
南野拓実、「結果が欲しい」理由とは? 森保ジャパン最多でも満たされぬゴールへの渇望
FIFAワールドカップ予選開幕から3戦連続ゴール。日本サッカー界の偉大な先人、三浦知良に並ぶ記録を打ち立てても、南野拓実はこう口にする。「結果が欲しい」と――。2022年のカタールワールドカップを目指す森保ジャパン、その中心選手としての風格とまとわせ始めたその男が、「結果」にこだわり続ける想いとは?
(文=藤江直人、写真=Getty Images)
南野拓実が口にし続ける「結果」という言葉の裏にある思い
パソコンに保管してある、膨大な人数におよぶ選手ごとのコメントを読み返してみると、オーストリアの強豪ザルツブルクでプレーする南野拓実が日本代表に招集されるたびに、まるで呪文のように同じニュアンスの言葉を口にしてきたことがわかる。
例えば昨年9月11日。森保ジャパンの初陣となったコスタリカ代表とのキリンチャレンジカップ2018でトップ下を拝命した南野は、先制点となったオウンゴールに続いて、66分に新体制における実質的な初ゴールをゲット。快勝の余韻に沸く試合後には、表情を引き締めながらこう語った。
「まだまだ物足りないと思っているし、まったく満足していません。自信にはなりましたけど、自分はまだ日本代表で何も残していないし、まだ何も成し遂げていないので」
強豪ウルグアイ代表を4対3で撃破した昨年10月16日のキリンチャレンジカップ2018。先制点とダメ押しの4点目を決めるなど、3試合連続で4ゴールをあげた南野へ飛んだ、森保ジャパンのエースを担っている自覚はありますか、という質問は「いや」と言下に否定されている。
「そんなことはまったく思っていません。まだまだ、これからなので。ヨーロッパでプレーしていて、ワールドカップも戦った選手はやっぱりたくましいし、すべてにおいて能力も質も高い。そういう選手たちを脅かす存在になっていかないといけない。トップ下で意識しているのは、常に動きながらボールを受けること。特に体が大きいわけではないので、止まった状態でボールを受ければ難しくなる。相手の間で顔をのぞかせて前を向くプレーを、チームのためにできる選手を森保監督も必要としている。だからこそ自分が呼ばれていると思うし、そういった自分の長所もしっかり生かしていきたい」
そして、まだ記憶に新しい今年の10月シリーズ。モンゴル代表を埼玉スタジアムに迎えた、10日のカタールワールドカップ・アジア2次予選のホーム初戦で、南野は22分にヘディングで先制ゴールをゲット。大量6ゴールを奪う日本のゴールラッシュの口火を切った。
敵地ヤンゴンで9月10日に行われた、ミャンマー代表とのアジア2次予選初戦の前半26分にも、南野はヘディングでゴールを決めている。身長174cmと大柄ではない24歳は「あまり頭で取るタイプではないんですけど」とはにかみながらも、対戦相手がウルグアイに象徴される強豪国だろうが、FIFAランキングで3桁に位置づけられる国だろうが関係ないと力を込めた。
「結果を出し続けることがめちゃくちゃ大事だし、それが選手にとっての自信になる。どんな相手に対しても貪欲にゴールへ向かっていく選手じゃないと、どんな相手にもゴールを決められないと思っているので。だから、これを続けていきたい」
数字に残る結果を残しても、次の瞬間には視線を新たな目標へ向けて走り出している。ストイックで貪欲な姿勢の源泉は何なのか。森保ジャパンの船出から招集され、コスタリカ戦で代表初ゴールを決めるまでに、日本代表における南野の軌跡には実は3年近いブランクが生じている。
セレッソ大阪時代、「8番」を背負う資格はない……
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に率いられていた2015年。南野は10月、11月と続けて招集されたが、ピッチに立ったのはわずか2試合。イラン代表との国際親善試合(テヘラン)と、カンボジア代表とのロシアワールドカップ・アジア2次予選(プノンペン)のわずか6分間だった。
