原口元気「今からでも遅くない」 若手台頭の日本代表で逆襲誓い、磨く“2つの武器”とは

Career
2020.04.21

ベルギー代表を追いつめ、ベスト8進出へあと一歩のところまで迫った2018年FIFAワールドカップ。この大会で原口元気は確かな手応えをつかんだ。だがそこからの1年、日本代表では若い世代にレギュラーを奪われ、ドイツでは所属クラブが2部に落ちてしまった。それでもある出会いをきっかけに、再び、“サッカーの楽しさ”を思い出したという。
「今からでも遅くない」。原口元気の逆襲が始まる。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真=Getty Images)

<4月1日にインタビュー実施>

分析スタッフと一緒にやるようになってから、またサッカーが楽しくなった

――ドイツに移籍してから6年が経ちました。日本でプレーしていた頃と比べて、サッカーに対する取り組みだったり、考え方に変化はありましたか?

原口:もともとはどちらかというと“感覚”を頼りにしてるタイプのプレーヤーだったと思っていて、特に浦和(レッズ)にいる時は。でも今、サッカーの分析をしてくれるスタッフがいるんですけれど、その人と話している中で、自分のプレーだったり、サッカー自体についてもいろいろと考えるようになりました。ドイツでは1対1や球際での攻防を重要視していて、「走れ」「戦え」とかそういう部分がベースになってくるので、どちらかというと一時期はやっぱりそっちを大切にしてたんです。でも今は、分析スタッフのおかげもあって、本当にサッカーを楽しめていますし、ボランチとかいろいろなポジションをやったのも含めてすごくプラスになっているなと。

――見ていて思うのが、ピッチ上ですごく落ち着いているなと。メンタル的にいら立ったような表情が全然なくなってきた気がするんですが、それは自分自身でも感じていますか?

原口:そこも大きな違いだと思います。かといって走れていない、戦えていないわけじゃなくて、これまではテンションがすごく上がった時に良いプレーができていた感覚があるんですが、今はどちらかというと一定のテンションの時にも良いプレーができてるのかなと。それはその分析のおかげも大きいと思います。分析し始めてから、いろいろなことを考えながらプレーしているので、一つのポジショニング、一つの(ボールの)受け方、体の向きというものも考えながらプレーしているので、大きく変わったのはそこかなと。

――勝手な推測ですが、コンディションとか、調子がそこまで良くない時でも、最低限これだけのパフォーマンスはやれる、という自信を感じます。

原口:そうですね、“ひどい試合をしたな”というのはあんまり記憶にはないですね、確かに。昔はめちゃくちゃありましたけどね。浦和の時は本当に、100点か50点か、みたいな感じの試合が多かった。今の課題は100点の試合を増やすことですかね。100点の試合がまだ少ないと思うので、60点、70点の試合ではなく、100点の試合をもうちょっと増やしていきたいなと。

新たに磨いている“2つの武器”

――一定のテンションでプレーできるようになった、メンタルの変化が起きたのは、なぜですか?

原口:なんでですかね? やっぱり、さっきも言ったように、分析スタッフとの出会いですかね。彼とは週1回ミーティングをするんですが、それによって本当に試合で90分間休んでる時間がないというか、一つのポジショニングを取るのもめちゃくちゃ考えてやっていますし、自分のやらなきゃいけないことに集中して90分が終わる。そうすると必然的に一定のパフォーマンスが出せるようになったので、彼との出会いが自分にとってすごく大きかったなと思います。

――つまり、自分のことを俯瞰で見られているし、試合中に常に次のことに切り替えながら考えられているってことなんですね。

原口:余計なことを考えていないというか、“なんで今やらかしたんだろう”、“なんで今ミスったのかな”ということも考えないです。“次どこのポジション取り直して”とか、“今あそこのスペース空いてるな”とか、常に状況を意識しながらプレーしているので。

――体も疲れるけど、それ以上に頭が疲れるんじゃないですか?

