ドラフト選手を次々生み出す「再生工場」。独立リーグ・徳島、敏腕社長の革新的球団運営とは?
2019年は3選手、7年連続で育成枠を含むドラフト指名選手を生み、NPBスカウトから熱視線を浴びている独立リーグの球団がある。「NPBに選手を送る」という面では、突出した実績を誇る四国アイランドplusの徳島インディゴソックスは、それまでの野球人生で指名を逃していた選手たちの“再生工場”として大きな注目を集めている。
今年もドラフト指名が期待される徳島インディゴソックスはなぜ、NPB選手を次々輩出するのか? 「人材育成型」の球団運営へと大きくかじを切った南啓介代表取締役に聞いた。
(文、写真=広尾晃)
ドラフト実績No.1 NPBが最も注目する独立リーグの雄
独立リーグからNPBへ、は狭き門である。高校、大学、さらには社会人と何度もドラフト指名の可能性がありながら指名されなかった選手が独立リーグに来ている。一度はスカウトの網からこぼれた選手たち。しかし、近年、独立リーグ経由ドラフト指名、NPB入りのルートを確立した感のある球団がある。四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスだ。
筆者は2005年、四国アイランドリーグ(当時)の創設から独立リーグを見てきた。当初は「プロ野球のミニチュア版」のような認識で運営されていた独立リーグだが、次々と破綻して経営者が入れ替わる中で、今では地元企業のスポンサードに依存した「地域コミュニティー企業」へと変化している。
独立リーグは端的にいえば「野球だけでは食えないが、野球をやめたら存在意義がない」というジレンマの中でさまざまなビジネスモデルを模索しつつある企業だといえよう。
そんな中で徳島は、「野球をメイン」に据えた展開で注目を集めている。
球団の変革は、2015年12月に運営会社株式会社パブリック・ベースボールクラブ徳島の代表取締役に就任した南啓介によるところが大きい。筆者は南の就任前後から何度か話を聞いたが、改めてチーム運営について聞いた。
「育成」に大きくかじを切った南社長の英断
「2007年からスポーツマーケティングの会社をやっていました。選手のマネジメントやスポーツメーカーの商品マーケティングなどが仕事でした。スキー、スノボ、自転車からBMXまでジャンルは多岐にわたります」
南が独立リーグとかかわることになったのは、2010年に社外取締役になった会社が徳島インディゴソックスに出資していたのがきっかけだ。
「徳島の経営をしてもらえないか」という誘いがあったのだ。
独立リーグの収入源は大きく分けて4つある。
1.試合の入場料や場内物販、グッズ販売など
2.スポンサー収入
3.NPBへの人材輩出
4.行政による支援
独立リーグの場合、年間入場者は多くて数万人。NPB球団の数十分の1であり、この時点では経営の柱にはできない。そこで2.の地域密着のスポンサーに頼ることになる。3.の「人材輩出」もあるにはあるが、1年に1人ドラフトで指名されれば御の字であり、これに頼ることは普通できない。
しかし南は2.のスポンサー収入が脆弱(ぜいじゃく)だったのでスポンサーの獲得と併せて「NPBへの選手輩出」を経営の柱に据えたのだ。NPBにドラフト指名されると独立リーグには契約金、年俸に応じて「育成対価」が支払われる仕組みになっている。その資金で後輩たちの環境を整えるためだ。入団時の選手契約によるが、外国人選手やNPBへ戻った選手にも移籍金が発生することもある。それも立派な収益源になると考えていた。
これまで独立リーグ球団は合同トライアウトを実施して選手を獲得するほかは、積極的なスカウトはしなかった。NPB出身の監督やコーチの人脈で選手を連れてくることが多かった。しかし南は徳島球団の共同オーナーたちや知り合いのライターとも連携を取り、情報を集め、スカウティングによる選手の獲得を強化した。
南が就任後、NPBにドラフトで入団した選手は8人。NPBに移籍した外国人選手が2人。海外プロ野球にドラフトで入団した選手は3人。
2016年
福永春吾(阪神6位)
木下雄介(中日育成1位)
ハ・ジェフン(シーズン中にヤクルト移籍)
ガブリエル・ガルシア(シーズン中に巨人移籍)
2017年
伊藤翔(西武3位)
大藏彰人(中日育成1位)
チェン・ピンジェ(台湾プロ野球、富邦2位)
2018年
鎌田光津希(ロッテ育成1位)
イ・ハクジュ(韓国プロ野球サムスン1位)
ハ・ジェフン(韓国プロ野球SK2位)
2019年
上間永遠(西武7位)
岸潤一郎(西武8位)
平間隼人(巨人育成1位)
※韓国KBOのドラフトは完全ウェーバー、二次指名制を採用している
この間、四国アイランドリーグplusの他球団からは2016年に香川オリーブガイナーズの松澤裕介が巨人に育成8位、2019年に同じく香川の畝章真が広島に育成3位で入団しただけ(松澤はすでに退団)。徳島は圧倒的な実績を上げてきた。
「挫折の理由を掘り下げる」“徳島再生工場”の稼働率が高い理由
ドラフトの当落線上にある選手の多くは、さまざまな事情を抱えている。指名有望と言われながらそれぞれの事情でリタイアを余儀なくされたり、ケガや故障で野球を断念したり。そういう“ワケあり”な選手も含めてテストを受けてもらったのだ。
「テストは監督、コーチ、そして私も見ます。実力に加えて伸びる資質があるか、性格的なものも含めて、潜在能力を見極めるんです」
南は、いくつかの質問で、選手を見極めてきた。
