日本シリーズのカギは監督対決! 勝つのは、短期決戦の鬼・工藤か、変幻自在の名将・原か?
11月21日、いよいよ決戦の火ぶたが落とされる。2年連続で福岡ソフトバンクホークスと読売ジャイアンツの組み合わせとなった2020年の日本シリーズ。昨季は若鷹軍団による4連勝に終わったが、今季はどのような結果に終わるだろうか? そのカギを握るのが、工藤公康と原辰徳の「監督対決」だ。令和の日本球界を代表する二人の名指揮官を対比して見てみたい。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
工藤公康と原辰徳、まったく違った特徴を持つ二人の名将
11月21日から行われるプロ野球・日本シリーズ。2年連続で福岡ソフトバンクホークスと読売ジャイアンツの顔合わせになったが、注目したいのが両チームを率いる指揮官。工藤公康と、原辰徳だ。
この二人が現代プロ野球でセ・パを代表する「名将」なのは、その数字が証明している。
工藤監督は2015年の就任以降、今季までの6年間でリーグ優勝3回、日本一は4回(昨季までで)。優勝を逃した年もすべてリーグ2位と、常勝軍団を形成している。分厚い選手層を誇るチームだけに、その「手腕」が過小評価されている印象も強いが、昨季まで3年連続日本一、ここ2年間はシーズン2位からクライマックスシリーズ、日本シリーズを勝ち上がるなど、十分すぎる実績を誇る。
一方の原監督も、監督復帰初年度の昨季から2年連続リーグ優勝。3期、14年間にわたって球界の盟主・巨人を率いてリーグ優勝9回、日本一3回。今季、その通算勝利数は川上哲治氏を抜き、「巨人史上最多勝利監督」となった。
平成後期~令和のプロ野球界において、この二人ほど突出した数字を残している指揮官は、ほかにいない。
もちろん、日本シリーズで実際にプレーするのは選手たちだ。ソフトバンクであれば千賀滉大、柳田悠岐、巨人であれば菅野智之、坂本勇人といった投打の主力選手の活躍がチームの勝敗に直結するのは間違いない。
ただ、短期決戦だからこそ指揮官の下す決断が勝敗を大きく左右することも事実。
ここでは、現代プロ野球界を代表する二人の指揮官を比較し、日本シリーズの戦いぶりを考察してみたい。
「ソフトバンクには勝つために必要な『幹』がある」
監督としての工藤公康を一言で表すのであれば、「短期決戦の鬼」だ。レギュラーシーズン中の采配を見ると、比較的オーソドックスな戦術を好むように見える。打順の組み方、投手の起用法など、あまり奇策を仕掛けてくるタイプではない。もちろんこれは、ソフトバンクが誇る選手層がなせる業ともいえるが、適材適所に選手を配置し、あとは選手個人がしっかりと自分の役割をこなす。
以前、西武時代の秋山翔吾がソフトバンクの強さをこう語ってくれたことがある。
「ソフトバンクというチームには、勝つために必要な『幹』のようなものがあるように思えるんです。だから、故障者が出ても、アクシデントがあっても、選手たちが自分自身で判断して、勝つための最善の手段を選択できる。能力の高い選手たちが全員、『勝利』のために何をやるべきか分かっている。勝ち続けてきた伝統がそうさせるのかもしれませんが、そういう強さは感じますね」
「幹」という抽象的な表現ではあったが、むしろ抽象的であるがゆえに、余計にソフトバンクの強さを実感させる言葉だった。
確かに、ソフトバンクというチームは他球団を圧倒する選手層を誇る。しかし、近年を見ても主力メンバーがケガなく、シーズンを戦い抜いたケースはほとんどない。それでも、勝ってしまう理由を「選手層」の一言で片づけてしまうのは逆に違和感がある。
そんな「幹」を形成しているのが、工藤監督ではないだろうか。選手としても西武、ダイエー(現ソフトバンク)、巨人と異なる3球団で日本一を経験。誰よりも「優勝」を知る指揮官だからこそ、勝負どころの大切さを熟知している。
工藤監督の選手起用、采配は、ポストシーズンで明らかに変貌する
そんな「勝負勘」がさえわたるのが、CSや日本シリーズといった短期決戦だ。
シーズン中は比較的オーソドックスな選手起用、采配を好むと書いたが、こと短期決戦になると工藤監督のそれは明らかに変貌する。
例えば2018年。この年はリーグ2位に終わったが、シーズン終盤からCSを見据えて武田翔太、石川柊太といった「先発投手」を試合序盤~中盤に投入する「第二先発」として起用。その戦術をポストシーズンでも続け、結果としてチームを日本一へと導いた。
また、2019年のCSファーストステージ第2戦ではシーズン全143試合でスタメン起用を続けていた松田宣浩を先発から外し、好調だったジュリスベル・グラシアルをこの年初めて三塁で起用する「奇策」に打って出た。