原口:そうですね、でも楽しんでますけどね。本当に頭を休めないように、そこだけは(意識して)やっています。せっかくいい感じだったから、(リーグ)後半戦も試合をやりたかったですけど。自分の中でなんとなく形になってきたのが、ここ10試合ぐらいだったので。

――クラブでそういう状態になってきたら、代表でもまた全然違うんでしょうね。

原口:違いますね、正直だいぶ変わると思います。感覚任せだった部分がだいぶ変わってきたので、代表でも今のほうがもっと戦えるだろうなと。ポジション争いも含めて。

――代表にずっと選ばれ続けていることへの自負心はすごく感じます。実際2018年の(FIFA)ワールドカップでレギュラーとして活躍して、ベルギー戦ではゴールも決めた。やっぱりあの舞台でつかんだものもあるんじゃないですか?

原口:ロシアでつかんだものはあります。ワールドカップにフォーカスしてトレーニングしてきたことが通用した、特にフィジカルの部分では十分通用するなと感じたので、それは継続する。また新しいサッカーだったり、新しいタレントが出てきてる中で、どうやって勝負していこうかと考えた時に、今やってる分析は武器になると思っています。(中島)翔哉だったり、(堂安)律だったり、(南野)拓実だったり、本当に感覚的にすごいものを持っているし、もちろんそれだけじゃなくて、サッカーのこともすごく深く理解してプレーしてると思う。自分自身も感覚だけでプレーしていては難しいと思っているので、もっとサッカーを学ばなきゃいけないし、もっともっと分析の精度を上げていかなきゃいけないと思ってます。ワールドカップで通用したフィジカルはもっともっと伸ばして、分析は精度を上げていく、その2つは自分の武器にしていかなきゃいけないなと思いますね。

――その分析スタッフの人と一緒に新しい武器も磨いてるところなんですね。

原口:そうですね。もう少し早く出会っていれば、自分のキャリアももっと違ったのかなって思ったりもします。でも今からでも遅くない、十分にチャレンジできる時間は残っているので。

ロシアW杯の日本代表には、“強いチーム”を作るヒントが詰まっている

――代表でのポジション争いはすごく高いレベルになっていると思うんですが、外から見ていると、新しい代表チーム(森保一監督体制)になってからハレーションが起きないというか、やっぱりちょっとおとなしい感じがします。新しく入ってきた若い選手たちに対しても、もっとお互いがお互いに要求し合ってもいいんじゃないかなって。当然今はまだチームを作っている最中だから難しさもあると思うんですが、原口選手にはそういう役割も求められてるんじゃないかなと思います。

原口:長谷部(誠)さんや(本田)圭佑くんの“まとめる力”の中でやれたのは、本当に大きな経験でした。ワールドカップのあの短時間でチームを作る上で、本当に全員が発言したと思うし、全員がチームの成功のためにすべての能力を出したと思っていて。それをうまくまとめる長谷部さんや圭佑くんがいたり、もちろん西野(朗)監督がいたり、森保(一)さんと手倉森(誠)さんがサポートしてくれたり、本当に日本のすべてを集結させたのが2018年ワールドカップの結果だったと思っています。今の代表はまだそのクオリティーまではいってないと思う。コミュニケーションも含めて、“日本代表を作る”という部分でも。なのでやっぱり、あのワールドカップを経験したというのが自分の中ですごく大きくて。今だったら(吉田)麻也くんとか含め、もっともっとあの時のような空気、空間を作っていかなきゃと思ってますし、自分も前回以上に関わっていかなきゃいけないと思ってます。あれは本当にすごかった。自分自身もその場にいて、試合に出て、自分たちが準備したものをピッチで表現できたというのは、ものすごく面白い経験だったなと思いますし、本当に良い準備ができれば、自分たちよりも能力がある相手に対してもうまく試合が運べるというのは本当に感じました。

――あの舞台で、あれだけの強豪国相手に、あれだけのプレーができるというのは、自分自身でもやっている最中に震えるような、テンションが上がるような、そんな喜びは感じるんですか?