その後は声がかからなくなり、いま現在はタイ代表を率いる西野朗監督のもとで臨んだ、昨夏のロシアワールドカップの日本代表候補にすら名前を連ねることはなかった。
「普通に『選ばれへんやろうな』と思っていたので、代表メンバーの発表もザルツブルクの練習を終えて、ニュースか何かで普通に見ていた感じですね。もちろん代表のことは意識していたし、空いた期間に抱いた悔しい気持ちをもっていまは代表に来ている。新たな第一歩、というタイミングで招集されたことにすごく感謝しているし、だからこそここからだと思っています」
コスタリカ戦を前にして南野が残したコメントからは、たとえ6分間だったとしても、与えられたチャンスでインパクトを残せなかった自分へふがいなさを募らせていた軌跡が伝わってきた。だからこそ、森保ジャパンで手にした再スタートへのチャンスへ静かに闘志を燃やしていた。
もっとも、結果を残すことへの強い思いは、ハリルジャパンで経験した悔しさを介して醸成されたものではなかった。2015年1月からプレーし、すでに6シーズン目を迎えているザルツブルクでも「何かが大きく変わった、というところは特にないですね」と振り返ったことがある。
オーストリアへ渡る前までプレーしていた、中学生年代から心技体を磨いてきたセレッソ大阪での日々が南野の原点となる。トップチームに昇格した2013シーズン。公式戦で8ゴールをマークした南野はJリーグのベストヤングプレーヤー賞を受賞し、将来を嘱望される存在になった。
さらなる飛躍が期待された2014シーズン。開幕から不振に陥ったセレッソは、ブラジルワールドカップ後に柿谷曜一朗がバーゼル(スイス)へ移籍したことも響いてJ2への降格を喫した。南野自身もリーグ戦で2ゴールに終わり、公式戦で2度の一発退場を受けるなど不安定なシーズンを送った。
2014シーズンの途中に、セレッソの岡野雅夫代表取締役社長(当時)に、柿谷の移籍とともに空き番になった「8番」を、来たる2015シーズンからは南野に受け継がせるのでは、と直撃したことがある。
セレッソの「8番」は歴代のミスターが背負う特別な番号で、初代ミスターの森島寛晃(現・代表取締役社長)から香川真司、清武弘嗣、柿谷を経て新たな持ち主の誕生を待っていた。それまでの軌跡から十分に資格があるのでは、との問いは岡野社長によって「冗談じゃない」と否定されてしまった。
「そんなに簡単な背番号ではないし、南野はまだ何も残していない。背負うのにふさわしい人間が出てくるまで『8番』は空けておきます」
清武や柿谷が「8番」を託される前に背負っていた、セレッソにおける出世番号とも言える「13番」をつけていた南野にも胸中を直撃した。返ってきた言葉は、現時点では資格はないという自己否定だった。
「いまはないです。自分の結果を出すことに……いまはないです」
自信をつけた、世界最高峰UEFAチャンピオンズリーグでの戦い
迎えた2014シーズンのオフ。南野は熟慮を重ね、迷いに迷った末に、オファーが届いたザルツブルクへの完全移籍を決断する。よりレベルの高い舞台で、結果を残すと誓いを立ててから6シーズン目。追い求めながら手の届かなかった、最高峰での戦いで南野は咆哮をとどろかせている。
各国リーグの上位クラブが集うUEFAチャンピオンズリーグ。真っ赤に染まった前回王者リヴァプールのホーム、アンフィールドに乗り込んだ今月2日(現地時間)のグループEの第2節で、強敵を震撼させた豪快なボレー弾が南野の名前をヨーロッパ中へ知らしめた。
1対3と2点のビハインドを背負っていた56分。ファーサイドを目指してペナルティーエリア内へトップスピードで走り込んできた南野が、左サイドから放たれた山なりのクロスに対して右足を一閃。ピッチに叩きつけられた強烈な一撃が、ゴール左隅を正確無比に射抜いた。