「途中で野球をやめた時期がある選手には、『なんでやめたのか』をしっかり聞いた上で人生設計についてたずねます。今は野球をしていないけど『活躍したい』『お金が稼ぎたい』など、とんがった望みをいう選手はいいですね。逆にぼんやりしている選手は難しい。過去には何らかの理由で挫折したにせよ、再度立ち向かおうとする強い意志を持っている選手は、立ち上がって、前に向かった時のパワーが違うと感じています。ケガもなく元気に才能を発揮している選手をNPBは見逃さない。かといって能力や資質がはっきり劣る選手は当然獲得しない。その中間を狙うんですね」
これは、と思う選手は地元まで行って説得したこともある。
「岸潤一郎(現西武)は他の独立リーグ球団からも声がかかっていて、野球を続けるかどうかも含めて迷っていた。だから地元に行って『NPBに行けるかは保証はできない。でもチャレンジするなら若いうちだけだ』と本人とご両親に夢を語りました。
独立リーグでやりきってから次の道に進んでもいいんじゃないか?チャレンジなくして次の道は見えない。『岸がグランドを駆け巡っている姿を俺は見たい』という言葉が決め手になった。
実績ができて、『徳島に行けばNPBに行ける』といい意味で“勘違い”をして有望選手が来てくれるようになりました。結局は選手の頑張り次第なんですが(笑)」
徳島には良いレガシーが受け継がれているといえるだろう。
当然のことながら、有望株が集まることでチーム内での競争が始まり、選手はお互いを刺激し合いながら成長する。その結果、個もチームも強くなる。南就任後の徳島は4シーズンで2回総合優勝、そして2回ともベースボールチャレンジリーグ(BCリーグ)優勝チームとのグランドチャンピオンシップでも勝利している。
地道な活動で「育成の徳島」が定着 今年も「5人に調査書」
南は選手を獲得するだけでなく、NPB関係者とのコミュニケーションも大事にしている。
「選手の調子が上がったころ合いを見て、スカウトさんに見ていただけるように連絡します。NPB球団はそれぞれ選手獲得の方針が違うので、スカウトさんの見方もさまざまです。独立リーグは下位指名か育成指名が多いのが現状です。でも、可能性を信じて獲得をしてくださいますし、その選手が球団内で何か変革を起こしてくれることも期待してくれていると思います。コミュニケーションをとるうちに、球団の色だったり、スカウトさんの思いも少しずつ理解できるようになってきます。スカウトさんはプレーを見て数字的な部分や、プレーから伝わる感情を大切にされていると思います。
私からは選手の人となり、生きざま的な話もします。結果はもちろん大切ですが、選手の野球に対する熱量を知ってもらいたいと思うからです」
NPB球団は、ドラフト指名する可能性がある選手に対しては球団を通じて「調査書」という書類を送付する。選手の身元、基本的な情報を聞き合わせる書類だ。「調査書」が来た選手は、ドラフト指名される可能性があるということだ。なかには複数の球団から調査書が届く選手もいる。
「今年は5人の選手に調査書が届きました。でも、何人指名されるかはわかりません。上位でタイプが似た選手が取れた時は指名されないこともあります。昨年は5人に調査書が来て3人指名されました。一昨年は3人で1人指名、その前は4人で2人。こればかりは当日までどうなるかわかりません。今年は新型コロナの影響で、指名選手を減らすかもしれないといううわさもあります」
選手だけでなく、監督、コーチも「育つ」好循環の環境
実は、徳島は南が就任してから毎年監督が代わっている。聞きづらい話かと思ったが、思い切って聞いてみた。
「いや、みなさんご栄転ですね(笑)。毎年ステップアップされるんです。チームが強くてNPBに選手がたくさん行くのは、球団の実績にもなりますが、もちろん現場の指導力のたまものでもある。だから指導者の実績にもなる。監督、コーチが毎年しっかり指導してくれますので、首脳陣への信頼は厚いです。そんな指導者は外部から見ても魅力的です。なのでNPBや他の独立リーグからもお誘いをうける。そういうことで、ご家族のことや、次のステージでの活躍のために次の球団への移籍を選択されるケースが続いてきました。
首脳陣も選手と同様に徳島でチャレンジしてくれているんです。ネクストステージへの踏み台になっていること自体はうれしい限りです。ただ正直、毎年のように監督を選定するのはしんどいですね(笑)。幸いなことに、そういう状況でも毎年良い指導者に就任していただいていることも徳島の強みですが」
インタビューは本拠地のJAバンク徳島スタジアムでの公式戦の試合中に行った。筆者の話に応えながらも、南の視線はグラウンドに張りついたままだ。鋭い眼光で選手のプレーを見続けている。その横顔からは自分が目指すもの、やろうとすることにまっすぐ向き合っている姿勢が痛いほど伝わってくる。
「おかげさまで、“人間的にも、プレーヤーとしても強いチームを作る”という、うちの方針を理解してくださる方が増え、新規のスポンサーさんも増えています。経営を支える共同オーナーさんも8社に増えています。
選手がNPBに行きたいと願い、私たちフロントも本気でNPBで活躍してほしいと思っています。そのためにできることは何でもするし、何が足りないのか、どうすればいいのかも選手と一緒に考える。徳島インディゴソックスは“明確な目標”を持っている球団なんです」
南はドラフト当日にはみんなの夢がかなうようにと、思いを込めて自宅近くの神社に祈願しに行くと話してくれた。
10月26日のドラフト会議では徳島インディゴソックスからは何人の選手がNPBに羽ばたくだろうか?
<了>
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