原口:どちらかというと、本当に必死にやっていた部分があるので、あまりそういう(ことを感じる)余裕はなかったです。だけど、あの空間、あの関係性は自分の中では理想で、チームメートもそうだし監督やスタッフも含めて全員で作っていくような。短い期間でしたけど、ああして一つの結果を出したチームには、強いチームを作る上でのヒントがあると思うので、代表でもハノーファーでももっと何かできないかなと思っています。

「神は細部に宿る」 その言葉の意味と、感じる歯がゆさ

――noteにも書いていましたが、アシスタントコーチと激論を交わしたという話なんてまさにそうですよね(※)。だってそこを突き詰めていかないと勝利の確率が高まらない。
(※編集注:noteは文章、写真、イラスト、音楽、映像などを手軽に投稿できるクリエイターと読者をつなぐWebサービス。原口は3月8日、自身のnoteに「主張すべきこと」というタイトルで投稿。2月15日のブンデスリーガ2部第22節、対ハンブルガーSV戦、ハノーファーは1点リードで迎えた試合終了直前の90+6分、コーナーキックから失点した。この場面でのマークの仕方について、試合後、アシフ・サリッチ アシスタントコーチと激論を交わしていたことについて、自身の考えを発信していた/原口選手のnote⇒https://note.com/genkiharaguchi

原口:本当にああいう小さなミスが、10個、20個あるとやっぱり勝てないですよね。あの場面はその中の一つで失点した。もっとこういう準備をしたらいいんじゃないかとか、こういう話し合いして、こういうミーティングをしたほうがいいんじゃないかとか、やっぱりワールドカップの経験からそう思ったりもする。かといって、サッカーは監督が決めることも多いじゃないですか。なので難しい部分もあるし、選手をまとめられるほどのドイツ語の語学力も正直ないし。でも何かできるんじゃないかなとか、そんなことを思っています。日本代表だともっとやりやすいのかなと。(日本代表は)いざとなったらできる集団だと思いますし。もちろん集まれる期間は短いし、集まる時は試合に向けてフォーカスしてやるので、底上げしていくのは難しい部分もありますけれど。

――ワールドカップみたいに長い時間一緒にいられるわけではないですからね。

原口:そうですね、歯がゆい部分もあります。ハノーファーでも若い選手に対して思うことがありますし。食べ物一つとってもそうだし、サッカーに対する姿勢だったりとか、見つけ次第けっこう口うるさく言ったりもしたりしてるんですけど、まあなかなかね、難しい部分もありますね。

――noteで「神は細部に宿る」って書いていましたが、本当にそのとおりだと思います。自分も今、Jリーグを目指している南葛SC(東京都リーグ1部)のGMをやっていて、『キャプテン翼』作者の高橋(陽一)先生と一緒にクラブ経営をしているんですが、今すごくそれを感じています。昨シーズン、東京都1部の中で見れば圧倒的なメンバーで、監督は福西崇史さんで臨んで、2018シーズンは優勝してたのに昨季は7位だったんです。実質7部で、半数以上がJ2、J3でやっていてもおかしくないような、J1経験者もいるメンバーで。普通に考えたら、ぶっちぎりで優勝しそうに思うじゃないですか。昨季ほどJリーグ経験者のいなかった2018年でも優勝したのに。もちろん、昨季は相手チームからすごく警戒されて研究された、というのはあるんですが、それでも正直、勝てると思ってしまっていて、いろいろなところを本当の意味で細部まで詰め切れてなかったんです。むちゃくちゃ後悔しましたね。だから、今年はもう絶対に失敗しないように、とにかくやるべきことをちゃんとやる、ちゃんと全部やり残すことがないようにやってるんですが、それってめちゃくちゃ大変ですよね(苦笑)。

原口:めちゃくちゃ大変ですね。多分一人じゃできないので、“集団”にならないといけない。それはでも、なかなか簡単にできることじゃないと思いますよ。僕も(ワールドカップの時のような)あそこまでしっかりした集団というのは初めてだったので。今までのチームであんなチームなかったですし、だからこそ簡単じゃないですけれど、自分の中でああいう集団が理想になりましたね。

「今はもうW杯しかない」もう一度自分自身の成長を楽しむ日々

――ワールドカップでは本当にあと一歩でベスト8というところまでいきましたが、あれを経験した上で、今の日本代表に対するモチベーションはどういうところにあるんですか?