「自分としてはいつも通りのつもりなんですけど、チャンピオンズリーグは自分がヨーロッパへ行ってプレーするうえでの目標でもあった。憧れてきた舞台でプレーできている今シーズンはすごく充実しているし、高いモチベーションを維持させてくれている理由の一つだと思っています」
4分後には同点弾をアシストしている南野は、最終的には3対4で負けた結果に「悔しい気持ちの方が大きい」と表情をしかめながらも、夢見てきた舞台での戦いは違うとも強調した。
「トップレベルの試合を経験するだけでなく、ゴールやアシストという結果を残せたことはプレーヤーとしての自信にもなる。日本がワールドカップで勝つためには、ああいう舞台でプレーしている選手が増える必要があると思うし、自分が楽しみながら、すごくいいメンタル状態でプレーできていると実感できている経験や自信を代表にも持ち込みたい」
今年1月には6試合に出場して1ゴールしかあげられず、日本も決勝戦でカタール代表に屈したアジアカップのほろ苦い戦いを経験している。悔しさをしっかりと受け止めながら「あのときよりも成長していると思う」と胸を張る南野にとって、チャンピオンズリーグは大きな転機になっているのだろう。
「記録は気にしない」 ワールドカップへと続く道をただ前に進む
リヴァプール戦の自信と勢いを持ち込んだ10月シリーズではモンゴル戦に続いて、舞台を敵地ドゥシャンベへ移して15日に行われたタジキスタン代表との2次予選第3戦でも先制点と追加点をゲット。森保ジャパンだけで積み重ねてきたゴール数は、森保ジャパンでは最多の10に達した。
パラグアイ代表に2対0で勝利した、9月5日のキリンチャレンジカップ2019でもゴールを決めている南野は、タジキスタン戦において国際Aマッチで4試合連続、ワールドカップ予選の開幕から3試合連続でゴールを決めた。いずれも1993年の三浦知良(当時ヴェルディ川崎)以来の記録となる。
1995年生まれの自身が生まれる前に刻まれた記録に、南野は「うーん、知らなかったですね」と苦笑いを浮かべながら、貫いていく姿勢はいままでも、そしてこれからも変わらないと力を込めている。
「偉大な選手たちが戦ってきた舞台で自分が戦えている、ということに喜びを感じます。記録に対してはあれですけど、そういう舞台に、子どものころから夢見てきた舞台に立てているんだな、と。記録は正直、気にしていません。チームをけん引していこうというよりは、とにかく結果を残してカタールワールドカップへのサバイバルに勝ち残っていくことしか考えていません。ただ、勝利に貢献している意味で、ゴールは自信になりますよね」
次回の11月シリーズは敵地でキルギス代表とのアジア2次予選第4戦、パナソニックスタジアム吹田でベネズエラ代表とのキリンチャレンジカップ2019を戦う。その前にザルツブルクでの戦いに戻った南野は、チャンピオンズリーグのグループEで首位に立つ強豪ナポリとの連戦が待っている。
最高峰の舞台で得た新たな力が11月シリーズへ還元されれば――カタールワールドカップへの通過点として南野は気に留めないかもしれないが、日本代表史上に輝く記録が生まれる可能性がある。
キルギス戦でゴールネットを揺らした時点で、ワールドカップ予選の開幕から4試合連続ゴールを決めた初めての日本代表選手となる。国際Aマッチで5試合連続ゴールを決めた選手は、過去には1950年代の渡辺正と1960年代の名ストライカー・釜本邦茂の2人しかいない。
そして、ベネズエラ戦でもゴールを決めて2019年を締めくくれば、国際Aマッチで6試合連続ゴールとなり、1985年に木村和司がマークした最長記録に並ぶ。どのような舞台でも結果を残し続けなければ生き残れない、という覚悟と決意のもとで3年後のカタールへと続く道を貪欲に、全力で突き進む南野が放つまばゆい輝きが、過去の大記録にもスポットライトを当てようとしている。
<了>
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