これ以外にも、主力打者にもバントの指示を惜しみなく出すなど、短期決戦では明らかに采配スタイルを変えてくるのが、工藤監督最大の特徴だ。「慣れないことをすると痛い目を見る」ケースはプロ野球界でも多いが、工藤監督の場合、それがピタリとハマるのだから恐ろしい。
もちろん、そんな奇策にもしっかりと順応できる選手たちの能力あってこそだが、だからこそ就任以降、CS、日本シリーズ合わせて、ポストシーズン通算40勝12敗1分(※2020年CSまでを含む)、勝率.769という驚異的な勝率を残せるのではないだろうか。
結果を残しても変化を恐れない姿勢
また、結果を残しているにもかかわらず変化を恐れない姿勢も工藤監督の特徴の一つだ。今季は柳田、グラシアル、ウラディミール・バレンティンといった強打者を2番に据える球界のトレンドもしっかりと採用。試合前に複数のオーダーを用意してコーチ陣と擦り合わせを行うなど、他者から学ぶ姿勢も忘れていない。
リーグ優勝直後のインタビューでは選手たちに対して「さすがです」と何度も褒めたたえるなど、モチベータータイプの一面も持つ。
ロッテを連勝で下したCSでは目立った奇策こそなかったが、日本シリーズでどんな「鬼采配」を見せてくれるのか、いちファンとしても楽しみなところだ。
原監督第3次政権で明らかに見える、変化と進化
そんな工藤監督に対して、原監督はどうか。
工藤監督が「短期決戦の鬼」なら、原監督のそれは「変幻自在」。
2002~2003、2006~2015、2019~2020年と3期、巨人の監督に就いているが、その時代と自らのキャリアに応じて采配スタイルを大きく変貌させている。
第1次政権時は若手監督らしく、自らが選手をけん引し、リーダーシップを発揮。選手のモチベーションを高め、メディアを上手に活用する。前任の長嶋茂雄終身名誉監督に近いタイプだったように思える。
第2次政権時は経験も積み、監督としての風格も増し、以前よりはどっしりと構える王道スタイル。まさに「球界の盟主」を率いるにふさわしいたたずまいで、チームを2度のリーグ3連覇へと導いた。
そして、昨年から指揮を執る第3次政権下で、原監督はさらなる変化、進化を見せた。
若大将と呼ばれたかつての4番打者も、気付けば還暦を過ぎ、選手たちとの年齢差も大きく開いた。息子や、下手をすれば孫に近い年齢の選手たちを率いる中で、まず着手したのが元木大介、宮本和知両氏のコーチ招聘だ。就任当初は「バラエティータレントをコーチに据えるなんて……」とやゆされることもあったが、結果としてはこれが大成功。投打のスタッフに選手と年齢の近いモチベーターを据えることで、「現代っ子」の選手たちをうまく活用。今やこの両名は、巨人コーチ陣になくてはならない存在だ。
もちろん、自らもLINEで選手たちとコミュニケーションを取るなど、時代にもしっかりと順応している。坂本勇人を「勇人」、岡本和真を「和真」と、選手を下の名前で呼ぶスタイルも、人心掌握に一役買っているはずだ。
「巨人の監督としての区切りは2015年でつけている」
以前、第2次原政権下で投手コーチを務めた川口和久氏は、昨季からの原監督の変化についてこう語ってくれた。
「これは監督本人から直接聞いたのですが、『巨人軍の監督としての区切りは、2015年でつけている』と。だからこそ、今はこれまでとは違った野球を楽しめているように感じます。采配もコーチ人事も、いい意味で巨人という枠にとらわれずにやれている。それが、結果に結びついているんじゃないかな」
昨季話題になった「2番・坂本勇人」や、今季物議をかもした「投手・増田大輝」は、まさにその象徴だろう。
伝統があり、しがらみも多い巨人という特殊な球団において、「タブーの無い采配」は誰もができるものではない。失敗すれば、多くの批判を浴びるのが目に見えているからだ。
実績があり、自ら「区切りをつけた」と語る原監督だからこそ、それが実現できる。
今季もコロナ禍で試合数削減、過密日程となったレギュラーシーズンを、誰よりもうまくマネジメントして見せたのは原監督だった。リードした場面で主力をベンチに下げて適度に休養を与え、代わりに若手を起用するなど、目先の勝利ではなく「優勝」に強いこだわりを見せる采配を周囲に、そしてチーム内に示して見せた。
シーズン終盤こそもたついたが、終わってみれば独走でのリーグ連覇。「変幻自在」の采配が、チームを勝利に導いたのは間違いない。
昨季はソフトバンクの4連勝。今季はいかに?
コロナ禍で混乱を極めた2020年のプロ野球も、残り最大7試合でケリがつく。
昨年は工藤監督が4連勝で圧倒したが、今年は原監督も黙っていないはず。
今季の総決算。勝利の美酒を味わうことができるのは、「短期決戦の鬼」か、「変幻自在の名将」か――。
<了>
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