選手権・上位進出が常連化しているのは、偶然ではない。強豪校が順当に勝ち上がれた共通の理由は?

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2021.01.10

今年の全国高校サッカー選手権は青森山田と山梨学院の決勝を残すのみとなった。準決勝までを振り返ると、強豪校が順当に勝ち上がってきた印象が強い。ベスト4の顔ぶれのうち、青森山田、帝京長岡、矢板中央は2年連続であり、ベスト8以上にも3年連続で勝ち残っている。山梨学院もプリンスリーグ関東所属で2018年インターハイ王者。今年は伝統の堅守に加え、一芸に秀でた攻撃陣を擁して前評判は高く、決勝進出は決してフロックではない。とはいえ、これほどまで順当に強豪校が勝ち上がってきた理由とは、いったい何だろうか?

(文=松尾祐希)

センターバックとGKの「個」育成の重要性

今年の選手権で強豪校が勝ち上がった理由として、昨年も注目をされた高体連のクラブチーム化もその一つだが、もう一つ挙げるとすれば守備の完成度とGKとセンターバックに実力者を擁していた点だ。

4チームを見ると、いずれもGKとセンターバックにチームの核となる選手を配置し、彼らを中心に守備戦術も作り込んできた。最終ラインの連携ミスで失点をする場面はほとんどなく、準々決勝までクロスボールやセットプレーで崩されるシーンも皆無。準決勝では青森山田が矢板中央を圧倒して大差をつけたとはいえ、安定感のあるディフェンスで常に跳ね返すことができれば、ミス絡みの事故的な失点は限りなく減らせることを証明した。改めて一発勝負のトーナメント戦を勝ち抜くために必要不可欠な要素だと感じさせた。

守備が疎かになれば、勝ち上がることは難しい。今大会も相手のロングスロー攻勢に屈し、そこから失点するケースが多く見られた。今大会、青森山田は15ゴール中7得点がロングスロー絡み。強肩の内田陽介がライナー性のボールを入れ、エアバトルに強い選手がネットを揺らすパターンでゴールを重ねたが、守備の穴をうまく突いた結果でもある。

ロングスローの多投に賛否両論はあるが、使える武器は使うべきであり、勝つために可能性を追求した戦術は否定されるべきではない。むしろどう対応するかが重要。相手に通用しないのであれば使う必要はないし、実際に青森山田は昨年度までの高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグでロングスローに頼ってはいない。なぜならば、Jリーグの下部組織や高体連の強豪校は守備陣がしっかりと対応するため、ゴール前で事故が起こる可能性が低いからだ。

逆にいえば、流れの中のクロスボールも含めて、センターバックとGKできちんと対応できるようになれば、失点が減る可能性は高い。そうなれば、ゲームが締まって試合のクオリティーも高くなるし、高体連のレベルがワンランク上がるともいえる。そのためにはセンターバックとGKの「個」の育成をしなければならない。

屈強なDF藤原優大はプレーメーカータイプのボランチだった

強豪校に行くようなGKやセンターバックはサイズがあって、才能があると思われがちだ。だが、準決勝進出チームの守備陣が早くから将来を嘱望されていた選手だけで成り立っていたわけではない。世代別代表歴を持つ選手は青森山田の藤原優大のみで、それ以外は高校年代で力をつけて各チームの柱になった選手ばかり。さらに上のステージを目指すためには資質も必要だが、きちんと教え込んで身体を作り込めれば全国舞台で活躍することは不可能ではない。

例えば、藤原は早くから将来を嘱望されていた一方で、青森山田中時代はプレーメーカータイプのボランチ。180cmオーバーのサイズと足元の技術を兼ね備えた技巧派で、フィジカル能力はずば抜けて高いわけではなかった。だが、高校入学直後から中盤の底以外にFWやセンターバックを務め、パワープレーや守備固め要員として経験を積んだ。そして、2年次からチーム事情や将来性を踏まえ、黒田剛監督がセンターバックへコンバートを決断する。「センターバックというポジションに限らず、苦手なことをなくせと何度も言われてきた。それに対して取り組んだ結果が欠点をなくすことにつながったと思うし、全てが平均的にできるように心がけてきた。監督の言葉を聞いて、自分は(センターバックとして)成長できたと個人的には思っています」とは藤原の言葉。そこから弱点でもあったフィジカル面を徹底的に鍛え上げ、青森山田らしい闘志あふれる屈強な守備者へと成長を遂げていった。

もちろん、藤原自身が持つセンスやメンタリティーと黒田監督が持つ育成のノウハウが合致した結果だが、センターバックの相方を務める秋元琉星やGK韮澤廉も含めて毎年のように優秀な守備者を輩出していることが全国舞台での結果につながっている。

高体連のさらなるレベルアップのために必要なこと

今回4強入りを果たしたその他のチームも自前でセンターバックやGKを育て、守備の強度を高めてきた。今回の選手権で無名から一気に台頭した選手として、山梨学院の一瀬大寿が挙げられる。彼はヴァンフォーレ甲府U-15からU-18に昇格できなかった選手で、ボランチやサイドハーフを主戦場にしてきた。高校入学後も中盤で起用されていたが、高校1年次に止まったと思われていた身長が約10cmアップし、183cmほどになった高校2年次に長谷川大監督の慧眼(けいがん)でセンターバックに転向した。すると、跳躍力に長けていることに気づき、空中戦を徹底的に鍛錬。今大会では、全国屈指のエアバトラーとして強烈なインパクトを残すまでになった。

矢板中央の2年生守護神・藤井陽登も青森の十和田中時代は無名で同郷の青森山田からスカウトされなかったが、高校入学後にGKとしての専門的なトレーニングを受けて才能が花開いたタレント。帝京長岡の松村晟怜も2年次の夏前にアタッカーからセンターバックにコンバートされて、左利きの大型センターバックとしてブレイクした。

守備の方策をチームに落とし込みながら、最終ラインを担う選手の個を徹底的に磨き上げる。そうすれば、少なくとも全国で戦える可能性は飛躍的にアップするのは間違いない。また、守備のレベルが上がれば、今度は攻撃陣がゴールを奪うために工夫を凝らすようになる。相乗効果が生まれ、守備だけではなく全体的なレベルアップにもつながっていく。実際に青森山田はそうしたサイクルをチーム内で作り上げ、攻守で競い合って高いレベルを維持してきた。

昨今、優秀なタレントがJユースを選ぶ傾向はある。高体連は人材の確保に苦労し、Jユースと対戦するプレミアリーグ、プリンスリーグなどのリーグ戦では苦戦するケースが増えてきた。だが、守備の育成に手を加えれば、上のレベルで戦える可能性は広がる。そして、上のステージで活躍できる選手がさらに増えていけば、高体連のさらなるレベルアップにつながっていくはずだ。

<了>

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