
なぜJ2・町田は「他サポ」でも有償インターンに採用するのか? 学生と築くWin-Winの関係
若者の憧れを利用した“やりがい搾取”が問題視される昨今、J2・FC町田ゼルビアは学生にやりがいを与えつつフェアに活用する環境を設けている。昨季は10人のインターン生を受け入れ、今季も新たに募集中。クラブやサッカーへの興味や知識は問わず、相応の報酬も与える仕組みを用意している。実際にインターンを経験した学生たちも「チャレンジできる環境」「めちゃくちゃ楽しい」と充実感を口にする。町田が実践するクラブと学生のWin-Winの関係を探った。
(文=大島和人、トップ写真=Getty Images、写真提供=FCMZ)
他のクラブとは違う町田の取り組み
FC町田ゼルビアは昨シーズン、佐野海舟選手のような大学生世代の選手が活躍を見せたJ2クラブだ。加えて実はわれわれの目が届かない場所でも「U-22年代」が大切な仕事をしている。このクラブはピッチ外でも若者たちにチャンスを与え、能力を引き出すカルチャーがある。
プロスポーツの現場は慢性的な人材不足で、アルバイトやインターンとして学生を活用している例が多い。ただ町田は他のクラブとインターン生の扱いが少し違う。それは大学生がそれぞれプロジェクトを持ち、社員のサポートを得ながらも自力で結果を出している部分だ。東京都の多摩地区という、学生が集まりやすい立地の強みもあるだろう。
コロナ禍において作業のリモート化は図られているが、クラブは2021年も新規のインターンを募集している。今回は町田にどんな学生が集まり、どんな取り組みをして、さらにどんな人材を求めているかについて紹介したい。
インターンの受け入れを担当している岡田敏郎運営・広報部長はこう説明する。
「常々言っているのは、固定概念にとらわれずにとにかく楽しくチャレンジしてほしいということです。昨年はインターン生を10名受け入れていますが、一人でも多くの学生さんにぜひプロスポーツクラブで働いてもらいたい。そのきっかけがゼルビアのインターンになってもらいたいと思って、門戸を広げています」
「四足のわらじ」を履く帝京大サッカー部員
本間柊人さんは帝京大学の現役サッカー部員で、昨年度は都学連(東京都大学サッカー連盟の運営母体)の「競技委員会 委員長」も務めていた。本分は教員免許の取得も目指している学生で、町田のインターンも含めると「四足のわらじ」を履いている。
そんな生活について本間さんはこう述べる。
「大学の練習が7時から9時までの朝練なので、残りは自分の好きなように使えます。他の学生から見たら忙しいのかもしれませんが、これくらいが僕にはちょうどいい」
町田では運営・広報部に配属され、試合当日はピッチサイドでボールパーソンの指導など運営補助の実務を担当している。
そのなかで、本間さんの担当したプロジェクトは公式ホームページの改良だった。既にスタジアムのアクセスマップ、ボランティア募集ページは反映済みで、今はスタジアムグルメの紹介ページを作成している。
町田GIONスタジアムは鶴川、町田、多摩センター、淵野辺といった駅からほぼ等距離で、徒歩で通うには距離がある。一方で5つの駅からスタジアム直行バスが出ており、路線バスからもアクセスができる。
もっとも初めてスタジアムへ訪れるお客は「スタジアムがおおよそどんな場所にあるのか」「どの駅からバスに乗ればいいか」がわからない。案内が必要になるのはそういった「町田ビギナー」だ。本間さんはこう考えた。
「町田の試合に一回も来たことがない人をターゲットにして、よりわかりやすく情報を伝えるためにはどういう掲載がいいのか考えました」
アクセスマップではバス、車、自転車の3つの来場方法に分け、1タッチで各ページに飛ぶ方法を取り入れた。バスによる来場者に向けたガイドはグーグルマップを活用し、まず全体の位置関係がわかるインターフェイスとなっている。バス停の位置も反映させ、画面を拡大すれば最適な乗り場が直感的にわかるデザインだ。