原口:いや、もうワールドカップしかないですよ、正直な話。僕があそこで感じたものに、もう一度チャレンジしたい。年齢的にもチャンスは次のワールドカップしかないと思っているので、もうそこですね。ベスト16の壁を突破して、世界のベスト10に入るのが一番のモチベーション。今はそれだけです。

――そのために毎日毎日があるということなんですね。

原口:もちろんそうです。積み重ねた先のことなので。

――先のほうにある目標に向かって、常に意識して努力し続けるのって、本当に難しくないですか? 新型コロナウイルスの影響で自宅待機になっている間(※)にも、自分でトレーニングメニューを考えたり、英語を頑張れたりするのは、何でなんだろう? 毎日成長している自分を感じたいから、感じられているからなんですかね?
(※編集注:ハノーファーのチームメートに新型コロナウイルス検査の陽性が出たことで、チームの選手・スタッフ全員が3月12日から14日間の自宅待機となった。自宅待機中の話は、前編を参照)

原口:そう、それが一番楽しいですね。ワールドカップが終わった後、なんかもうこれ以上は伸びないんじゃないかとか、フィジカル的にも、27、28歳でそんなに伸びしろもないし、けっこう悩んでいて。その分析スタッフの彼に出会うまでは、それこそ翔哉みたいに自分より感覚能力がすごく高い選手が出てきたりして、もう自分には芽がないんじゃないかなと思ってしまった時期があって。その時期は全然充実感がなかったし、正直あまり楽しめていなかったんですけれど、でもやっぱり、もう一回。何がきっかけだったのかわからないですが、もしかしたら(ハノーファーが)2部に落ちたことだったかもしれないし。逆に開き直れるというか。去年は1部でほとんどの試合に出たにもかかわらず、それを楽しめてなかったのはもったいなかったなって。ドイツは2部も全然素晴らしいリーグで。

――2部も何回か見に行きましたが、1部と大差ないですよね。

原口:でも、正直、本当は2部でやりたくなかったんです。今までほとんど1部でやってきていて、正直プレミアリーグに行きたいとかもいろいろあって、ブンデス1部でやることに特に感動もなくなっていた。ブンデスでも上のクラブにいくのもちょっと難しいかなと思ったり、ワールドカップが終わった後の1年間、自分の中でもう一回上を目指すというのができていなかったので、本当にその1年が今もったいなく感じていて……。もちろんやっていなかったわけじゃなく、毎日しっかり準備してトレーニングしてたんですが、今ほど充実した気持ちでサッカーができてなかった。今は本当に、もう一回1部に戻りたい、上にいきたいという思いがあるので、逆に2部に下がった分、開き直って自分自身がレベルアップすることに集中できているなというのは、なんかまあ、変な話なんですけど、自分の中にあるなと思います。

――でも自分自身がレベルアップする、成長することだけに特化できているって、すごくいい状況ですよね。

原口:特化しないときつかったですね、正直。客観的に見ると、“何やってるんだろう”みたいな。2部で上位を争っているわけでもなく、最初は試合にも出られなかったりもして、そっちに特化しないと本当にしんどくて。でもそのうちに楽しみがどんどん広がっていって、今になったという感じですかね。

――そうやってマインドチェンジができたのは、“ケガの功名”ということなのかもしれないですね。なんかいい顔してますもんね。

原口:今はめちゃくちゃ楽しいです。サッカーに対してもそう、サッカーやっていてもそう。本当にそこでマインドチェンジできたことによって、もう一回楽しめているし。そうですね。今は次のワールドカップに向けてもっと上を目指していきたい、本当にただそれだけです。

【前編はこちら】「将来監督になりたい」原口元気が明かす本音。外出禁止を「チャンス」と捉えた“14日間”

<了>

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PROFILE
原口元気(はらぐち・げんき)
1991年5月9日、埼玉県出身。ブンデスリーガ(ドイツ)2部、ハノーファー所属。日本代表。中学から浦和レッズのアカデミーでプレーし、17歳でトップ登録(2種)。2009年、名古屋グランパス戦でクラブ日本人史上最年少ゴールを記録(17歳11カ月3日)。2014シーズンはクラブの象徴的な背番号「9」を背負う。同年5月、ヘルタ・ベルリン(同1部)へ完全移籍。フォルトゥナ・デュッセルドルフ(同2部/当時)への期限付き移籍を経て、2018年6月、ハノーファーへ完全移籍。日本代表では、2011年10月ベトナム戦で初出場、2015年6月イラク戦で初ゴール。2018FIFAワールドカップ・アジア最終予選で、最終予選としては日本代表史上初となる4戦連続ゴールを記録。本大会ではレギュラーとしてチームのベスト16進出に貢献。ベルギー戦で先制ゴールをあげ、これがノックアウトステージにおける日本史上初のゴールとなった。note:https://note.com/genkiharaguchi

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