャンピオンよりも点数を取っていたんです。その状態で十種競技をやったら、他の投てき種目なんかはほぼビリレベルの記録なのに、僕が日本一になっていました。そのように、競技における総合力の中に、より伸ばすべき能力と、伸ばしてもそんなに生きない能力があるので。競技特性を見誤ってしまったり、本来自分の体にあるポテンシャルを見誤ってトレーニングをすると、プラスがあってもマイナスのほうが大きくなることはあり得ます。だから、選手それぞれの能力を見てコントロールしていくっていうことが非常に重要だなと思います。そこは、日本のスポーツに一番欠けているところです。なぜかというと、やっぱり小学校・中学校・高校でたくさんプレーするからなんですよ、その競技を。そこにはほとんど、専門家はいないので。

――そうですね。

武井:小・中・高、全部合わせて1万校以上あるということは、指導者は1万人以上いるわけじゃないですか。1万人の指導者の中にも1位から1万位までいるわけで。でも、例えばサッカーが強い国ってサッカーがスーパーメジャースポーツで、トップレベルまでいくとやっぱり、その国のトップの知識を持った指導者がいるんですよ。でも日本は、子どもの頃から本当に正しい知識を持った指導者から指導を受ける確率が、それらの国に比べてすごく低い。なのに、その頃にたくさん繰り返しプレーをするので、若いうちはレベルが高いんですよ。一方、ヨーロッパの子たちは、フィジカルは強いけれど反復してプレーしていないから、技術で日本人が簡単に勝ったりするんです。

でも、大人になってから、ヨーロッパの子たちが、フィジカルが強くなり、スプリントが速くなり、持久力がついて技術も正しくなってきたら、圧倒されてしまうっていうことが起こります。これは日本のスポーツの特性ですよね。だから、そこが日本の一番の弱点です。

――日本の強いところというのは?

武井:プロ野球のように伝統があって、そこで実績を出してきたトップの人たちが多く野球界にいて、優れた選手を育てる高校野球があって、甲子園という大会が国技並みに盛り上がる文化もあり、大学野球もハイレベル。そうなると、日本人のめちゃくちゃ反復するという真面目な特性が加わった非常に堅実なプレーは厚みを増してさらにレベルが高い競技性を生み出します。そうすると、アメリカのような強豪チームを倒せる可能性が出てくる。ここが日本の一番の強みですよね。

そこを一番に重要視して生かして、フィジカルに優れた選手が出てくれば、ひっくり返すことができる。イチローさんは、その典型ですよね。投げたらアメリカ人よりも肩が強くて、走ってもアメリカの選手より足が速い。内野安打が出る、盗塁が決められる、そして正しい技術がある。だから、あれだけの成績が残せたのだと思います。メジャーでも一番多いヒット数を打てるわけです。

やっぱり、フィジカルの能力を高めること、体を操る能力を高めることは、おそらく、どの競技にも必要な要素なので。そこを重視して、ONE TOKYOを動かしていきたいですね。

【前編はこちら】武井壮が本田圭佑発起人「ONE TOKYO」の監督に就任。カギは「オフザピッチの時間」 

<了>

本田圭佑が目指すリアル「サカつく」 ONE TOKYO代表が探る理想のチーム創りとは? 

武井壮が語った、スポーツの未来 「全てのアスリートがプロになるべき時代」 

「流行りや話題性に流されない」國學院久我山が取り組む「戦略的フィジカルトレ」とは? 

なぜ日本人は100m後半で抜かれるのか? 身体の専門家が語る「間違いだらけの走り方」

PROFILE
武井壮(たけい・そう)
1973年生まれ、東京都出身。タレント。1997年、中央学院大学時に陸上・十種競技で日本チャンピオンとなる。卒業後、アメリカへのゴルフ留学、台湾プロ野球チームでのコーチ就任を経て、2005年に茨城ゴールデンゴールズに入団。2012年からは「百獣の王」として芸能界デビューを果たし、現在はスポーツ番組、バラエティから情報番組や大河ドラマまで、幅広いテレビ番組に出演。そのかたわらで独自のスポーツ理論をもってさまざまなスポーツへのチャレンジも続けており、世界マスターズ陸上4×100mリレーでは金メダルを獲得、現在はビリヤードのプロ資格も目指している。2020年2月に、本田圭佑選手が設立した東京都社会人サッカーリーグ4部のサッカークラブ「ONE TOKYO」の初代監督に就任。

ツイッター、インスタグラム、TikTokアカウント @sosotakei

この記事をシェア

KEYWORD

#INTERVIEW

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事