本間さんはJ1からJ3まで全クラブのホームページに目を通してお手本を探した。アクセスマップについては町田と同じように駅からスタジアムの距離が離れているJ2・ザスパクサツ群馬を参考にした。
公式サイトのデザイン力はクラブの規模、カテゴリーとは無関係だ。ボランティア募集は北海道出身の彼が愛するJ1・北海道コンサドーレ札幌、スタグル紹介はJ3・鹿児島ユナイテッドのサイトをお手本としたそうだ。
その後の流れを彼はこう説明する。
「社員の方に『こういうデザインがいい』とプレゼンをしました。『やってみよう』という反応だったので、パワーポイントを使ってより具体的なデザインを作成して、ホームページ制作会社に持って行きました。岡田さん(運営・広報部長)と僕が説明をして、実装に移りました」
クラブはこうやって学生が持つ利用者目線のデザイン力、ITスキルを生かしている。
ゴール裏で応援するFC東京サポーターの東京外国語大生
吉田実咲さんは東京外国語大学の学生で、2019年の9月からスペインの首都マドリードに留学していた。しかしコロナ禍の影響で途中帰国を余儀なくされていた。彼女はこう振り返る。
「熱意を持って続けてきたスペイン語の集大成が中途半端に終わって落ち込みましたし、手持ち無沙汰でした。外出自粛の時期にどうしようと考えたときに、何か他のことに取り組もう、長期インターンをやってみようと思い立ちました」
吉田さんの従姉はなでしこリーグでプレーしていた元サッカー選手。自身もゴール裏で飛び跳ねるFC東京サポーターだ。彼女が思い立ったタイミングで、町田がちょうどインターンシップ生を募集していた。
クラブの第一印象についてはこう振り返る。
「最初は率直に『この人数で運営しているの?』と驚きました。『この人数でこれだけのイベントを運営して、グッズ制作や営業も含めてやっているのか』と衝撃を受けましたし、感動しました」
彼女は運営・広報部のインターン生として採用されたが、岡田運営・広報部長との面談の結果、自身の適性や進路希望を踏まえて事業部に配属となった。自分の仕事内容をこう説明する。
「パートナーになってくださりそうな企業への提案資料作成のお手伝いですとか、事業部のサポート業務が多いです」
Jクラブの常として、営業活動は決定的に大切だ。営業担当が資料を用意し、プレゼンテーションをする……という流れは他業種と同様だろう。彼女は資料の作成を任されている。
「パワーポイントでスライドを作るんですけれど、Web上にCanvaというツールがあります。それを使って色味を変えたり、切り取りをしたり、フォントを変えたりといった画像編集ができます。下品と思われないように、でもインパクトを強く……と考えています。パワーポイントのデザインの本を読んで、レイアウトの例を見て工夫しています」
プロジェクトに関しては「VOICeS」と題されるさまざまな企業と町田の関係性を取り上げるメディアの運営を行い、さらにはパートナー企業向けのメルマガ執筆も彼女の担当だ。
就職活動中の吉田さんだが、進路についてはこう口にする。
「やりたいことはぼんやりしますけど、Jクラブで働きたいなと考えています。ただ1社目でJクラブに入るかは決めかねています。サッカーのスポンサー営業も形が変わって『単純に協賛してください』から『一緒にこうやっていきましょう』というWin-Winの関係になっていくと思います。そこで自分がもしセールスに行くとしたら、楽しそうですね」
「JリーグIDの登録者を増やす」ミッションに挑んだ早稲田大生
岡田真和さんは早稲田大学人間科学部の4年生で、4月からは早稲田大学スポーツ科学部の大学院に進む。大学2年時にAI(人工知能)に関する別のインターンをやっていた彼だが、サッカー業界への興味から新たなインターン先を探して町田に応募した。
昨シーズン中に彼へ与えられたミッションは「JリーグIDの登録者を増やす」ことだった。Jリーグの各種サービスで利用できる共通の会員IDサービスで、クラブにとってはそこから得られる顧客情報が貴重な材料となる。しかし「お気に入りクラブ」として町田が登録されていないと、クラブはファンの顔が見えず喜んでいただける仕掛けも打てない。自分の仕事を彼はこう説明する。
「フォームやクラブJリーグのアプリでゼルビアを登録してもらえると、その方のデータを得られます。自分のメイン業務はJリーグIDのフォームと、公式アプリ、グッズとチケット……。合わせて4つでキャンペーンを考えて打ち出すことです」
まずクラブの身近にアプローチするべき相手はいた。パートナー(スポンサー)企業の経営者や社員は、スタジアムによく足を運び、町田にハマっているサポーターが多い。駐車場利用権などの実利を考えて、サポーター個人がパートナーの立場でクラブを支援している例もある。
しかしパートナーのチケットを手に入れてVIP席で見ている人は、JリーグIDに登録する必要がそもそもない。彼らの満足度を上げる施策を打とうとしても、クラブは「超コアサポ」たる彼らの情報を持っていない。そこで岡田真和さんは考えた。
「スポンサーはまだ全く足を踏み入れられていない領域です。そこに可能性があるという自分の仮説があって(プロジェクトを)やりました。去年はパートナーの方限定で、JリーグIDに登録してくれたらグッズをプレゼントするキャンペーンをやりました」
彼の仮説通り、通常のプレゼント企画とは一桁違うリアクションがあったという。他にはこんな企画にもチャレンジした。
「月間MBP(Most Bravo Player)を始めたのも自分です。企画を考えて、SNSの発信も作って、サポーターに投票してもらおうと考えました」
念のため補足するとMVPでなく「MBP」が正しい。「Bravo」はランコ・ポポヴィッチ監督がよく口にする選手に対する称賛の言葉だ。
ファン・サポーターが選ぶ月間最優秀選手賞として、MBPの企画がスタートしたのは2020年8月。リモートマッチや発声の禁止で、応援の声を届けられないサポーターの嘆きがクラブの耳にも入っていた。そこで彼は投票で選手に応援を届ける仕組みを考案した。プレゼント提供などの支出はあるが、投票にあたってJリーグIDへの登録が必要になるため、クラブにも確かな見返りがあった。
「やりがい搾取」ではないプロスポーツ界のロールモデル
既に2年に渡って町田で仕事をしている岡田真和さんは、インターン生の目線で仕事環境をこう説明する。
「サイバーエージェントさん(町田の親会社)がコミットしているので、今までと比べてリソースがケタ違いに増えて、できることも増えています。J1を目指している勢いを社内からも感じるので、仕事をしていてとても楽しいです」
サッカーを含めたスポーツビジネス、マーケティング方面のキャリアを志向している彼は、こんな視点も持っている。
「パートナー企業の人間として、サッカークラブをどう使いながら自分たちの売上を増やすかという視点もあります。スポンサーをしてお金を出している以上、自分たちの会社にとってのメリットを出さなければいけません。スポンサーをしても、ホームページに名前を出しているだけではもったいない。それも考えながらやってみたいです」
インターンへの応募を検討している学生に対してはこう語ってくれた。
「自分で考えたことを実行できる、チャレンジできる環境がすごく整っています。どう実行に移すかも、社員さんに聞いたら教えてくれます。逆に指示待ちになってしまう人には、大変かもしれません」
営業の仕事で奮闘する吉田さんもこう述べる。
「絶対に伝えたいのは『めちゃくちゃ楽しい』という一言です。クラブを良くすることであれば、何でも挑戦できる環境です。社員の方から真剣にフィードバックを受けられる環境もありがたいですね。一緒にチャレンジしましょうと、皆さんにぜひ伝えたいです」
若者には柔軟性と可能性がある。チャンスを与えて適切にフォローすれば、クラブに大きく貢献してくれる。いわゆる「やりがい搾取」ではなく、有償インターンとして報酬も発生する仕組みだ。町田がピッチ外で築いている大学生に権限と責任を与えて活用するカルチャーは、プロスポーツ界のロールモデルとなり得るものに違いない。
<了>
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